アーカイブ:2014年7月

カルロス・クライバー

今年は名指揮者カルロス・クライバーの没後10年。私にクラシック音楽の面白さを教えてくれた指揮者です。

20世紀最後のカリスマと呼ばれ、キャンセルは日常茶飯事、初めてウィーン・フィルのニューイヤーコンサートの指揮者に決定した時は、世界中継の当日にキャンセルされたときのため、テレビ局が中継用に前日の演奏会を録画して万一に備えていたことや(ニューイヤーコンサートは、大晦日にも同じプログラムで開催され、元日の演奏会が世界中に中継されます)、代役として非公式にアバドが控えていたことなどが話題になりました。

そのほか、指揮者カラヤンから、なかなか指揮台に上がらない理由を問われ、「冷蔵庫が空になるまで指揮はしない」とはぐらかしたというエピソードや、極端に狭いレパートリーからは、変わり者で気難しい人のように思われますが、どうやらそのとおりの人であったことは間違いないようです。

彼の残した希少な録音は、全てが名演として有名ですので、私が改めてここに書くまでもありません。
そこで、今回は、彼の若き日のリハーサル映像(オペラ『こうもり』の序曲)を紹介します。
リハーサルに見る彼は、しばしばオーケストラの演奏を止めて指示を出します。音楽を言葉にするというのは困難を極めることと思いますが、ウィットとユーモアに富んだ的確な指示で(法的に看過できないような喩えもありますが)、オーケストラから自分の理想とする音を引き出す彼の手腕は見事。
たいていのオーケストラは、演奏を途中で止められることを嫌い、指揮者の長広舌など聞きたくないというのが本音でしょうが、彼は一切の妥協をせず、文学的な表現でもって自分より年長者の多い団員を説得します。
そしてその効果は、私のような素人耳にもはっきりわかるほど。指示を受けたオーケストラの音は、「これぞクライバー」という音に一変。
彼の(本番での)演奏は、テンペラメントに満ちたものと評されることが多いのですが、その裏で実に緻密なリハーサルを行っていたことは、映像が公開された当時、多くの評論家やファンを驚かせたものでした。

ちなみに、『こうもり』序曲は、彼の得意のレパートリーであり、後年、バイエルンとのものが2種(映像として残された方は、弾力が効いて、間が絶妙)、前述のニューイヤーコンサートでのもの(蝶のように舞い、蜂のように刺すかのような演奏)が正式な録音として発売されていますが、リハーサル時の演奏は、後年の自身の演奏よりも、父エーリッヒ(父親も偉大な指揮者でした)の演奏に似ているように感じます。

 

今朝のお供、
クライバー指揮ウィーン・フィルによるベートーヴェンの『運命』。
シリアルナンバー入りのアナログ盤ボックスセットを予約してしまいました。私にとって青春の響き。

(佐々木 大輔)