死神の精度

―俺が仕事をすると、いつも降るんだ―

そろそろ梅雨の時期ですね。雨の季節になると思いだす言葉、伊坂幸太郎の短編集『死神の精度』の文庫版に書かれたキャッチコピーです。

小説の主人公である千葉は、クールな死神。
死神界の「調査員」である千葉の仕事は、定期的に人間界に派遣され、ターゲットとなっている人間を7日間観察し、その生死を決定するというもの。そして千葉が仕事をする時、いつも雨が降っています。

登場する死神は、千葉に限らず、皆システマチックに仕事をこなし、情に流されることもないので、ほとんど例外なく「可」、すなわちターゲットについて「死」の判断を下すこととなります。

千葉は人間界の常識や価値観に疎く、話す内容もちょっとずれていて、人間との会話が微妙にかみ合いません。
そればかりか千葉は、(人間にとっては)気取ったセリフも大真面目で口にしますが、死神が発する言葉と思えば不思議と嫌味もこそばゆさもありません。むしろ、ちょっと可笑しいくらい。
そんな千葉が、仕事のためとはいえ、あるときは名探偵さながらに殺人事件の推理を展開し(「吹雪に死神」)、そうかと思えばターゲットの恋愛相談にも応じ(「恋愛で死神」)、さらには美容院をひとりで営む老女の奇妙なお願いまでも聞き入れます(「死神対老女」)。

本作品は連作短編集であり、収められた各短編はそれぞれ関連しています(どのように関連しているかは、読んでからのお楽しみ)。
素敵な場面はたくさんありますが、私が最もお気に入りなのは、「晴れを見た例しがない」千葉が、初めて晴天を望んだとき、隣に並んで眩しそうにするターゲットの顔を見て、「人間というのは、眩しい時と笑う時に、似た表情になるんだな」とつぶやく場面。それに対して、「眩しいのと、嬉しいのと。(言われてみれば、意味合いも)似てるかも」と応じるターゲット。
全編雨雲が垂れ込めた世界に差し込んだ爽やかな光には、希望が宿り、胸が躍ります。

 

今朝のお供、
Creedence Clearwater Revival(CCR。アメリカのバンド)の曲「雨を見たかい」。

(佐々木 大輔)