暑気払い

先日、古典落語の『青菜』を聴く機会がありました。暑い夏にぴったりの演目です。

――夏の暑い昼下がり、隠居のお屋敷でひと仕事を終えた植木屋に、隠居から「冷えたお酒でもいかがかな」と声が掛かる。酒肴に鯉の洗いなどが出された後、「青菜は好きかね」と尋ねられた植木屋が「好きです」と答えると、隠居は妻に青菜を出すよう頼む。

しかし奥から手ぶらで現れた妻は隠居に「名を九郎判官」と返答、聞いた隠居は「義経にしておこう」と言って済ませてしまう。

実はこのやり取り、「青菜は食べてしまい切らしている」ことを客前で言うのはみっともないので、妻が「すでに菜を食らう(「名を九郎」判官)」と言い、隠居が「では、よし(「義」経にし)ておこう」という会話を隠語で交わしたものだという。

すっかり感心した植木屋は家に帰り女房にこの話をすると、女房は「そのくらい私にでもできる」というので、それならばと友人相手にやってみることに。狭い長屋なものだから奥の間などなく、植木屋は女房を無理やり押入れに押し込む。

最初の声掛けからグダグダなやり取りが続いた後、ついに青菜のくだりがやってきて、「奥や!」と女房に声をかけると、押入れから汗だくの女房が転がり出てくる。びっくりする友人。

ところが女房は暑さのあまり段取りを忘れ「名も九郎判官義経」と最後まで言ってしまう。

返答に窮した植木屋は言う、「弁慶にしておけ」――

やはり付け焼刃ではうまくいかないですよね。

植木屋と友人とのグダグダなやり取り、押入れから出てくる女房の滑稽さもありますが、私は、女房にオチを言われてしまい窮地に陥った植木屋が、苦し紛れとはいえこの流れで「弁慶」と答えるあたり、むしろ頭の回転の速さを感じます(ただし、全く意味は通じませんが)。

まさに“弁慶の立ち往生”からの咄嗟の一言といった感じでしょうか。

また、冒頭に出てくる「冷えたお酒」ですが、このお酒、上方では「柳蔭(やなぎかけ)」と呼ばれるみりんと焼酎を合わせたもので、暑気払いによく飲まれていたとのこと。

そもそも『青菜』は上方落語で、三代目柳家小さんが江戸落語に移植したものだそうです。江戸落語として演じられる際には、「上方から取り寄せた柳蔭というお酒」などと説明が入る場合もあります。

ちなみに、三代目柳家小さんといえば、寄席好きの夏目漱石が、小説『三四郎』の中で、「同じ時代に生きられることの幸せ」と書いて絶賛している落語家です。

『青菜』を聴いた夜、落語と一緒にお酒と極上の焼肉をお腹いっぱい頂いたのですが、帰りにもう少しだけ冷えたお酒を飲みたくなり、立ち寄ったバーでカクテルのダイキリを頂きました。

このダイキリをシャーベット状にしたものはフローズン・ダイキリと呼ばれ、文豪ヘミングウェイが愛したカクテルとしても知られていています。

ダイキリは、もともとキューバの鉱山で働く労働者が暑さを凌ぐために、キューバ特産のラム酒にライムと砂糖と氷を入れて作ったのが始まりといわれており、暑気払いにもうってつけのお酒でして・・・

おっと、話が長くなるのが私の悪い癖。

今月はこの辺でお開きに。


今朝のお供、

The Who(イギリスのバンド)の『My Generation』。

                              (司法書士 佐々木 大輔)