7 境界問題(境界紛争)・筆界(ひっかい)特定制度等

(当事務所の取扱業務)

① 筆界特定手続の代理、筆界特定手続事務の相談

② 簡易裁判所民事訴訟代理、簡易裁判所民事調停代理
法律相談

③ 地方裁判所等へ提出する裁判書類の作成
裁判書類作成事務の相談

(目次)

(1) 境界確定訴訟

① 境界確定訴訟とは

② 土地の境界とは

③ 境界確定訴訟の性質

(2) 所有権確認の訴え

① 所有権とは

② 所有権の対象物件

③ 確認の訴え

(3) 時効取得の訴え

① 時効取得の意義

② 時効取得の訴え

③ 判決の内容

(4) 筆界特定制度

① 筆界特定制度の概要

② 司法書士の代理人としての業務範囲

③ 筆界特定制度の詳細

④ 「筆界特定手続」と「筆界確定訴訟手続」との関係

⑤ 筆界特定手続の代理人

(1) 境界確定訴訟(簡易裁判所民事訴訟代理・地方裁判所等は訴訟書類作成)

ア 境界確定訴訟とは、「相隣接する土地の境界について争いのある場合に訴訟手続により、これを創設的に確定する訴え」です。

イ 土地の境界とは、1筆の土地と土地の境で、公法上の境界であり、「筆界」とも言われます。

ウ 境界確定訴訟の性質
通説・判例は、「形式的形成訴訟説」(その意味は、下記のとおり。)を採り、この訴訟の本質を「異筆間の境界(公的な境界)の確定を求める訴え」と解しています。

* 形式的形成訴訟説の意味
法律関係形成の基礎となる法規又は形成要件を欠き、法律的請求としての請求がないから、その本質は非訟事件(その意味は、下記のとおり。)でありますが、形式上、訴訟として扱われています。

(ア) 訴訟事件とは
法規を適用して既存の権利義務の存否の確定を目的とするものです。

(イ) 非訟事件とは
民事上の生活関係を助成・監督するために、国家が直接後見作用ないし民事行政作用をすることを主眼とするものをいいます。

エ 境界確定訴訟の訴訟要件

 両土地が相隣接していること。

 原告、被告が各土地を所有していること。

 両土地の境界線が不明であること。

オ 処分権主義・弁論主義(その意味は、下記のとおり。)の制限

 原告において、特定の境界線を主張する必要はありません。

 裁判所は、当事者の主張する境界線には拘束されずに、境界線を定めることができます。

 境界線を、当事者の合意によって変更処分することができません。

 境界確定の訴えにおいて、主要事実(権利の発生・変更・消滅という法律効果の発生に直接必要な事実)はないから、自白の成立する余地はありません。

 境界の申立てに対する認諾は、成立しません。

*(ア) 処分権主義の意義
当事者の自由意思によって、訴訟の開始・終了及び訴訟物(その意味は、下記のとおり。)を特定することができます。

(イ) 弁論主義の意義
判決の基礎となる事実と証拠は、当事者の提出したものに限られるとする手続原則をいい、裁判所が訴訟資料の収集にあたる職権探知主義と対立する概念です。

(ウ) 訴訟物の意義
民事訴訟における審判の対象となる事項であり、訴訟の目的・客体ともいいます。


(2) 所有権確認の訴え(簡易裁判所民事訴訟代理・地方裁判所等は訴訟書類作成)

ア 所有権は、一物の上に一つしか存在しないから、目的物を特定して原告がその所有権を有する旨を記載すれば、所有権確認訴訟の訴訟物は特定します。

イ 対象物物件(不動産)は、一筆の土地の全部でも一部でもよい。

① 一筆の土地の全部の場合の「訴訟物の特定方法」
原告が、物件目録記載の土地につき所有権を有することを確認します。

② 一筆の土地の一部の場合の「訴訟物の特定方法」
その部分を特定するための図面(土地の範囲が現地で明らかになるように基点を明確にし、基点から各地点の方角・距離等を明示した図面)を添付する必要があります。

ウ 確認の訴え

(ア) 確認の訴えの意義
特定の権利ないしは法律関係の存在を主張して、その存否を確認する判決を求める訴えをいいます。

(イ) 確認の訴えが認められる場合
原告の権利関係について、現に危険又は不安が存し、それを除去・解消させるために確認判決が必要・適切であると認められる場合に限って許されます。

(ウ) 判決は既判力を生ずる
確認判決に示された権利関係の存否の判断には、既判力が及ぶので、「① 当事者間で、後訴において同一の権利関係が争点となった場合には、当事者はこれに反する主張をすることは許されず」、「② 裁判所もこれと矛盾する判断をすることができません」。


(3) 時効取得の訴え(簡易裁判所民事訴訟代理・地方裁判所等は書類作成)

ア 時効取得の意義
時効取得とは、20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他の物を占有し続ければ、その物の所有権を取得できると いう制度です(民法第162条1項)。

