6 借地借家問題

(当事務所の取扱業務)

① 「土地・建物賃貸借契約書」等各種文案書類の作成代理
契約書等各種文案書類作成の相談

② 未払い賃料の「催告書・内容証明書」の作成
催告書・内容証明書等各種文案書類作成の相談

③ 簡易裁判所の「民事訴訟」・「民事調停」事件の代理(紛争の目的価額 が140万円を超えないもの)
裁判外和解の代理
上訴の提起
法律相談

④ 地方裁判所等の裁判書類の作成
裁判書類作成事務の相談

(目次)

(1) 借地借家法

(2) 土地の賃貸借

① 土地賃貸借契約の種類

② 普通借地権(借地借家法3条)

③ 定期借地権

④ 一時使用目的での建物建築の借地権(借地借家法25条)

⑤ 建築を目的としない土地の賃貸借(民法604条)

⑥ 借地権(建物所有を目的とする借地権)の及ぶ範囲・特定方法・対抗要件等

(3) 建物の賃貸借

① 建物賃貸借の種類

② 普通借家権

③ 定期建物賃貸借

④ 取壊し予定の建物の賃貸借

⑤ 一時使用目的の建物賃貸借(借地借家法40条)

(4) 賃借人の失火により延焼した場合の賃貸人の責任等

① 賃借人の火災保険

② 火災保険と失火責任(持家の場合、賃貸の場合)

③ 火災保険と失火責任(利得禁止、請求権代位)

④ 火災保険による火災事故以外の「財物の損害」等の補償

⑤ 火災保険適用の有無

⑥ 第三者の加害行為による損害に対する火災保険の適用の有無

(5) 当事務所の具体的業務方法

(1) 借地借家法
この法律は、下記事項を定めています。

① 建物の所有を目的とする地上権及び土地の賃借権の存続期間、効力等

② 建物の賃貸借の契約の更新、効力等に関し特別の定め

③ 借地条件の変更等の裁判手続に関し必要な事項


(2) 土地・建物の賃貸借

ア 土地の賃貸借・建築目的の賃貸借の種類

(ア) 土地の賃貸借には、下記の2種類があります。

① 建築を目的としない賃貸借

② 建築を目的とする賃貸借

(イ) 建築を目的とする賃貸借には、下記の種類があります。

① 普通借地権

② 定期借地権

(ⅰ) 一般定期借地権

(ⅱ) 事業用定期借地権

(ⅲ) 建物譲渡特約付借地権

イ 普通借地権(借地借家法3条)

(ア) 普通借地権の意義
普通借地権とは、建物を所有する目的の下に賃借権を設定することであり、その賃借権は借地借家法が適用されます。

・普通賃借権は、定期借地権等とは相違し、契約更新(法定更新)が可能な賃借権です。 ただし、賃貸人は、契約満了時に、契約更新を拒絶する正当事由があることを条件として、契約更新を拒むことができます。

* 更新に当っては、賃借人が更新の請求をする必要があり、賃貸人が異議を述べて、「正当事由」があれば、契約は更新されません
(借地借家法5条、6条)。

(イ) 普通借地契約の目的
普通借地権とは、建物を所有する目的の下に賃借権を設定することです。

* ① 建物とは
居住用、事業用を問いません。

② 建物を所有する目的以外での土地の賃貸借とは
借地借家法の適用はなく、民法上の土地賃貸借契約となります。

(例)

駐車場・資材置場・ゴルフ練習場・中古車販売場等

(判例)

(ⅰ) ゴルフ練習場等への土地の賃貸借の場合は、仮に建物があっても、建物は従たる目的に過ぎないから借地借家法の適用はない(最判昭42・12・5)。

* ただし、事務所・食堂等の建物が建築されるような場合は、借地借家法の適用のある賃貸借となる場合もあります。

(ⅱ) 自動車教習所の教習コース部分が、面積として圧倒的に大きく、建物の所在部分の面積が非常に小さい場合につき、借地法の適用を認めています((最判昭58・9・9)。

(ウ) 存続期間
存続期間は30年です。

* ただし、契約でこれより長い期間を定めることもできます。

(エ) 借地における地主の「更新拒絶」と「正当事由」

あ 借地契約の終了と更新
普通借地権においては、借地契約の存続期間が満了しても、直ちに契約関係が終了するわけではなく、更新制度があります。

① 合意更新と法定更新

(ⅰ) 合意更新
合意更新とは、借地人と地主の合意によって、借地契約が更新されることをいいます。

(ⅱ) 法定更新
借地人と地主の合意が成立しない場合でも、下記の場合は、借地契約が自動的に更新されます。このことを法定更新といいます。

A 借地契約の存続期間が終了する場合
借地人が契約の更新を請求したときは、建物が存在する場合に限り、従前の契約と同一の条件で更新されたものとみなされます(借地借家法5条1項)。

 契約期間満了後、借地人が土地の使用を継続するとき
建物が存在する場合に限り、契約は更新されたものとみなされます(借地借家法5条2項)。

* a 法定更新に対して、地主が遅滞なく異議を述べたとき
その異議に正当事由があれば、契約の更新は認められません(借地借家法5条1項、6条)。

b 契約期間満了時に借地上に建物が存在しない場合
借地人の更新請求による法定更新はありません。

・期間満了後も、土地の使用を継続していても、建物が存在しない場合には、土地使用の継続による法定更新はありません。

② 借地契約の終了
借地人は、地主に対し、借地上の建物その他借地人が権限により土地に付属させたものを時価で買い取るよう請求することができます(建物買取請求権。借地借家法13条

③ 旧借地法の取扱い
借地借家法の施行前(平成4年7月31日以前)に設定された借地権に係る「契約の更新」については、旧借地法が適用されます(借地借家法附則6条)。

(ⅰ) 下記の場合は、いずれも前契約と同一条件で更に借地権を設定したものとみなされます。

 期間満了の場合において、建物が存在するときは、借地人が契約の更新を請求したとき。

 期間満了後に、借地人が土地の使用を継続しているとき。

(ⅱ) 土地所有者から借地契約を終了させる方法
土地所有者は、正当の事由があり、かつ遅滞なく異議を述べることにより借地契約を終了させることができます。

(ⅲ) 借地人が、土地の使用を継続している場合で、借地上に建物が存在しないとき
土地所有者が、異議申立することにより更新を拒絶することができます。その際は、正当事由を要しません(旧 借地法6条2項)。

い 地主の更新拒絶と正当事由
契約期間満了時に、賃貸人が更新を拒絶するには、正当事由として、下記の要件が必要です(借地借家法6条)。

① 地主及び借地人(転借地人を含む)が、土地の使用を必要とする事情。

② 借地に関する従前の経過

③ 土地の利用状況

④ 地主が土地の明渡しと引換えに借地人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出

う 正当事由存否の判断基準時
事実審の口頭弁論終結時までになされた申出は、原則として考慮されます。

(理由)

正当事由存否の判断基準時は、原則として契約の期間満了時あるいは異議申出時とすべきであるが、立退料の提供の申出又はその増額の申出については、正当事由を補完する作用を有するので。

(オ) 更新後の期間

あ 当事者が合意で期間を定めない場合
更新後の最初の期間は20年で、2回目以降の更新では10年となります。

い 当事者が合意で期間を定める場合
最初の更新は20年以上、2回目以降の更新は10年以上とする必要があります。

(カ) 契約で、法定の借地期間よりも短い期間を定めた場合の効力
普通借地権の場合、30年よりも短い借地期間を定めた場合には、その定めは無効とされ、契約による期間の定めがないものとなって、法定期間の30年として取り扱われます。

・つまり、期間の定めのない契約となり、存続期間は30年、更新後の期間は、前記「(エ)あ、い の期間」となります。

* 借地契約において、法定の借地期間よりも短い期間の定めがなされた場合でも、借地契約全体が無効となるわけではなく、他の規定に特に問題がない場合には、期間に関する定めが無効となり、その期間は法定期間の30年となるだけです。

(キ) 建物買取請求権を放棄する特約は有効か?
借地権者が建物買取請求権を放棄する特約は、無効です。

(理由)

この特約は、借地権者に不利となるので、借地借家法16条により無効となります。

* 借地借家法13条1項
借地権の存続期間が満了した場合において、契約の更新がないときは、借地権者は、借地権設定者に対し、借地上の建物等を買い取るように請求することができます。

(ク) 借地権者が、土地の賃借権を譲渡又は転貸する場合、借地権設定者の承諾が必要か?

