今回は刑法の回です。
窃盗罪の条文である刑法第235条の条文を見てみましょう。
「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし」と書いてあります。
つまり、窃盗罪が成立するには、①「他人の占有する他人の財物」を、②「窃取した」といえること、加えて判例・通説は、No.62でお話をした③不法領得の意思があることを要件としています。
まず、「他人の占有する他人の財物」について。
ゴルフ場内のロストボールを無断で持ち出した場合に、窃盗罪は成立するでしょうか。
結論は、窃盗罪が成立します。ゴルファーが誤ってゴルフ場内の池に打ち込み放置したゴルフボールは、ゴルフ場側がその回収、再利用を予定していたものである以上、ゴルフ場の所有・占有が認められると最高裁判所は判断しています。
同様に、客が旅館の客室に置き忘れた物の占有は、旅館の管理者に帰属するため、これを持ち逃げすると窃盗罪になります。
それでは、電車の網棚に置き忘れた鞄は窃盗罪の対象になるでしょうか。
実はこの場合、勝手に持ち出しても窃盗罪にはなりません。電車は一般人の立ち入りが容易な状態である限り、忘れ物は誰の占有にも属さないため「他人の占有する他人の財物」に当たらず、窃盗罪は成立しません。その代わり、占有離脱物横領罪(刑法第254条)が成立します。
次に、「窃取した」について考えてみましょう。
窃取したとは、占有者の意思に反して財物に対する占有者の占有を排除し、目的物を自己または第三者の占有に移すことをいいます。
しかし、住居や店内からの窃取の場合は、財物に対する占有者の支配が強く及んでいることから、目的物が小さい場合でも、原則として屋外への搬出が必要となります。
これに対して、留守宅のように支配力が弱い場合には、搬出の準備があれば窃取が認められ、窃盗罪が成立します。他人の玄関先にあった自転車の錠をはずし、その自転車の方向を転換した時点で窃盗罪の成立を認めた例があります。
今朝のお供、
アデル(イギリスのミュージシャン)の『21』。
(佐々木 大輔)
今回は、民法の回です。
前回(No.68)お話ししきれなかった「同時履行の抗弁権」の続きを。
それでは、同時履行の抗弁権を主張した場合にはどのような効果が生じるのでしょう。
ひとつには、同時履行の抗弁権を有する債権は、債務不履行の責任を負わないという効果があります。
もうひとつ、裁判における効果もあります。
たとえば売主が買主に対して提起した「商品の代金を支払え」という裁判で、買主から「商品を引き渡せ」と同時履行の抗弁権を主張された場合、売主の請求は棄却(売主の敗訴)されるのではなく、「売主が商品を引渡すのと引換に買主は代金を支払え」という引換給付判決が下されます。
今朝のお供、
R.E.M.(アメリカのバンド)の『Reveal』。
収録曲の「Imitation Of Life」にも思い出がいっぱいあります。
何度カラオケで歌ったことか。
(佐々木 大輔)
申し訳ありませんが、ブログは今後しばらくの間、2週間に1回の更新とさせていただきます。
今回は刑法の回です。
ここで少し補足をさせていただきます。
毎回刑法では「私の立場」を明らかにしてお話をしてきました。
No.62では不法領得の意思について「振舞う意思と利用処分意思の双方が必要である」、No.66では財物について「財物とは有体物のことをいう」と述べました。これにはどのような意味があるのでしょう。
実は、法律というのはそれぞれの採る立場により、導かれる結論が異なることがあるのです。なかでも刑法は、特にその傾向が強い法律です。そのため、あらかじめ自らの立場を明確にしてお話をしなければならないのです。
たとえば、不法領得の意思について、「窃盗罪の成立要件として、不法領得の意思は不要である」という考え方もあるのですが、この立場を採れば、判例が不可罰とするいわゆる使用窃盗(他人の物を一時無断で使用して、後で返還する行為)も窃盗罪として認めやすくなります。
なぜなら、使用窃盗を不可罰であるとする多くの説は、その根拠を、「返還意思がある場合には不法領得の意思がない」という点に求めます。そのため、不法領得の意思を不要とする立場からは、使用窃盗の可罰性も認めやすくなるのです。
それでは、ここからは前回(No.66)の財物性の続きを。
財産罪の客体である以上、財物には財産的価値が必要となります。
この点、判例・通説は、主観的な価値でも社会観念上刑法的保護に値するものであれば財物に当たるとしています。この立場に立てば、ラブレターも所有者にとって精神的欲望を満足させる価値がある限り、不法な侵害から保護される必要が生じ、窃盗罪の対象となります。
一方、その価値が極めて低い場合には財物には当たらないとされ、ポケットから汚れたちり紙13枚を窃取した事例を窃盗未遂とした判決は、このことを示したものと考えられます。
ちなみに、ちり紙の財物性を否定しながら、無罪ではなく窃盗未遂の成立を認めた結論は、実際に窃取した物が軽微な価値しかなくても、別の客体(たとえば、ポケットに一緒に入っていた財布など)を窃取する可能性があったことに起因しています。
今朝のお供、
R.E.M.(アメリカのバンド)の『OUT OF TIME』。
2曲目の「Losing My Religion」。イントロが流れた途端、繊細で甘やかな憂愁に支配され、私は一瞬にして中学2年生だったあの頃に引き戻されます。R.E.M.解散のニュースは、またひとつ、私の青春の終わりを告げるものでした。
(佐々木 大輔)