アーカイブ:2011年5月

未遂犯

No.47、No.51、No.55で詐欺罪についてお話をしましたが、今回はそこでも何度か出てきた「未遂」についてお話をします。

未遂犯とは「犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった」場合をいい、刑法43条の本文に規定されています。殺人未遂などはニュースでもよく耳にする言葉ではないでしょうか。
これに対して、人を殺す意思を持って実際に人を殺したときのように、犯罪を最後まで実現した場合を既遂犯(既に遂げた犯罪)といいます。
犯罪を最後までやり遂げた場合にだけ処罰され、途中で失敗した場合には処罰されないというのでは、法益(法によって保護されるべき利益)の保護として十分ではありません。そこで、法益の侵害に失敗した未遂犯も処罰されることがあるのです。刑法44条によれば、未遂はそれを罰する規定がある場合にのみ処罰されますが、主要な犯罪にはたいてい未遂の処罰規定があります。

それでは、どのような場合に未遂犯が成立するのでしょうか。
手掛かりは、43条本文の「犯罪の実行に着手」という文言にあります。
昔の学説には、他人の家に空き巣に入ろうとしてその準備をした者に、窃盗未遂罪の成立を認めるものもあったようです。これは、行為者の罪を犯そうとする意思が外部に明らかとなったときに未遂犯の成立を認めることができるという考えを根拠とする学説でしたが、これでは未遂犯の成立をあまりにも早く認めることになってしまうとの批判があり、現在は採られていません。
現在では、「実行の着手」を客観的な事情をもって判断するのが一般的です。
先に挙げた例のように、空き巣に入る場合では、家の中に入っただけでは窃盗の未遂にはなりませんが(住居侵入罪は成立します)、金目の物はないかとタンスを物色しようとタンスに近づいた時に初めて窃盗の「実行の着手」が認められ、窃盗未遂罪が成立することになります。

「実行の着手」以前の行為にも犯罪を認める例外もありますが(殺人予備罪など)、通常、犯罪として処罰されるかどうかの基準は「実行の着手」の有無に求められるため、「実行の着手」が重要な意味をもつのです。

(佐々木 大輔)