10 債権譲渡登記・動産譲渡登記

(当事務所の取扱業務)

① 登記申請の代理
登記申請手続事務の相談

② 登記添付書類の作成、取寄せ

③ 「債権譲渡・動産譲渡」の契約書等各種文案書類の作成代理
契約書等各種文案書類作成の相談

④ 登記に関する審査請求手続(不服申立手続)についての代理

(目次)

(1) 「動産」・「債権担保」融資の意義

(2) 「動産」・「債権担保」融資の登記

(3) 債権譲渡登記

① 債権譲渡担保の概要
債権譲渡の意義
指名債権とその譲渡性
指図債権
指名債権譲渡の目的
債権譲渡の方法

② 債権譲渡登記制度
債権譲渡登記の意義
債権譲渡登記制度の概要
債権譲渡登記を取り扱う登記所
債権譲渡担保の登記

(4) 動産譲渡登記

① 動産譲渡登記制度の趣旨

② 動産譲渡登記制度の概要

③ 動産譲渡登記を取り扱う登記所

④ 動産の特定方法について

⑤ 動産譲渡担保の登記

⑥ その他の諸事項

(5) 集合債権譲渡担保と登記

① 集合債権譲渡担保の概要

② 譲渡担保の対象として適格性を有する債権

③ 集合債権の特定方法

④ 譲渡禁止特約が付された債権譲渡の場合の留意点

⑤ 債権譲渡担保の対抗要件を具備する方法

⑥ 債権譲渡登記による対抗要件の意義及び効果

⑦ 集合債権譲渡担保の効力

⑧ 集合債権譲渡担保の保全

⑨ 担保権の実行方法

⑩ 債権譲渡担保と他の権利の優劣

⑪ 集合債権譲渡担保と法的倒産手続(破産手続・民事再生手続・会社更生手続)の関係

⑫ 集合債権譲渡担保の登記

(6) 集合動産譲渡担保と登記

① 集合動産譲渡担保の概要

② 集合動産譲渡担保の対抗要件

③ 集合動産譲渡担保と他の権利との優劣

④ 集合動産譲渡担保と倒産手続の関係

⑤ 集合動産譲渡担保における実務上の留意事項

⑥ 集合動産譲渡担保の実行・保全

⑦ 集合動産譲渡担保の登記

(1) 「動産」・「債権担保」融資の意義
動産・債権担保融資(Asset Based Lending:通称「ABL」と いう。)とは、「企業が保有する在庫品や機械設備等の動産」及び「貸付金・売掛金等の債権」を担保として、資金調達をする金融手法のことです。

* 「動産・債権担保」の融資手法がとりいれられた理由
従来、中小企業が資金調達をする場合、「① 不動産を担保にすること」や「② 会社代表者の個人保証」を条件とされていました。

・したがって、「不動産担保融資に傾きすぎたり、個人責任が重すぎる」などの様々な問題が指摘されていました。

・そこで、そのような融資手法から脱却するために採り入れられたのが、「動産」や「債権」を担保にして融資する方法です。


(2) 「動産」・「債権担保」融資の登記
動産・債権担保融資において利用される担保権は「債権譲渡担保」と「動産譲渡担保」になりますが、この譲渡担保を第三者に対抗(主張)するためには対抗要件を備える必要があります。

・金融機関と借り手の会社等の間で、「動産・債権担保融資に関する契約」が締結された後、融資が実行される前に、下記の対抗要件を具備することになります。

① 担保の対象とされた売掛金・請負代金等の債権については
(ⅰ)債権譲渡登記や(ⅱ)債権譲渡通知

② 在庫等の動産については
(ⅰ)動産譲渡登記や(ⅱ)占有改定による引渡


(3) 債権譲渡登記

ア 債権譲渡担保の概要

(ア) 債権譲渡の意義
債権譲渡とは、「売掛金や貸付金又は請負代金等の独立の価値ある債権」を一個の財産として、債務者から第三者へ譲渡(移転)することです。
(具体的説明)
売主が、買主から売掛金を回収できないこともあるでしょう。そのようなとき、 買主が信用のおける第三者に債権を持っていることが判明したとします。その債権を売掛金の支払いに充当する手段として、債権譲渡という方法があります。

