大原美術館展

先日、秋田県立近代美術館に『大原美術館展』を観に行ってきました。倉敷市にある大原美術館にはなかなか行く機会が無く、大原美術館所蔵の作品を観るのは、宮城県美術館に『大原美術館展』を観に行って以来9年振りです。

今回の『大原美術館展』、エル・グレコの「受胎告知」やカンディンスキーの「先端」が貸し出されていなかったのは残念でしたが(特にカンディンスキーは、観られるものと思って行ったものですから・・・)、珠玉の作品、セガンティーニの「アルプスの真昼」を観ることができました。

雲ひとつなく晴れ渡った空の鮮やかな青。広がる草原は、降り注ぐアルプスの陽光に輝いています。
遠くに見える山脈。
白い山羊と白樺の枝。
画面中央で(白樺に身を預けて)休む女性。
観れば観るほど完璧な構図です。
絵に近づいて観ると、草の一葉ごとに絵具が置かれており、一葉一葉独立して光を映していますが、少し離れると、色が混じり合い調和されて、草原全体で眩い光を放ちます。

実は、前回仙台で観た時はあまり魅力を感じなかった「アルプスの真昼」。はたして、9年前はそれほど心を動かされなかった絵に、なぜこうも惹かれるようになったのか。

前回鑑賞した時は、漠然としたものでしたが、あふれる光の裏にどことなく漂う「陰り」を感じたのです。
闇がある、とまでは言い過ぎかもしれませんが、光は潜在的に影の存在を意識させるものです。

この「陰り」に少しずつ心を捉われていった9年間。

調べてみると、彼の画風は、暗い色調の初期から、分割主義という技法(パレット上で色を混ぜ合わせないで、一筆一筆を細かくぬりかさねて描くという技法)を用いた明るい色調の中期、そして象徴主義の代表的な画家となった後期へと変わっていったとのことです。初期の暗い色調の画風には、彼自身の生い立ちが影響しているとする説もあります。

「アルプスの真昼」は中期の作品です―セガンティーニには、同時期に描いた同じタイトルの姉妹作があり、そちらの絵はセガンティーニ美術館(スイス)に所蔵されています―
彼は、暗い影を振り払い、光の画家へとすっかり変化することができたのか。それとも、画風はいかに変化しようと、どこまでも暗い影をまとい続けたのか。
今回の美術展で鑑賞した感想から、私は後者のような気がしてなりません。
もちろん、これは、多分に個人的なセンチメンタリズムに起因するものであり、全くもって確証があるものではないのですが。

 

今朝のお供、
アデル(イギリスのミュージシャン)の『19』。

(佐々木 大輔)