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オペラは優雅?

年が明けてバタバタとしているうち、あっという間に2月も下旬となってしまい、毎月下旬に更新するはずの当ブログも1月分はお休みしてしまいました。
当ブログを楽しみにしてくださっていた皆さん、申し訳ありませんでした。
遅くなりましたが今年もよろしくお願いいたします。

そんな慌ただしい毎日の締めくくりとして私が楽しみにしているのは、毎晩寝る前に聴くオペラです。
「オペラだなんて優雅ですねえ」と思われた方もいらっしゃると思いますが、最近聴いている作品は、ベルク作曲の『ヴォツェック』やバルトーク作曲の『青ひげ公の城』、R.シュトラウス作曲の『サロメ』など、ここで内容に触れるのは憚(はばか)られるような、優雅とは程遠いものなのです。寝る前に聴いて、よく悪夢にうなされないものだと自分に感心してしまうくらい。

では、なぜオペラばかり聴いているのか。
考えるに、どうやら先日アトリオンで上演されたプッチーニ作曲のオペラ『ラ・ボエーム』を聴きに行けなかったから(聴きに行かなかったから)その反動で、というのが原因のようです。秋田ではオペラの生演奏に触れられる機会はそうそうありませんから。その反動が勢い余って、ロマンティックな『ボエーム』とは対極にある凄惨な?内容のオペラに手が伸びているようです。

先日の『ボエーム』をパスした理由はいくつかあるのですが、ひとつには演奏会形式であったこと。演奏会形式とは、舞台装置などは一切なく、歌手、合唱団そしてオーケストラ――通常のオペラ上演では、オーケストラは、舞台と客席の間に設けられたオーケストラピットの中で演奏します――がステージ上に並び、オペラを「演奏」する形式のことです。せっかくのオペラなので、ちゃんとしたオペラの形として観たかったという私のわがままです。もちろん、せっかくの希少な機会だからこそ演奏会形式でも観に行けばよかったのに、というツッコミは受け付けます。

ちなみに、『ボエーム』は万人にオススメできるオペラです。
夢見る若き芸術家たちの悲恋物語で、全4幕を通じて美しいアリアが散りばめられている贅沢な作品です。
第1幕でさっそく歌われる名アリア「冷たい手を」(テノール)と「私の名はミミ」(ソプラノ)。
特に「冷たい手を」が大好きな私。力強くどこまでも伸びやかなパヴァロッティの歌声で聴くのが一番ですが、ステファノの甘い歌声も捨てがたい・・・。

あ~、書いているうち頭の中に『ボエーム』の旋律が溢れてきました。
四の五の言わず、やっぱり行けばよかったな。

今朝のお供、
アバド指揮ミラノ・スカラ座他によるヴェルディ作曲のオペラ『シモン・ボッカネグラ』。
通勤時はちょっと渋いこちらを。

                                   (佐々木 大輔)

レナード・バーンスタイン

今年はレナード・バーンスタイン(1918~1990)生誕100周年の年。
ということは、ライバルといわれたカラヤンの生誕110周年の年でもあるわけですが、今回はバーンスタインについて。

マエストロ(巨匠、芸術の大家)と呼ばれることを好まなかったバーンスタインのことを、弟子もオーケストラの団員もみな愛情をこめてレニーの愛称で呼びます。例えばカラヤンとバーンスタインの両者に師事した小澤征爾氏は、今でも回想する際カラヤンのことはカラヤン先生と呼び、バーンスタインのことはレニーと呼んでいます。

私にとってレニーはカラヤンと並ぶ大指揮者という存在ですが、クラシック音楽に馴染みのない方々にとっては何といってもミュージカル『ウェストサイド物語』の作曲家としてのイメージが強いのではないでしょうか。
クラシック音楽の歴史の浅いアメリカから登場し、破竹の勢いでスターに上り詰めた若武者というのが、クラシック音楽界における初期の評価であったかと思います。

アメリカ時代のレニーの演奏で最も印象に残っているのは、1959年にニューヨーク・フィルを指揮したショスタコーヴィチ作曲の交響曲第5番。ショスタコーヴィチ自身もレニーの演奏に絶大な信頼を寄せていたといわれています。圧倒的なスピードで駆け抜ける最終楽章の演奏は、他の指揮者では満足できなくなってしまうほどの劇薬。後年、同じオーケストラを振って再録音したものもありますが、私はこの59年盤の方を長らく愛聴しています。

70年代に入ると、活動の拠点をアメリカからヨーロッパへと移し、特にウィーン・フィルとは相思相愛の関係を築いて多くの録音を残しました。
ウィーン・フィルとの録音の中で最も思い入れがあるのは、10代のころからCDで親しんできたベートーヴェン作曲の交響曲第9番。つまり第九です。ライヴ録音ということもあり、レニーの指揮台を踏みしめる足音や唸り声も生々しく収録されています。
人間愛を高らかに歌いあげた合唱が終わり、オーケストラが火花を散らして一気呵成に終結へと突き進む熱量は、レニーの燃えたぎるヒューマニズムそのもの。人類が、国籍も肌の色も目の色も一切関係なく手を取り抱き合うことは、夢想に終わるものではなく努力によって実現可能なものなのだということを、聴く度に教えられる演奏です。

