カテゴリー「法律」の記事

消滅時効

今回はちょっとだけ法律のお話を。
現在、民法の改正作業が進められています。現行の民法は、なんと明治29年に制定されたものであり、これまでも時代に合わせて細かい改正は加えられてきましたが、今回の改正は、約120年振りの大改正です。

そんな中、先日、「消滅時効」の改正について新聞に取り上げられていましたので簡単に説明します。

現行の民法では、債権の消滅時効(行使できる権利を一定期間行使しない場合、その権利を消滅させる制度)は原則10年とされていますが、飲食店のツケ払い(1年。民法第174条第4号)や塾の授業料(2年。民法第173条第3号)、診療費(3年。民法第170条第1号)など日常生活に密接に関わる一定の債権については、1年から3年の短期消滅時効が定められています。

新聞によると、法務省が、この短期消滅時効を一律5年に統一する方向で検討しているとのことでした。たしかに、業種ごとに債権の消滅時効が異なっているのは分かりにくいですし、業種間に不平等感が生じるのも無理のない話です。

例として上で挙げた飲食店のツケ払いがらみでもうひとつ。
「出世払いでいいよ」という言葉を聞くことがあるかと思いますが、出世払いとは、法律上は不確定期限(発生時点が不明な期限)と解されています。
つまり、出世すればもちろんのこと、出世しないことが明らかとなった場合も、その時点で支払義務が生じてしまうのです。
通常、「出世しなかったから支払わなくてもいい」という契約はしない(意思ではない)との理由によるもので、大正4年に大審院(最高裁判所の前身)で判断されて以来、現在までその判断は変わっていません。

もちろん、出世払いにも消滅時効はありますが―期限が到来した時(出世した時又は出世の見込みがなくなった時)から時効期間が開始します―

 

今朝のお供、
Led Zeppelin(イギリスのバンド)の『Led Zeppelin Ⅱ』。

(佐々木 大輔)

合理的区別と差別

11月3日は文化の日。日本国憲法が公布された日です。
そこで今回は、少しだけ憲法にまつわるお話を。

結婚していない男女の間に生まれた非嫡出子(婚外子)の遺産相続分を、嫡出子の半分と定めた民法の規定(第900条第4号ただし書前段)が、法の下の平等を保障した憲法第14条第1項に違反するかどうかが争われた事案で、去る9月4日、最高裁判所大法廷は、14人の裁判官が全員一致で、本件規定を「違憲」とする判断を示しました。戦後9件目の違憲判決です。
違憲判決を受けて、国会は、早急な法改正が必要となります。

最高裁は理由中で、「婚姻、家族の在り方に対する国民意識の多様化が大きく進んでいることが指摘されている」ことを挙げ、また、諸外国が非嫡出子の相続格差を撤廃していることに加え、平成8年には法制審議会が、両者の相続分の同等化を内容の一部とする「民法の一部を改正する法律案要綱」を答申するなど、国内でも以前から同等化に向けた議論が起きていたことを指摘しています。

そして、「法律婚という制度自体が定着しているとしても・・・子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されず、子を個人として尊重し、その権利を保障すべきであるという考えが確立されてきているものということができる」とし、「遅くとも(相続が開始した)平成13年7月当時において、憲法14条1項に違反していた」と結論付けました。

ただし、今回の違憲判断が、「既に行われた遺産の分割等の効力にも影響し、いわば解決済みの事案にも効果が及ぶとすることは、著しく法的安定性を害することになる」として、審判や分割協議などで決着した事案には、影響を及ぼさないことも明示しました。

このように最高裁の判断が示され、非嫡出子の法定相続分について一応の決着をみましたが、国民の受け止め方は多種多様のようです。
皆さんはどのように受け止められたでしょうか。

 

今朝のお供、
Eagles(アメリカのバンド)の『Hotel California』。
楽天イーグルス、日本一おめでとうございます!

(佐々木 大輔)

売買3―担保責任

今回も民法の回です。

売買の目的物(権利及び物)について、売主が一定の保証をしていることに基づく特殊な責任を担保責任といいます。この責任は、売主の履行が終わった後に問題となります。
担保責任の中でも、特に物の瑕疵(キズ)に関する責任を瑕疵担保責任といい(民法第570条)、最も重要なものとされています。

なぜ担保責任が認められるのかという法的性質については、法定責任説と契約責任説が対立しています。
法定責任説とは、瑕疵担保責任は特定物(世界に一点物の名画など)についてのみ特別に法律によって認められた責任であるとする説です。つまり、特定物の場合には、たとえ隠れたキズのあるフェルメールの絵『真珠の耳飾りの少女』を引き渡したとしても、キズの無い絵はこの世に存在しないのだから、その絵を現状のまま引き渡せば義務を果たしたことになります。しかし、隠れたキズは無いと思って買った買主の期待を保護するために、特に法律が認めた責任が瑕疵担保責任であると考えます。

しかし、1970年代、この見解に対して、「特定物は瑕疵担保責任、不特定物は債務不履行責任という区別が必要なのか」という有力な批判がなされ、代わって主張されたのが契約責任説です。
契約責任説とは、特定物・不特定物を問わず瑕疵担保責任の適用を認め、瑕疵担保責任の規定がないところには一般原則である債務不履行責任の適用を認めるとする説です。民法起草者の趣旨、現在の国際的潮流にも合致するとして、現在の通説となっています。

それでは裁判所はどのように考えているのでしょうか。
少し難しいのですが、現在のリーディングケースとされる昭和36年の判例は、「不特定物売買の給付物に隠れた瑕疵があった場合、債権者(買主)が一度受領しても以後買主が債務不履行責任を追及できないとはいえず、買主が瑕疵の存在を認識したうえでこれを履行として認容し、瑕疵担保責任を問うなどの事情があれば格別、そうでない場合には買主は受領後も債務不履行責任の追及として、損害賠償請求・解除ができる」と判示し、契約時には知らなかった瑕疵の存在を認識したうえで履行として認容したのでない限り、債務不履行の問題であると判断したのです。
この判例の解釈は難しく、未だに不明確であると批判の強いものですが、この判例以前の大正14年の判例は目的物が「特定」されているか否かを判断基準としていたことからすると、「特定」という基準を重視しない方向に動いていると考えるのが現在の通説的立場のようです。

なお、司法試験予備校などの指導で、未だ法定責任説を通説と扱っていることに対しては、あくまでも「司法試験の論文答案を書きやすいから」という理由にすぎないとして、民法学者から厳しい批判がなされているのも事実です。

 

今朝のお供、
ARCTIC MONKEYS(イギリスのバンド)の『SUCK IT AND SEE』。
友人から勧められた彼らの4枚目のアルバム。荒削りなデビューアルバムと比べるとかなり落ち着いた感がありますが、音楽の幅が広がっており、私は楽しめました。

(佐々木 大輔)