4月になると必ず思い出すことがあります。
新潟大学4年生の時、卒業に必要な語学の単位が足りていないことに気づき、慌てて友人たちに聞いて回ったところ、ネイティヴの先生の方が単位を取りやすいという情報を得た私。 日本語の通じない外国人の先生の講義なんて絶対無理だと思いながらも、とにかく友人を信じイギリス人のヘンク助教授(当時)の講義を受けることにした4月。
2回目の講義の日。配られた1枚のプリントに書かれた英文とそれについての3つの質問。 「Q1.この英文はどのような種類のものだと思いますか」、「Q2.この英文はどのような人が書いたと思いますか」、「Q3.この英文にあなたならどんなタイトルをつけますか」。 英文を見てみると、明らかにThe Rolling Stonesの名曲「Paint It Black(黒く塗れ)」の歌詞。 これなら私でも分かると、鼻歌交じりに「A1.歌詞」、「A2.ミック・ジャガー」(作詞はキースではなくミックだろう)、「A3.Paint It Black」(どんなタイトルも何もこの曲の歌詞ですから。それともそれをふまえて独自のタイトルを考えなさいという趣旨の質問なのかな?)と答えを書き終えボーっとしていると、受講生の間をまわっていたヘンク先生が私の席でぴたりと足を止め、「君はこの曲を知っているのかい?」と聞いてきました。 (ちょっとビクビクしながら)「も、もちろん」と答えた私。 すると先生は「毎年200人くらいの学生を受け持っているけどこの曲を知っている学生は君が初めてだ。音楽が好きなのか?」、私「はい(というか、むしろこの曲を誰も知らないことに驚いた)」、先生「それじゃあ、いつでも研究室に遊びにおいで」。
よく言えば社交的(実際は社交辞令が通じないだけ)な私は、その言葉を本気にして、(先生のゼミ生でもないのに)毎週、研究室に遊びに行きました。単語だけの会話しかできないような私に対し、先生は迷惑そうなそぶりも見せず、毎回根気強く、音楽の話や先生の専門である20世紀西洋史についての話などを、ユーモアを交えながら、まるで幼稚園児に話しかけるかのように易しい英語で話してくれました。 時には先生のお気に入りのカフェ「ストロベリーフィールド」(こちらはThe Beatlesの名曲にちなんだ店名)でランチをご一緒したり。
このような交流は1年ほど続き、その後私は東北大学法科大学院へと進学、時を同じくしてヘンク先生は慶應義塾大学へと異動されました。以来、残念ながらお会いする機会は無くなってしまいました。
大学院生活も2年目に入った年。周りの同級生がスポーツをしたり楽器を習ったりと課外活動を充実させるようになってきたこともあり、何か新しいことを始めたいと思っていた私の目に、英会話教室の広告が飛び込んできた4月。 すぐにヘンク先生の顔が浮かびました。同時に「あの時英語が話せたら、もっといろんなことをお話しできたのに」という後悔の念も。 意を決して英会話教室のドアをノックしました。
あれから20年。未だ再会は果たせていませんが、もし、ヘンク先生といつか何処かでお会いすることができたら、「あの時は本当にお世話になりました。ありがとうございました」と英語できちんとお礼が言いたい。その気持ちに変わりはありません。 結局、私の英語力は英会話教室に通う前のレベルに逆戻りしてしまいましたが、もう一度鍛え直してその日に備えられればと、気持ち新たに思う今年の4月。
また逢う日まで。逢える時まで。
今朝のお供、
Blur(イギリスのバンド)の『The best of』。
ヘンク先生が好きだったバンドBlurのベストアルバム。
(司法書士 佐々木 大輔)
音楽 , 秋田
No. 231
2023/03/31
先月今月と、続けて「あきた芸術劇場ミルハス」に行く機会がありました。 先月は青山学院大学陸上競技部原晋監督の講演会と司法書士制度150周年記念イベント(こちらには司法書士として運営に参加)。 そして今月は、念願かなってようやく演奏会を大ホールで聴くことができました。 読売日本交響楽団の演奏会で、モーツァルトの歌劇「フィガロの結婚」序曲に始まり、メインがドヴォルザークの交響曲第9番「新世界から」という(昭和の香り漂う?)王道のプログラム。 しかし、当夜の真のメインプログラムは、前半に演奏されたガーシュウィンのピアノ協奏曲でしょう。
ソロを務めるピアニストは角野隼斗( すみのはやと ) さん。 東大出身という異色のピアニストで、YouTubeでも“かてぃん”の名で活動し、その名を広く知られたピアニストです。 と書いてはみたものの、恥ずかしながら私は角野さんのことを最近まで存じ上げず、2021年のショパン国際ピアノコンクールを追ったドキュメンタリー番組を観て初めて知りました(角野さんはセミファイナリスト)。 会場には角野さんお目当てと思われる若い方々もたくさんおられたようで、クラシックの演奏会独特のしかつめらしい雰囲気はあまり感じられませんでした。
さて、肝心の演奏ですが、これが本当に素晴らしかった! 生粋のクラシックピアニストではあのような演奏にはならなかったんじゃないかなあ。 オーケストラも大奮闘。この手の曲は日本人にとって最も苦手とするところと思いますが、指揮者、ピアニスト、そしてオーケストラが一丸となって成功させようとする気合い、難曲に挑戦するスリル、音楽を奏でることへの純粋な喜びが伝わってきました。 予習と称して手持ちのCDを聴き込んで臨んだ演奏でしたが、第1楽章終結部は生で聴くとこんなにも迫力があるのかと興奮しましたし(思わず拍手しちゃった方々の気持ちもわからないではない)、第2楽章では高層階からニューヨークの夜景を眺めているかのような美しさにうっとり。第3楽章で角野さんはカデンツァに同じガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」を盛り込むなど遊び心も満載。 「なんて素敵な曲なんだろう」と曲そのものの良さを存分に感じることができた演奏でした。 あれ、そういえばオーケストラのチェロパートに遠藤真理さんもいらっしゃいましたよね?
