先日、ハーゲン弦楽四重奏団(ハーゲンSQ)の演奏会を聴きに、久しぶりにアトリオン音楽ホールに行ってきました。
リニューアルされてからは初めてのアトリオン。
中高生時代はアマチュアオーケストラの団員として舞台にもよく乗ったアトリオンのステージですが、改めて客席から眺めると記憶よりもコンパクト。
自然とミルハス大ホールと比べてしまいますが(本来比べるべきは中ホールですが、まだ中ホールで演奏会を聴いたことがないものですから)、室内楽専用ホールとしてはちょうどよいサイズといえるでしょう。
室内楽の中でもとりわけ弦楽四重奏曲というのは、かなり地味でとっつきにくいと言われ、クラシックファンの中でも(歌曲と並んで)敬遠されがちなジャンルですが、私はわりと好きで聴いています。
今回の演奏者であるハーゲンSQは、世界最高峰の弦楽四重奏団のひとつに数えられ、私もファンで20代の頃からCDを通して親しんできました。
そのハーゲンSQを秋田で聴くことができるというのであれば、行かない理由はありません。
私が聴き始めた頃は、まだ若手の演奏家というイメージでしたが、今ではすっかりベテラン。
40年超のキャリアの中で、第2ヴァイオリン奏者のみ交代しているものの、他の3人はオリジナルメンバーのまま。
そもそもハーゲン家の兄弟姉妹で結成した四重奏団ですから息もぴったり。
さらにヴィオラのヴェロニカ、チェロのクレメンスは、ソリストとしても世界中で活躍しています。
演奏会のプログラムは、前半がベートーヴェンの弦楽四重奏曲第11番「セリオーソ」とモーツァルトの弦楽四重奏曲第14番、後半はピアニストに藤田真央さんを迎えたシューマンのピアノ五重奏曲という私の好きな3曲がそろい踏み。
その名のとおり厳粛で緊張感に満ちたベートーヴェン。
それに続くモーツァルト、第1楽章冒頭から大胆なメリハリをつけた表情のなんとロマンティックなこと。
私は当のハーゲンSQが90年代を中心に録音した弦楽四重奏曲全集を愛聴しておりますが、演奏会での演奏は録音のそれとはまったく異なるもの。
後半のシューマンでは、藤田さんの素晴らしいピアノに呼応するようにハーゲンSQも熱を帯びていきますが、響きにはどこまでも品がありました。
親子以上の年齢差がある若きピアニストを見つめるハーゲンSQの眼差しも温かい。
生で聴く演奏は良いものです。
特にコロナ禍以降、音楽は専らCDやレコードで聴くばかりでしたので(聴く手段が配信ではなくフィジカルなところがなんともアナログな私)、演奏者の息遣い、ホールに響く柔らかい音色、どれもが耳への最高のご褒美。
耳が贅沢を覚えすぎて困っちゃうな。
ええい、こうなったらどこまでも肥えてしまえばいいのだ。
これでいいのだ。
これがいいのだ。
今朝のお供、
The Rolling Stonesの『Hackney Diamonds』。
ミック・ジャガーは80歳になっても踊ってる。名作!
(司法書士 佐々木 大輔)
エボシ岩が遠くに見える、砂まじりの茅ヶ崎に生まれ、ボウリング場でカッコつけていた桑田佳祐青年が、サザンオールスターズというバンドのヴォーカリストとしてデビューしたのは、45年前の1978(昭和53)年6月25日。
デビュー当時、出演した歌番組で司会者から「あなたたちは何者ですか」と問われた際、「目立ちたがり屋の芸人で~す」と答えるなど、ハチャメチャでアナーキーな雰囲気をまとっていた桑田佳祐ですが、本当は見た目以上にとびきりShyな人。
彼女が髪を指で分けただけでしびれてしまい、誰よりも好きな人になって見つめあえることを夢見て、彼氏になりたきゃどういうのと自らに問いかけるものの、結局、見つめ合うと素直にお喋り出来ない。
本当の気持ちは女呼んでもん・・・じゃなくて(おっと危ない)、四六時中も好きと言って欲しいのに。
何を歌っているのか聞き取れないとの批判や放送禁止などの仕打ちも軽やかなるままにかわし続け、時代と並走すること45年。
私が最も尊敬するのは、桑田佳祐の現役であり続ける姿勢です。この45年間、サザン名義、KUWATA BAND名義、ソロ名義など、名義は様々なれど、毎年、新曲を出し続け、その時々の流行りのミュージシャンたちとヒットチャート争いを繰り広げてきました。
これに対しては、大衆に迎合、売れ線狙いという批判もありますが、そもそも人々の耳に届かなければメッセージも伝わらない。それゆえ桑田佳祐は売れることにこだわるのだと思います。
さて、サザンオールスターズが45年続いた理由はどこにあるのか。
“切なさの日本基準”(吉本ばなな)、“世界一のメロディメーカー”(渋谷陽一)、“歩く電通”(小林武史)と評されるように、切なさを湛えたメロディと独創的な歌詞こそが人気の理由と思いますが、「良い曲であれば売れる(売れ続ける)」というほど単純ではないのが音楽業界です。
真っ先に挙げられる理由は、振り幅の大きさ。
