アーカイブ:2011年4月

裁判員制度の合憲性

先日、新聞に興味深い裁判の記事が載っていました。
すっかり定着した感のある裁判員制度に対して、「憲法違反ではないか」との訴えがあり、最高裁判所の大法廷がその合憲性を判断することになったという記事です。

裁判の対象となった事件とは、被告が、海外から覚せい剤を密輸したとして、覚せい剤取締法違反などの罪に問われたというものです。
この事件について、千葉地方裁判所で開かれた第一審の裁判員裁判では、被告に対し、懲役と罰金を科すとの判決が言い渡されました。
そこで被告側は、控訴審の東京高等裁判所に対し、「裁判官ではない裁判員が刑事裁判に関与するのは違憲」であると主張しましたが、「憲法は裁判官以外を裁判所の構成員とすることを禁じていない」として退けられたため、被告側が最高裁判所に上告したのです。
上告審で被告側は、裁判員を市民から抽選で決めることは、「地裁の裁判官は内閣が任命すると定めた憲法に反する」として、公平な裁判を受ける権利を侵害されたと主張しています。

今回、最高裁の裁判官15人全員で審理するため、大法廷に回されたことにより、裁判員制度について初めて最高裁の憲法判断が示されることになると思われます。
私たちにとっても少なからず影響のある裁判です。
審理の結果を待ちましょう。

(佐々木 大輔)

詐欺罪3―無銭飲食

今回は、No.47、No.51に続き、詐欺罪の少し細かいお話をさせていただきます。
まず、詐欺罪の条文(246条)を見てみましょう。
1項:人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
2項:前項の方法により(人を欺いて)財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者は、10年以下の懲役に処する。

1項と2項の一番の違いは、「財物」と「財産上の利益」ですね。財物とは簡単に言うと「形あるもの」、財産上の利益とは「財物以外の財産上の利益一切」を指すとされています。そして、財産上の利益は目に見えないものですから、これを渡したと言えるためには、被害者の「処分する意思」の有無が重要になると考えられています。

では、初めから代金を支払う意思がなく、レストランで食事をした後、「ちょっとトイレに行ってくる」などと店員さんに嘘をついて逃げた場合、詐欺罪が成立するでしょうか?

もちろん、詐欺罪が成立します。
この場合、代金を支払う意思がないにもかかわらず料理の注文をしたこと自体が騙す行為になります。そして店員さんは「当然代金を支払ってくれるもの」と信じて料理を提供したわけですから、騙された状態で料理を提供しています。したがって、財物を対象とした詐欺罪の第1項が適用されます(1項詐欺罪と呼んだりします)。

次に、初めは代金を支払うつもりで料理を注文したものの、精算時に所持金が足りないことに気付き、「友人を見送ってくる」などと嘘をついて店先に出て逃走した場合、詐欺罪が成立するでしょうか?

代金を支払うつもりで料理を注文していますから、店員さんを騙す行為はありません。精算時に支払う意思が無くなった後、嘘をつくことによって店員さんから何か財物を受け取ったわけではありません。なので、1項詐欺罪は成立しません。
それでは、詐欺罪の第2項は成立するでしょうか。
実は、最高裁判所は、このようなケースでは2項詐欺罪も成立しないと判断しています。
店員さんは「友人を見送る」ことを認めただけで、そこに「『代金の支払いを受ける』という財産上の利益を処分する意思」がないため、2項詐欺罪は成立しないというのがその理由です。
なお、財産上の利益は窃盗罪の対象にもならないため、窃盗罪も成立しません(刑事上不可罰となります。)
※詐欺罪や窃盗罪が成立しないとしても、あくまでも刑事責任が問われないだけで、民事上の責任(不当利得、損害賠償など)は生じます。

疲れた頭のひと休めに、P.ニューマン主演の映画『スティング』などはいかがでしょう。R.レッドフォードも若い!
ちなみに、“sting”には、「騙す」という意味もあるんですよ。

 

(佐々木 大輔)