アーカイブ:2011年10月

贈与

今回から、民法典に規定されている13個の典型契約についてお話をさせていただきます。
条文の順番どおり、「贈与」から。

民法549条以下に規定されている贈与契約とは、ある人(贈与者)が相手方(受贈者)に無償で自己の財産を与える意思を表示し、相手方がこれを受諾することによって成立する契約をいいます。

贈与の撤回については、書面によって贈与契約をしたか否かによって結論が分かれます。
書面による贈与の場合、撤回することはできません。
書面によらない贈与の場合、「履行の終わった部分」を除いて、撤回することができます。不動産の贈与は、引渡しまたは所有権移転登記のいずれか一方がなされれば、履行が終わったものと考えるのが裁判所の判断です。

贈与契約は無償契約ですから贈与者は原則として担保責任(契約の目的物に欠陥があった場合、それを給付した者が負う損害賠償などの責任)を負いません。しかし、贈与者が贈与の目的物に瑕疵(本来備わっているはずの機能が備わっていないこと)があることを知りながら、そのことを受贈者に告げなかった場合には、担保責任を負います。

以上が一般的な贈与ですが、その他いくつか特殊な贈与がありますので、それらをみていきましょう。
まず、「定期贈与」があります。これは、定期の給付を目的とする贈与のことをいい、たとえば毎月10万円ずつ仕送りをするという内容の契約があります。定期贈与は人的関係を基礎としていることがほとんどですので、特約がない限り、贈与者または受贈者の死亡によってその効力は失われます。
「負担付贈与」とは、受贈者をして一定の給付をするべき債務を負担させる贈与契約をいいます。
たとえば、AがBに家屋を贈与する代わりに、BがAの面倒を見るという内容の契約です。
「死因贈与」とは、贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与契約のことをいいます。
死因贈与と似ているものに「遺贈」がありますが、死因贈与は契約であるのに対し、遺贈は単独行為(贈与者の一方的な意思表示のみによって成立する)という点で異なります。
とはいえ、死因贈与も遺贈も、本人の死亡により効力が生ずるという共通点があるので、その性質に反しない限り、死因贈与も遺贈と同じように考えることができます。

 

今朝のお供、
COLDPLAY(イギリスのバンド)の『MYLO XYLOTO』。
“ロックの”と限定する必要もなく、今年最大の目玉ではないでしょうか。傑出した1曲が引っ張るアルバムというより、全ての曲が美しく融和しているアルバムです。

(佐々木 大輔)

窃盗罪4―占有と窃取

今回は刑法の回です。

窃盗罪の条文である刑法第235条の条文を見てみましょう。
「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし」と書いてあります。
つまり、窃盗罪が成立するには、①「他人の占有する他人の財物」を、②「窃取した」といえること、加えて判例・通説は、No.62でお話をした③不法領得の意思があることを要件としています。

まず、「他人の占有する他人の財物」について。
ゴルフ場内のロストボールを無断で持ち出した場合に、窃盗罪は成立するでしょうか。
結論は、窃盗罪が成立します。ゴルファーが誤ってゴルフ場内の池に打ち込み放置したゴルフボールは、ゴルフ場側がその回収、再利用を予定していたものである以上、ゴルフ場の所有・占有が認められると最高裁判所は判断しています。
同様に、客が旅館の客室に置き忘れた物の占有は、旅館の管理者に帰属するため、これを持ち逃げすると窃盗罪になります。
それでは、電車の網棚に置き忘れた鞄は窃盗罪の対象になるでしょうか。
実はこの場合、勝手に持ち出しても窃盗罪にはなりません。電車は一般人の立ち入りが容易な状態である限り、忘れ物は誰の占有にも属さないため「他人の占有する他人の財物」に当たらず、窃盗罪は成立しません。その代わり、占有離脱物横領罪(刑法第254条)が成立します。

次に、「窃取した」について考えてみましょう。
窃取したとは、占有者の意思に反して財物に対する占有者の占有を排除し、目的物を自己または第三者の占有に移すことをいいます。
しかし、住居や店内からの窃取の場合は、財物に対する占有者の支配が強く及んでいることから、目的物が小さい場合でも、原則として屋外への搬出が必要となります。
これに対して、留守宅のように支配力が弱い場合には、搬出の準備があれば窃取が認められ、窃盗罪が成立します。他人の玄関先にあった自転車の錠をはずし、その自転車の方向を転換した時点で窃盗罪の成立を認めた例があります。

 

今朝のお供、
アデル(イギリスのミュージシャン)の『21』。

(佐々木 大輔)

同時履行の抗弁権2

今回は、民法の回です。
前回(No.68)お話ししきれなかった「同時履行の抗弁権」の続きを。

それでは、同時履行の抗弁権を主張した場合にはどのような効果が生じるのでしょう。
ひとつには、同時履行の抗弁権を有する債権は、債務不履行の責任を負わないという効果があります。
もうひとつ、裁判における効果もあります。
たとえば売主が買主に対して提起した「商品の代金を支払え」という裁判で、買主から「商品を引き渡せ」と同時履行の抗弁権を主張された場合、売主の請求は棄却(売主の敗訴)されるのではなく、「売主が商品を引渡すのと引換に買主は代金を支払え」という引換給付判決が下されます。

 

今朝のお供、
R.E.M.(アメリカのバンド)の『Reveal』。
収録曲の「Imitation Of Life」にも思い出がいっぱいあります。
何度カラオケで歌ったことか。

(佐々木 大輔)

申し訳ありませんが、ブログは今後しばらくの間、2週間に1回の更新とさせていただきます。