7 農業法人(設立等)

(当事務所の取扱業務)

① 会社設立・法人設立に関する文案書類の作成代理
議事録等各種文案書類の作成代理
各種文案書類作成の相談

② 「株式会社・持分会社・農地所有適格法人等法人」の定款作成・定款認証手続の代理

③ 登記申請の代理(設立・その他の登記)
登記申請手続事務の相談

(目次)

(1) 農業法人の定義等

(2) 「農地所有適格法人」と「その他の農業法人」の意義

* 平成28年4月1日施行

(3) 農地所有適格法人の定義・要件等

(4) 農地所有適格法人(株式会社・農事組合法人)の設立手続等

(5) 農地組合法人

(1) 農業法人の定義等

ア 農業法人の定義
農業法人とは、法人形態によって農業を営む法人の総称です。

イ 農業法人の種類
農業法人は、制度面から下記の2つに分けることができます。

① 会社法人  (会社形態をとるもの:株式会社、持分会社)

② 農事組合法人(組合形態をとるもの)


(2) 「農地所有適格法人」と「その他の農業法人」の意義
農業法人の中で、農地を所有して利用できる法人を農地所有適格法人といいます。

* 農地所有適格法人以外の法人は、農地を所有することはできませんが、一定の条件の下で、貸借(賃貸借又は使用貸借)をして農地を利用することができます


(3) 農地所有適格法人の定義・要件等

ア 農地所有適格法人の定義
「農地所有適格法人」とは、農地法で規定された呼び名で、農地や採草放牧地を利用(所有)して農業経営を行うことのできる法人のことをいいます。

イ 農地所有適格法人になり得る要件
農地所有適格法人になるためには、農地法に規定された下記「の要件を満たすことが必要です。

① 呼称要件

② 法人形態要件

③ 事業要件

④ 構成員要件・議決権要件

⑤ 役員要件

ウ 要件の詳細
要件の詳細は、下記のとおりです。

① 呼称要件
呼称は、「農地所有適格法人」です(平成28年4月1日以降)。

* なお、平成28年3月31日までは、「農業生産法人」の呼称でした。

② 法人形態要件

(ⅰ) 営利会社

a 株式会社(株式の全部につき譲渡制限のあるもの)

b 持分会社(① 合名会社 ② 合資会社 ③ 合同会社)

* なお、これらの会社は、営利を目的とする会社であり、会社法に規定されています。

(ⅱ) 組合
農事組合法人(出資組合に限る)

③ 事業要件

(ⅰ) 農業を営むこと(必須要件)

(ⅱ) 農業に関連する事業を営むこと(下記のとおり)

a 農畜産物(購入を含む)を原料とした製造、加工

b 農畜産物(購入を含む)の貯蔵、運搬、販売

c 農業生産に必要な農業生産用資材の製造

d 農作業の受託

e 農業と併せて行う林業を営むこと

f 農事組合法人において、農業と併せて行う共同利用施設の設置又は農作業の共同化に関する事業

g 農山漁村滞在型余暇活動に利用されることを目的とする施設の設置及び運営又は役務の提供

h 農地中間管理機構又は農地利用集積円滑化団体を通じて人に農地を貸し付けている個人

(ⅲ) 農業に附帯する事業
所有する機械・施設の余剰稼働力の利用(運搬、造園、研修等)

(ⅳ) 農業関連事業に含まれない事業(その他の事業)
上記以外の事業(建設・観光・不動産 等)

(注意点)

ただし、下記の点に留意する必要があります。

(ⅰ) 下記の場合は、法人の主たる事業を農業とみなします。

a  農業及び関連・附帯する事業の売上
その法人の売上の過半数以上が、上記の「農業及び関連・附帯する事業」で占めていること。

b 関連事業に含まれない事業の売上
その法人の売上の半数未満であること。

(ⅱ) 毎事業年度終了後3か月以内に、事業の状況を農業委員会に報告しなければなりません。

(ⅲ) 法人の主たる事業が「農業」であるか否かの判断基準

直近3か年間の事業年度の農業に関する売上額が、その法人の全体の売上額の過半数を占めていること。

(ⅳ) 新規の農地の取得

・申請時の事業計画等により主たる事業が農業であること。また、以後は、事業報告書の内容で判断されます。

④ 構成員(出資者)・議決権要件
農地所有適格法人の構成員は、下記の要件満たすことが必要です。

(ⅰ) 農業関係者であること(農業関係者とは、下記の者です。)

