相続

当事務所にはさまざまな依頼がありますが、相続登記でいらっしゃる方もたくさんいます。

そこで今回は人の権利がいつ発生するのかを考えながら、相続についてお話します。

お母さんのお腹の中にいる赤ちゃん(胎児)は、相続の権利がある「人」でしょうか?
胎児にも生命が宿っている以上権利があるという意見もあるでしょうし、実際に生まれてくるまではまだ権利が無いのではないかという意見もあるでしょう。
では、法律の世界ではどのように考えているのか。
民法を見てみると、権利を取得したり義務を負うこととなる能力の始まりは出生による、と書かれています。ちょっと分かりにくいですね。
「出生」とは、お母さんの体から胎児の全身が出ることをいうと考えるのが民法の世界では一般的です。
つまり胎児の段階では、まだ権利や義務は発生しないのです。
ところが裁判所は、相続や遺贈については、例外的に胎児はすでに「生まれたものとみなされる」と考えて、無事に誕生した場合に限り、相続の開始時点にさかのぼり相続権を取得できるとしています。
たとえば、お父さんが1月1日に亡くなった場合、胎児の段階では相続権はありませんが、その後無事に誕生すれば、1月1日にさかのぼって相続権を取得することになります。

ただし登記実務の世界では、胎児が相続や遺贈の対象となった場合には、胎児名義で、権利を取得したことを登記することができるのです。
裁判所の考え方によれば、1月1日の時点ではまだ生まれていませんから、相続の権利がありません。
一方では認められないことが他方では認められるのは、矛盾しているようにも思われますが、これは両方とも「胎児の利益保護」を第一に考えた結果なのです。
裁判所は、出生後に得られるはずの相続権を胎児の段階で誰かに侵害されることを防ぐため、そして登記実務は、胎児の段階で相続権を認めることで胎児名義の登記を可能として相続権を明確にアピールできるようにするため、このような理論を構成しているのです。

 

今朝のお供、
COLDPLAY(イギリスのバンド)の『美しき生命』。

 

(佐々木 大輔)