・債権譲渡の利点としては、買主にお金が入ることなく、直接、売主が第三者から債権を回収できるということです。

(イ) 指名債権とその譲渡性

あ 債権の種類
債権には、「① 指名債権」と「② 指図債権」があります。

い 指名債権
証券を用いることなく債権者が特定している債権で、下記のような債権がこれに属します。指名債権も原則として、他へ譲渡することができます。

① 売買契約による売買代金

② 金銭消費貸借契約による貸付金

③ 請負契約による請負代金

④ 賃貸借契約による賃料債権

* 譲渡が禁止されている債権

① 債権の性質上、譲渡が禁止されている例

(ⅰ) 扶養請求権

(ⅱ) 災害補償を受ける権利

② 契約内容に譲渡禁止特約がある場合

(ウ) 指図債権
証券に債権者が表示されている債権で、手形・小切手等がその主要なものです。 証券化されている債権は、債権発生の当初から他へ譲渡することが予定されています。

(エ) 指名債権譲渡の目的
指名債権譲渡の主な目的は、下記のようなものです。

① 債権譲渡担保の目的
債務者が、債務の担保として自己の債権を債権者に譲渡すること。

② 売買の目的
当該債権を換価すること。

③ 代物弁済の目的
債務者が、金銭債務の弁済に代えて、自己の有する金銭債権を債権者に譲渡すること。

④ 債権取立依頼の目的
債権を取り立ててもらうため、債権回収会社に当該債権を譲渡すること。

(オ) 債権譲渡の方法

あ 債権譲渡の方法
債権譲渡は、当該債権の債権者である譲渡人と譲受人との間の当該債権を譲渡する旨の口頭又は書面による契約(債権譲渡契約)によって成立します。

い 対抗要件

① 債務者に対する「通知・承諾」と「確定日付」
譲渡人が、これを債務者に通知し又は債務者がこれを承諾することが、債務者・その他の第三者(第三者に対しては確定日付が必要)に対する対抗要件となります。

② 債権譲渡登記

(ⅰ) 債権譲渡登記ファイルに記録されることにより、債務者以外の第三者に対する対抗要件が具備されます。

(ⅱ) 譲渡人又は譲受人から債務者に対し、債権譲渡登記事項証明書を送付することにより、債務者に対する対抗要件が具備されます。

イ 債権譲渡登記制度

(ア) 債権譲渡登記の意義
債権者から第三者へ譲渡された権利を保全する登記が、債権譲渡登記です。

(イ) 債権譲渡登記制度の概要

 債権譲渡登記ファイルに記録(登記)することにより、当該債権の債務者以外の第三者に対し、民法467条の規定による確定日付のある通知があったものとみなされ、第三者対抗要件が具備されます。

(あ) 譲渡人は、法人のみに限定されています。

(い) 譲渡に係る債権は指名債権であって、金銭の支払を目的とするものに限定されています(ただし、債務者が特定されていない将来発生する債権も登記することができます)。

(う) 債権譲渡登記がされた場合において、譲渡人若しくは譲受人が当該債権の債務者に登記事項証明書を交付して通知をし又は債務者が承諾をしたときは、債務者についても確定日付ある証書による通知があったものとみなされ、対抗要件が具備されます。

(ウ) 債権譲渡登記を取り扱う登記所
債権譲渡登記を取り扱う登記所(債権譲渡登記所)として、「東京法務局」のみが全国の債権譲渡登記に関する事務を取り扱っています。

(エ) 債権譲渡担保の登記
債権譲渡登記ファイルに記録される「登記事項」・「登録免許税」は、下記のとおりです。

あ 登記事項

① 債権譲渡の当事者の表示
譲渡人の「商号又は名称」、「本店又は主たる事務所」
譲受人の「氏名及び住所」、(法人の場合は、「商号又は名称」、「本店又は主たる事務所」)

