窃盗罪4―占有と窃取
今回は刑法の回です。
窃盗罪の条文である刑法第235条の条文を見てみましょう。
「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし」と書いてあります。
つまり、窃盗罪が成立するには、①「他人の占有する他人の財物」を、②「窃取した」といえること、加えて判例・通説は、No.62でお話をした③不法領得の意思があることを要件としています。
まず、「他人の占有する他人の財物」について。
ゴルフ場内のロストボールを無断で持ち出した場合に、窃盗罪は成立するでしょうか。
結論は、窃盗罪が成立します。ゴルファーが誤ってゴルフ場内の池に打ち込み放置したゴルフボールは、ゴルフ場側がその回収、再利用を予定していたものである以上、ゴルフ場の所有・占有が認められると最高裁判所は判断しています。
同様に、客が旅館の客室に置き忘れた物の占有は、旅館の管理者に帰属するため、これを持ち逃げすると窃盗罪になります。
それでは、電車の網棚に置き忘れた鞄は窃盗罪の対象になるでしょうか。
実はこの場合、勝手に持ち出しても窃盗罪にはなりません。電車は一般人の立ち入りが容易な状態である限り、忘れ物は誰の占有にも属さないため「他人の占有する他人の財物」に当たらず、窃盗罪は成立しません。その代わり、占有離脱物横領罪(刑法第254条)が成立します。
次に、「窃取した」について考えてみましょう。
窃取したとは、占有者の意思に反して財物に対する占有者の占有を排除し、目的物を自己または第三者の占有に移すことをいいます。
しかし、住居や店内からの窃取の場合は、財物に対する占有者の支配が強く及んでいることから、目的物が小さい場合でも、原則として屋外への搬出が必要となります。
これに対して、留守宅のように支配力が弱い場合には、搬出の準備があれば窃取が認められ、窃盗罪が成立します。他人の玄関先にあった自転車の錠をはずし、その自転車の方向を転換した時点で窃盗罪の成立を認めた例があります。
今朝のお供、
アデル(イギリスのミュージシャン)の『21』。
(佐々木 大輔)