音楽, 秋田
No. 231
先月今月と、続けて「あきた芸術劇場ミルハス」に行く機会がありました。
先月は青山学院大学陸上競技部原晋監督の講演会と司法書士制度150周年記念イベント(こちらには司法書士として運営に参加)。
そして今月は、念願かなってようやく演奏会を大ホールで聴くことができました。
読売日本交響楽団の演奏会で、モーツァルトの歌劇「フィガロの結婚」序曲に始まり、メインがドヴォルザークの交響曲第9番「新世界から」という(昭和の香り漂う?)王道のプログラム。
しかし、当夜の真のメインプログラムは、前半に演奏されたガーシュウィンのピアノ協奏曲でしょう。
ソロを務めるピアニストは角野隼斗さん。
東大出身という異色のピアニストで、YouTubeでも“かてぃん”の名で活動し、その名を広く知られたピアニストです。
と書いてはみたものの、恥ずかしながら私は角野さんのことを最近まで存じ上げず、2021年のショパン国際ピアノコンクールを追ったドキュメンタリー番組を観て初めて知りました(角野さんはセミファイナリスト)。
会場には角野さんお目当てと思われる若い方々もたくさんおられたようで、クラシックの演奏会独特のしかつめらしい雰囲気はあまり感じられませんでした。
さて、肝心の演奏ですが、これが本当に素晴らしかった!
生粋のクラシックピアニストではあのような演奏にはならなかったんじゃないかなあ。
オーケストラも大奮闘。この手の曲は日本人にとって最も苦手とするところと思いますが、指揮者、ピアニスト、そしてオーケストラが一丸となって成功させようとする気合い、難曲に挑戦するスリル、音楽を奏でることへの純粋な喜びが伝わってきました。
予習と称して手持ちのCDを聴き込んで臨んだ演奏でしたが、第1楽章終結部は生で聴くとこんなにも迫力があるのかと興奮しましたし(思わず拍手しちゃった方々の気持ちもわからないではない)、第2楽章では高層階からニューヨークの夜景を眺めているかのような美しさにうっとり。第3楽章で角野さんはカデンツァに同じガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」を盛り込むなど遊び心も満載。
「なんて素敵な曲なんだろう」と曲そのものの良さを存分に感じることができた演奏でした。
あれ、そういえばオーケストラのチェロパートに遠藤真理さんもいらっしゃいましたよね?
これらの演奏を見事にまとめ上げた29歳の若き指揮者松本宗利音さんについても触れないわけにはいきません。松本さんは珍しい名前の方ですが、なんと往年の名指揮者シューリヒトの奥さんが名付け親なんだとか。
指揮姿は若々しく、これからの成長を期待したい部分もありましたが、指揮者とオーケストラが互いに敬意を払い良好な関係を築いている様子が演奏からもよくわかりました。
その名に相応しい指揮者として飛躍されることを楽しみにしています。
最後に。ところどころ目をつぶり視覚からの情報を閉ざして演奏を聴いてみたところ(寝ていたわけではありませんよ。生音とオーディオで聴く音との比較です)、我が家のオーディオによる再生音も(もちろん生音には及ばないものの)なかなか悪くないな、と思えたこともまた収穫でした。
今朝のお供、
PINK FLOYD(イギリスのバンド)の『The Piper at the Gates of Dawn(夜明けの口笛吹き)』。
(司法書士 佐々木 大輔)
「ブラボー!」
ちょっと流行りに乗ってみました。
サッカーワールドカップ、始まるまではあまり興味がなかったのですが、グループリーグで日本がドイツに勝った途端、私のにわかぶりが暴走し、日本戦以外でもテレビで観られる試合はけっこう観ました(全部観ました、ではないところが何とも中途半端な私)。
日本代表、念願のベスト8はかないませんでしたが、十分に楽しませていただきました。
選手の皆さん、ありがとうございます。そしてお疲れさまでした。
ブラボーに対するはブーイング。
ブーイングといえば、今年のバイロイト音楽祭(※1)のブーイングはなかなかのものでした。
今年最大の目玉は、4夜にわたる『ニーベルングの指輪』(※2)の新演出。
ところがこの新演出に対する評価が割れ(否が圧倒的多数?)、4夜全ての終演直後には演出に対する盛大なブーイングが飛び交う異例の事態に。
私は毎年のことながら年末にNHK-FMで聴きましたが、あれだけのブーイングはなかなかお目に(お耳に)かかれないほどのものでした。
また今年は、『トリスタンとイゾルデ』の上演でもびっくりすることがありました。
エンディングの「愛と死」が鳴り終わらないうちにフライングで拍手が始まるなんて(※3)。それも聖地バイロイトで。