② 登記番号

③ 登記年月日

④ 登記原因及び日付

⑤ 譲渡に係る債権の総額

⑥ 譲渡債権を特定するために必要な事項

⑦ 債務者等

⑧ 債権の発生原因等

⑨ 貸付債権、売掛債権その他の債権の種別

⑩ 債権の発生年月日

⑪ 債権額

い 登録免許税
1件につき、金7500円(租税特別措置法84条の4第1項1号)

(オ) その他の諸事項については、「下記 集合債権譲渡担保」に記載しています。


(4) 動産譲渡登記

ア 動産譲渡登記制度の趣旨
民法の原則では、動産は引渡しが公示方法(対抗要件)ですが、外観的には誰が動産を占有しているのか分かりにくいのが通例です。

・そこで、動産を活用した企業の資金調達の円滑化を図るため、2004年に「債権譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律の一部を改正する法律」が成立し、翌2005年から動産譲渡登記制度の運用が始まりました。この制度により、動産譲渡登記が可能となり、動産についての担保方法が確立されました(民法の原則を拡大した制度です。)

イ 動産譲渡登記制度の概要

(ア) 動産譲渡登記ファイルに記録(登記)することにより、動産の譲渡について、引渡し(民法第178条)があったものとみなされ、第三者対抗要件が具備されます。

(イ) 動産譲渡登記の対象となる動産の譲渡人は、法人に限定されます。

(ウ) 譲渡の目的(担保目的譲渡か又は真正譲渡か)に限定はありません。

(エ) 「個別動産」、「集合動産」のいずれの譲渡も登記することができます。

(オ) 代理人(倉庫業者等)が現に動産を占有する場合も、登記することができます。

ウ 動産譲渡登記を取り扱う登記所
動産譲渡登記を取り扱う登記所(動産譲渡登記所)として、東京法務局(民事行政部動産登記課)が指定され、全国の動産譲渡登記に関する事務を取り扱っています。

エ 動産の特定方法について
譲渡の対象たる動産を特定し公示するための情報として、「① 必須の記録事項:譲渡に係る動産を特定するために必要な事項」、「② 有益事項:当事者が任意に記録することができる事項」があります。

(ア) 「譲渡に係る動産を特定するために必要な事項」の記録方法

① 動産の特質によって特定する方法

② 動産の保管場所の所在地によって特定する方法

(イ) 詳細

あ 在庫商品など、日々内容が流動する集合動産の場合には、通常、上記(ア)②の方法により登記することとなります。

・この場合には、当該保管場所にある同種類の動産の全てが譲渡にかかる動産となり、当該場所に搬入された時点で、動産譲渡登記の効力が及ぶことになります。

い 対象となる動産の種類により、上記(ア)① ②のいずれの方法によっても特定することが可能な場合は、その特定方法は、譲渡人及び譲受人において決めてもらうことになります。

う 動産の種類については、その種類ごとに通番を設ける必要があります。

オ 動産譲渡担保の登記
動産譲渡登記ファイルに記録される「登記事項」・「登録免許税」は、下記のとおりです。

(ア) 登記事項

① 動産譲渡の当事者の表示

・譲渡人の「商号又は名称」、「本店又は主たる事務所」

・譲受人の「氏名及び住所」、(法人の場合は、「商号又は名称」、「本店又は主たる事務所」)

② 登記原因及び日付

③ 動産の特定のための事項

④ 動産譲渡登記の存続期間

⑤ 登記番号

⑥ 登記の年月日

⑦ 登記の目的

⑧ 譲渡に係る動産の譲渡人及び譲受人の数

⑨ 譲渡に係る動産の名称、その他の当該動産を特定するために有益なものとして磁気ディスクに記録された事項

⑩ 登記の時刻

(イ) 登録免許税
1件につき、金7500円(租税特別措置法84の4第1項1号)

カ その他の諸事項については、「下記 集合動産譲渡担保」に記載しています。


(5) 集合債権譲渡担保と登記

ア 集合債権譲渡担保の概要
集合債権譲渡担保とは、譲渡担保権者が担保設定者に対して有する債権を保全するた めの制度で、下記の事項が特徴です。

① 担保設定者が、取引活動の過程で取得する「現在債権、将来債権」を譲渡担保の対象とすること。

② 担保設定者が、正常な経営をしている状態では、担保設定者に目的債権(担保設 定者が債務者に対して有する債権)を回収する権限を与え、かつ、担保設定者がその回収金を使用することを許諾する特約が譲渡担保権者との間で締結されていること。

