5 公正証書

(当事務所の取扱業務)

① 「公正証書作成のための契約書(案)・遺産分割協議書(案)・遺言書 (案)」等各種文案書類の作成代理 ・各種文案書類作成の相談

② 公正証書作成手続の代理

③ 定款の作成、会社等法人の定款認証手続の代理、定款作成の相談

(目次)

(1) 公正証書の意義

(2) 公正証書の種類

(3) 公正証書の作成が必要的とされる契約等

(4) 公正証書の作成が有用とされる契約等

(5) 公正証書の効力

(6) 公正証書による遺言書・自筆証書による遺言書

(7) 極度額(上限額)の定めのない個人の根保証契約について(令和2年4月1日施行)

(8) 公証人による保証意思確認手続の新設(令和2年4月1日施行)

(9) 保証に関する情報提供義務の新設(令和2年4月1日施行)

(1) 公正証書の意義
公証人が、公証人法に基づいて、当事者の嘱託により、「当事者間の法律行為や私法上の権利に関して作成する文書」のことをいいます。


(2) 公正証書の種類

ア 契約等に関する公正証書
下記の契約等について、公正証書にすることができます。

(ア) 契約
契約とは、「互いに対立する複数の意思表示の合致によって成立する法律行為」(私人間の契約)のことです。すべての契約を公正証書にすることが可能です。

* ① 法律行為の意義
権利の得喪変更を目的とする「意思表示を要素とする合法的行為」のことです。

② 意思表示の意義
特定の法律効果の発生を意欲してする意思行為のことです。

(イ) 他の意思表示を要素とする法律行為
下記の遺言書を公正証書にすることも可能であり、また「株式会社・一般社団法人・一般財団法人の定款」は認証を受けることが、法人設立の要件となっています。
(認証の意義)
文書が正当な手続・方式に従っていることを公の機関が証明することで、公証人が行う認証には下記のものがあります。

① 定款の認証
株式会社等法人の設立登記の添付書類として、認証定款が必要となります。

② 私署証書の認証
(意義)
署名又は記名押印の認証は、当事者が公証人の面前で署名又は記名押印した場合や、当事者が公証人に対してその署名又は記名押印が自己の意思に基づいてなされたものであることを自認した場合に、公証人が私署証書に付与するものです。
(効力)
署名又は記名押印の認証を受けると,その私署証書は、作成名義人本人の意思に基づいて作成されたものであるとの事実の証明になり、その証書の信用性が高まります。

* 用語の意義

(ⅰ) 単独行為
1つの意思表示によって成立する法律行為のことです。
(例):遺言

(ⅱ) 合同行為
複数の意思表示からなるが、「一定の事業を行う」というように同じ方向に向けられている法律行為のことです。
(例):株式会社・一般社団法人・一般財団法人の設立行為(定款の認証が必要です)

(ウ) 下記は、「契約・単独行為」に関する公正証書の一例です。
(契約の例)

① 金銭消費貸借契約(お金の貸し借りに関する契約書)

② 売買契約書(不動産・動産等)

③ 土地・建物等の賃貸借契約

④ 土木・建築等の工事請負契約

⑤ 贈与契約書・交換契約書

⑥ 離婚に伴う「慰謝料・財産分与・養育費等」の支払約定書

⑦ 内縁関係解消に伴う給付契約書

⑧ 扶養(親子間・兄弟姉妹間)に関する契約書

⑨ 男女関係解消契約書

⑩ 遺産分割協議書

⑪ 任意後見契約書

⑫ 任意後見契約に付随して締結する「継続的見守り及び財産管理契約書、死後事務委任契約書」

⑬ 夫婦財産契約

(単独行為の例)

① 遺言書

イ 事実実験公正証書

(ア) 意義
法律行為以外の私権(私法上の権利)に関する事実(権利義務や法律上の地位に関する重要な事実)について、公証人が実験、つまり、五官の作用で認識した結果を記述する公正証書のことをいいます。
(私権《私法上の権利》に関する事実の例)

