9 相続分の譲渡と相続分の放棄

(当事務所の取扱業務)

① 相続登記申請の代理
相続登記申請手続事務の相談
相続登記に関する審査請求手続(不服申立手続)についての代理

② 相続分の譲渡契約書・相続分の放棄書等各種文案書類の作成代理
契約書等各種文案書類作成の相談

③ 公正証書作成の手続代理
公正証書作成手続の相談

(目次)

(1) 相続分の譲渡

(2) 相続分の放棄

(3) 相続分の譲渡と相続分の放棄の相違

(4) 相続分の譲渡・相続分の放棄のいずれがベターか

(5) 相続分の譲渡と税金

(1) 相続分の譲渡

ア 「相続分の譲渡」の意義
相続分の譲渡とは、遺産全体(プラス財産もマイナス財産も含む)に対する包括的持分又は法律上の地位を譲渡することであり、譲渡人と譲受人間の契約によってなされます。

イ 譲受人
相続人以外の第三者でも譲受人になることができます。

* その場合、譲受人たる第三者も遺産分割協議に参加することができます。

ウ 「相続分の譲渡」がなされた場合の効果

あ 譲受人の効果
譲受人は、プラス財産のみならずマイナス財産も承継します。

い 譲渡人の効果
譲渡人は、相続債権者との関係では、相続債務の負担義務を、免れることはできません。

* ただし、譲渡人は、相続分譲渡の時点で、被相続人に債務があることを知らなかった場合は、債権者から請求がなされた時点から3か月以内に、家庭裁判所に相続放棄の手続をすることができます。

(2) 相続分の放棄

ア 「相続分の放棄」の意義
相続分の放棄とは、遺産(プラス財産のみ)に対する共有持分権を放棄する意思表示であり、相続開始後遺産分割手続終了までの間であれば、いつでも可能であり、方式は問いません。

* 「相続放棄」とは
相続放棄とは、遺産(プラス財産もマイナス財産も含む)を放棄する意思表示であり、被相続人の死亡後(又は被相続人が死亡したことを知った時から)3か月以内に家庭裁判所に申立てをしなければなりません。 その結果、相続放棄した者は、相続人にならなかったものとみなされます。

イ 「相続分の放棄」の効果

あ 他の共同相続人
他の共同相続人の相続分(プラス財産のみ)が変動(増える)することになります。

* 実務上の取扱い
相続放棄者の相続分が、他の共同相続人に対して、相続分に応じて帰属するものと取り扱われるのが一般的です。

い 相続分の放棄者の相続債務負担義務
相続分の放棄者は、相続債務の負担義務を免れることはできません。

* ただし、相続分の放棄の時点で、放棄者が被相続人に債務があることを知らなかった場合には、債権の請求がなされた時点から3か月以内に、家庭裁判所に相続放棄の手続をすることができます。

(3) 「相続分の譲渡」と「相続分の放棄」の相違

ア  プラス財産に関する相続分

あ 「相続分の譲渡」の場合
譲受人のみが譲渡人の相続分を取得することになります。

い 「相続分の放棄」の場合
他の共同相続人が各相続分に応じて譲渡人の相続分を取得することになります。

イ マイナス財産に関する相続分

あ 相続関係者との関係
「相続分の譲渡者」・「相続分の放棄者」とも、相続債務を負担することになります。

* ただし、「相続分の譲渡」の場合は、譲渡人・譲受人間では譲受人が譲渡人の相続分を承継することになりますが、「相続分の放棄者」は、他の共同相続人との関係でも相続債務の負担義務を負うことになります。

い 相続債権者からの請求に応じて支払った場合

① 「相続分の譲渡者」が支払った場合
譲渡人から譲受人に対し求償できます。
(理由)
譲渡人・譲受人間では、譲受人が譲渡人の相続分を承継しているので。

② 「相続分の放棄」の場合
他の共同相続人に求償できません。
(理由)
他の共同相続人との関係でも相続債務を免れることができないので。

(4) 「相続分の譲渡」・「相続分の放棄」のいずれを選択した方がよいか

ア 「相続分の譲渡」・「相続分の放棄」を求める側から
「相続分の譲渡」を選択した方がベターであるといえます。
(理由)

①「相続分の譲渡」の場合
マイナス財産の負担も承継することになる代わりに、プラス財産に関する相続分は全て自分のものになります。

②「相続分の放棄」の場合
自分以外の他の共同相続人にもプラス財産に関する持分が分配されることとなります。

イ 「相続分の譲渡」・「相続分の放棄」を求められる側から
「相続分の譲渡」を選択した方がベターであるといえます。

* 理由
プラス財産を取得できなくなる点は、「相続分の譲渡」も「相続分の放棄」も同じですが、マイナス財産の負担の点で違いが生じ、 「相続分の放棄」をした場合には、結果的に債務だけを負担させられる結果となるためです。

(5) 相続分の譲渡と税金

ア 「相続分の譲渡」で考えられる税金
常識的には、「相続分の譲渡」では、相続税だけでなく贈与税や譲渡所得税の発生も考えれます。

イ 譲受人が相続人の場合
譲渡人たる相続人・譲受人たる相続人には、その譲渡が有償でも無償でも、相続税が課税されるのみで、贈与税の課税はありません。

ウ 共同相続人が自己の相続分を共同相続人でない第三者に譲渡した場合

あ 相続分の譲渡人に対する課税関係
譲渡人である相続人には、相続税が課税された上で、

① 有償での譲渡の場合
譲渡人には、相続分の譲渡により生じた所得に対し所得税が課税されます。

② 無償での譲渡の場合
譲渡人には、相続分の譲渡による所得税の課税はなされません。

い 相続分の譲受人に対する課税関係
譲受人である第三者には相続税は課税されず、譲受が無償であれば、贈与税の課税対象となります。