① 結論
原則として、借地権設定者の承諾が必要です。

*(ⅰ) 借地権設定者が賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないとき
譲渡を受ける第三者が賃借権を取得し、又は転借をしても借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず、借地権設定者がその賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないときは、裁判所は、借地権者の申立により、借地権設定者の承諾に代わる許可を出すことができます(借地借家法19条)。

(ⅱ) 裁判所の許可により、当事者間の利益の衡平を図る必要があるとき
裁判所は、賃借権の譲渡若しくは転貸を条件とする借地条件の変更を命じ、又はその許可を財産上の給付に係らしめることができます。

② 「許可」の裁判の申立時期(裁判例・通説)
裁判所の許可の申立は、建物の譲渡以前にしなければなりません。

* 近年の有力説

(ⅰ) 結論
建物の譲渡後になされた申立でも適法であると解しています。

(ⅱ) 理由
裁判例・通説は、譲渡以前とは、「建物譲渡契約締結前」なのか、「建物所有権移転前」なのか、「建物の譲受人に土地を使用収益させる前」の時期を指すのか明確にしていないからです。

(ケ) 第三者が、借地上の建物を競売又は公売により取得した場合、第三者は、借地権設定者の承諾が必要か?

① 結論
原則として、借地権設定者の承諾が必要です。

② 借地権設定者が賃借権の譲渡を承諾しないとき
第三者が賃借権を取得しても、借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず、借地権設定者が賃借権の譲渡を承諾しないときは、裁判所は、その第三者の申立により、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができます(借地借家法20条)。

* 裁判所の許可により、当事者間の利益の衡平を図る必要があるとき
裁判所は、借地条件の変更を命じ、又は財産上の給付を命ずることができます。

③ 借地借家法20条2項の趣旨
買受人により、借地権設定者の承諾に代わる許可の申立があった場合において、借地権設定者自らが建物の譲渡及び土地賃借権の譲渡を受けたときは、裁判所は、下記のことを命ずることができます。

A 第三者への建物譲渡

B 第三者への賃借権の譲渡

(コ) 地代等増減請求権
借地借家法第11条を参照のこと

ウ 定期借地権

(ア) 広義の定期借地権

あ 広義の定期借地権の意義
広義での定期借地権とは、「① 借地借家法22条から24条に記載されている借地権」のことで、「② 法定更新制度の適用がなく、一定の期間の満了により賃貸地が戻される借地権」のことをいいます。

* つまり、定期借地権は設定契約で定めた期間の満了により終了し、更新されません。

い 広義の定期借地権の種類
定期借地権には、下記の3種類があります。

① 一般定期借地権(借地借家法22条の借地権)

② 事業用定期借地権等 (借地借家法23条1項・2項の借地権)

* 両借地権の差異は、「(ⅰ)存続期間」及び「(ⅱ)設定契約の内容」です。

③ 建物譲渡特約付借地権(借地借家法24条の借地権)

(イ) 一般定期借地権(借地借家法22条)

あ 意義
一般定期借地権とは、建物を所有する目的の下に、存続期間について50年以上の一定の期間を定めて借地契約をする場合において、下記の3つの特約を付した借地権の設定契約のことをいいます。

① 契約の更新がないこと(更新請求及び土地の使用継続によるものを含む)。

* 契約は更新されません。

② 建物が再築されても期間の延長がないこと。

③ 契約期間が満了したときに、借地人が借地権設定者に対し建物買取請求をしないこと。

* (ⅰ) 上記3つの特約は、普通借地権の場合には認められている事項ですが、これらの事項を排除する旨の定めを可能にしました。

(ⅱ) 上記3つの特約を定めなければ、その借地権は、普通借地権となります。

い 要件

(あ) 一般定期借地権における存続期間は確定期限であり、50年以上の期間を定めなければなりません。

(い) 上記「あ ①~③の特約」を付す場合は、公正証書等の書面でなす必要があります。

* 書面であれば、公正証書でなくても差し支えありません。

う 定期借地権を設定し得る権利
定期借地権を設定することのできる権利は、「賃借権」と「地上権」です。

え 定期借地権の対象となる建物
居住用、事業用を問いません。

お 契約更新と期間延長の可否

(あ) 契約更新の可否
定期借地権は、設定契約で定めた期間の満了により終了し、更新されません。

(い) 期間延長の可否
期間が満了する前に、賃貸人と賃借人の合意により契約期間を延長することは可能です。

(例)

一般定期借地権は、事業用定期借地権のように最長期間の制約がないので、50年間の期間満了の直前に合意して、10年間の延長(合計60年間)をすることもできます。

か 公示方法
一般定期借地権と認められるための上記「あ ①~③の特約」は、登記事項(不動産登記法78条3号、81条8号)とされていますので、登記することにより一般定期借地権であることが公示されます。

(ウ) 事業用定期借地権

あ 意義・要件等

(あ) 意義
事業用定期借地権(賃借権・地上権)とは、専ら「店舗・工場等の事業の用に供する建物(すなわち、アパートなどの居住の用に供するものを除く)」を所有する目的で、「土地賃貸借契約・地上権設定契約」を締結することにより、その土地を利用することです(借地借家法2条1号、23条)。

* 賃借権の事業用定期借地権は、下記の2種類があります

① 事業用定期借地権(借地借家法第23条1項)

② 事業用定期借地権(借地借家法第23条2項)

* 上記①、②の借地権とも、下記のような取扱いとなります。

A 当初定めた期間が満了すると契約は終了します。

B 契約の更新はありません。

C 期間が満了すると、借地人は地主に対して、借地上の建物その他の工作物を収去して、土地を原状に復して返還する義務を負います。
(理由)
事業用定期借地権には、「建物の再築による期間の延長はなく、期間満了時の建物の買取請求権はない」ので、借地人は、原状回復義務を負うからです。

(い) 要件
事業用定期借地権設定契約は、公正証書によることが必要です。

* ① 公正証書による事業用定期借地権設定契約の内容
公正証書の作成に先立って、当事者間で口頭又は公正証書以外の書面(覚書・合意書という名称が多い)で、これから作成する公正証書による事業用定期借地権設定契約の内容について、合意がなされるのが通例です。

② 覚書・合意書等の書面の意義
これらの書面は、借地権設定の準備に協力すべき当事者の義務を確認する書面にとどまり、本契約でないことはもちろんのこと、予約契約でもありません。

③ 公正証書によらない事業用定期借地権設定契約
事業用定期借地権としての効力は発生しません(借地借家法23条3項)が、そのような場合でも、現実に土地の利用が開始されているときは、当事者が普通借地権を設定したものと推認されることがあります。

(う) 契約更新・再契約・再契約の予約の可否

① 契約更新の可否
事業用定期借地権は、期間満了により確定的に終了する借地権なので、契約は更新されません。

② 再契約の可否
当事者間で合意することにより、「当初の契約終了後、再度、事業用定期借地権を設定すること」は可能です。

・そこで、契約終了後、当事者の合意により「再契約をすることができる旨」を、当初の契約で定めておくことも可能です。

③ 再契約の予約の可否
借地人と借地権設定者の間で、事業用定期借地権の存続期間満了の際に、新しい借地権を設定する旨の予約契約を締結することができます。

(え) 賃借権の事業用定期借地権の転貸借は可能か?
「賃貸人と賃借人」間で事業用定期借地権を設定した上で、賃借人が賃貸人の承諾を得て、「賃借人(転貸人)と転借人」間で事業用定期借地権の転貸借契約を締結し、転借人が建物を建築することは可能です。

* ① 地上権の事業用定期借地権の場合の転貸、譲渡
地上権は物権なので、地上権者が地上権設定者の承諾を得ることなく自由に転貸・譲渡することができます。

② 賃借権の事業用定期借地権の場合の転貸、譲渡
賃借権は債権なので、賃借人が賃貸人の承諾を得ることにより、事業用定期借地権を転貸することができます。

③ 「賃借権の事業用定期借地権の転貸・譲渡契約」は、公正証書にする必要があるか?
公正証書によることが必要です(借地借家法23条3項)。

④ 「地上権の事業用定期借地権の転貸・譲渡契約」は、公正証書にする必要があるか?
公正証書によることが必要です(借地借家法23条3項)。

(お) 借地借家法23条1項・2項の事業用定期借地権の差異
両借地権の差異は、下記のとおり「① 存続期間」及び「② 設定契約の内容」にあります。

(か) 事業用定期借地権(23条1項)と一般定期借地権の相違

① 事業用定期借地権(借地借家法23条1項の借地権)の存続期間は30年以上50年未満ですが、一般定期借地権は50年以上であるという点。

② 事業用定期借地権は「居住用」に適用されないが、一般定期借地権は「居住用」にも「事業用」にも適用されるという点。

(き) 「事業用建物の定義」と「グループホーム、診療所等への利用の可否」等

① 事業用建物の定義
事業用建物の事業とは、営業よりも広い概念で、公共的・公益的なものも含みます。

(事業用建物の例)