① 人の出生、生存、死亡等

② 身体、財産に加えた損害の形状、程度

③ 動産、不動産の品質、種類、大小、形状、数量、現存状態等

④ 会社、組合の総会の議事

⑤ 支払停止の状況等

⑥ 動産、不動産の占有の状況等

⑦ 財産目録の調整

(イ) 公正証書にする目的
将来の争いを防ぐ目的で、現状をあるがままに確定しておくためのものであり、証拠保全手段の一つです。

(ウ) 事実実験公正証書の具体例

① 貸金庫開披点検に関するもの

・貸金庫の中に何が保管されているかを明らかにするため。

② 特許権、実用新案権、工業上のノウハウ等知的財産権の保全に関するもの

・特許の関係で特許権の成立以前から同様の発明が既に存在し、使用されていたことにより成立する「先使用権」の存在を証明する物品や書類・記録などの存在を明確にして、後日の紛争に備えるため。

③ 弁済提供の目撃に関するもの

④ 土地の境界に争いがある場合における「現場の状況の確認・保全」に関するもの

⑤ 株主総会の議事の立会・見聞に関するもの

⑥ 相続財産目録作成のいきさつに関するもの

⑦ 人の意思表示や供述の内容に関するもの

・尊厳死の意思表示

・企業秘密に関する資料を持ち出した者からの「その動機や経過」などに関する供述

(エ) 嘱託人ら関係者の供述を録取する形の事実実験公正証書
公証人が、嘱託人らの供述を録取し、その過程及び結果を公証人自身が体験したものとして作成する公正証書のことです。
(事例)
尊厳死宣言公正証書


(3) 公正証書の作成が必要的とされる契約等

① 任意後見契約書(任意後見契約に関する法律3条)
任意後見契約とは、本人が、契約の締結に必要な判断能力を有している間に、後見人になってもらいたい人を選任し、その人との間で、将来、自己の判断能力が不十分になったときの「(ⅰ)後見事務の内容」と「(ⅱ)後見する人(任意後見人といいます)」等が記載されている契約のことです。

・任意後見契約は、公正証書によってしなければなりません。

② 事業用定期借地権設定契約書(借地借家法23条)
事業用借地権設定契約とは、借地借家法の適用される土地の賃貸借契約方法の一つで、「(ⅰ)契約期間10年以上30年未満又は30年以上50年未満で、契約期間の期限到来により契約が終了する、(ⅱ)原則として更地返還、(ⅲ)土地利用上の用途は事業用に限られている」等が記載されている契約のことです。

・事業用定期借地権設定契約は、公正証書によってしなければなりません。

③ 規約設定(建物の区分所有等に関する法律32条、67条2項)
マンションの分譲業者が、分譲前に区分所有建物及び敷地の権利関係について、原則とは異なった権利関係を設定して分譲しようとする場合が、その一例です。

④ 企業担保権の設定・変更(企業担保法3条)
企業担保権の設定又は変更を目的とする契約は、公正証書によってしなければなりません。

⑤ 拒絶証書(手形法44条・77条1項4号、小切手法39条、拒絶証書令1条~3条)
拒絶証書は、公正証書によってしなければなりません。
(拒絶証書の意義)
手形・小切手の遡及権の保全に必要な行為をしたこと及びその結果を証明するための公正証書のことです。


(4) 公正証書の作成が有用とされる契約等
公正証書の作成が必要的とはされていないが、下記のように公正証書の作成が有用(役に立つ)とされている場合があります。

① 借地借家法22条の定期借地権、同38条の定期建物賃貸借
上記条文は、公正証書の作成を契約成立の要件とはしていないが、「公正証書による等書面によって契約をするとき」に限り効力を有するものとされています。

・この条文は、公正証書による作成が最も望ましいことを示唆するものです。

* (ⅰ) 借地借家法22条(定期借地権)の条文
存続期間を50年以上として借地権を設定する場合においては、第9条及び第16条の規定にかかわらず、契約の更新及び建物の築造による存続期間の延長がなく、並びに第13条の規定による買取の請求をしないこととする旨を定めることができる。