③ 譲渡担保の対象となる目的債権は、設定者の事業が継続する限り一定の金額が継続的に発生するものであること。

イ 譲渡担保の対象として適格性を有する債権

(ア) 譲渡担保として適格性を有する債権は、下記の基準によります。

① 債権の金額の管理が徹底されていること

② 発生した債権額が、相殺などの事情により減額されるおそれが少ないこと

③ 目的債権の債務者(担保設定者の債務者:第三債務者といいます。)の信用力が高いなどにより、支払いの確実性があること

(イ) 担保設定者が保有する債権の例

① 営業債権
「売掛金債権、請負代金債権、貸付金債権、賃料債権、リース料債権、クレジ ット代金債権、診療報酬代金債権」などです。

② 営業外債権
「火災保険金、生命保険金、法人税・消費税の還付金」などです。

ウ 集合債権の特定方法
既発生債権と将来発生債権の譲渡対象債権の特定の程度には、相違があります。

(ア) 既発生債権の特定の程度

① 当事者(譲渡目的債権の債権者及び債務者)

② 債権発生原因である契約又は事件

③ 債権の発生日時

④ 債権の金額

(イ) 将来発生債権の特定の程度
譲渡の目的となるべき債権が、債務者の有する他の債権から識別できる程度に特定されていればよい。

エ 譲渡禁止特約が付された債権譲渡の場合の留意点

(ア) 債権の譲渡性
債権は、その性質上許されないときを除いて、原則として自由に譲渡することができます(民法466条1項)。
(譲渡禁止の特約)
債権譲渡性の例外として、「譲渡対象の債権の当事者(債権者及び債務者)の特約」で譲渡を禁ずることができます(民法466条2項)。

・この特約に反して行われた債権の譲渡は、例外を除いて効力が生じません。

(イ) 譲渡禁止特約付債権に対する担保設定方法
譲渡禁止特約が付されている債権であっても、下記の方法により、有効に担保設定をすることができます。

① 譲渡禁止の特約を付した第三債務者(目的債権の債務者)の承諾を得た場合

② 譲渡禁止特約が付されていることについて、譲受人が善意・無重過失であった場合

オ 債権譲渡担保の対抗要件を具備する方法

(ア) 債権譲渡担保の対抗要件には、下記の二つがあります。

① 第三者(債権者《:譲渡人》)、債務者《:譲渡人の債務者》及び譲受人以外の者)に対する対抗要件

② 債務者(譲渡人の債務者)に対する対抗要件

(イ) 対抗要件を具備する方法
対抗要件には、「民法上の対抗要件」「譲渡特例法上の対抗要件」がありますが、集合債権譲渡担保権の対抗要件を具備するには、一般的に譲渡特例法上の債権譲渡登記をとる方法がとられています。

① 民法上の対抗要件

(ⅰ) 第三者対抗要件
確定日付ある証書(内容証明書等)によって

a 担保設定者が、第三債務者に譲渡の通知をする。
あるいは

b 第三債務者から、譲渡の承諾を得る。

(ⅱ) 債務者対抗要件

a 担保設定者が、第三債務者に譲渡の通知をする。

b 第三債務者から、譲渡の承諾を得る。

② 譲渡特例法上の対抗要件
譲渡特例法とは、「動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律」のことです。

・譲渡特例法における第三者対抗要件具備の方法は、次のとおりです。

(ⅰ) 第三者対抗要件
目的債権の譲渡について、債権譲渡登記をする(譲渡特例法4条1項 )。

(ⅱ) 債務者対抗要件

a 当該債権の譲渡につき債権譲渡登記がなされたことを、譲渡人又は譲受人が第三債務者に対して、登記事項証明書を交付して通知する。

b 第三債務者の承諾を得る。

カ 債権譲渡登記による対抗要件の意義及び効果

(ア) 第三者対抗要件の意義
同一債権について、両立しない法的地位を有するものが複数いる場合に、その優劣を決定する要件のことです。

(イ) 債務者対抗要件の意義
譲渡された債権の債務者(第三債務者)が二重払いの危険を回避するため、対抗要件を具備していない譲受人からの請求を拒否することができるというものです。