店舗・事務所・工場・機械室・遊技場・映画館・公会堂・公民館・集会所・寺院・教会・学校・ディサービス施設・ショートステイ施設・コンビニエンスストア・スーパーマーケット・ファミリーレストラン・ガソリンスタンド・パチンコ店・ゲームセンター・レンタルビデオショップ・大型書店・紳士服チェーン店舗等

* スーパーマーケットのように広い土地を利用するに当たり、その土地が数筆にまたがっている場合、建物が一部の筆にしかない場合でも、数筆の土地に事業用定期借地権を設定することは可能か?
(結論)
建物の使用と密接不可分の関係にある隣接地については、事業用定期借地権の対象となると解されます。

・このような問題は、ケースごとに判断すべきであると考えます。

② 「診療所」、「グループホーム」、「有料老人ホーム」への利用の可否

(ⅰ) 診療所
診療所等の基本的には医療行為を施す施設において、入院設備を設けるなどあくまで医療行為の一環として、一時的に寝食させる施設は事業用定期借地権の利用が可能です。

(ⅱ) 「グループホーム」・「有料老人ホーム」
「グループホーム」・「有料老人ホーム」等住居としての利用を主たる目的とする建物においては、事業用定期借地権の利用は難しいと考えるべきです。

* 事業用定期借地権において、建物の使用目的は、専ら事業の用に供するものでなければならず、住居の用に供するものは条文上明確に除外されています。

・ただし、一時的に居住用に使用されても、特定人が継続的に居住するものでないディサービス施設、ショートステイ施設、保養所、旅館、ホテル、守衛室などは事業用定期借地権の適用対象となると考えられます。

③ ソーラーパネル等太陽光発電設備と事業用定期借地権

(事案)

広大な土地を借りて大規模なソーラーパネル等太陽光発電設備を建設し、太陽光発電事業を行うに当たり、その広大な土地のほんの一部分に事務所・機械室を建設する場合、事業用定期借地権設定契約の公正証書の作成が認められるか?

(結論)

原則として認められない。

(理由)

(ⅰ) 太陽光発電パネルは、建物とは言い難い。

(ⅱ) 太陽光発電事業のための土地賃貸借の主たる目的は、太陽光発電パネルの設置にあり、事務所・機械室等の建物は、太陽光発電事業を経営するための付属の建造物に過ぎないと考えるのが常識であり、これらの建物を建築し所有することが土地賃貸借の主たる目的と考えることは難しい。

い 借地借家法23条1項の規定による「事業用定期借地権」

(あ) 意義
「借地借家法23条1項の規定による事業用定期借地権」とは、専ら事業の用に供する建物の所有を目的とし、存続期間を30年以上50年未満とする借地権を設定するに当り、次の特約をした借地権のことをいいます。

(い) 特約事項

① 契約の更新をしない。

* この特約の設定により、契約は更新されません。

② 建物の築造(建物滅失後の再築)による存続期間の延長がない。

③ 契約期間満了時に、借地人が借地権設定者に建物買取請求権を行使しない。

* (ⅰ) 上記3つの特約は、普通借地権の場合には認められる事項ですが、「借地借家法23条1項の事業用定期借地権」は、これらの事項を排除する旨を定めたものです。

(ⅱ) 上記3つの特約を定めて、公正証書により借地権を設定した場合には、借地借家法の規定にかかわらず、これらの特約が有効とされます。

(ⅲ) 上記3つの特約を定めなければ、その借地権は、普通借地権となります

(参考)

契約書には、下記事項も記載したほうがよい。

民法619条(賃貸借の更新の推定等)の適用はないものとする。

う 借地借家法23条2項の規定による「事業用定期借地権」

(あ) 意義
「借地借家法23条2項の規定による事業用定期借地権」とは、専ら事業の用に供する建物の所有を目的とし、存続期間を10年以上30年未満として設定する賃借権のことです。

(い) 効力
この事業用定期借地権には、借地借家法上の「下記規定」が適用されません。

・その結果、契約更新ができないのが原則です。

 借地借家法3条(借地権の存続期間)借地権の存続期間は30年とする。

 借地借家法4条(借地権の更新後の期間)
最初の更新後の期間は20年、2回目以降の更新後の期間は10年とする。

 借地借家法5条(借地契約の更新請求等)
借地権者は、更新を請求することができる。

 借地借家法6条(借地契約の更新拒絶の要件)
借地権者の更新請求に対し、借地権設定者は自らが土地を使用する必要がある等の正当事由があれば、契約の更新を拒絶することができる。

 借地借家法7条(建物の再築による借地権の期間の延長)
期間満了前に建物が滅失した場合において、契約の残存期間を超える建物を再築したときは、借地権設定者の承諾がある場合に限り、借地権は、承諾があった日又は建物が築造された日のいずれか早い日から20年間存続する。

 借地借家法8条(借地契約の更新後の建物の滅失による解約等)
契約の更新後に建物の滅失があった場合は、借地権者は、地上権の放棄又は土地賃貸借の解約の申入れをすることができる。

 借地借家法13条(建物買取請求権)
借地権の存続期間が満了した場合において、契約の更新がないときは、借地権者は、借地権設定者に対し、建物その他借地権者が権原により土地に付属させたものを時価で買い取るべきことを請求することができる。

 借地借家法18条(借地契約の更新後の建物の再築の許可)
契約更新後において、借地権者が残存期間を超えて存続する建物を築造することにつきやむを得ない事情があるにもかかわらず、借地権設定者がそのことを承諾しない場合は、借地権設定者が、「地上権の消滅の請求又は土地賃貸借の解約の申入れをすることができない」旨を定めた場合を除き、裁判所は、借地権者の申立により、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。

* 参考(契約書には、下記事項も記載したほうがよい。)
民法619条(賃貸借の更新の推定等)の適用はないものとする。


(エ) 建物譲渡特約付借地権(借地借家法24条)
建物譲渡特約付借地権とは、借地契約をする場合に、借地権設定後30年以上を経過した日に借地上の建物を借地権設定者に相当の対価で譲渡する旨を特約で定めた借地権のことをいいます。

・用途等の制限はなく、居住用でも事業用でも設定可能です。

・建物譲渡の目的は、借地権を消滅させるためです。

あ 設定し得る借地権の種類

 普通借地権

 定期借地権

 事業用定期借地権(存続期間の関係で、借地借家法23条1項の借地権のみ対象)

い 設定の要件
借地権設定契約と同時に、「借地権設定後30年以上経過したときに、地主が地上の建物の譲渡を受けるべき特約」を結ぶ必要があります。

(あ) 建物譲渡特約の種類・内容

① 種類
建物譲渡の特約は、相当の対価を支払うもので、下記のような種類があります。

(ⅰ) 売買予約

・30年以上経過した後に、地主が予約完結権を行使することにより、売買契約が成立する「売買予約」。

(ⅱ) 代物弁済予約

(ⅲ) 期限付き売買契約

・30年以上の一定の期間が経過した時に、当然に建物売買の効力が発生することを内容とした「期限付き売買」。

* この特約が、一般的です。

(ⅳ) 期限付き交換契約

(ⅴ) 期限付き代物弁済契約

② 建物譲渡特約の内容
特約が効力を生ずるのは、借地権設定後30年以上後に効力を生ずるものなので、その内容は具体的で、かつ明確でなければなければなりません。

(い) 特約の要件(書面作成が要件か)
書面による必要はありません。

* 30年以上経過した日に効力が生じることなので、後日の紛争予防のために特約を記した書面を作成しておくことが肝要です。

エ 一時使用目的での建物建築の借地権(借地借家法25条)
臨時に設備を設置(例:サーカスの興業のための建物設置)する場合などで、一時使用のために設定される借地権ことです。

・その場合には、借地借家法の重要な部分である「① 存続期間、② 契約の更新、③ 建物買取請求権、④ 借地条件の変更、⑤ 増改築の許可、⑥ 更新後の建物再築の許可、⑦ 定期借地権」の規定が排除されます。

オ 建築を目的としない土地の賃貸借(民法604条)
この場合は、借地借家法の適用のない賃貸借となります。

・賃貸借の存続期間は、50年を超えることができず、更新はできますが、更新の時から50年を超えることはできません。

カ 借地権(建物所有を目的とする借地権)の及ぶ範囲・特定方法・対抗要件等

(ア) 借地権の及ぶ範囲
建物所有を目的とする借地権において、借地権の登記はなく、建物の登記がなされている場合、建物登記によって借地権の対抗力がどの範囲まで及ぶかが問題となります。