* この場合においては、その特約は公正証書による等書面によってしなければなりません。

(ⅱ) 第9条(強行規定)の条文
この節の規定に反する特約で借地権者に不利なものは、と無効とする。

(ⅲ) 第16条(強行規定)の条文
第10条,第13条及び第14条の規定に反する特約で借地権者又は転借地権者に不利なものは、無効とする。

② 官公庁への申請・届出等
行政官署への申請、届出等にも、公正証書が用いられることがあります。
(事例)

(ⅰ) 離婚時年金分割制度に関し、厚生労働大臣に対する年金分割の請求。

(ⅱ) 婚姻、離婚等の届出に関する不受理の申出、不受理申出の取下げ


(5) 公正証書の効力

ア 証拠力
裁判になった場合、私人間で作成した契約書よりも信頼性のある証拠として取り扱われます。

① 形式証拠力
作成された文書が、真正に作成されたものと認められる効果のことをいいます。

・公正証書は公文書であるので、真正に成立したものと推定されるので、挙証する者は、成立の真正について証明する必要がありません。

② 実質的証拠力
文書の内容が、立証事項の証明に役立つ効果のことをいいます。

・実質的証拠力には、文書が真正に成立したと推定する効果は及びません。

③ 確定日付の効力
公正証書には、確定日付があるので、その証書に記載された日に成立したものと認められる効果を有します。

イ 執行力
金銭の一定額の額の支払(又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付)を目的とする請求について「公証人が作成した公正証書で、」債務不履行があった場合は、相手方が、直ちに強制執行に服する旨の文言が記載されている証書(執行証書)」には、確定判決と同様の執行力(民事執行法第22条5号)があります。
(請求債権の例)
「① 貸付金債権 ② 売買代金債権 ③ 賃料債権」等
(差押方法の具体例)
相手方が約定に違反して金銭の支払いを怠った場合は、直ちに相手方の財産(不動産・家具等の動産・給料・預金通帳・売掛金等)を差し押さえ、競売手続をするなどして債権を回収することができます。

・ただし、競売をして債権を回収をするのは、不動産や動産の場合のみで、給料・預金通帳・売掛金については、差押えだけで強制執行の目的を達成します。

ウ 執行証書
執行証書とは、「公証人が作成した公正証書で、債務不履行があった場合は、相手方が、直ちに強制執行に服する旨の文言が記載されている証書(執行証書)」で、確定判決と同様の執行力(民事執行法第22条5号)があるものをいいます。
(執行証書の要件)
公正証書が執行証書となるためには、下記の要件が必要です。

① 証書が公証人の権限内において正規の方式により作成されたものであること。

② 金銭の一定の額の支払(又はその他の代替物や有価証券の一定の数量の給付)を目的とする請求についての公正証書であること。

③ 債務者が支払わないときは、直ちに強制執行に服するとの陳述(執行受諾文言)が記載されていること。


(6) 「公正証書による遺言書」・「自筆証書による遺言書」
遺言書には、大きく分けて「自筆による遺言書」、「公正証書による遺言書」があります。その手続・効力には下記のような相違があります。

ア 自筆による遺言書
遺言者が、「遺言書の全文・日付・氏名」を自署し、これに押印することによって成立する遺言書です。なお、遺言の執行に当たっては、相続人等が遺言書を開封せず、家庭裁判所で開封し検認してもらうことが必要です。

* 遺言書の詳細は、「当事務所ホームページの該当欄」をご覧ください。
(こちらをクリックしてください。)

イ 公正証書による遺言書
公正証書による遺言書は、家庭裁判所の検認が不要で、その公正証書を使用して遺言の執行をすることができます。
(公正証書による遺言書の方式)

① 公証人と、2人以上の証人の立会い。

② 遺言者が、公証人に遺言の趣旨を口授し、公証人がこれを筆記して、遺言者及び証人に読み聞かせ又は閲覧させて、遺言者及び証人が筆記の正確なことを確認した後、各自これに署名・押印する。