これらの演奏を見事にまとめ上げた29歳の若き指揮者松本宗( しゅう ) 利音( りひと ) さんについても触れないわけにはいきません。松本さんは珍しい名前の方ですが、なんと往年の名指揮者シューリヒトの奥さんが名付け親なんだとか。 指揮姿は若々しく、これからの成長を期待したい部分もありましたが、指揮者とオーケストラが互いに敬意を払い良好な関係を築いている様子が演奏からもよくわかりました。 その名に相応しい指揮者として飛躍されることを楽しみにしています。
最後に。ところどころ目をつぶり視覚からの情報を閉ざして演奏を聴いてみたところ(寝ていたわけではありませんよ。生音とオーディオで聴く音との比較です)、我が家のオーディオによる再生音も(もちろん生音には及ばないものの)なかなか悪くないな、と思えたこともまた収穫でした。
今朝のお供、
PINK FLOYD(イギリスのバンド)の『The Piper at the Gates of Dawn(夜明けの口笛吹き)』。
(司法書士 佐々木 大輔)
秋田市は少しずつ春の兆しが見えてきました。 もう少し暖かくなってきたら、今年は県外に旅してみたいなあ。 旅と言っても大げさなものではなく、土日に1泊2日で行けるような軽いものでいいのです。 各地にいる友人とも会いたいですし。さすがに九州に住む友人に1泊2日で会いに行くのは難しいでしょうけれど。 誰かと一緒に行くもよし、ひとりで気ままに行くもよし。
まずは東北。 宮城県は研修等も含め行く機会が多くありますが、その他4県にはなかなか行く機会がないものですから。 友人と会い、地のものを食べ、地酒を酌み交わす。 コロナ禍で久しく実現できなかった“当たり前のこと”を今年はしたいです。
それから新潟県にも行きたい。 10年以上訪れていないので、学生時代を過ごした街が今どのように変わっているのか興味があります。 新潟駅も2024年春に全面開業予定でリニューアル工事が進んでいます。 私としては、(昔の秋田駅を大きくしたような)旧駅舎に懐かしさを覚えますが、時代に合った新潟の顔に生まれ変わるのでしょう。
先日、「テーマを持って旅に出る」ことによって人生は変わる、という講演を拝聴しました。 旅のテーマをいかに設定するか。これはじっくり考えることにします。 出不精な私にとって旅は非日常、せっかくの機会ですので、ただ観光地や名所を慌ただしく巡るのではなく、明確な目的意識をもった旅ができればと思っています。
あ、そうだ、各地の近代名建築を巡る旅なんていいかも(建築にはまったく不案内な私ですが・・・)。 最近読んだ本の影響で、前川國男氏の建築に惹かれております。 晩年の代表作とされる熊本県立美術館の控えめで穏やかでありながら凛とした美しさは、写真で見ても心が整うような雰囲気があります。 また前川氏は東京文化会館をはじめ、神奈川県立音楽堂や埼玉会館など音響に優れた音楽ホールも設計していますので(前川氏はル・コルビュジエの弟子としてフランスに滞在中、時間を見つけては演奏会やオペラに出かけていたそうで、その経験が氏の建築にも生きているようです。)、演奏会とともに建築も鑑賞する楽しみが増えます。
急に思いついたわりに「近代日本の歩みを名建築に見る」というテーマは、(もう少し練れば)旅のよいテーマになりそうです。 建築物が地域や人々と共存しているのか、孤高の存在として屹立( きつりつ ) しているのか。 その答えは、実際現地に行ってこそ得られるものであると考えます。
今朝のお供、
ハービー・ハンコック(アメリカのジャズミュージシャン)の『MAIDEN VOYAGE(処女航海)』。
僕らの前には新しい世界が広がっている。
(司法書士 佐々木 大輔)