・ この場合の借地権の対抗要件(借地借家法10条1項)の及ぶ範囲は、建物の所有ないし利用に必要な範囲に限定されると解するのが一般的な解釈です。

* ただし、具体的に借地権の及ぶ範囲を認定するのはケイスバイケースで判断することになります。

(イ) 借地権の範囲の特定方法
一筆の土地300坪の内100坪に建物所有のための借地権を設定するには、建物の存在する土地を図面で特定し、現地で境界を明示するなどの方法をとることになります。

(ウ)1筆の土地の一部についての借地権設定登記は可能か?
事業用借地権に限らず借地権については、一筆の土地の一部についての借地権設定登記はできません。

* 一筆の土地の一部について借地権設定登記をするには、対象の土地を分筆したうえで、その借地部分に設定登記をすることになります。

・1筆の土地300坪の内100坪のみが建物建設地(店舗敷地)であった場合、借地権の及ぶ範囲は、「建物の所有(100坪は建物敷地として使用)ないし利用(200坪は駐車場として利用)に必要な範囲」と解釈されるので、1筆の土地たる300坪全部に借地権設定登記をする方法がとられています。

(エ) 事業用借地権の対抗要件
事業用借地権を第三者に対抗するには、下記の2つ方法があります。

① 借地権者が、借地上に所有する建物の登記をとる。

② 事業用借地権設定登記をとる。

キ 中途解約に関する諸問題

(ア) 賃貸借契約期間中の債務不履行と解除
判例は、債務不履行による賃貸借契約の解除について、単に債務不履行があったというだけでなく、それにより賃貸借契約を継続し難い事情(「信頼関係の破壊」、「背信的行為」)があるときに、解除権の行使が認められるとしています。

* ① 解除の効果
賃貸借契約は継続的契約であるので、「将来」に向かってのみ効力が生じます。つまり、解約の結果と同じになります。

② 実務
一般に、3か月程度の滞納があれば、「信頼関係が破壊」されたとして無催告解除が認められています。

* 原則として、「1か月の不払で無催告解除ができる」という特約は、無効であると解されています。

(イ) 借地権設定契約の「中途解約」の可否

あ 期間の定めある借地権設定契約の「中途解約」の可否

* 借地借家法の「期間の定めある借地権」の種類は、下記のとおりです。

(ⅰ) 普通借地権

(ⅱ) 一般定期借地権

(ⅲ) 事業用定期借地権

(ⅳ) 建物譲渡特約付借地権

① 賃貸人からの「中途解約」の申入れ

(ⅰ) 借地権設定契約書に「中途解約条項」がある場合
中途解約条項があったとしても、賃貸人は、解約の申入れをすることができません。

* ただし、賃借人が解約に同意すれば、合意解約となり、解約が成立します。

(理由)

借地権者に不利な特約は無効とされるので(借地借家法9条、16条、21条)、賃貸人からの中途解約の申入れは無効となります。

* 「中途解約条項」の意義
期間の定めある賃貸借契約において、当事者の一方又は双方が、期間内に「解約権を留保している条項」のことをいい、「解約権留保特約」ともいいます。

(ⅱ) 借地権設定契約書に「中途解約条項」がない場合
賃貸人は、解約の申入れができません。

* ただし、賃借人が解約に同意すれば、合意解約となり、解約が成立します。

② 賃借人からの「中途解約」の申入れ

(ⅰ) 借地権設定契約書に「中途解約条項」がある場合
賃借人は、解約の申入れができます。

* 解約申入れの期間を定めて解約権を留保しているときは、解約申入れ後、その期間の経過にて賃貸借契約は終了しますが、解約申入れの期間を定めずに解約権を留保したときは、解約申入れの後1年を経過した時に賃貸借契約が終了します(民法617条1項1号)。

(ⅱ) 借地権設定契約書に「中途解約条項」がない場合
賃借人は、原則として、解約の申入れができません。

* ただし、賃借人にとって、「予測困難な事情の変化」によって、借地権設定契約を継続することが困難になった場合は、事情変更の原則により解約が認められる場合もあります。

・ 賃借人は、予測困難な事情の変化に備えて、「中途解約条項」を入れておくべきです。

い 期間の定めのない借地権設定契約の「中途解約」の可否
つまり、借地借家法の適用がない賃貸借契約の「中途解約」の可否

賃貸人・賃借人共、いつでも解約の申入れをすることができます(民法617条1項)。

* この場合、解約の申入れの日から1年を経過することによって、賃貸借契約は終了します。

(ウ) 建物賃貸借契約の「中途解約」の可否

* 借地借家法上の建物賃貸借契約の種類

① 期間を定めることを要する「建物賃貸借契約
定期建物賃貸借(定期借家)契約

② 期間の「定め」をしても、しなくてもよい「建物賃貸借契約

(ⅰ) 普通建物賃貸借契約

(ⅱ) 取壊し予定の建物賃貸借契約

あ 期間の定めのある建物賃貸借契約の「中途解約」の可否

① 賃貸人からの「中途解約」の申入れ

(ⅰ) 建物賃貸借契約に「中途解約条項」がある場合

A 民法上(借地借家法の適用のない)の賃貸借契約
賃借権の存続期間を定めた場合でも、賃貸人及び賃借人のいずれも、解約権を留保したときは、3か月の期間を置いて、解約の申入れができます(民法618条)。

B 借地借家法の適用のある賃貸借契約
賃貸人は、解約の申入れができます(近時の判例・通説)。

* ただし、賃貸人には、解約についての「正当事由の存在」と「解約申入期間として、少なくとも、6か月の期間」が必要です(借地借家法27条1項、28条)。

(ⅱ) 建物賃貸借契約に「中途解約条項」がない場合
賃貸人は、解約の申入れができません。

* ただし、この場合でも、賃借人が解約に同意すれば解約(合意解約)が可能になります。

② 賃借人からの「中途解約」の申入れ

(ⅰ) 建物賃貸借契約に「中途解約条項」がある場合
賃借人は、解約の申入れをすることができます。

* 解約申入れの期間を定めて解約権を留保しているときは、解約申入れの後、その期間の経過にて賃貸借契約は終了しますが、解約申入れの期間を定めないで解約権を留保したときは、解約申入れの後3か月を経過した時に賃貸借契約が終了します(民法617条1項2号)。

(ⅱ) 建物賃貸借契約に「中途解約条項」がない場合
賃借人は、原則として、解約の申入れができません。

* ただし、下記の場合は、例外として、「解約の申入れ」ができたり、できる可能性があります。

A 解約の申入れが可能な場合
定期建物賃貸借で、居住の用に供する建物(200㎡未満の建物に限る)の賃貸借において、「転勤、療養、親族の介護その他やむを得ない事情」により、建物の賃借人が、建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったとき(借地借家法38条5項)。

・この場合は、解約の申入れの日から1か月を経過することによって、賃貸借契約は終了します。

B 「解約の申入れの可能性」がある場合(裁判所の判断による)
賃借人にとって、予測困難な事情の変化によって、建物賃貸借契約を継続することが困難になったとき。

い 期間の定めのない建物賃貸借契約の「中途解約」の可否

① 賃貸人からの解約の申し入れ
賃貸人は、「正当事由」がある場合のみ、6か月の期間を置いて解約の申入れができます(借地借家法27条1項、28条)。

② 賃借人からの解約の申し入れ
賃借人は、3か月の期間を置いて、いつでも解約の申入れができます(民法617条1項2号)。

(エ) 定期借地権に関する「中途解約」についての詳細

あ 定期借地権における「借地借家法上の中途解約に関する規定」の有無
定期借地契約の場合、借地借家法に「中途解約に関する規定」はありません。

い 土地賃貸人からの「中途解約」の申入れ(できません)
定期借地権については、土地の賃貸人から中途解約することはできません。

* (あ) 賃貸人からの一方的な「中途解約」はできませんが、下記の場合は、契約期間中に、契約を終了させることができます。

① 合意解約(賃貸人と賃借人の合意)

② 賃借人の債務不履行による契約解除(賃貸人の意思表示による)

(い) 賃貸人からの「中途解約」ができない理由

① 借地借家法には、「中途解約に関する規定」はありません。

② 借地借家法には、「借地権者に不利な特約は無効(借地借家法9条)」と規定されています。

(う) 契約書に「賃貸人から、中途解約の申入れをなし得る旨の記載」がある場合
その約定は、無効となります。

う 土地の賃借人からの「中途解約」の申入れ(可能な場合がある)
定期借地権につき、賃借人から中途解約する場合には、「中途解約権を留保する旨の特約」がなければなりません。

(オ) 民法上の賃貸借契約における「中途解約」の可否

* 建物所有につき、借地借家法の適用がない契約
民法上の賃貸借契約において、当事者(賃貸人・賃借人)の一方から「中途解約」できるのは下記の場合です。

① 期間の定めのない契約(民法617条)。

② 期間の定めのある契約であっても、「中途解約権を留保する旨の特約」がある場合(民法618条)