③ 公証人が、その証書は、方式に従って作成されたものである旨を付記して、署名・押印する。


(7) 極度額(上限額)の定めのない個人の根保証契約について(令和2年4月1日施行)

ア 極度額(上限額)の定めのない個人の根保証契約
個人(会社などの法人は含まれません。)が保証人になる根保証契約については、保証人が支払う金額の上限となる「極度額」を定めなければならなくなりました。

* ① 「極度額」を定める方法
書面等により、当事者間の合意で定めることが必要です。

② 極度額の定めのない保証契約の効力
無効となります。

イ 特別の事情による保証の終了
個人が保証人になる根保証契約については、保証人が破産したときや、主債務者又は保証人が亡くなったときなどは、その後に発生する主債務は保証の対象外となります。


(8) 公証人による保証意思確認手続の新設(令和2年4月1日施行)

ア 公証人による保証意思確認手続
個人が事業用の融資の保証人になろうとする場合は、公正証書を作成しなければならず、公証人は、公正証書作成に当たり、保証人になろうとする者に対し保証意思の確認をしなければならなくなりました。

* 保証意思確認の手続を経ずに保証契約をした場合
その保証契約は、無効となります。

イ 保証意思確認の手続は、主債務者の事業と関係の深い下記のような者については不要です。

① 主債務者が法人の場合

(ⅰ) その法人の理事、取締役、執行役

(ⅱ) 議決権の過半数を有する株主

② 主債務者が個人の場合

(ⅰ) 主債務者と共同して事業を行っている共同事業者

(ⅱ) 主債務者の事業に現に従事している主債務者の配偶者

ウ 公証人による保証意思確認手続の流れ

① 公証人役場に行く
保証人になろうとする者は、保証契約を締結する前に、原則として公
証人役場に出向いて、「保証意思確認の手続(保証意思宣明公正証書作成の嘱託)」を行います。

(ⅰ) 手続の期日
保証意思宣明公正証書は、保証契約締結の日前1か月以内に作成されることが必要です。

(ⅱ) 代理人による手続
この手続きは、代理人よることはできません。

② 保証意思の確認
公証人から、保証人になろうとする者が、保証意思を有しているかを確認されます。

・その後、所要の手続を経て、保証意思が確認されれば、公正証書(保証意思宣明公正証書)が作成されます。

* 公証人による確認内容の例

(ⅰ) 保証しようとしている主債務の具体的内容を認識しているか。

(ⅱ) 保証することで、自らが代わりに支払をしなければならなくなるというリスクを負担することを理解しているか。

(ⅲ) 主債務者の財産・収支の状況等について主債務者からどのような情報の提供を受けたか。

(ⅳ) 保証人になろうと思った動機・経緯。

③ 保証意思確認の手続費用
1通につき、約金1万1,000円位です。


(9) 情報提供義務の新設(令和2年4月1日施行)

ア 保証人になることを主債務者が依頼する際の情報提供義務
事業のために負担する債務について、保証人になることを他人に依頼する場合には、主債務者は、保証人になるかどうかの判断に資する情報として下記の情報を提供しなければなりません。

① 主債務者の財産や収支の状況

② 主債務以外の債務の金額や履行状況等に関する情報

* 上記のルール
「事業融資」に限らず、「売買代金」や「テナント料」など融資以外の債務の保証をする場合にも、このルールが適用されます。

イ 主債務の履行状況に関する情報提供義務
主債務者の委託を受けて保証人になった場合は、保証人は、債権者に対して、主債務についての支払状況に関する情報の提供を求めることができます。

* この情報提供
法人たる保証人も求めることができます。

ウ 主債務者が期限の利益を喪失した場合の情報提供義務
債務者が、分割払金の支払を遅滞したときなどに、一括払の義務を負うことを「期限の利益喪失」といいます。

・そのため、保証人が個人である場合には、
債権者は、主債務者が期限の利益を喪失したことを債権者が知った時から2か月以内に、その旨を保証人に通知しなければなりません。

* 期限の利益を喪失すると
遅延損害金の額が大きく膨らみ、早期にその支払をしておかないと、保証人は多額の支払を求められることになります。

以上