コロナ禍により2020年は音楽祭が中止、2021年は規模縮小ときて、3年ぶりにフルサイズで開催された喜びもあったのでしょうか。
トラブルに発展してもおかしくないような観客の暴挙(不満の意思表示であるブーイングとは明らかに性質を異にする自己中心的な行動)に、首をかしげざるを得ない終演でした。
いろいろとお騒がせな今年のバイロイトの中で、オクサーナ・リニフが指揮した『さまよえるオランダ人』は、きめの細かい丁寧な音楽づくりで安心して聴くことができました。
リニフは昨年バイロイト初の女性指揮者として同じ『オランダ人』を指揮してデビューしたウクライナ出身の指揮者です。
なお、2023年のバイロイト音楽祭では、『タンホイザー』の指揮にナタリー・シュトゥッツマンが起用されることが発表されました。リニフに続く2人目の女性指揮者の登場に、時代の変化を感じます。
さて、2023年はどんな1年になるのでしょうか。
スポーツや芸術を心から楽しめる1年であってほしいと願い、今年はこのあたりで筆をおくことにします。
1年間お付き合いくださいましてありがとうございました。
来年もよろしくお願いいたします。
※1 バイロイト音楽祭
毎年夏、バイロイト祝祭劇場にて、ワーグナーの作品のみを上演する音楽祭。その模様は年末にNHK-FMで放送される。
※2 『ニーベルングの指輪』
「ラインの黄金」「ワルキューレ」「ジークフリート」「神々の黄昏」からなる4部作。全てを上演するには15時間ほどを要する。
※3 フライング拍手(又はブラボー)
曲が終わる前に拍手やブラボーの掛け声が飛ぶこと。音楽の余韻を壊すことになりかねない行為。フライング拍手を防止するため、開演前に館内アナウンスで自粛を求める場合もある。派手に盛り上がる曲であれば、フライング拍手も演出のひとつとなる場合もあるが、指揮者が指揮棒をおろすまで演奏は終わっておらず、拍手などは控えるべきと考える(私見)。
今朝のお供、
MUSE(イギリスのバンド)の『Will of the People』。
(司法書士 佐々木 大輔)
ドビュッシーの弦楽四重奏曲ト短調(op.10)とラヴェルの弦楽四重奏曲ヘ長調。
どちらも雨の季節になると聴きたくなります。
理由は単純なもので、最初に購入したメロス四重奏団のCDジャケットが、傘をさしているメンバーの写真だったので、自然と雨のイメージができただけなのですが。
ドビュッシーとラヴェル。近代フランスを代表する作曲家です。
そのようなこともあってか、両者の弦楽四重奏曲は演奏会でも録音でも組み合わされることが非常に多いのです。カップル成立率は90%を超えているのではないでしょうか(佐々木調べ)。
ちなみに、カップル成立率第2位は、録音だけで言えばメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲とチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲、演奏会も含めればマスカーニのオペラ『カヴァレリア・ルスティカーナ』とレオンカヴァッロのオペラ『道化師』あたりと思われます(佐々木調べ)。
ドビュッシーの弦楽四重奏曲は夜の波間に身を漂わせているかのような不思議な浮遊感。静かな熱を秘めたオリエンタルビューティーを思わせる佇まいの曲ですが、未だにその正体をつかみ切れないというのが正直な感想です。
一方、ラヴェルの弦楽四重奏曲は精緻で華やか。官能的でもあります。弦楽器4挺でありながら多彩な音色を感じるのは、さすが「管弦楽の魔術師」の異名をとるラヴェルの作品といったところでしょうか。
ラヴェルはドビュッシーの弦楽四重奏曲をお手本として作曲したこともあり、両者の弦楽四重奏曲は構成が似ている気がします。お手本とされたドビュッシーもラヴェルの弦楽四重奏曲に対し、「1音たりとも変更してはなりません」と最上級の賛辞を送っています(結局ラヴェルはこの曲の出版に当たり全面的に改訂してしまったようですが・・・)。
恥ずかしながら私は、何度も聴いているにもかかわらず、曲の断片だけを聴かされた場合、どちらの曲か瞬時には判断できないと思います。
ドビュッシーとラヴェルには大変申し訳ないのですが、私にとってはやはり2曲でひとつなんです。
切り離せない相思相愛の2曲。
雨の季節であるとともに今月はジューンブライド。
皆さんも幸せなカップリングの2曲に耳を傾けてみてはいかがでしょうか。
今朝のお供、
桑田佳祐feat.佐野元春、世良公則、Char、野口五郎の曲「時代遅れのRock ‘n’ Roll Band」。
明日が楽しみと思える世の中にしなければ。
(司法書士 佐々木 大輔)