(カ) 賃借人の「中途解約の違約金」について
賃借人が中途解約をする場合、違約金を支払うことにより賃貸人の損失を補償して、賃貸人と賃借人間の均衡をとる必要があります。

* 違約金の額について(判例の見解)
違約金の額は、賃料の「6か月分から24か月分程度」が相当と考えられています。

(理由)

中途解約がなされた場合に、賃貸人が、次の賃借人と契約締結できるまでの「相当期間程度の賃料分」が違約金として相当である。


(3) 建物の賃貸借

ア 建物賃貸借の種類
建物の賃貸借には、下記の種類があります。

① 普通借家権(契約の更新あります)

② 定期借家権(存続期間の満了により確定的に終了します)

③ 取壊し予定の建物の賃貸借

④ 生存中に限り存続する「特別法上の終身借家権(高齢者居住法56条)」

次に、これらの賃貸借の内容を説明します。

イ 普通借家権(借地借家法26条)
普通借家権とは、「① 定期建物賃貸借 ② 取壊し予定の建物の賃貸借 ③ 終身建物賃貸借」以外の建物賃貸借をいい、契約の更新が借地借家法により保障されている「いわゆる更新のある借家権」ことです。

・したがって、長期間賃貸したい場合に適した賃貸借契約といえます。

(ア) 契約方法
書面でも、口頭でも可能です。

(イ) 存続期間及び更新方法等

あ 存続期間(借地借家法29条)
契約で存続期間を定めることができますが、最短期間は1年で、最長期間の制限ありません。

い 更新方法等
建物の賃貸人は、期間満了1年前から6か月前までの間に、更新拒絶の通知又は条件を変更しなければ更新しない旨の通知をしなかったときは、更新したものとみなされます。

・法定更新後の存続期間は、期間の定めのないものとなり、賃貸人が賃貸借の解約申入れ後6か月を経過すると賃貸借は終了します。

・賃貸人が、更新を拒絶する場合は、正当事由が必要です(借地借家法28条)。

う 更新拒絶等の要件
建物の賃貸人による更新拒絶等の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、下記の内容を考慮し、正当事由がある場合でなければすることができません。

 建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。)が、建物の使用を必要とする事情

 建物の賃貸借に関する従前の経過

 建物の利用状況及び建物の現況

 建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の引渡しと引換えに、建物の賃借人に対して、財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出内容

(ウ) 借家権の消滅

あ 存続期間の定めがない建物賃貸借の中途解約
存続期間の定めがない建物賃貸借とは、下記の賃貸借契約のことです。

A 最初から存続期間を定めていなかった建物賃貸借契約

B 存続期間の定めがある建物賃貸借契約において、自動更新された賃貸借契約

* 自動更新とは
建物の賃貸借について、期間の定めがある場合において、当事者が期間満了の1年前から6か月前までの間に、相手方に対して更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなされることです。

・この場合、賃貸借の期間は、定めがないものとなります(借地借家法26条1項)。

① 賃貸人からの解約申入れ(借地借家法27条)
賃貸人は、解約申入れをなすことができ、解約申入れ後6か月を経過することにより、賃貸借は終了します。

・ただし、解約には、下記の事情を考慮し正当事由があることが必要です(借地借家法28条)。

* (ⅰ)「解約申入れ」の意義
期間の定めのない賃貸借を将来に向かって終了させる一方的意思表示のことです。

(ⅱ) 存続期間の定めのない賃貸借の例

a 当事者の合意によって期間の定めがない旨の契約を締結した賃貸借

b 法定更新後の賃貸借(借地借家法26条1項ただし書)

c 1年未満の期間を定めた普通の建物賃貸借
(借地借家法29条1項)

(ⅲ) 事情とは

a 建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。)が、建物の使用を必要とする事情

b 建物の賃貸借に関する従前の経過

c 建物の利用状況及び建物の現況

d 建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の引渡しと引換えに、建物の賃借人に対して、財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出内容

・建物賃貸人には、前賃貸人から家屋を譲り受けた新所有者も含まれます。

・上記の新所有者は、所有権取得の登記を経由しないと、賃借人に対し有効な解約申入れをすることができません(名古屋高裁金沢支判昭28・11・4)

② 賃借人からの解約申入れ(民法617条)
建物の賃借人からの解約申入れの場合は、解約申入れ後3か月を経過することにより、賃貸借は終了します。

(理由)

賃借人の場合は、借地借家法27条ではなく、民法617条が適用されるからです。

* (ⅰ) 借地借家法27条の要旨
建物の賃貸人が賃貸借の解約申入れをした場合においては、建物の賃貸借は、解約申入れの日から6か月を経過することによって終了する。

(ⅱ) 民法617条の要旨
期間定めない賃貸借の場合、賃借人は何時でも解約の申入れができ、建物の賃貸借は解約申入れ後3か月を経過することにより終了する。

* 「解約申入れ」の意義
解約申入れとは、期間の定めのない賃貸借を将来に向かって終了させる一方的意思表示のことです。

い 存続期間の定めがある建物賃貸借の中途解約

(あ) 中途解約権留保特約付「賃貸借契約」
存続期間の定めがある賃貸借の場合でも、当事者(賃貸人・賃借人)が期間内に解約する権利を留保しているときは、解約申入れにより終了する賃貸借となり(民法618条)、賃貸人・賃借人が解約申入れ後、下記の期間を経過することにより賃貸借は終了します。

① 賃貸人からの解約申入れの場合
解約申入れ後6か月を経過することにより、賃貸借は終了します(借地借家法27条1項)。

・ただし、賃貸人は、この場合も正当事由が必要です。

② 賃借人からの解約申入れの場合
解約申入れ後3か月を経過することにより、賃貸借は終了します(民法617条1項)。

(い) 破産の場合

① 賃貸人破産の場合(破産法56条1項適用)
賃貸人(賃貸人の破産管財人)
は、賃借人が対抗要件(借地・借家の登記又は建物へ入居していること)を備えている場合は、破産を原因として賃貸借契約を解除することはできません。

賃借人は、破産手続開始時に賃借人・賃貸人が共に賃貸借契約の履行を完了していない場合は、賃貸人(賃貸人の破産管財人)に対して「(ⅰ)賃貸借契約を解除すること」又は「(ⅱ)賃貸借契約を履行すること」の選択を催告することができません(破産法53条1項)。

* つまり、賃借人は、破産を原因として賃貸借契約を解除することはできません。

② 賃借人破産の場合(賃借人破産の場合の法律の定めはない)
賃借人(賃借人の破産管財人)は、破産手続開始時に賃借人と賃貸人が共に賃貸借契約の履行を完了していない場合は、「(ⅰ)賃貸借契約を履行すること」又は「(ⅱ)賃貸借契約を解除すること」を選択できます(破産法53条1項)。

賃貸人は、破産手続開始時に賃借人と賃貸人が共に賃貸借契約の履行を完了していない場合は、賃借人の破産管財人に対し、相当の期間を定めて、その期間内に「(ⅰ)賃貸借契約を解除するか」、「(ⅱ)賃貸借契約を履行するか」を確答すべき旨を催告することができます(破産法53条2項前段)。

・そして、賃借人の破産管財人が、その期間内に確答をしないときは、賃貸借契約の解除をしたものとみなされます(破産法53条2項後段)。

う 建物賃貸借契約(賃貸借期間の定めある賃貸借)の更新の場合
建物の賃貸借について、期間の定めある場合において、当事者が期間満了の1年前から6か月前までの間に、相手方に対して更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。

ただし、その期間は、定めがないものとする(借地借家法26条1項)。

よって、更新後の賃貸借については、

① 賃貸人は、解約の申入れをなすことができ、解約申入れ後6か月を経過することにより、賃貸借は終了します(ただし、正当事由が必要です)。

② 賃借人は、解約の申入れをなすことができ、解約申入れ後3か月を経過することにより、賃貸借は終了します。

え 中途解約権の留保条項が存在しない場合(借地借家法38条)
期間の定めのある居住用建物の賃貸借(定期建物賃貸借)で、賃貸借部分の床面積が200㎡未満の場合は、「賃借人が転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、建物を自己の生活の本拠として使用しえなくなった場合」は、賃貸借の解約の申入れをすることができます。

・この場合、建物の賃貸借は、解約申入れの日から1か月を経過することによって終了します。

お 「中途解約の違約金条項の有効性」と「違約金の額」

① 中途解約の違約金条項の有効性(東京地裁平成8年8月22判決の要旨)
賃貸借契約期間途中での解約又は解除があった場合には、違約金を支払う旨の約定自体は有効である。

