『椿姫』に寄せて
今年はオペラ作曲家ヴェルディ生誕200年記念の年。
私にオペラの魅力を教えてくれたのが、ヴェルディの『椿姫(ラ・トラヴィアータ)』でした。
原題のトラヴィアータとは「道を踏み外した女」という意味のイタリア語。高級娼婦の過去を持つヴィオレッタは、アルフレードからの告白を受け、彼の純粋な愛に戸惑いつつも一緒に暮らし始めます。
しかしある日、彼女は彼の父親に、娼婦という過去が娘(アルフレードの妹)の縁談に差し支えるから息子と別れてほしいと懇願され、悲しみの中、愛する彼のために身を引く決意をします。
父の懇願を知らないアルフレードは、裏切られたと激怒しますが、数か月後、全ての事情を知り、許しを請うため彼女のもとへ駆けつけます。ところが再会した彼女は、肺の持病が進行し、死を待つばかりの状態。再び一緒に暮らすことを誓い合い、再会を喜ぶのも束の間、彼女は「いつか素敵な女性が現れてあなたに恋をしたら渡して欲しい」と自分の肖像を彼に託し、息を引き取ります。
カルロス・クライバーという指揮者の熱狂的なファンであった私は、彼の録音を全て聴きたくて・・・といっても、彼が公式に録音したオーケストラ曲のCDは十指に満たず、他に(当時は興味のなかった)オペラ録音が数種あるだけ。「オペラかぁ・・・」と気が乗らないまま、クライバーの演奏を聴きたいがために仕方なく?手にしたのが、ヴェルディの『椿姫』でした。
ところが、クライバーの希少な録音だからと毎日聴き続けているうち、次第にクライバーを聴くという当初の目的は薄れ、すっかり『椿姫』にはまってしまいました。
そうなると今度は『椿姫』の舞台を観たくなるのが自然の流れというもので、次に入手したのがショルティ指揮コヴェントガーデン王立歌劇場の映像です。
主役のヴィオレッタを歌うのは、ショルティが抜擢した若き日のゲオルギュー。その薄幸をまとう美しさは役のイメージどおり。この舞台の大成功で、一躍世界的なプリマドンナへと飛躍したのも納得です。ショルティの指揮も82歳(収録当時)とは思えないほど覇気に満ちており、ときにもう少し繊細に・・・と望みたくなる部分もあるほど。
このふたつの演奏により、すっかり『椿姫』そしてオペラを聴く楽しみを知ってしまった私。その後、少しずつ好むオペラのレパートリーが広がり、今では『椿姫』に接する機会も少なくなりましたが、先日久しぶりにショルティ指揮のDVDを観賞。たちまち夢中だった10代の頃がよみがえり、たしかにこれが私の青春に彩りを添えてくれたのだと再確認。あの頃、心の隅々まで染み込ませた旋律は、今も同じ輝きに満ちていました。
今朝のお供、
BON JOVI(アメリカのバンド)の『These Days』。
こちらも無条件で10代の頃の思い出がよみがえります。
(佐々木 大輔)