窃盗罪2-財物

今週は刑法の回です。

窃盗罪を含む財産罪(個人の財産を保護法益とする犯罪)は、客体の違いによって、「財物罪」と「利得罪」に分類されます。
財物罪とは、財物(動産や不動産)に対する犯罪をいいます。
利得罪とは、財産上の利益を客体とする犯罪をいい、以前お話をした2項詐欺罪などのいわゆる2項犯罪と背任罪があります。
すべての財産罪に共通するのは財物罪ですので(たとえば窃盗罪に利得罪は成立しません)、今回は財物罪の客体である「財物」についてお話しをさせていただきます。

さて、「財物」の意義をめぐっては学説においても、財物は有体物をいうとする「有体性説」と、有体物はもちろん管理可能な限り無体物も財物とする「管理可能性説」が対立しています。
そこで刑法第245条を見てみると、「この章(第36章)の罪については、電気は、財物とみなす」と書かれています。
刑法が「みなす」としているのは、もともとは財物でないものを、刑法上の保護の必要性や処罰の妥当性の見地から財物と擬制しているものと考えられます。
したがって、この条文の趣旨は、「原則として財物は有体物に限るものとし、例外的に電気は財物として取り扱うものとしたにすぎない」とする有体性説が妥当であるというのが私の立場です。

では、企業の秘密やノウハウなどの情報を盗んだ場合に窃盗罪が成立するでしょうか。
情報自体は形を有さないので、有体性説、管理可能性説いずれの立場に立っても財物には当たりません。しかし、情報を印刷した紙や記録したフロッピー・ディスクを持ち出した場合には、窃盗罪が成立します。
判例も、会社の機密書類を同社所有のコピー機を使ってコピーし、これを社外に持ち出した事例について、「全体的にみて、単なるコピー用紙の窃取でなく、同社所有の『コピーした機密書類』の窃取である」と判示しています。同様に、大学入試の問題用紙、新薬の情報などについても、情報そのものではなく、情報が化体された(観念的な事柄が具体的な形のあるもので表された)「物」として扱っています。
いずれも情報としての価値自体は財物に当たらないとする考え方です。

 

今朝のお供、
THEE MICHELLE GUN ELEPHANT(日本のバンド)の『LAST HEAVEN’S BOOTLEG』。
ラストツアーのライヴアルバム。海外組に負けないロックバンドが日本にも存在したことの証しです。

(佐々木 大輔)