② 違約金の額(東京地裁平成8年8月22判決の要旨)
賃貸借契約期間途中での解約又は解除があった場合の違約金の額は、「1年分の賃料及び共益費相当額」が限度であり、その余の部分は公序良俗に反して無効と解する。

(エ) 原賃貸借の終了と転貸借の関係

あ 借家契約における原賃貸借の終了と転貸借の関係

(あ) 賃貸人の承諾がない転貸借の場合
賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ賃借物を転貸することができません(民法612条)。

・そこで、賃貸人の権利等は下記のようになります。

① 賃貸人の解除権等

(ⅰ) 賃貸人と賃借人の関係
賃貸人は、賃借人との賃貸借契約を解除することができます(民法612条2項)。

(ⅱ) 賃貸人と転借人の関係
賃貸人は、賃借人との賃貸借契約を解除しないで、転借人に対し、「a 妨害(不法占有)を排除すること」及び「b 賃借物を賃貸人へ直接引き渡すこと」を請求することができます(最判昭和26・4・27)。

② 借地借家法との関係

(ⅰ) 借地権について
「土地の賃借権の転貸の許可(裁判所の許可)」について規定している借地借家法19条に定める非訟事件手続を経由しないで借地権の無断転貸をした場合は、民法612条が適用されますので、借地権の解除をなすことができます。

(ⅱ) 借家権について
借家権の「無断譲渡・転貸」につては、借地借家法には何らの規定がないので、全面的に民法612条が適用されますますので、借家権の解除をなすことができます。

(い) 賃貸人の承諾のある転貸借の場合
転貸借は、原賃貸人と賃借人(転貸人)との間の原賃貸借の上に成立しているので、原賃貸借が消滅すれば、転貸借もその存在の基礎を失うから終了するのが原則です。

・しかし、この原則に対して、転借人保護の観点から例外的に、原賃貸借が終了しても転借人の地位が守られている場面(下記「②、③」)があります。

① 賃貸借が、賃借人の債務不履行により解除された場合(転借人の保護なし)
原賃貸借が、賃料不払の債務不履行によって解除されて終了した場合、転貸借は、原賃貸人が転借人に対して貸室の返還を請求した時に、転貸人(賃借人)の転借人に対する債務の履行不能により終了します(最判平成9・2・25)。

* 原賃貸借の解除方法
原賃貸借の解除に当っては、原賃貸人は、賃借人(転貸人)に対して催告をすれば足り、転借人に催告をする必要はありません(最判昭和49・5・30)。

② 原賃貸借が合意解除により終了した場合(転借人の保護あり)
特段の事情(転貸借が終了しても信義則に反しない事情等)がない限り、原賃貸人は転借人に対して、合意解除の効果を主張することができません。

・したがって、原賃貸借契約が合意解除によって終了しても、転貸借契約は当然には終了しません(最判昭和62・3・24)。

③ 原賃貸借が「期間満了」又は「解約申入れ」により終了した場合(転借人の保護あり)
原賃貸人から転借人に対し、「原賃貸借契約が終了した旨の通知」をしなければ、原賃貸借の終了を転借人に対抗することができません。

・原賃貸人から転借人へ通知がなされたときは、転貸借契約はその通知後6か月を経過した時にする終了します(借地借家法34条2項)。

い 原賃貸人・賃借人間の契約が「定期借家契約」である場合の転貸借契約
原賃貸人・賃借人間の契約が「定期借家契約」であるときに、それを基本として転貸借契約を締結する場合は、その転貸借を「普通借家契約」とすることも「定期借家契約」とすることも可能です。

① 転貸借を普通借家契約として契約する場合

(ⅰ) 転貸借が、原賃貸人の承諾のないものであった場合
原賃貸人が、賃貸借契約を解除し原賃貸借契約が終了すると、転借人の立場は、不法占拠者と同様になりますので、原賃貸人は転借人に明渡しを請求することができます。

(ⅱ) 転貸借が、原賃貸人の承諾を得たものであった場合
建物の賃貸借が、「期間の満了」又は「解約の申入れ」により終了した場合は、転貸借の基礎となっている原賃貸借契約が終了しているので、転借人は、原賃貸人に対抗しえなくなります。

・ただし、下記の手続をとらないと転借人に対抗することができません。

* 転借人の保護の手続
定期借家契約が期間満了又は解約の申入れにより終了するときは、建物の原賃貸人は、建物の賃借人に対しその旨の通知をしなければ、その終了を建物の転借人に対抗することができません。

・上記の通知をしたときは、転貸借契約は、その通知がなされた日から後6か月を経過することによって終了します(借地借家法34条)。

② 転貸借を定期借家契約とする場合

(ⅰ) 転貸借が、原賃貸人の承諾のないものであった場合
原賃貸借契約が終了すると、転借人の立場は、不法占拠者と同様になりますので、原賃貸人は転借人に明渡しを請求することができます。

(ⅱ) 原賃貸人の承諾ある転貸借:賃借人(転貸人)と転借人の「転貸借に関する契約内容」
転貸借契約の期間を、基本となる原定期借家契約の期間満了までとする「定期借家契約」とするのが合理的です。

(ⅲ) 原賃貸人の承諾ある転貸借:原賃貸人と賃借人の「転貸借に関する契約内容」
原賃貸人は賃借人に対して、「転貸借契約は、原定期借家契約の内容によることを条件として転貸借を承諾する」という約定をしておくことが望ましいです。

(ⅳ) 転貸借契約の内容

a 契約の当事者
貸主:「賃借人(転貸人)」と借主:「転借人」です。

b 賃借人(転貸人)から転借人への説明・通知等
転貸借契約を締結する場合は、賃借人(転貸人)は転借人に対し、予め、「本件建物の転貸借は、契約の更新がなく、期間満了により終了すること」 について記載した書面を交付してその旨の説明をしなければなりません(借地借家法38条2項、3項準用)。

・また、契約期間が1年以上である場合は、期間満了1年前から6か月までの間に、期間満了により転貸借契約が終了する旨の通知をしなければ、その終了を転借人に対抗できません(借地借家法38条4項準用)。

(オ)借賃増減請求権
借地借家法第32条を参照のこと

ウ 定期建物賃貸借
定期建物賃貸借とは、契約の更新がなく、契約が終了する賃貸借のことです。

(ア) 契約方法
書面に限ります。

* ① 契約に先だっての書面通知(契約期間を問わず必要)
賃貸人は賃借人に対し、契約書とは別に、契約締結に先立って「① 契約更新がなく、② 期間の満了により終了する」ことを記載した書面を賃借人に交付して説明することが必要です。

・説明をしなかったときは、「契約の更新がないこととする旨の定め」は、無効となります。

② 契約期間が1年以上である場合は、書面による契約終了通知が必要
賃貸人は賃借人に対し、期間満了の1年前から6か月前までの間(以下、「通知期間」という。)に、期間の満了により賃貸借が終了する旨の通知をしなければ、その終了を賃借人に対抗することができません。

・賃貸人が通知期間の経過後に、賃借人にその旨の通知をした場合は、その通知の日から6か月を経過した後に、契約は終了します。

(イ) 更新の可否
期間満了により終了し、更新はできません。

(ウ) 存続期間
定期建物賃貸借に、契約期間の制限はありません。

・従って、1年未満の契約も有効です。

* ただし、普通借家契約では、1年未満の契約は「期間の定めのない契約」とみなされます。

(エ) 期間を1年未満とする賃貸借の書面通知

① 契約に先立っての書面通知は必要
賃貸人は賃借人に対し、契約書とは別に、契約締結に先立って「① 契約更新がなく、② 期間の満了により終了する」ことを記載した書面を賃借人に交付して説明することは必要です。

② 契約終了の書面通知は不要
契約期間が1年未満の場合は、期間が短期なので、契約終了通知を発しなくても、賃借人が契約期間終了を失念するおそれが小さいので、通知は不要とされています。

(オ) 中途解約の可否

① 存続期間の定めがある賃貸借の場合でも、当事者(賃貸人・賃借人)が期間内に解約する権利を留保しているときは、解約申入れにより終了する賃貸借となり(民法618条)、賃貸人・賃借人が解約申入れ後、下記の期間を経過することにより賃貸借は終了します。

(ⅰ) 賃貸人からの解約申入れの場合
解約申入れ後6か月を経過することにより、賃貸借は終了します(借地借家法27条1項)。

・ただし、賃貸人は、この場合も正当事由が必要です。

(ⅱ) 賃借人からの解約申入れの場合
解約申入れ後3か月を経過することにより、賃貸借は終了します(民法617条1項)。

② 床面積200㎡未満の居住用建物で、転勤・療養等の止むを得ない事情により、生活の本拠として使用することが困難となった場合、賃借人は、特約がなくても中途解約ができます。