・また、占有開始時に自己に所有権があると信じ、かつ、そのように信じるにつき過失がなかった場合には、10年間の占有で所有権を取得することができます(同条2項)。

・たとえば、隣地との境界線の外に塀を築き、その内側を自分の土地として使用していた場合、隣地の一部を無断使用していたことになります。

・このような場合、本来は、無断使用していた部分を隣地の所有者に返 還しければなりませんが、時効取得が認められれば自己の所有物となるため、返還する必要がなくなります。

イ 時効取得の訴え
時効取得の訴えとは、時効取得を原因として、他人の土地を自分の所有とするために訴訟を提起することをいいます。

ウ 判決の内容
時効取得者は、登記名義人に対し、「時効による物権変動を主張し、その登記の移転を求める」ことになります。

* 農地の時効取得の場合、農地法の許可は不要です。


(4) 筆界特定制度(筆界特定代理・申請書等書類作成)

ア 筆界特定制度の概要

(ア) 筆界の意義
筆界とは、ある土地が登記された時に、その範囲を画するものとして定められた線であり、所有者同士の合意等によって変更することはできません。

(イ) 筆界の特定
筆界の特定とは、上記の定められた線(筆界)を現地において特定することであり、新たな筆界の形成、確定までの効力はなく、調査の上、登記された時に定められた「もともとの筆界」を、筆界特定登記官が明らかにすることです。

イ 筆界特定制度

(ア) 筆界特定制度の意義
筆界特定制度とは、「境界紛争の当事者からの申請により、法務局が、申請人から提出された資料、法務局が保管する資料、官公署が保管する資料などを参考にし、かつ外部の専門家の意見を求めて、筆界の現地における位置を特定することにより、境界紛争を解決すること」をいいます。

* ① 法務局に新設する筆界特定登記官が、弁護士・土地家屋調査士等専門家から選任される筆界調査員の調査や意見及び関係者から提出された意見や資料等を検討し、筆界を迅速簡便に特定します。

② 筆界は、公法上の線であるので、隣地所有者間で合意し又は簡易裁判所の調停で定めることはできません。

(イ) 筆界特定の内容に不満がある場合
筆界特定の内容に不満がある当事者は、いつでも裁判所に境界確定訴訟を提起することができます。この場合において、筆界特定登記官による筆界特定は、当該判決と抵触する範囲において、その効力を失います。

ウ 司法書士の「代理人としての業務範囲」
司法書士は、問題となっている「隣接する両土地の合計固定資産税評価額が金5,600万円(計算式:評価額金5,600万円÷2×0.05=金140万円)までの事案」は、代理人として筆界特定手続に関与できます。

* 筆界特定手続の代理業務を行える司法書士とは
簡易裁判所代理等関係業務行うことにつき認定を受けた司法書士のことです(司法書士法3条2項)。

エ 筆界特定制度の詳細

(ア) 手続の概要

① 申請者
申請できる者は、土地の所有権登記名義人等です。

② 申請の受理
法務局が受理すると、下記の手続を行います。

(ⅰ) 隣接土地及び関係土地の所有権登記名義人等へ通知する。

(ⅱ) 公告する。

(ⅲ) 筆界の事実調査を行うため、法務局の長が、筆界調査委員を指定する。

③ 筆界調査委員の調査・意見書の提出

(ⅰ) 筆界調査委員は、「測量、事実調査、事実聴取、資料収集等」を行う。

(ⅱ) 筆界調査委員は、事実調査終了後、筆界特定登記官に対し筆界特定についての意見書を提出する。

④ 「意見聴取・資料の提出を受ける期日」の設定

(ⅰ) 筆界特定登記官は、申請人、関係人、参考人らの意見を聴取し、資料の提出を受ける期日を設けなければなりません。

(ⅱ) 期日には、筆界特定登記官のほか、筆界調査委員も立ち会い、申請人ら出席者に対して質問をすることができます。

⑤ 筆界の特定

(ⅰ) 筆界特定登記官は、筆界調査委員の意見を踏まえて、筆界の特定をします。

(ⅱ) 筆界特定登記官は、筆界特定書を作成し、その写しを申請人に交付するとともに、筆界特定した旨を関係人に通知します。

* 筆界特定書とは
下記の事項を記載した書面のことです。

a 「筆界特定の結論」の要旨

b 「筆界特定の理由」の要旨

(ⅲ) 公告する。

(ⅳ) 対象土地の登記情報に記録される。

⑥ 筆界特定手続の費用負担
費用負担は、下記のようになります。

(ⅰ) 申請人が負担する費用

a 測量費用

b 鑑定費用

c その他の付随費用

(ⅱ) 国が負担する費用
筆界調査委員の費用

⑦ 筆界特定に不服がある場合の措置
従来どおり、隣接地の所有者等を被告として、「筆界確定訴訟」を提起することができます。

⑧ 筆界特定手続の結果得られた資料の利用
筆界特定手続の「記録・写し」の交付又は送付嘱託等を通じて、筆界特定手続の結果得られた資料を、下記のことに利用することができます。

