今日は、私も注目していた、最近の2つの裁判に関するお話を。
No.49で、昨年7月参院選における「1票の格差」についての高等裁判所判決をテーマに書きました。一連の裁判は最高裁判所に上告され、現在も係属中です。
一方、09年8月衆院選で最大2.3倍あった「1票の格差」について、3月23日、一足先に最高裁の判決が出されました。
全国の有権者が「法の下の平等を保障した憲法に反する」として選挙の無効を求める裁判を起こしていたものです。
この訴えを受けて、最高裁は、小選挙区の区割りを「違憲状態」と判断しました(ただし、選挙無効請求は棄却)。
これまで最高裁は、「1票の格差」が3倍未満の衆院選はすべて「合憲」としており、「違憲状態」と判断したのは今回が初めてのことです。さらに最高裁は、現在採用されている「1人別枠方式」(300議席のうち47議席を各都道府県に1つずつ割り振り、残り253議席を人口比率に応じて配分する方式)が、格差の主な要因であると述べており、国会では早急な選挙区割りの見直しが必要となるでしょう。
もうひとつ。No.45でとり上げた非嫡出子の裁判について。
最高裁の大法廷に回され、民法第900条の規定について憲法判断がされるのではないかと、大いに注目を集めていた裁判でした。
この裁判は、被告の嫡出子と原告の非嫡出子が法定相続分どおり2対1の比率で相続したことに対し、原告が相続分を平等とするように求めていたもので、そもそも民法第900条の相続分規定が憲法に反するのではないかと主張していたものです。
しかし、原告と被告の間で裁判外和解が成立したため、3月9日、訴えの利益を欠くとして原告の訴えは却下されました。
民事訴訟法では、裁判をするためには「訴えの利益」が必要であると規定しています。
訴えの利益とは、請求の対象となっている権利または法律関係の有無について、裁判所によって判断を下されることが当事者間の争いを解決するために有効かつ適切であることをいいます。
本件では、当事者同士で話し合いがついた以上、裁判所が判断を下す必要はなくなったということです。
そのため、結局、憲法判断もされることなく終了しました。
大法廷に回され、民法第900条を合憲とした平成7年決定が覆る可能性もあっただけに、肩透かしを食わされた気も・・・。
(佐々木 大輔)
申し訳ありませんが、4月、5月のブログについては、都合により2週間に1回の更新とさせていただきます。
No.47で詐欺罪についてお話させていただきましたが、今回はその続きを。
詐欺罪とは、「財物等を入手するために相手を騙し、騙された状態にある相手が渡したその財物等を受け取ること」で成立する犯罪です(専門的な定義はNo.47をご覧ください)。
では、自動販売機のジュースを入手しようとする目的で、硬貨の代わりに金属片を投入口に入れて、ジュースを入手したとします。この場合、詐欺罪が成立するでしょうか?
自動販売機に金属片を硬貨だと思わせて、誤作動させたのだから、詐欺罪が成立するのではないか・・・とも思いますよね。
しかしこの場合、詐欺罪は成立しないのです。
なぜなら、詐欺罪というのは、人の錯誤(騙された状態)を利用する犯罪ですから、本来的に「人」に向けて行われる犯罪なのです。
つまり、自動販売機は機械であって人ではないので、詐欺罪が対象とする騙す相手には当たらないのです。
成立するのは、刑法235条の窃盗罪です(窃盗罪についてはまたの機会に)。
同じようなケースとして、拾った他人のキャッシュカードを使って現金自動支払機から現金を引き出した場合、磁石を使ってパチンコ玉を当たり穴に誘導して玉を流出させた場合も、詐欺罪ではなく窃盗罪になります。
次はちょっと事例を変えて。ジュースを入手しようと金属片を投入口に入れたものの、自動販売機が読み取らずジュースが出てこなかった場合には罪になるでしょうか?
詐欺罪が成立しないことはもうお分かりかと思いますが、窃盗罪はどうでしょう?
何も出てこなかったわけだし、ちょっとしたいたずらで許されるのではないか・・・。
いえいえ、そんなに甘くはありません。ほんの出来心だったとしても、ジュースを入手しようという気持ちがあったのですから、この場合でも窃盗未遂罪が成立します(窃盗罪は未遂も処罰されます)。
法定刑について。窃盗罪は10年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
今朝のお供、
oasis(イギリスのバンド)の『(WHAT’S THE STORY)MORNING GLORY?』。
oasisファンの友人は、oasis解散後ヴォーカルのリアムが新たに結成したバンドBEADY EYEの新作をさっそく買ったようですが、私は未だ手が伸びず、棚から取り出すのはoasisの大好きな2ndアルバムです。
追伸:先週のブログ(No.50)、多くの方にご覧いただき、ありがとうございます。
(佐々木 大輔)
1月25日、仙台高等裁判所秋田支部において、昨年7月の参院選で生じた1票の格差が、「違憲状態」であるとの判決が出されました。全国8高裁6支部で選挙無効を求めた裁判のうちのひとつです。
同日の福岡高裁那覇支部では同じく違憲状態、高松高裁では昨年の東京高裁(午後の部)に次ぐ2件目の「違憲」判決が出されました(1月28日の福岡高裁でも「違憲」判決)。
投票価値の不平等が一般的に合理性を欠く状態であれば違憲状態と判断され、これが合理的な期間内に是正されない場合には違憲となります。
ただし、選挙無効の請求は、いずれの裁判においても棄却されています。
私たちは20歳以上であれば、1人1票の選挙権が与えられています。これだけを見ると、投票価値の平等は守られているのではないか、と思いますよね。しかしこれは形式的な平等であって、実際には住んでいる地域によって、投票価値に不平等な状態が生じているのです。
私の住んでいる秋田県を例にとると、鳥取県を1票とした場合、先の参院選では0.52票しかありませんでした。
これはどういうことかというと、鳥取県の有権者が投じた1票に対して、私が投じた1票は半分の価値しか無かったということです。
もちろん私は、少しでも日本が良くなればという願いを込めて1票を投じたわけですが、残念ながら私の切なる声は、鳥取県の有権者の声に比べると半分の重さでしか受け止めてもらえなかったということなのです。
悔しいと思いませんか(決して鳥取県の有権者を恨んでいるわけではありません)。
そしてこれは、悔しいという感情論ばかりで済む問題ではなく、結果として「重みのある1票」を与えられた一部の有権者によって選出された議員が、法律を制定したり、総理大臣を選出したりするという、非民主主義的な状態を生むことになるのです。
一方で、地域の実情もあるでしょうから、調整は必ずしも簡単ではないとも思われます。
しかしながら、いかに難しい問題であろうとも、法律家などの専門家に解決を任せきりにするのではなく、私たちも一緒になって、法の下に平等であることを保障した憲法第14条を守っていかなければならないのです。
今朝のお供、
THE DOORS(アメリカのバンド)の『ハートに火をつけて』。
思い入れのあるロック・アルバム10枚に入るCDです。
私の部屋には、ヴォーカリストであるジム・モリソンのポスターが飾ってあります。
(佐々木 大輔)