a 農地の権利を提供した個人又は提供が見込まれる者

b 法人の常時従事者又は常時従事が見込まれる者(年間150日勤務)

c 農地保有合理化法人

d 農業協同組合、農業協同組合連合会

e 地方公共団体

f 法人から物資の供給等を受ける者又は法人の事業の円滑化に寄与する者

(例)

(a) ライセンス契約する種苗会社

(b) 産直契約する個人

(c) 農業者・農地所有適格法人

(d) 作業委託農家

(e) 食品加工業者

(f) 生協・学校法人

(g) スーパー

(h) 農産物運送業者 等

(特例)
農業経営改善計画について、市町村の認定を受けた場合

(a) 農業内部:構成員の制限ありません。

(b) 農業外の関連事業者:

構成員の議決権が、総議決権の2分の1未満であること。

g 農地中間管理機構又は農地利用集積円滑化団体を通じて法人に農地を貸し付けている個人

(ⅱ) 農業関係者の議決権が、総議決権の2分の1超であること

(ⅲ) 農業関係者以外の構成員

a 農業関係者以外の構成員の保有できる議決権は、総議決権の2分の1未満です。

b 農業関係者以外の構成員は、「法人と継続的取引関係を有する関連事業者等に限定」されていましたが、その限定は、平成28年4月1日から撤廃されました。

⑤ 役員要件(株式会社、持分会社、農事組合法人)

(ⅰ) 役員の過半は、農業(販売、加工等の関連事業を含む)の常時従事者(原則150日以上)であること。

(ⅱ) 役員又は重要な使用人(農場長等)のうち、1人以上の者が、原則とし年間60日以上農作業に従事すること。


(4) 農地所有適格法人(株式会社・農事組合法人)の設立手続等

ア 株式会社(発起設立の場合)

* ただし、定款に、「全部の株式につき、株式譲渡制限の定めがある(非公開会社)」ものに限ります。

① 目的
営利の追求です。

② 事業

(ⅰ) 主たる事業が農業(関連事業を含む)であること

(ⅱ) 農業以外の事業については、制約がありません。

③ 構成員の要件(株主:1人以上)
株主(会社の構成員)は1人以上であればよいが、その株主となるには、下記のいずれかの要件を満たす必要があります。

(ⅰ) 農地の権利提供者であること

(ⅱ) 農業(関連事業を含む)の常時従事者であること

* 「農業(関連事業を含む)の常時従事者」とは、株式会社の社 員として農業に従事する者のことであり、農家でなくともよい。

(ⅲ) 農作業委託者であること

* 「農業委託者」とは、設立する株式会社に対し、基幹の農作業(田植、稲刈り、代かき等)を委託する農家のことです。

(ⅳ) 農地を現物出資した農地保有合理化法人であること

(ⅴ) 地方公共団体・農業協同組合・同連合会・農業法人投資育成法人であること

(ⅵ) 産直相手の消費者や農作業の委託者・スーパー・食品流通業者などと3年以上の契約を締結し、法人と継続的取引関係にある個人・法人及び新技術の提供を行う企業などであること

* ただし、前記(ⅵ)の構成員の場合は、議決権の合計が、原則として総議決権数の2分の1未満であることが要件となります。

④ 役員(取締役、監査役)

(ⅰ)役員構成

a 取締役(必置機関)
一人以上

*(a) 取締役会を設置した場合は、取締役は3人以上必要です。

(b) 取締役の過半が、農業(販売、加工等を含む)の常時従事者(原則、年間150日以上)で、更に取締役又は重要な使用人(農場長等)のうち、1人以上が農作業に従事(原則年間60日以上)すること

