アーカイブ:2025年2月

読書熱

昨年末から読書熱が再燃しておりまして、予定の無い休日は、日がな一日読書にふけっております。
欲すると出合いも多くなるもので、年始から良い本に出合うことができました。
また、先日はついに、ずっと気になっていたある作家の全集を、清水の舞台から飛び降りる覚悟で購入してしまいました。
この全集については、いつになったら読破できるのかわかりませんが、少しずつ読み進めながら、時間をかけてじっくり楽しみたいと思います。

さて、最近読んだ作品の中で強く感銘を受けたのは、鈴木結生(ゆうい)著『ゲーテはすべてを言った』です。
ご存知の方もいらっしゃると思いますが、先日発表された第172回芥川賞受賞作です。

――ゲーテの専門家である主人公の大学教授が、レストランでたまたま目にしたゲーテのものとされる言葉。しかし彼は、それがゲーテの言葉であるかどうか、すぐにはわからない。自分の知らないゲーテの言葉。ゲーテ研究の第一人者であるとの自負のもと、彼は膨大な原典を紐解き、これまでの研究生活の記憶を総動員して、その言葉の出典を追究していく――

「言葉」とは何か。件のゲーテの言葉を探る過程で思索が深められていきます。
さらには同僚が起こしたある事件を通じて、創作や学問とは何かについても問題提起がなされます。はたして創造とねつ造、引用と盗用の境目はどこにあるのでしょう。

タイトルに「ゲーテ」なんて入っているし、難しいのかなと敬遠してしまいがちですが(私もちょっと身構えた)、読んでみるとミステリのような種明かしや伏線回収があったり、エンタメ小説としても楽しむことができます。
この辺りは作者がファンだという伊坂幸太郎さんの影響かな。

一方で、古今東西のさまざまな言葉が引用され、場合によっては衒学的(げんがくてき)とのそしりを免れない危うさもありますが、前述のようにエンタメ性とのバランスが絶妙であり、作品中に横溢する過剰なまでの知識でさえ、逆にこの作品のエンタメ性を増すためのしかけのようにも思えます。
引用によって物語を構築していくさまは、これも作者がファンだという大江健三郎さんの影響かな。

なお、タイトルの「ゲーテはすべてを言った」とは、例えば誰の言葉か分からない名言や、自分が思いついた格言めいた言葉に「ゲーテ曰く」と付け加えることで、その言葉の信ぴょう性や説得力が増すというドイツのジョークからとられたものだそう。

鈴木結生さんは大学院在学中の23歳。久しぶりに大型新人の登場という風格があります。
芥川賞にしても直木賞にしても、受賞作はたいてい読むようにしていますが、「これは凄い」と思える作品に出合えるのは数年に1冊くらいのものです(上から目線ですみません。好みの問題もありますので悪しからず)。

本作は三部作の2作目で、近いうちに完結編が発表されるとのこと。
その前に前作「人にはどれほど本がいるのか」を読まなくては。
でもまだ書籍化されていないんですよねえ(文芸誌『小説トリッパー』2024年春号に収録)。
早く書籍化されないかなあ。


今朝のお供、

Maroon 5(アメリカのバンド)の『Songs About Jane』。

                              (司法書士 佐々木 大輔)