アーカイブ:2022年11月

寅さん

ふと思うことがあります。

――寅さんが今ここにいたら何て言うかな――

昨年末から今年にかけて、毎週1本ずつ、映画『男はつらいよ』シリーズ全50作品(※)の全てを、1作目から順に観ました。

何度か観た作品もありますが、観返すその時々で感じること、考えさせられることは変わります。

まあ、寅さんと同じく妹がいる私としては、やはり“兄としての”寅さんに感情移入することが多いのですけれど。

若い頃は、寅さんの恋愛(おじさんとおばさんの恋愛なんて…)にも、満男(吉岡秀隆さん)の恋愛(世代が近いとこそばゆくって…)にもあまり感情移入できなかったものですが、年を重ねて改めて観直した今回は、満男の恋模様に惹かれました。

ただしそれは満男の恋愛そのものにというより、“若い恋愛”が象徴する過ぎ去りし日々への郷愁だったのかもしれません。

寅さんのファッションは一貫して変わりませんが、さくら(倍賞美津子さん)をはじめとするほかの登場人物のファッションは時代を映します。劇中に登場する車は、一般の乗用車でさえもデザインに味わいがありました。このような“時代”を観るのも毎回の楽しみでした。

また、俵万智さんの『サラダ記念日』がベストセラーになった年は軽やかな短歌を取り入れるなど、各作品で時代のトレンドを扱いつつも、どんなときでも変わらない寅さんの人となりにはホッとさせられました。

寅さんの温かさについては、「電気ストーブのような温かさじゃなくて、お母さんがかじかんだ手をじっと握ってくれたときのような、体の芯からあたたまるような温かさ」(46作目)という表現がまさにぴったりです。

寅さんこと渥美清さんが亡くなったのは1996年。

48作目(1995年)の寅さんは阪神・淡路大震災後の復興ボランティアとして神戸へ。

天災、戦争、コロナ禍・・・どんな時代にも人々の悲しみがあります。

そんな人々の気持ちにそっと寄り添い続けた寅さん。

48作目のラスト、「みんな苦労したんだなあ。本当に皆さんご苦労様でした」が寅さん、そして渥美清さん生涯最後のセリフでした。

寅さんも本当にお疲れさまでした。


※ 渥美清さんが生前に収録した48作品と没後に制作された2作品


今朝のお供、

AC/DC(オーストラリアのバンド)の『Power Up』。

変わらないことの偉大さ。

                              (司法書士 佐々木 大輔)