b 監査役(任意機関)
監査役を置くか否かは任意です。

(ⅱ)役員の任期

a 取締役
原則、2年以内です。

* ただし、定款で、短縮又は10年以内に伸長することができます。

b 監査役
4年以内です。

* ただし、定款で10年以内に伸長することができます。

⑤ 法人の性格

(ⅰ) 株式会社は、営利を目的とした物的会社です。

(ⅱ) 農業法人の要件を具備するとともに、「すべての株式に譲渡制限」が課されていることが必要です。

⑥ 地区
事業を営む地区の限定はありません。

⑦ 株式会社の設立手続

(ⅰ) 発起設立の場合

a 発起人による定款作成

b 公証人の定款認証

c 発起人の株式引受・払込み

d 設立時取締役等の選任

e 設立登記

f 関係官庁への設立届出

(ⅱ) 募集設立の場合(発起設立との相違点)

a 設立時株式引受人の「募集、割当て、払込み」等の手続

b 創立総会における「設立時役員の選任、設立手続の調査報告」

⑧ 設立後の手続

(ⅰ) 農地の権利移転手続

(ⅱ) 税務署への届出

(ⅲ) 社会保険加入手続き

⑨ 設立時の主な経費負担

(ⅰ) 定款の印紙:4万円

* ただし、電子認証の場合は印紙が不要です。

(ⅱ) 定款認証手数料:約5.5万円

(ⅲ) 設立登記の登録免許税:資本金×1000分の7

* ただし、最低15万円です。

(ⅳ) 設立手続を司法書士に依頼する場合の手数料・費用等
35万円~50万円が基準

* 「設立登記・定款認証代・登録免許税等」及び「関係官庁への届出」を含みます。

⑩ 準備金・剰余金の配当(平成27年4月1日現在)

(ⅰ) 法定準備金

a 資本準備金
「設立又は株式の発行に際して株主になる者」が、払込み又は給付した額の2分の1までは、資本金とせずに、資本準備金に組み入れることができます。

b 利益準備金
「剰余金の配当」の場合において、法務省令の定めるところにより、「剰余金により減少する剰余金の額に、10分の1を乗じて得た額」を、「資本金の額に4分の1を乗じた額」までを、「資本準備金」又は「利益準備金」として計上することを要します。

(ⅱ) 剰余金の配当
最終事業年度の末日時点における「貸借対照表の剰余金の額」を基準として、最終事業年度末日後の「剰余金の変動要因」を考慮し、自己株式の帳簿価格等を控除して剰余金分配可能額を計算します。

・上記により算定された金額の範囲内で、株主総会の決議により株主への配当を決定します。

(ⅲ) 役員賞与
株主総会で決議した総支給額の範囲内で、役員賞与を支払うことができます。

* ただし、役員及びみなし役員に対する賞与は、損金となりません。

⑪ 普通法人(株式会社・持分会社)(平成27年4月1日現在)

(ⅰ) 法人税(国税)

a 資本金:1億円以下

(a) 課税所得:800万円以下 15%

(b) 課税所得:800万円超  25.5%

* ただし、平成27年4月以降開始事業年度については、23.9%です。

b 資本金:1億円超       25.5%

* ただし、平成27年4月以降開始事業年度については、23.9%です。

(ⅱ) 事業税(都道府県税)
すべて課税されます。

⑫ 株式等持分の譲渡について
定款に、「株式の譲渡の場合は、全部の株式につき、株主総会(又は取締役会)の承認をうること」が記載されていることが必要です。


(5) 農事組合法人の設立(* 出資組合に限ります。)