キ 集合債権譲渡担保の効力
譲渡担保の設定者は、通常の場合、被担保債権について「期限の利益を喪失するまでの間」あるいは「譲渡担保設定契約で定めた事由が発生するまでの間」は、対象となる債権を取り立てて自社の資金として使用することができます。

* 担保設定者(債務者)が、期限の利益喪失等によって取立権限を失った場合
担保設定者は、対象となる債権を取り立てることができません。

・担保設定者が、取立権限がないにもかかわらず対象となる債権を取り立てて回収した場合は、その回収金を担保権者に返還しなければなりません。

ク 集合債権譲渡担保の保全
担保設定者は自らの意思で譲渡担保を設定するものなので、譲渡担保権者に対し担保価値維持義務を負います。

・担保設定者が担保価値維持義務違反をした場合は、譲渡担保権者は損害額について、「不法行為に基づく賠償請求権」又は「不当利得」として利益返還請求権を取得します。

ケ 担保権の実行方法

(ア) 債権譲渡担保権をどのような方法で実行するかは譲渡担保契約によることになり ますが、債権譲渡を実行するためには、債務者に支払停止事由が発生した等のときは、まず、第三債務者に対して下記の手続(対抗要件具備)をとる必要があります。

① 債権譲渡登記をしていない場合
債権譲渡人から第三債務者に対し債権譲渡通知(確定日付ある証書)を発送するか又は第三債務者の承諾(確定日付ある証書)を得る。

② 債権譲渡登記をしている場合
譲渡人若しくは譲受人が、第三債務者に対し「債権譲渡登記の登記事項証明書」を交付して通知するか又は第三債務者の承諾(確定日付ある証書)を得る。

* この手続により、譲受人は第三債務者に対して対抗できることになり、第三債務者はこの通知の受領後は、それ以降に譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対 して対抗できなくなります。

(イ) 譲渡通知後の譲受人の対策

① 第三債務者と連絡をとり、「支払いの意思や支払いの範囲」、「支払えない場合は、その理由を問い合わせる」などの行動をとる。

② 支払いを拒む相手方に対しては、取立訴訟を提起する。

コ 債権譲渡担保と他の権利の優劣

(ア) 一般債権者の差押との関係

① 一般債権者からの債権差押と債権譲渡担保の優劣(最判昭58・10・4)
同一の債権に対して、譲渡担保の設定と債権差押命令及び転付命令を得た者との優劣は、「譲渡担保について、確定日付ある通知が第三債務者に到達した日時 (又は確定日付ある第三債務者の承諾の日時)」と「債権差押命令が第三債務者に送達された日時」との先後によって決せられます。

② 一般債権者からの債権差押と債権譲渡担保の同時送達があった場合、同一の債権に対する譲渡担保権者と一般債権の差押権者との優劣は、「(ⅰ)債権譲渡登記をしていない場合:確定日付ある債権譲渡通知が第三債務者に到達した日時、若しくは確定日付ある第三債務者の承諾の日時・(ⅱ)債権譲渡登記をしている場合:登記がなされた日時」と債権差押命令が送達された日時との先後によって決せられます。

(イ) 債権譲渡と債権譲渡担保の優劣

① 先後関係による優劣

(ⅰ) 民法上の対抗要件が具備されている場合
譲渡人相互間の優劣は、「a 確定日付ある通知が第三債務者に到達した日時」又は「b 確定日付ある証書による第三債務者の承諾の日時」の先後で決します。

(ⅱ) 譲渡特例法上の債権譲渡登記がされている場合
譲渡人相互間の優劣は、「a 債権譲渡登記がされた日時」、「b 確定日付ある通知が第三債務者に到達した日時」又は「確定日付ある証書による第三債務者の承諾の日時」の先後によって決します。