エ 取壊し予定の建物の賃貸借

(ア) 取壊し予定の建物の賃貸借とは
一定期間経過した後に、建物を取り壊すことが明らかな場合には、建物を取り壊すべき事由を記載した書面により、建物を取り壊すこととなる時に、賃貸借が終了する旨を定めることができることとしました。

(イ) 取壊し予定の建物の賃借権の設定
具体的な法令又は契約に基づいて、一定期間が経過すると建物を取り壊すこととなる事由が記載された書面(建物賃貸借契約書)により、建物が取り壊されるべき時に賃貸借が終了する旨の特約を定めて契約することになります。

オ 一時使用目的の建物賃貸借(借地借家法40条)

(ア) 一時使用目的の建物賃貸借とは
一時使用目的の賃貸借は、あくまでも一時使用目的のために建物を賃貸借するのであるから、更新を前提とした賃貸借(いわゆる普通借家権)とは異なります。

(イ) 契約締結とその後の問題

あ 契約締結と内容
契約締結に際しては、定期建物賃貸借契約のような、「① 説明義務の履行、② 書面による契約」は不要です。契約の更新はありません。

い 問題点
更新されない一時使用目的の契約であるかどうかの立証をしなければならないなどの問題が生じるおそれがあるので、定期建物賃貸借契約を利用した方がよいと思います。

カ 建物賃貸借契約の契約期間について

(ア) 普通建物賃貸借契約
普通建物賃貸借契約においては、契約期間の最短は1年と定められており、これより短い期間を定めた場合は、期間の定めがない契約とみなされます。従って、普通建物賃貸借契約においては、たとえば契約書に契約期間を6か月と定めても効力が認められず、そのような契約は、期間の定めのないものとされます。また、普通建物賃貸借契約においては、最長期間の制限はなく、20年を超える契約期間を定めても有効です。

(イ) 定期建物賃貸借契約
定期建物賃貸借契約においては、契約期間の短期及び長期のいずれについても、制限はありません。従って、定期建物賃貸借契約においては、たとえば契約期間を1か月と定めても有効であり、また、20年を超える契約期間を定めても有効です。


(4) 賃借人の失火により延焼した場合の賃貸人の責任等

ア 賃借人の火災保険
「① 家財の火災保険」+「② 借家人賠償責任補償特約(賃借物件の賃貸人への賠償)」+「③ 類焼補償責任特約」+「④ 個人賠償責任特約(他人の怪我等に対する責任)」

上記保険の意味は、下記のとおりである。

(ア) 家財の火災保(任意加入)
火災で建物と共に家財が焼失、損壊してしまった場合や火災時の消火活動による水漏れで被害を被った場合、また天災、例えば地震や落雷、台風、暴風雨などで家財が被害を被ってしまった場合に、それを補償する保険です。

(イ) 借家人賠償責任特約(オプション)
自分が賃貸している部屋や家で失火した場合の法律上の賠償責任補填のため、家財保険の特約として付されるものです。

・つまり、この保険は、「① 失火責任・② 債務不履行責任」に対応するための保険です。

* ① 失火責任
火災で類焼させた場合には、失火責任法(失火法)の規定により、故意又は重過失の場合を除いて、火元となった人は賠償責任を問われません。

・なお、故意・過失により他人に迷惑を掛けた場合(不法行為)には、民法709条に基づき損害賠償義務が発生します。

② 債務不履行(賃借物の返還不能)
賃借人が失火により、借りている部屋や家を燃やしてしまった場合、賃貸人に対し、その物件を返還することはできません。このことは、民法415条の債務不履行に問題になります。

(ウ) 類焼補償責任特約(オプション:1億円までの保険がある)
類焼損害補償特約とは、保険証券記載の建物から発生した火災、破裂又は爆発の事故によって近隣の住宅や家財に類焼による損害が生じた場合に支払われます。

あ 支払限度額
類焼した建物や家財の損害の額で、その建物や家財の再調達価額から他の保険契約で支払われる保険金を差し引いた額を限度として支払われます。

い 事例
Aさんのご近所の下記3軒の「Bさん,Cさん,Dさんの住宅」は全て築20年で再調達価額は2,000万円です。例えば、某保険会社の火災保険に類焼損害補償特約付で加入しているAさん宅から火事が発生し、その飛び火により、B~Dさんの住宅が全焼しました。 この場合Aさんの類焼損害補償特約からは、下記の様な支払がなされます。

・つまり、類焼の被害に遭った近隣の方がその家の再調達価額で、ご自身で火災保険に加入していた場合は、その人の火災保険からの支払が優先され、類焼損害補償特約からの支払はありません。

・類焼損害補償特約からの支払があるのは、 類焼の被害に遭った近隣の方が火災保険に未加入であった場合は損害額、その人の火災保険からの支払が再調達価額に満たない場合はその差額が支払われます。

※ 保険期間を通じて1億円が限度(保険期間が1年を超える場合は、1年ごとに1億円が限度)

(エ) 個人賠償責任特約(オプション)
日常生活の中で、他人(第三者)に対して怪我をさせたり、他人の物を壊してしまったりした場合に、法律上の損害賠償義務に対応するための特約です。

(事例)

① 漏水
マンションで、断水の際に、蛇口を開きそのまま閉め忘れたため、断水が復旧した折、漏水が発生し、下の階の住人の家具が濡れて損害を与えてしまった。

② ベランダから物が落下

・ベランダから物が落下し、道路に停車中の自動車を破損させてしまった。

・ベランダの植木鉢が落ちて、通行人に怪我を負わせてしまった。

③ 自転車で走行中

・自転車に乗って、停車中の車にぶつかり、車をキズつけてしまった。

・自転車に乗って、歩いている人にぶつかり、怪我をさせてしまった。

④ 自分の子が遊んでいるとき
公園で、友達と遊んでいるときに、木の枝で友達に怪我をさせてしまった。

⑤ デパートで買物に出かけているとき
ハンドバッグが陳列棚に当たり、商品を落とし、壊してしまった。

⑥ 飼い犬が
家族以外の人に噛みついて、怪我をさせてしまった。

⑦ ホームパーティーで
友達を招いたホームパーティーで、食事が原因で、食中毒を起こしてしまった。

⑧ 洗濯機のホースが外れ
マンション・アパートのような集合住宅で、洗濯機のホースが外れて、下の階が水浸しになった。

(オ) 失火責任の重過失(重大な過失)の有無

あ 失火責任法の重過失を否定されて、失火責任(不法行為責任)を問われなかった事例(判例)

 工場の煙突から飛散した火の粉による火災。

 桟が古くなって倒れやすくなったふすまが、石油ストーブの上に倒れて火災になった例。

 屋根工事をしていた職人が、煙草を火の付いたまま投げ捨てて起こった火災。

 火を消すために消火用の砂を取りに行った際,ガソリン缶を蹴倒して惹起した火事。

 浴槽の排水口の栓が不完全であったため、水がなくなったが、それを確認せずガスを点火し、空焚き状態から発生した火災。

 ベッドからずり落ちた布団に、ガスストーブの火が点火して発生した火災。

い 重過失が肯定され、失火責任(不法行為責)を負うことになった事例

 セルロイドの玩具の販売店員が、セルロイド製品が存在する火気厳禁の場所で、吸いかけの煙草を草盆上に放置し、そこへセルロイド製品が落下し、火災になった例(名古屋高裁金沢支部昭和31年10月26日判決)。

 火鉢で炭火をおこすため、電話機消毒用のメチルアルコールを使用し、火鉢の火気を確認せず、アルコールを火鉢に注ぎ、火災になった例(東京地裁昭和30年2月5日判決) 。

 電熱器(ニクロム線の露出しているもの)を布団に入れ、こたつとして使用し火災が発生した例(東京地裁昭和37年12月18日判決)。

 藁が散乱している倉庫内で煙草を吸い、吸い殻を捨てたため、後になって火災が発生した例。

 強風、異常乾燥で火災警報発令中に建築中の建物の屋根に張ってある杉皮の上で煙草を吸い、そこに吸い殻を捨てたために火災が発生した例(名古屋地裁昭42・8・9判決)。

 電力会社が、引下配線が垂れ下がっているのを現認したにもかかわらず、これを放置したため、強風のため電線が切れ、家屋の火災が発生した例(大阪高裁昭44・11・27判決)。

 石炭ストーブの残火のある灰を、ダンボール箱に投棄したため発生した火災につき、灰を投棄した者に重過失がある(札幌地裁昭和51年9月30日判決)。

 電気こんろを点火したまま就寝したところ、ベットからずり落ちた毛布が電気こんろにたれ下がり、毛布に引火し火災になった例(札幌地裁昭和53年8月22日判決)。

 主婦が、台所のガスこんろにてんぷら油の入った鍋をかけ、中火程度にして台所を離れたため、過熱されたてんぷら油に引火し、火災が発生した例(東京地裁昭和57年3月29日判決)。

