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『バッファロー’66』

私にとって思い出の映画、『バッファロー’66』(ヴィンセント・ギャロ監督・脚本・主演)を紹介します(※ネタバレあり)。
観る度、若さのかさぶたをはがすような気持ちになる映画です。

―刑務所を出たばかりの主人公ビリーは、ニューヨーク州バッファローにある実家に戻るため、両親へ電話をかける。ところが、彼女もいないのに見栄を張って「フィアンセを連れて帰る」と嘘をついてしまったことから、通りすがりの少女レイラを「フィアンセ役」として拉致し、実家へ向かう―

映画冒頭から、エゴイスティックなビリーのダメ人間ぶり、横暴ぶりが全開です。
そして、簡単に逃げ出せそうなシチュエーションの中、なぜか逃げ出すことなく、ビリーと行動を共にするレイラ。

―ビリーはレイラを連れて実家に戻るものの、両親はビリーにまるで関心がない。癇癪持ちの父親とアメフトに夢中の母親に、何とか挨拶を済ませたビリーは、刑務所に入る原因を作った人物スコットへの復讐を果たすため、再びレイラと共に実家を出る―

ビリーの生い立ちを垣間見たレイラは、一緒に行動するうち、ビリーの孤独、純粋さ、優しさを理解し、次第に好意を持つようになります。
それにしても、レイラを演じるクリスティーナ・リッチがとても魅力的。時には恋人、時には母親のように、ビリーのことを優しく包み込みます。彼女のぽっちゃりとした体形は、安息の象徴なのかも。

―「スコットを撃って、俺も死ぬ」。そう決意したビリーは、レイラをモーテルに残し、ひとり拳銃を手に、スコットの経営する劇場へ―

さて、ビリーの復讐劇はどのような結末を迎えるのでしょう。
YES(イギリスのバンド)の曲「Heart of the Sunrise」にのせて、ギャロの才気煥発な復讐シーンは必見。

映画のラスト、ドーナツ屋で交わされる会話は、モノトーン調で淡々と進んできた物語に、一輪の花が咲いたような、幸せな色を差します。決して豪華な花の色ではないけれど。
ホットチョコレートよりも、ハート形のクッキーよりも甘いハッピーエンド。そして、始まりの予感。

ビリーがやっと手にすることができた安らぎ。
でも、この安らぎに身を委ね続けるわけにはいかない。
だけど、もう少しだけこのままいさせてほしい。

私にとって青春の1本であるとともに、モラトリアムが終わったことを残酷なまでにはっきりと突きつける映画でもあります。

 

今朝のお供、
King Crimson(イギリスのバンド)の『クリムゾン・キングの宮殿』。

(佐々木 大輔)

『ローマの休日』

当ブログ、今回で100回目となりました。皆さんに「読んでいますよ」と声をかけていただくことが励みとなり、ここまで続けることができました。本当にありがとうございます。これからもよろしくお願いします。
100回記念ということで、今回は少しだけ思い出話にお付き合いください。

私がまだ学生だった頃の夏休み、大仙市(大曲)に住む祖父母と一緒に、映画『ローマの休日』を観た時のことです。
私の祖父は、大正生まれの無口な人。本当はとても温かい人なのですが、不器用で、ふだんはあまり感情を表に出しません。
そんなクールな祖父が、その日は珍しく、身を乗り出して映画を観ていました。途中、コミカルな場面では大きな声で笑ったり、最後の場面では目を潤ませたり。ふだん見られないような祖父の姿に驚いたものです。

映画を観終えて余韻に浸る中、祖母がある思い出を大切そうに話してくれました。若い頃の話だそうです。
ある休みの日、祖父は祖母に「(一緒に)出かけるぞ」と声をかけます。しかし、無口な祖父らしく、どこに、何をしに行くとも言わないので、祖母は黙ってついて行くしかありません。
大曲から汽車に乗って向かった先は秋田市。ところが、秋田駅についても、やっぱり祖父は何も言いません。また無言で歩き出し、ようやく祖父の足が止まったのは映画館の前。何が上映されるのかもわからず戸惑う祖母でしたが、その時ふたりで観た映画が『ローマの休日』だったのだそうです。

今から60年も昔のこと、大曲から秋田市まで『ローマの休日』を観に行くなんて、私の祖父母は映画に負けないくらい素敵な休日を過ごしていたんですね。
日本男児の見本のような祖父の、びっくりするくらい甘くてロマンチックな思い出です。

祖母のする思い出話を、そばで黙って聞いていた祖父の、照れたような、懐かしむような、柔らかい表情が忘れられません。

先月、最期を迎えた時も、穏やかで優しい顔をしていました。

今度の休日、ローマの青空のように気持ちよく晴れ渡ったら、久しぶりに『ローマの休日』を観てみようかな。

 

今朝のお供、
桑田佳祐の曲「愛しい人へ捧ぐ歌」。

(佐々木 大輔)

『フェイク』

週末、お気に入りの映画、『フェイク』を観ました(本当に最近は、新しい作品よりも馴染みの作品に手が伸びます)。
マフィアの巨大ファミリーにたった一人で潜入し、壊滅に導いたFBI捜査官ジョー・ピストーネ(偽装名ドニー・ブラスコ)の実話に基づく映画です。

マフィアの一員であるレフティに接触する機会を得たドニーは、レフティに見込まれ組織に食い込み、一方のレフティは、人生の黄昏を迎える中、若いドニーに再び出世の夢を託します。
組織内部の抗争が激化する中、レフティとドニーは、“兄弟関係”を超えた絆を深めていきますが、向かう先の結末は、最初から決められていて・・・

落ち目のレフティを演じるのはアル・パチーノ。そのくたびれた哀愁を漂わせる様子は、これが『ゴッド・ファーザー』のマイケルを演じた男と本当に同じ人物かと目を疑うほど。
潜入捜査官としての任務と、レフティに対する愛情の狭間で葛藤するドニーを演じるのはジョニー・デップ。初めから二人の結末を知っている彼の目は、全編通じて悲しみと切なさに満ちています。

両名優が名を連ねた豪華な映画でありながら、あまり認知度が高いとはいえないのが残念なところ。特に、『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズや『チャーリーとチョコレート工場』をきっかけにジョニー・デップのファンになった方には、ぜひ観ていただきたい映画です。

最後に全てを悟ったレフティの表情。潜入捜査を終え、その成功を形ばかりに表彰されるドニーの目。アル・パチーノとジョニー・デップの演技が素晴らしく、二人の間に築かれた親愛の情がどれほどのものであったのか、まっすぐ胸に迫り、熱くなります。

何度観ても、レフティがドニーに残した最後の言葉には、涙が止まりません。

 

今朝のお供、
LED ZEPPELIN(イギリスのバンド)の『LED ZEPPELIN Ⅰ』。
最近は、2ndよりも、この1stの方をよく手に取ります。

(佐々木 大輔)