アーカイブ:2011年8月

窃盗罪2-財物

今週は刑法の回です。

窃盗罪を含む財産罪(個人の財産を保護法益とする犯罪)は、客体の違いによって、「財物罪」と「利得罪」に分類されます。
財物罪とは、財物(動産や不動産)に対する犯罪をいいます。
利得罪とは、財産上の利益を客体とする犯罪をいい、以前お話をした2項詐欺罪などのいわゆる2項犯罪と背任罪があります。
すべての財産罪に共通するのは財物罪ですので(たとえば窃盗罪に利得罪は成立しません)、今回は財物罪の客体である「財物」についてお話しをさせていただきます。

さて、「財物」の意義をめぐっては学説においても、財物は有体物をいうとする「有体性説」と、有体物はもちろん管理可能な限り無体物も財物とする「管理可能性説」が対立しています。
そこで刑法第245条を見てみると、「この章(第36章)の罪については、電気は、財物とみなす」と書かれています。
刑法が「みなす」としているのは、もともとは財物でないものを、刑法上の保護の必要性や処罰の妥当性の見地から財物と擬制しているものと考えられます。
したがって、この条文の趣旨は、「原則として財物は有体物に限るものとし、例外的に電気は財物として取り扱うものとしたにすぎない」とする有体性説が妥当であるというのが私の立場です。

では、企業の秘密やノウハウなどの情報を盗んだ場合に窃盗罪が成立するでしょうか。
情報自体は形を有さないので、有体性説、管理可能性説いずれの立場に立っても財物には当たりません。しかし、情報を印刷した紙や記録したフロッピー・ディスクを持ち出した場合には、窃盗罪が成立します。
判例も、会社の機密書類を同社所有のコピー機を使ってコピーし、これを社外に持ち出した事例について、「全体的にみて、単なるコピー用紙の窃取でなく、同社所有の『コピーした機密書類』の窃取である」と判示しています。同様に、大学入試の問題用紙、新薬の情報などについても、情報そのものではなく、情報が化体された(観念的な事柄が具体的な形のあるもので表された)「物」として扱っています。
いずれも情報としての価値自体は財物に当たらないとする考え方です。

 

今朝のお供、
THEE MICHELLE GUN ELEPHANT(日本のバンド)の『LAST HEAVEN’S BOOTLEG』。
ラストツアーのライヴアルバム。海外組に負けないロックバンドが日本にも存在したことの証しです。

(佐々木 大輔)

爽やかな旋風

能代商業の健闘、素晴らしかったですね!どんなピンチも粘り強く乗り切り、特に如水館戦で見せた9回裏と10回裏のバックホームプレーには、胸が熱くなりました。
熱戦の末、残念ながら敗れはしたものの、試合後の「全力でプレーしたから悔いはない」という選手の言葉も爽やかでした。
久しぶりに秋田県勢の応援で甲子園を楽しめた夏でした。

甲子園も終わり、秋田は少しずつ涼しい風が吹き始め、我が家の庭では鈴虫が秋の訪れを告げ始めました。

ところで、最近の気になるニュースとして、金の高騰があります。
欧米経済の先行きが不透明なことから、安全資産とされる金に投資が集まっており、国内でも金の買い取り価格が高騰しています。
しかし、投資には必ずリスクが伴います。安全資産といわれていても絶対ということはありません。金の市場に資金が流入すれば、それだけ金の価格は変動しやすくなります。
今月11日、世界最大の金先物取引所であるニューヨーク商品取引所(COMEX)が、金の売買に必要な証拠金を22%引き上げたことにより、金への加熱は僅かながら抑えられました。
とはいえ、この効果も一時的なものといわれており、今後も証拠金が引き上げられる可能性があります。その結果、銀相場がそうであったように、大きな反落を招くことになるかもしれません。

 

今朝のお供、
BECK(アメリカのミュージシャン)の『ODELAY』。
ハイセンスな音楽に脱力系の歌詞を乗せた、BECKのミュージシャンとしての魅力が凝縮されているアルバムです。彼のアルバムの中で一番好きな作品です。

(佐々木 大輔)

申込みと承諾

日本の民法には、典型的な契約として売買や賃貸借など13種類の契約(「典型契約」などと呼ばれています)が規定されています。
今回から民法の回は、「契約」についてお話しさせていただきますが、まず総論的なお話から入り、その後、典型契約をひとつずつ取り上げていく予定です。
ということで、今回のテーマは「契約の申込みと承諾」です。

「申込み」とは、一定の契約を締結しようとする意思表示のことをいいます。「承諾」とは、申込みを受けてこれに同意をすることにより契約を成立させる意思表示のことをいいます。

では、申込みや承諾の効力が発生する時期はいつでしょうか。
店員さんと対面で、「これをください」「はい、どうぞ」と商品を買う場合には問題になりませんが、たとえば秋田に住んでいる人と東京に住んでいる人が契約をするときのように、離れた場所に住んでいる者同士が契約を締結する場合に問題となります。
結論は、原則として申込みの効力が発生するのは、申込みが相手に到達した時です。したがって、到達前であれば、申込みを撤回することができます。申込みのはがきを出した直後に翻意し、電話で撤回する場面をイメージしてください。
一方、承諾の効力が発生するのは、承諾の通知を発した時です。
なぜ申込みと承諾の効力発生時期が異なっているのかについては、民法典を起草した委員の間でも争いがあったところですが、現行の民法は、承諾者が承諾通知を発したら直ちに履行(物品の調達など)に移ることができるというメリットを重視しているようです。

とはいえ、承諾通知がなかなか到着しない場合、申込者は困ってしまいます。そこでこれを避けるため、申込者は、「8月31日までお返事ください」というように、承諾期間を定めて申込みをすることができます。承諾期間を定めれば、8月30日に承諾通知が発せられても、承諾期間内に届かなければ契約は成立しません。
ただし、遅れて着いた承諾通知に対して申込者がさらに承諾をすれば、契約は成立します。
また、承諾期間を定めた場合、相手が承諾を発する前であっても、承諾期間内は申込みを撤回することができません。
なお、承諾期間を定めなかった場合であっても、承諾通知を受けるのに相当な期間が経過するまでは、申込みを撤回することはできません。

 

今朝のお供、
R.E.M.(アメリカのバンド)の『COLLAPSE INTO NOW』。
独特な世界観をもった歌詞の内容は相変わらず難解ですが、音楽自体は近作に比べて聴きやすくなった気も。

(佐々木 大輔)