売買―手付

今回は民法の回です。

今回から数回にわたって、民法555条の「売買」についてお話をさせていただきます。

「売買」とは、当事者の一方(売主)がある財産権の移転を約束し、相手方(買主)がこれに対してその代金を支払うことを約束すれば成立します。コンビニでおにぎりを買う場合など、皆さんにとって最も身近な契約ではないでしょうか。

コンビニのおにぎりからマイホームまで、売買契約の対象は様々ですが、高額な売買契約の場合、簡単に契約を解除されては困ります。
そこで、我が国の民法では、売買に付随する契約として「手付」(557条)という契約を定めています。
「手付」とは、売買などの契約の際、一方から他方へ(売買の場合は買主から売主へ)支払われる金銭や有価物をいいます。手付の額は、代金の1割から2割が相場とされているようです。
手付にはさまざまな機能がありますが、主なものとして、契約成立の証拠とされる証約手付、解除権留保の対価とされる解除手付、債務不履行の場合の違約金とされる違約手付があります。

ところが、この手付、契約の際にどのような趣旨の手付であるかが定められていない場合がけっこうあるのです。そのため、差し入れられた金銭がそもそも手付であるのか、また、手付であるとしてどのような趣旨の手付であるのか、という問題が生ずるのです。
まず、手付であるかについては、その金額の多少によって判断されることが多いようです。代金の半分を差し入れたとなれば、それは手付というより債務の一部履行と考えるのが自然でしょう。
次に、どのような趣旨の手付であるかについて、民法557条は、「当事者の一方が履行に着手するまでは、買主は手付を放棄して解約が可能、売主は手付の倍額を買主に返して解約が可能」と定めていますので、原則として解約手付であると解釈されます。ただし、この規定は任意規定であるため、これと異なる趣旨の手付の合意も禁止されていません。そこで、ある手付の合意がなされた場合、557条の解約手付の趣旨を排除するものであるのかどうかが問題となります。この点について判例は、違約手付の合意があった事案について、その手付は同時に解約手付でもあり得るという判断を示しました。

最後に557条について、「履行の着手」、「当事者の一方」の意義をどのように考えるかという問題が残ります。
判例は、この問題について、履行の着手とは「客観的に外部から認識し得るような形で履行行為の一部をなし又は履行の提供に不可欠な前提行為をすること」という基準を示しました。
そして、履行に着手する「当事者の一方」とは誰のことなのかについては、解除される側のみを指し、自ら履行に着手した者は、相手方が履行に着手するまでは解除権を行使できると判断しています。

 

今朝のお供、
The Stone Roses(イギリスのバンド)の『The Stone Roses』。
再結成の話題で持ち切りですね。

(佐々木 大輔)