② 同時送達の場合の優劣
各譲受人は、第三債務者に対して譲受債権全額の弁済を請求することができます。

③ 対抗要件具備の先後が不明の場合の優劣

(ⅰ) 第三債務者が債権者不確知による供託をした場合は、各譲受人は債権額に応じた供託金額を按分した額の供託金還付請求権を分割取得します。

(ⅱ) 供託をしない場合は、各譲受人は債権額に応じて按分した額の権利を取得することになります。

(ウ) 相殺と債権譲渡担保の優劣
第三債務者が、債権譲渡通知を受ける前に譲渡人に対して反対債権を有している場 合には、第三債務者の相殺権は、譲渡担保権者に優先します。

(エ) 国税の債権差押と債権譲渡担保の優劣
債権譲渡担保の対抗要件の日時と国税の法定納期限の日時の先後により優劣を決します。

サ 集合債権譲渡担保と法的倒産手続(破産手続・民事再生手続・会社更生手続)の関係

(ア) 破産手続との関係
集合債権譲渡担保は、破産手続との関係では、破産手続開始決定前までに債権譲渡担保につき対抗要件が具備され、かつ否認されない限り別除権として扱われますま すので、第三債務者から直接取り立てて被担保債権に充当することができます(破産 法65条1項)。
(別除権の定義)
破産財団(破産宣告を受けた債務者の財産)に属する特定の財産から、一般の債権者とは別に弁済を受ける権利のことをいいます。

・破産宣告前に担保設定をした担保権者について認められます。
(集合債権譲渡担保が、破産手続上、別除権となる理由)
破産手続開始前に、「動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関す る法律(以下、「譲渡特例法」という。)」 4条1項に基づく債権譲渡登記を経た譲渡担保権者は、第三者対抗要件を具備していることになり、破産管財人に対して、債権の譲受けを主張できますので、破産手続開始後に譲渡特例法4条2項に基づく債務者対抗要件を具備の上、譲渡担保権を実行し対象債権を取り立てて、回収した金員を被担保権に充当することができます。

・第三債務者の立場
第三債務者は、譲渡担保権者から通知を受ける前であれば、破産管財人に対象債権を弁済しても免責されます(譲渡特例法4条3項)。

(イ) 民事再生手続との関係
債権譲渡担保については何らの規定もおかれていませんが、他の法的倒産手続での取扱いと同様に、担保としての実質に重きをおいて別除権として取り扱われています。

(ウ) 会社更生手続との関係
債権譲渡担保は、更生担保債権として扱われ、担保権の実行は禁止され、更生計画の定めるところにより弁済を受けることになります。つまり、債権者は取立権を行使できなくなります。

・なお、「更生担保権にかかる質権の目的である金銭債権の債務者(第三債務者)は 当該金銭債権の全額に相当する金銭を供託して、その債務を免れることができます (会社更生法113条)。

シ 集合債権譲渡担保の登記
債権譲渡登記ファイルに記録される登記事項・登録免許税は、下記のとおりです。

(ア) 登記事項

① 債権譲渡の当事者の表示
譲渡人の「商号又は名称」、「本店又は主たる事務所」
譲受人の「氏名及び住所」、(法人の場合は、「商号又は名称」、「本店又は主たる事務所」)

② 登記番号

③ 登記年月日

④ 登記原因及び日付

⑤ 譲渡に係る債権の総額

⑥ 譲渡債権を特定するために必要な事項

⑦ 債務者等

⑧ 債権の発生原因等

⑨ 貸付債権、売掛債権その他の債権の種別

⑩ 債権の発生年月日

⑪ 債権額

(イ) 登録免許税
1件につき、金7500円(租税特別措置法84条の4第1項1号)。


(6) 集合動産譲渡担保と登記

ア 集合動産譲渡担保の概要
集合物動産譲渡担保とは、「集合物の種類、所在場所、量的範囲」を指定する方法により目的物を特定した上で、その集合物に対して設定する譲渡担保のことです。

