売買3―担保責任

今回も民法の回です。

売買の目的物(権利及び物)について、売主が一定の保証をしていることに基づく特殊な責任を担保責任といいます。この責任は、売主の履行が終わった後に問題となります。
担保責任の中でも、特に物の瑕疵(キズ)に関する責任を瑕疵担保責任といい(民法第570条)、最も重要なものとされています。

なぜ担保責任が認められるのかという法的性質については、法定責任説と契約責任説が対立しています。
法定責任説とは、瑕疵担保責任は特定物(世界に一点物の名画など)についてのみ特別に法律によって認められた責任であるとする説です。つまり、特定物の場合には、たとえ隠れたキズのあるフェルメールの絵『真珠の耳飾りの少女』を引き渡したとしても、キズの無い絵はこの世に存在しないのだから、その絵を現状のまま引き渡せば義務を果たしたことになります。しかし、隠れたキズは無いと思って買った買主の期待を保護するために、特に法律が認めた責任が瑕疵担保責任であると考えます。

しかし、1970年代、この見解に対して、「特定物は瑕疵担保責任、不特定物は債務不履行責任という区別が必要なのか」という有力な批判がなされ、代わって主張されたのが契約責任説です。
契約責任説とは、特定物・不特定物を問わず瑕疵担保責任の適用を認め、瑕疵担保責任の規定がないところには一般原則である債務不履行責任の適用を認めるとする説です。民法起草者の趣旨、現在の国際的潮流にも合致するとして、現在の通説となっています。

それでは裁判所はどのように考えているのでしょうか。
少し難しいのですが、現在のリーディングケースとされる昭和36年の判例は、「不特定物売買の給付物に隠れた瑕疵があった場合、債権者(買主)が一度受領しても以後買主が債務不履行責任を追及できないとはいえず、買主が瑕疵の存在を認識したうえでこれを履行として認容し、瑕疵担保責任を問うなどの事情があれば格別、そうでない場合には買主は受領後も債務不履行責任の追及として、損害賠償請求・解除ができる」と判示し、契約時には知らなかった瑕疵の存在を認識したうえで履行として認容したのでない限り、債務不履行の問題であると判断したのです。
この判例の解釈は難しく、未だに不明確であると批判の強いものですが、この判例以前の大正14年の判例は目的物が「特定」されているか否かを判断基準としていたことからすると、「特定」という基準を重視しない方向に動いていると考えるのが現在の通説的立場のようです。

なお、司法試験予備校などの指導で、未だ法定責任説を通説と扱っていることに対しては、あくまでも「司法試験の論文答案を書きやすいから」という理由にすぎないとして、民法学者から厳しい批判がなされているのも事実です。

 

今朝のお供、
ARCTIC MONKEYS(イギリスのバンド)の『SUCK IT AND SEE』。
友人から勧められた彼らの4枚目のアルバム。荒削りなデビューアルバムと比べるとかなり落ち着いた感がありますが、音楽の幅が広がっており、私は楽しめました。

(佐々木 大輔)