アーカイブ:2011年9月

同時履行の抗弁権

今回は、民法の回です。

売買のように、当事者双方がお互いに債務を負う(債権を有する)契約を「双務契約」といいます。これに対して、贈与のように、一方当事者のみが債務を負う契約を「片務契約」といいます。

「同時履行の抗弁権」とは、双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務を履行するまでは、自己の債務の履行を拒むことができるとする権利のことをいい、民法第533条に規定されています。
売買契約を例にとると、売買では、買主には「売買代金を支払う」債務があり、売主には「商品を引き渡す」債務があります。
「買主が代金を支払わない」ときのように、相手方が債務の履行をしない場合、売主は、「あなたが代金を支払わないのなら、私も商品を渡しませんよ」という同時履行の抗弁権を主張することができます。

同時履行の抗弁権が認められるためには、①双務契約から生じた債務があること、②相手方が履行の提供をしていないこと、③相手方の債務の弁済期(期限)が到来していること、という3つが必要となります。
それでは、どのような場合に同時履行の抗弁権が認められるのか、裁判所の考えを見てみましょう。
まず、認められる場合から。
土地の賃貸借終了において、建物買取請求権を行使したことによる代金支払義務と土地明渡義務は、同時履行の関係に立つとされています。
これはどういうことかというと、土地の借主がその土地上に家を建てて生活していた場合、土地を返還する際、借主にはその土地上の建物を貸主に買い取らせる権利があるのです。そのため、貸主には建物を買い取った代金を支払う義務が生じます。この代金を受け取るまでは、借主は土地の返還を拒むことができるというのが最高裁の判断です。ただし、賃借人に債務不履行があって契約が解除された場合には、買取請求権はないとしています。
次に、認められないのはどのような場合でしょうか。
不動産賃貸借終了後において借主の家屋明渡義務と貸主の敷金返還義務は、同時履行の関係に立たないとしています。
敷金は、賃貸借終了後明渡しまでの損害金についても担保するので、明渡しの時点で初めて返還請求権の有無や額が確定するからというのが、その根拠です。
これに対し、学説には、敷金返還を確保するためには同時履行の抗弁権の主張を認めるべきだとして、この判例に反対する見解も多くみられます。

少し長くなりましたので、同時履行の抗弁権の効果については、次回の民法(No.72)でお話しさせていただきます。

 

今朝のお供、
Travis(スコットランドのバンド)の『The Invisible Band』。

(佐々木 大輔)