・この集合物は、一個の動産として取り扱っています。

(ア) 集合物は、下記のように分類されます。

① 内容が変動しないもの(例:工場、ホテル等の動産全部)

② 内容が変動するもの(流動集合動産ともいいます。例:在庫品、加工材料)

(イ) 集合物として成立するためには、下記の要件を満たすことが必要です。
「① 種類 ② 所在場所 ③ 量的範囲を指定する」などの方法により、目的物 の範囲が特定していること。

イ 集合動産譲渡担保の対抗要件

(ア) 集合動産譲渡担保の対抗要件を具備する方法

① 一般の動産譲渡担保の場合
動産の引渡し(民法178条)です。

② 集合動産譲渡担保の常態の場合(目的物を設定者が占有している場合)は、占有改定(民 法183条)です。

* 占有改定とは
動産担保の設定者が担保権者に対し、以後、担保権者のために占有する旨の意思表示をすることです。

③ 集合動産の担保設定
動産譲渡登記をとることにより担保されます。

・「譲渡特例法」により、法人が担保設定したものであれば、動産譲渡登記を経由することにより当該動産の引渡があったものとみなされ、流動集合動産の譲渡担保についても対抗要件が具備されることになります。

(イ) 対抗力の取得時期

① 流動集合動産
占有改定によって対抗要件が具備されるので、占有改定時が対抗力の取得時期となります。

② 個別動産
判例は、占有改定によって集合物に譲渡担保が設定される結果、同時に個別動産も譲渡担保の目的物になるとする考え方(二重帰属性)をとっていますが、対抗力の取得時期については明確にしていません。

ウ 集合動産譲渡担保と他の権利との優劣

(ア) 二重の譲渡担保との関係
二つの担保がいずれも集合物動産譲渡担保であるなら、集合物としての対抗要件たる占有改定の先後で優劣が決まります。

* 判例

① 動産譲渡担保を同一目的物に重複して設定できるか?
「後順位譲渡担保権の設定は、一応承認される」が、「後順位担保権者による私的実行は許されない」(最判平18・7・20)。

・占有改定による引渡を受けたにとどまる者に即時取得を認めることはできないから、占有改定による引渡を受けたということでは、後順位担保権者は、完全な譲渡担保を取得したということはできない。

② 占有改定以外の占有取得
動産の占有改定による即時取得は否定されているが、「現実の引渡、指図に よる占有移転」により占有を取得し即時取得の要件を満たした場合は、後順位譲渡担保権者は、譲渡担保権を主張できます。

(イ) 所有権留保との関係
所有権留保売買の場合、売主に対し代金が完済されるまで、目的物の所有権は売主に留保されますので、売買代金が完済されない限り、譲渡担保権者は売主に対して譲渡担保権の取得を主張できません。

(ウ) リース契約との関係
動産のリース契約締結後、譲渡担保権者が借主との間で譲渡担保契約を締結したとしても、動産の所有権はリース契約の貸主にあるので、譲渡担保権者は譲渡担保権 を主張できません。

(エ) 先取特権との関係(判例)
集合物動産譲渡担保が設定されて民法上の引渡(現実の引渡、指図による占有移転)が行われた場合には、動産売買先取特権者(売主)は、その集合動産譲渡担保の対象となった動産について動産売買先取特権を行使することができません。

(オ) 差押債権者との関係

① 一般債権者との関係
集合動産譲渡担保と設定者の一般債権者による動産差押えの優劣は、集合動産譲渡担保の対抗力を備えた時点(民法上の引渡があった時又は動産譲渡登記を した時)と一般債権者による動産の差押えがなされた時点(執行官による動産執行があった時)の先後によって決定されるとされています。

② 一般債権者による動産の差押えよりも先に集合動産譲渡担保の対抗力を備えた場合の譲渡担保権者の対策

(ⅰ) 第三者異議の訴えの提起
一般債権者が、譲渡担保の目的物に差押えをしてきた場合は、譲渡担保権者は、第三者異議の訴えを提起することができます(最判昭56・12・ 17)。