 周囲に建物が建ち、多量のかんな屑が集積放置されている庭において、火災注意報等が発令されているような状況下で焚火をした者に重過失がある(京都地裁昭和58年1月28日判決)。

 寝たばこの火災の危険性を十分認識しながら、ほとんど頓着せず、何ら対応策を講じないまま漫然と喫煙を続けて火災を起こした者には重過失がある(東京地方裁判所平成2年10月29日判決)。

 点火中の石油ストーブから75cm離れた場所に、蓋がしていないガソリンの入ったビンを置き、ビンが倒れて火災が発生した例(東京地方裁判所平成4年2月17日判決)。

 マンション解体工事で、アセチレンガス切断機で鉄骨切断中、飛散した溶融塊により発生した火災の例(宇都宮地裁平成5年7月30日判決)。

 石油ストーブに給油する際、石油ストーブの火を消さずに給油したため、石油ストーブの火がこぼれた石油に着火して火災が発生し、隣接の建物等を焼損したことにつき、重過失があったとして不法行為責任が認められた例(東京高裁平成15年8月27日判決)。

 クリーニング店舗内の作業所の床面・配線等に問題があったにもかかわらず、いずれもその修理を怠り、しかもドライ液の漏出の回収を怠っているから、本件火災の発生につき、被告らには失火責任法所定の重過失があった(東京地方裁判所平成19年9月14日判決)。

 被用者が重大な過失により失火したときは、使用者は被用者の選任・監督について重大な過失がなくても民法715条による賠償責任を負う(最判昭42・6・30)。

 公権力の行使に当る公務員の失火による国又は公共団体の損害賠償責任についても、「失火の責任に関する法律」の適用がある (最判昭53・7・17)。

 責任を弁識する能力のない未成年者の行為により火災が発生した場合、重大な過失の有無は、未成年者の監督義務者の監督について考慮され、監督について重大な過失があったときは、その監督義務者はその火災により生じた損害を賠償する責任を負う(最判平7・1・24)。

* 重過失(重大な過失)の意義
注意義務の懈怠が重大である場合のことで、わずかな注意さえすれば、たやすく違法有害な結果を予見できた場合のことです。

・言葉を代えれば、「火災の発生に注意すべきとき、すなわち容易に火災が予見、防止できるのに、非常識な行為をした場合」のことです。

イ 「火災保険」と「失火責任」(持家の場合・賃貸の場合)

(ア) 持家の場合
「失火責任法上の責任」のみ負う。

 失火者に、重大な過失がない場合は、近隣に対する損害賠償責任はない。

(入っておいた方がよい火災保険の種類)

① 建物保険

② 家財保険

③ 類焼補償責任保険

④ 個人賠償責任保険

(イ) 賃貸の場合
失火責任法上の責任」と「 債務不履行責任(原状回復義務の履行ができなくなる)」を負う。

(入っておいた方がよい火災保険の種類)

① 家財の火災保険

② 借家人賠償責任補償特約(賃借物件の賃貸人への賠償)

③ 類焼補償責任特約

④ 個人賠償責任特約(他人の怪我等に対する責任)

ウ 火災保険と失火責任(利得禁止・請求権代位)

(ア) 保険代位とは(保険法25条)
保険代位とは、損害保険での保険事故の発生によって保険金が支払われたとき、保険契約者がもつ権利を保険会社に移転させる制度のことです。

・保険代位には、被保険者の利得を阻止するという目的もあります。

(イ) 火災保険を例にとると、家屋の焼失後に残った物に対しての所有権、また放火の場合、犯人に対しての損害賠償請求権が保険会社に渡るということです。

・商法上、被保険者が権利移転の意思表示がなくても、必然的に権利は移転することになります。

・しかし、残存した物を処理しなければならないなど、代位によって保険会社が不利益になるときは、「代位の権利を行使しなくてもよい」と保険約款では規定されています。

(ウ) 残存物代位・請求権代位
保険代位は、「残存物代位」と「請求権代位」という2つの保険代位があります。

あ 残存物代位とは、保険事故後の残存物に対して被保険者の権利を移転することをいいます。

(あ) 全損
保険対象物が「全損」し、保険会社が保険金を「全額」支払った場合に残存物代位権が発生します。

・これは、残存物によって保険契約者が損害額を上回った利益を得ることを禁止すること、及び、保険会社が損害額を算定することを省略するためです。

(い) 分損
「分損」の場合は、残存物の価値を控除した分の保険金が支払われるので、残存物代位権は発生しません。

い 請求権代位とは、放火事件などに見られる、犯人(第三者)に対する損害賠償請求権の移転のことをいいます。

・これは、損害の被害レベルに関係なく、保険金が支払われた場合は請求権代位が発生します。
(理由)
被保険者が、「保険金」と「損害賠償金」を二重取りしないようにするため、また、第三者にしっかりと賠償請求を行うために請求権代位が行われます。

エ 火災保険の種類によっては、火災事故以外にも「財物の損害」等も補償されます。
火災保険の種類により、火災事故以外にも「財物損害・休業損失・賠償責任」をまとめて補償していますので、保険契約締結に当っては、綿密に打ち合わせの上加入された方がよいです。

オ 火災保険適用の有無

(ア) 保険対象建物の火災についての火災保険適用の有無
下記に該当する損害については火災保険が適用されません。

① 保険契約者・被保険者の故意、重大な過失等による損害

② 保険金を受け取るべき者の故意、重大な過失等による損害

③ 使用者、管理者、親族の故意による損害

* 被保険者等の過失により発生した火災については、火災保険が適用されます。

(イ) 火災による「類焼補償特約」が適用されない場合

① 保険契約者、主契約被保険者又は主契約被保険者と生計を共にす る同居の親族又はこれらの者の法定代理人の故意によって生じた損害

② 類焼補償被保険者の故意、重大な過失等による損害

③ 保険金を受け取るべき者の故意、重大な過失等による損害

* 過失による損害については、類焼補償特約が適用されます。

(ウ)「個人賠償責任特約」が適用されない場合
保険契約者、被保険者又はこれらの者の法定代理人の故意による行為によって発生した損害については、個人賠償責任特約は適用されません。

* これらの者の「重大な過失」又は「過失」による行為によって生じた損害については、個人賠償責任特約が適用されます。

カ 第三者の加害行為による損害に対する火災保険の適用の有無

① 第三者の加害行為によって生じた火災による損害について
第三者の加害行為によって、建物本体及び類焼の損害が発生した場合は、これを填補するため火災保険が適用されます。

② 保険会社が支払った保険金額の債権者代位による移転
火災による損害が生じたことにより、被保険者(被害者)が第三者に対し損害賠償請求権を取得した場合において、保険会社が損害額の全額を保険金として支払った場合は、被保険者(被害者)の第三者に対する損害賠償請求権は保険会社に移転します。

* ただし、損害額の一部が填補されていない(つまり、保険金が支払われていない)場合は、被保険者が取得した損害賠償請求権の額から、保険金が支払われていない額を差し引いた損害賠償請求権が保険会社に移転します。


(5) 当事務所の具体的業務方法
当事務所は、「土地・建物の賃貸借契約の締結」及び「土地・建物の賃貸借契約から生ずる紛争解決」のため、次のような業務を取り扱っています。

ア 各種「土地・建物賃貸借契約書」の作成

イ 未払い賃料の「催告書・内容証明書」等の文案書類の作成代理

ウ 保険会社に対する「催告書・内容証明書」等の文案書類の作成代理

エ 訴訟業務
土地・建物賃貸借に関し、「賃料未払い」・「契約解除による建物明渡」等のトラブルがあった場合や保険会社が火災保険金の出ししぶりをしている場合等は下記のような訴訟業務を行います。

 簡易裁判所における「民事訴訟の代理」・「民事調停の代理」業務(訴額金140万円以内の民事事件)。

 裁判外和解の代理業務(金140万円以内の民事事案)。

 地方裁判所の訴訟(訴額金140万円を超える訴訟)において、本人が出廷する場合は、訴状・準備書面等の作成業務(いわゆる、本人支援訴訟業務)

* なお、訴額の算定方法は、次のとおりです。

(ⅰ) 賃料不払の場合は、未払い金額

(ⅱ) 土地明渡訴訟の場合は、土地の固定資産税評価額×4分の1

(ⅲ) 建物明渡訴訟の場合は、建物の固定資産税評価額×2分の1

(ⅳ) 保険会社が、保険金を出ししぶっている場合は、その保険金請求額