最後に、レニーの作品についてエピソードをひとつ紹介します。
先日N響の演奏会をテレビで観ていたところ、レニー作曲の『セレナード』が演奏されていました。ヴァイオリン独奏は誰だろうかとよく見ると五嶋龍氏。同じヴァイオリニストである五嶋みどり氏の弟さんです。
とくれば、詳しい方はもうお気付きかもしれません。そう、“タングルウッドの奇跡”です。
当時14歳だったお姉さんのみどり氏が、タングルウッド音楽祭でレニー指揮ボストン交響楽団と『セレナード』を共演した時のこと、演奏の途中でヴァイオリンの弦が切れるというハプニングに見舞われたみどり氏は、音楽を途切れさせるわけにはいかないと即座にコンサートマスターから楽器を借りて演奏を続けたものの、再び弦が切れ、今度は副コンサートマスターから楽器を借りて最後まで演奏したという伝説の演奏会です。終演後、レニーは何度も涙をぬぐいながらみどり氏を抱きしめ、翌日のニューヨーク・タイムズ紙でも「14歳の少女、タングルウッドをヴァイオリン3挺で征服」という見出しが一面トップを飾りました。
テレビで聴いた龍氏の演奏は、お姉さんのエピソードに怯むことなく気負うことなく、丁寧に演奏された実直なものでした。
生誕100周年。天国のレニーにとって素敵なプレゼントになったことでしょう。

今朝のお供、
バーンスタイン指揮ベルリン・フィルの演奏でマーラー作曲交響曲第9番。
1979年、カラヤンが音楽監督を務めるベルリン・フィルに、レニーが生涯でただ一度だけ客演した時のライヴ録音。
カラヤンの生前は発売が禁止されていたという曰くつきの一枚。

                                   (佐々木 大輔)

ロックの辞めどき

最近、ロックミュージシャンの引退のニュースが立て続けに報道されました。
ポール・サイモン(ex.サイモン&ガーファンクル)はハイドパークでのライヴを最後に引退することを表明しましたし、エルトン・ジョンも世界ツアーからの引退を表明しました。デビューから45年を数えるエアロスミスも、現在最後の世界ツアー(フェアウェル・ツアー)を行っており、ツアー終了後、バンドを解散させることを示唆しています。
また、ロックではありませんが、日本でも昨年、安室奈美恵の引退が大きく報じられました。

バンドもミュージシャンも知力体力が続く限り続けることができる職業です。スポーツ選手よりもはるかに寿命の長い職業です。
ところが、以前のミュージシャンといえば、不摂生な生活を送り、アルコールやドラッグによる死亡、自殺等により、若くしてキャリアを終える人が多くいました。27歳で死亡するミュージシャンが多いことも有名で、ジミ・ヘンドリクス、ジム・モリスン(ドアーズ)、カート・コバーン(ニルヴァーナ)、最近ではエイミー・ワインハウスらが27歳で亡くなっています。さらにバンドの場合は、主要メンバーの死亡のほか、メンバー間の仲違いという最もありふれた理由も加わるため、より短命に終わりやすくなっています――解散しない場合でも全盛期は短い――。

そもそも、ロックは年を取ってまで続けるものではなく、若者特有の文化であるという考えは今も根強くありますし、ファンの側でも成長とともにいつしかロックから心が離れてしまうということもあります。
ミュージシャンとしてはクリエイティヴに新しい音楽にも挑戦したいけれど、保守的なファンはそれを求めていないというギャップが生じることもあるでしょうし、自身より下のあるいは上の世代にも魅力のある音楽を生み出せなければ、そのうち人気はジリ貧になってしまいます。

最近相次いで引退を表明したミュージシャンは、全盛期は過ぎたかもしれませんが、幅広い世代に愛され、今でも毎晩何万人という観客を動員できるような「現役」の人たち。とはいえ、ベテランのミュージシャンは今や60代を超えており、一般社会では定年を迎え、第2、第3の人生を歩んでいる年齢です。毎晩大音量の中で何万人もの観客を相手に演奏し続けることの負担は計り知れませんし、辞める潮時を考えるのも無理ありません。

でも、解散してもすぐに再結成するバンドや、「辞める、辞める」と言いながらいつまでも活動を続けるミュージシャンも結構いますからね。あまり深刻にとらえないほうがいいのかも。
やはり一度でもスポットライトの中で歓声を浴びてしまうと、そこから得られる興奮を忘れることができないのでしょう。だったらドラッグなんかに興奮を求めたりしないで、本業で興奮を得ることに集中してくれたら、早逝してファンを悲しませることもないのに・・・なんてことをロックに求めるのはお門違い?

今朝のお供、
The Rolling Stonesの『It’s Only Rock ’n Roll』。
たかがロックンロール。されど、メンバーの死、不仲、ドラッグ等数々の問題を乗り越え、半世紀以上一度も解散することなく続けることの凄さ。

                                   (佐々木 大輔)