軽薄ともいえるノリのデビュー曲「勝手にシンドバッド」と、その翌年に発表された珠玉のバラード曲「いとしのエリー」のように、同じ人物が作ったとは思えない両極端な楽曲を発表し続けることは、趣味嗜好の異なる人々を全方位的にターゲットにできますし、既存のファンに対しても良い意味で予想を裏切り続けることにより飽きさせないことができます。
才能に裏打ちされた経営戦略が功を奏しているのでしょう。
もうひとつ挙げるとすれば、歌の主人公がもてないこと。
恋をしていたのは去年の夏の頃の話で、今はひとりで渚に立って寄せる波に吐息だけの日々。ふられた“つもり”で生きてゆくなんてやせ我慢してみても、駄目になりそうなほど悲しみが消えないだなんて、なんだかまるで寅さんみたい。
最後に、サザンの音楽は世界で受け入れられるのか、という永遠の議論について私なりの思いを記して終わりにします。
ファンのひいき目としては国境を超えると言いたいところですが、私はサザンの音楽が世界市場で売れるとは思いません。吉本ばななが評するように、良くも悪くもサザンの切なさは「日本」基準なのです。
しかし私は、サザンの音楽に触れるたび、この切なさに胸を痛めることができる日本人で本当に良かったなと、その幸せを強く思うのです。
1978年生まれの私と同い年のサザンオールスターズ。
彼らの音楽が私の人生に彩を添えてくれました。
それはこれからもずっと。
※ 太字は全てサザンオールスターズの歌詞からの引用です。
今朝のお供、
サザンオールスターズの曲「愛はスローにちょっとずつ」。
40周年の時に発表された曲。美しいメロディにのせて深い死生観が歌われており、いよいよサザンも円熟期を迎えたと思わせられる名曲です。
(司法書士 佐々木 大輔)
音楽, 秋田
No. 231
先月今月と、続けて「あきた芸術劇場ミルハス」に行く機会がありました。
先月は青山学院大学陸上競技部原晋監督の講演会と司法書士制度150周年記念イベント(こちらには司法書士として運営に参加)。
そして今月は、念願かなってようやく演奏会を大ホールで聴くことができました。
読売日本交響楽団の演奏会で、モーツァルトの歌劇「フィガロの結婚」序曲に始まり、メインがドヴォルザークの交響曲第9番「新世界から」という(昭和の香り漂う?)王道のプログラム。
しかし、当夜の真のメインプログラムは、前半に演奏されたガーシュウィンのピアノ協奏曲でしょう。
ソロを務めるピアニストは角野隼斗さん。
東大出身という異色のピアニストで、YouTubeでも“かてぃん”の名で活動し、その名を広く知られたピアニストです。
と書いてはみたものの、恥ずかしながら私は角野さんのことを最近まで存じ上げず、2021年のショパン国際ピアノコンクールを追ったドキュメンタリー番組を観て初めて知りました(角野さんはセミファイナリスト)。
会場には角野さんお目当てと思われる若い方々もたくさんおられたようで、クラシックの演奏会独特のしかつめらしい雰囲気はあまり感じられませんでした。
さて、肝心の演奏ですが、これが本当に素晴らしかった!
生粋のクラシックピアニストではあのような演奏にはならなかったんじゃないかなあ。
オーケストラも大奮闘。この手の曲は日本人にとって最も苦手とするところと思いますが、指揮者、ピアニスト、そしてオーケストラが一丸となって成功させようとする気合い、難曲に挑戦するスリル、音楽を奏でることへの純粋な喜びが伝わってきました。
予習と称して手持ちのCDを聴き込んで臨んだ演奏でしたが、第1楽章終結部は生で聴くとこんなにも迫力があるのかと興奮しましたし(思わず拍手しちゃった方々の気持ちもわからないではない)、第2楽章では高層階からニューヨークの夜景を眺めているかのような美しさにうっとり。第3楽章で角野さんはカデンツァに同じガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」を盛り込むなど遊び心も満載。
「なんて素敵な曲なんだろう」と曲そのものの良さを存分に感じることができた演奏でした。
あれ、そういえばオーケストラのチェロパートに遠藤真理さんもいらっしゃいましたよね?
これらの演奏を見事にまとめ上げた29歳の若き指揮者松本宗利音さんについても触れないわけにはいきません。松本さんは珍しい名前の方ですが、なんと往年の名指揮者シューリヒトの奥さんが名付け親なんだとか。
指揮姿は若々しく、これからの成長を期待したい部分もありましたが、指揮者とオーケストラが互いに敬意を払い良好な関係を築いている様子が演奏からもよくわかりました。
その名に相応しい指揮者として飛躍されることを楽しみにしています。
最後に。ところどころ目をつぶり視覚からの情報を閉ざして演奏を聴いてみたところ(寝ていたわけではありませんよ。生音とオーディオで聴く音との比較です)、我が家のオーディオによる再生音も(もちろん生音には及ばないものの)なかなか悪くないな、と思えたこともまた収穫でした。
今朝のお供、
PINK FLOYD(イギリスのバンド)の『The Piper at the Gates of Dawn(夜明けの口笛吹き)』。
(司法書士 佐々木 大輔)