アーカイブ:2011年8月

窃盗罪1―不法領得の意思

「詐欺罪」に続き、刑法の回は、今回から数回にわたって刑法第235条の「窃盗罪」についてお話しさせていただきます。

窃盗罪が成立するためには、No.58でお話をした故意の他に、「不法領得の意思」が必要となります。
不法領得の意思とは、権利者を排除して所有者として振る舞う意思である「振舞う意思」と、物の経済的用法ないしは本来の用法に従って利用処分する意思である「利用処分意思」のことをいいます。
なぜ窃盗罪が成立するためにこの不法領得の意思が必要かというと、不可罰である使用窃盗や、毀棄・隠匿罪と窃盗罪を区別する機能があるからなのです。
振舞う意思は、軽微な一時使用を窃盗罪などの領得罪(その物の経済的価値を取得する意思をもって財産を侵害する犯罪)から除外する機能をもち、利用処分意思は、領得罪と毀棄・隠匿罪とを区別する機能をもっています。

とはいえ、これだけでは何のことか分かりにくいですよね。具体例を通してみていきましょう。
まず、振舞う意思から。
判例は、返還意思がある場合は不法領得の意思が認められないとして、不可罰としてきました。
例えば、自転車を一時使用の目的で奪った場合、すぐに返すつもりであれば不法領得の意思は認められません。一方、返す意思はなく、途中で乗り捨てるつもりであれば、不法領得の意思が認められます。
しかし、「自動車」を夜間に無断で使用し、これを翌朝までに元の位置に戻しておくことを何日も繰り返した事例に対して、「相当長時間にわたって乗りまわしているのだから、たとえ返還意思があっても不正領得(不法領得)の意思が認められる」として、窃盗罪が成立するとした判例があります。また、「元の位置に戻しておくつもりで」約4時間余り他人の自動車を無断で乗りまわした場合にも不法領得の意思を認めたものがあります。

次に、利用処分意思について。
リーディング・ケースとして、校長を困らせる意図で学校の金庫から教育勅語を持ち出して校舎の天井裏に隠したという事例に対して、利用処分意思は認められず窃盗罪にはならないと判示したものが有名です。「単に物を壊したり隠したりする意思があるだけでは、利用処分意思があるとはいえない」というのがその理由で、判例は、その後も一貫してこの立場を採っています。

なお、不法領得の意思の内容について、「振舞う意思」、または「利用処分意思」のいずれかであるとする見解が有力に主張されていますが、私は、一時使用や毀棄・隠匿罪との区別を明確にするためには、いずれか一方のみでは十分ではないという立場に立っています。

 

今朝のお供、
Derek and the Dominos(アメリカのバンド)の『いとしのレイラ』。

(佐々木 大輔)