アーカイブ:2014年4月

リヒャルト・シュトラウス

スタンリー・キューブリック監督の映画『2001年宇宙の旅』のオープニングで勇壮に流れる音楽。作曲者はリヒャルト・シュトラウス。
これは、交響詩『ツァラトゥストラはかく語りき(こう語った)』の第1曲「導入部」であり、映画のために作られた曲ではありませんが、そのはまり具合は観る者に強烈な印象を残します。
―キューブリック監督は、映画『時計じかけのオレンジ』でもベートーヴェンの第九を効果的に使用するなど、その音楽センスには感服せざるを得ません―

そして今年、そのR.シュトラウスは生誕150年のメモリアル・イヤーを迎えます。

映画に使用されたことにより、R.シュトラウスの作品中もっとも有名になった『ツァラトゥストラ』。きっと皆さんも、使用された第1曲「導入部」(1分半くらい)を耳にすれば、「あぁ、この曲か」と思われるはず。そして、その壮大な1分半で十分満足してしまうかもしれません。しかし私は、もう少し我慢して、是非とも続く第2曲「世界の背後を説く者について」も聴いていただきたい。大音響の「導入部」から一転、弦楽器を中心に得も言われぬ美しい旋律が奏でられます。
「導入部」のような、オーディオ・マニアにとって試金石ともいえる大音響にカタルシスを得る愛好家もたくさんいらっしゃるでしょうが、私にとっては、情熱の迸りの後に訪れる物憂げな気怠さと優しさが寄り添う陶酔感こそが、R.シュトラウスを聴く最高の歓びなのです。

そして美しさという点において、オペラ『ばらの騎士』の最後の場面で歌われる三重唱は、20世紀に作曲された最も美しい音楽のひとつではないでしょうか。
クライバー指揮ウィーン国立歌劇場の演奏(映像)に聴く三重唱では、時の流れの無情、過ぎ去りし日への憧憬、若さの輝きが交錯する刹那のきらめきが、クライバーの夢幻的なタクトによって紡がれます―まだ若い(と思っている)私は、同じクライバーの映像でも、79年のバイエルン盤の指揮姿に、より魅力を感じるけれど―

紹介は2曲にとどめるつもりでしたが、R.シュトラウスの美しさについて語るとき、どうしても晩年の作品である『4つの最後の歌』に触れないわけにはいきません。そのオーケストレーションの絢爛さゆえ、俗物と揶揄されることも多かったR.シュトラウスが、晩年に描いた純潔で崇高な愛の調べ。
お気に入りの録音は他にもありますが、ヤノヴィッツが歌い、カラヤンとベルリン・フィルが伴奏を務めた演奏の美しさを超えるものを私は知りません。

ちなみに、映画で使用された『ツァラトゥストラ』も、カラヤン指揮の演奏(1959年録音。ウィーン・フィル)でした。

今朝のお供、
Nine Inch Nails(アメリカのバンド)の『The Downward Spiral』。

(佐々木 大輔)