(ⅰ) 筆界確定訴訟

(ⅱ) 土地の境界をめぐる訴訟等

⑨ 筆界特定された土地について、筆界確定訴訟が提起された場合
裁判所は法務局に対して、職権で、筆界特定手続記録の送付嘱託をして、筆界特定の記録を取り寄せ、裁判の資料として利用するができます。

(イ) 筆界特定の事務管轄登記所等の意義

あ 筆界特定の事務管轄(不登法124条)
筆界特定の事務は、対象土地の所在地を管轄する法務局又は地方法務局がつかさどります。

い 筆界特定登記官(不登法125条)
筆界特定は、筆界特定登記官が行います。

* 筆界特定登記官とは
登記官のうちから、法務局又は地方法務局の長が指定する者をいいます。

オ 「筆界特定手続」と「筆界確定訴訟手続」との関係

(ア) 「筆界特定の法的性格」と「境界確定訴訟」の存続

あ 「筆界特定」の法的性格
筆界特定は、「筆界の現地における位置を特定すること」(不登法123条2号)であり、行政処分性を有しません。

い 「境界確定訴訟(現在の呼称:筆界確定訴訟)」の存続
上記「あ」からして、「境界確定訴訟(現在の呼称:筆界確定訴訟)」も存続することになりました。

* 従来
従来は、「土地境界確定訴訟」と呼ばれていましたが、法は「筆界確定訴訟」と規定しました。

(イ) 「筆界特定手続」と「筆界確定訴訟手続」の関連
「筆界特定手続」と「筆界確定訴訟手続」の両手続は併存します。
(理由)
筆界特定手続前置主義を採っていないからです。

* ① 筆界特定手続中であっても、筆界確定訴訟を提起することができますし、逆に筆界確定訴訟中であっても、筆界特定申請をなし得ます。

② 筆界確定訴訟の判決が確定した後は、筆界特定申請をしても却下されます(不登法132条1項6号)。

(ウ) 筆界確定判決の優先性
筆界特定より筆界確定判決の方が優先します。
(理由)

 不登法148条(筆界特定より、筆界確定訴訟が優先する)

 筆界特定は、行政処分ではなく、事実上の効力(行政庁が筆界の位置を示した判断としての証明力)しかないので、法的効力のある判決内容の方が、当然に優先することになります。

(エ) 筆界特定後の訴訟手続―特定手続との連携

① 筆界特定が行われた土地について、筆界確定訴訟が提起されたとき
裁判所は、対象土地の所在地を管轄する登記所の登記官に対して、筆界特定手続記録の送付を嘱託することができます(不登法145条)。

* その結果、裁判所は、筆界特定手続で行われた「図面」や「調査結果」などを釈明処分として職権で活用することができます(民事訴訟法151条1項)。

② 筆界特定がなされていない土地につき、訴訟係属中に筆界特定手続が終了し、特定が行われたとき
裁判所は、筆界特定がなされた段階で、登記官に対し筆界特定手続記録の送付嘱託を行うことができます。

③ 筆界特定手続係属中の場合
筆界特定手続係属中は、民事訴訟法151条による釈明処分としての送付嘱託ができません。

(オ) 筆界特定手続を経ていない筆界確定訴訟
筆界特定手続を経ずに筆界確定訴訟を提起することができますが、実務上は、筆界特定の結果を踏まえて裁判手続が進行することが多くなると考えられます。

(カ) ADRや所有権界に関する訴訟手続での利用

 筆界特定手続が終わった土地については、何人も登記官に対し、下記のことを請求することができます(不登法149条)。

・そこで、これによって入手した資料を「ADR・民事調停・民事訴訟」等に使うことができます。

(ⅰ) 筆界特定書・図面等の写しの交付請求

(ⅱ) 利害関係者については、特定手続記録の閲覧謄写請求

 所有権界に関連した訴訟手続
民事訴訟法226条の文書送付嘱託制度を使って筆界特定手続 記録を取り寄せ、活用することができます。

・裁判所は、当事者からの申出でを受けて、法務局に対し送付嘱託します。

③ 不登法147条の釈明処分としての文書送付嘱託の規定の適用
筆界確定訴訟に限って適用されます。

カ 筆界特定手続の代理人
筆界特定手続につき代理人として業務をなし得る者は、下記の資格者です。

① 弁護士
代理人として業務をするのに、評価額による制限はありません。

* 評価額とは、固定資産税算定のための評価額のことです。

② 司法書士(簡裁代理関係業務を行うにつき認定を受けた司法書士)
問題となっている「隣接する両土地の合計評価額」が金5,600万円までは、代理人として業務をなし得ます。

 土地家屋調査士(土地家屋調査士法3条1項4号)