① 目的
組合員の共同利益の増進に寄与することです。

② 事業

(ⅰ) 主たる事業が農業であること(関連事業を含む)。

(ⅱ) 機械や施設を設置して行う共同利用及び農作業の共同化であること。

(ⅲ) 農作業・農業と併せて行う林業であること。

(ⅳ) 農業に附帯・関連する事業であること。

③ 構成員
構成員は、下記のいずれかの要件を満たす組合員が3人以上いることが必要です。

(ⅰ) 農地の権利提供者

(ⅱ) 農業(関連事業を含む)の常時従事者

(ⅲ) 農作業委託者

(ⅳ) 農地を現物出資した農地保有合理化法人

(ⅴ) 農業協同組合・同連合会・農業法人投資育成法人

(ⅵ)「産直相手の消費者」や「農業の委託者」など5年以上の契約を締結して、法人の行う事業を利用する個人及び新技術の提供を行う企業等

* ただし、前記(ⅵ)の構成員は、みなし組合員を含めて3分の1を超えてはなりません。

・また、「組合員及び同一世帯員以外」の常時従事者数は、全体の3分の2を超えてはなりません。

④ 役員

(ⅰ) 役員構成

a 理事:必置機関

b 監事:任意機関

(ⅱ) 理事となる者
1人以上で、組合員でなければなりません。

* 理事の過半が、農業(販売、加工等の関連業務を含む)の常時従事者(原則、年間150日以上)で、更に、理事又は重要な使用人(農場長等)のうち、1人以上が農作業に従事(原則、年間60日以上)することが必要です。

(ⅲ) 監事となる者
監事を設置するか否かは任意です。

* 構成員以外から選任することもできます。

(ⅳ) 理事・監事の任期
3年以内です。

* 具体的には定款で定めます。

⑤ 法人の性格
競業を図ることにより、組合員の共同利益を増進することを目的とするものです。

* 他の法人が企業的(資本的)であるのに対し、共同体的(労働的)です。

⑥ 地区
組合員の資格を有する区域の範囲です。

⑦ 農事組合法人の設立手続

(ⅰ) 発起人による定款作成

* 公証人の定款認証は不要

(ⅱ) 設立同意の申出

(ⅲ) 社員総会(役員の選任)

* ただし、定款に定められていれば不要です。

(ⅳ) 出資の履行

(ⅴ) 設立登記

(ⅵ) 関係官庁への設立届出

⑧ 設立後の手続

(ⅰ) 農地の権利移転手続

(ⅱ) 社会保険等の加入手続

(ⅲ) 行政庁への届出

⑨ 設立時の主な経費負担

(ⅰ) 出資金領収書・契約書等の印紙

(ⅱ) 戸籍謄本・登記簿謄本等の取寄費用

(ⅲ) 設立手続を司法書士に依頼する場合の手数料
15万円~20万円

* ただし、「設立登記」・「行政機関への届出」を含みます。

⑩ 準備金・剰余金の配当(平成27年4月1日現在)

(ⅰ) 利益準備金
定款で定める額に達するまで、剰余金の10分の1以上の金額を積み立てます。

(ⅱ) 配当

a 出資配当
各人の出資額に応じて、年7%以内で行うことができます。

* 受け取った所得は、配当所得となります。

b 利用分量配当
組合員の事業の利益分量に応じて行うことができます。

* 受け取った者の事業に該当する場合は、事業の雑収入になります。

c 事業従事分量配当
給与に代えて、組合員がこの組合の営む事業に従事した日数及びその労務の内容、責任の程度等に応じて行うことができます。

* 受け取った者は、事業所得となります。

・この場合、必要経費を計上することはできません。

(ⅲ) 役員賞与
確定給与を支払う組合の場合(事業に従事した組合員に対して給与を支払う場合)には、役員に対して賞与を支払うことができます。

* 役員及びみなし役員に対する賞与は、損金として計上することはできません。

⑪ 農事組合法人の税金(平成27年4月1日現在)

(ⅰ) 法人税(国税)

a 組合員に対し、確定給与を支払わない組合(従事分量配当を行う場合)  19%

* ただし、

(a) 所得年800万円以下の金額についてのみ15%

(b) 800万円超の金額については、19%

b 組合員に対し、確定給与を支払う組合

(a) 課税所得:800万円以下   15%

(b) 課税所得:800万円超  25.5%

* ただし、平成27年4月以降開始事業年度は、23.9%です。

c 払込済出資総額1億円超    25.5%

* ただし、平成27年4月以降開始事業年度は、23.9%です。

(ⅱ) 事業税(都道府県税)

a 農地所有適格法人の行う農業については非課税です。

* 上記農業には、「畜産業、農作業の受託」は入りません
(ただし、一定の場合は非課税)。

b 農業以外、農地所有適格法人以外は課税されます。

⑫ 持分の譲渡

(ⅰ) 組合の承認を得なければ、その持分を譲渡できません。

(ⅱ) 非組合員が持分譲渡を受けるときは、加入の例による必要があります。