アーカイブ:2015年7月

天使の分け前

3月まで放送されていた朝の連続テレビ小説の影響により、ウイスキーブームに拍車がかかったことで、ニッカウヰスキーの代表的なブランドであるシングルモルト「余市」の原酒が不足してしまい、これまで熟成年数ごとに商品化されてきた「余市」は、今後、ノンエイジ(熟成年数を表示しない)のみの商品に集約されるとの話。
ウイスキーが好きな私としては寂しいニュースですが、基本お人好しな性格ですから、多くの人がウイスキーを楽しんだ結果であれば仕方がないと溜飲を下げています。

ウイスキーは、樽で長期にわたって熟成させる必要があるため、いったん原酒が不足してしまうと、すぐに増産というわけにはいきません。再びお目にかかるまで、短くても数年(一般的なバーボンはこのくらい)、たいてい10年以上を要するのです。
もちろん、この熟成こそが、ウイスキーをコク深く、美しい香りをまとった琥珀色の芸術品へと変身させるのですが、実は、熟成している間にウイスキーは少しずつ蒸発してしまうのです。1年に2パーセントずつ、スコッチウイスキーだけでも毎年ボトル1億6000万本分のウイスキーが消えてしまうといわれています。
何とももったいない話ですが、古来、人々は、「天使に分け前を与えることで、美味しいウイスキーを手に入れることができるのだ」と考え、この蒸発した分を「天使の分け前」とロマンティックに呼んでいるのです。

私は、ブレンデッドもバーボンもシングルモルトも(つまり、何でも)好きで、その日の気分によって飲み分けています。
バランスのとれたブレンデッドウイスキーにブレンダーの職人芸を感じながら、穏やかに一日の終わりを愉しむのもいいですし、ラフロイグやアードベッグに代表される強烈な個性をもつアイラ島のモルトウイスキーで、翌日の活力を漲(みなぎ)らせるのもまたいいものです。

いつもよりボリュームを絞り気味にして好きな音楽をかけ、ゆっくりとグラスを傾ける。
夜の静寂(しじま)に身も心も溶けていくような、ゆるやかなまどろみ。
目の前を天使が通り過ぎたような気がしたのは、グラスを重ね過ぎたせいなのかな。

 

今朝のお供、
MUSE(イギリスのバンド)の『Drones』。

(佐々木 大輔)