・その訴えは、動産差押えの執行開始後から執行が終了するまでの間に提起する必要があります。

(ⅱ) 第三者異議の訴えを提起できなかった場合
一般債権者が依頼した執行官による動産差押えがなされた場合は、競り売りの方法で売却され、その代金は配当により一般債権者が受領します。

・本来、この配当金受領権は差押債権者の権利ではないので、譲渡担保権者は、その差押債権者に対して「不当利得による金銭の返還」あるいは「 不法行為に基づく損害賠償請求」をすることができます。

③ 集合動産譲渡担保の対抗力よりも先に、一般債権者による動産の差押えが先行した場合
動産譲渡担保権に基づく権利の行使をすることはできません。

・譲渡担保権者は、一般債権者の立場で裁判により債務名義を得るなどして配当してもらうことになります。

(カ) 国税滞納処分との関係
集合動産譲渡担保の設定時期(第三者対抗要件を具備した時期)と国税等の法定納期限の先後により優劣が決められます。

(キ) その他「工場抵当・工場財団抵当との関係」などが問題となります。

エ 集合動産譲渡担保と倒産手続の関係

(ア) 破産との関係
債務者が破産開始決定を受けた場合の取扱いは、下記のとおりです。

① 通説
「担保権者の権利は別除権となり、担保動産の取戻権は認められない」としています。

② 判例(高裁判例)
手形の譲渡担保について、取戻権を認めていません。

(イ) 民事再生との関係
法律の規定はありませんが、通説・判例の流れから「別除権として取り扱い、取戻権はない」と解しています。

(ウ) 会社更生法との関係
取戻権を認めず、更生担保権として扱われています(最判昭41・4・ 28)。

* 更生担保権の意義
担保権の実行は禁止され、更生計画の定めるところにより弁済を受けることになります。

オ 集合動産譲渡担保における実務上の留意事項

(ア) 集合物譲渡担保の適正な評価をしておくことが大事です。

(イ) 集合物譲渡担保の管理
管理のために、「譲渡担保物権である旨の公示、現場の立入調査、保険の加入、目的物の変動があった場合の補充」が大事です。

カ 集合物譲渡担保権の実行・保全

(ア) 集合物譲渡担保権の実行
集合物譲渡担保権の実行は、担保目的で取得していた目的物の所有権を実質的かつ確定的に取得し、目的物を適正に評価若しくは処分して被担保債権に充当します。

・目的物に対する所有権の取得は、債務者に対して担保権を実行した旨の通知によっ て生じるとされているので、債務不履行が発生したときは、内容証明郵便で実行通知を出すことが大切です。

・目的物の価格が、被担保債権額を上回るときは、その差額を債務者に返還しなければなりません。
(差額の清算方法)

① 帰属清算による方法
目的物の所有権を取得し、目的物の価格を適正に評価して差額を計算する方法

② 処分清算による方法
目的物を第三者に処分して、処分した代金で清算する方法

(イ) 集合物譲渡担保権の保全
債務者が、危機的状況若しくはそれに近い状況に陥った場合は、債務者が目的物の処分又は隠匿するのを防ぐため、「直ちに仮処分の申立をし、目的物を執行官保管とし、保管場所を債務者の倉庫から他の倉庫に移転し、債務者から目的物の現実 の占有を剥奪してしまう」ことも保全方法の一つです。

キ 集合動産譲渡担保の登記
動産譲渡登記ファイルに記録される登記事項・登録免許税は、下記のとおりです。

(ア) 登記事項

① 動産譲渡の当事者の表示
譲渡人の「商号又は名称」、「本店又は主たる事務所」
譲受人の「氏名及び住所」、(法人の場合は、「商号又は名称」、「本店又は主たる事務所」)

② 登記原因及び日付

③ 動産の特定のための事項

④ 動産譲渡登記の存続期間

⑤ 登記番号

⑥ 登記の年月日

⑦ 登記の目的

⑧ 譲渡に係る動産の譲渡人及び譲受人の数

⑨ 譲渡に係る動産の名称、その他の当該動産を特定するために有益なものをとして磁気デスクに記録された事項

⑩ 登記の時刻

(イ) 登録免許税
1件につき、金7500円(租税特別措置法84の4第1項1号)