12 相続時遺産分割前の「預貯金仮払制度」

(相続に関する当事務所の取扱業務)

① 相続登記申請の代理
相続登記申請手続事務の相談
相続登記に関する審査請求手続(不服申立手続)についての代理

② 遺産分割協議書等各種文案書類の作成代理
契約書等各種文案書類作成の相談

③ 公正証書作成の手続代理
公正証書作成手続の相談

④ 「相続放棄」・「限定承認」の申立

⑤ 遺産分割協議の調停申立書作成(裁判所への申立)
遺産分割協議の訴訟書類作成
調停申立書・訴訟書類作成事務の相談

⑥ 相続時遺産分割前の預貯金仮払手続の代理

(目次)

(1)仮払制度で遺産分割前に預貯金が引き出せる(民法第909条の2)

(2) 2つの払戻制度
ア 家庭裁判所の判断を経ずに払戻しができる制度
イ 家庭裁判所の判断により払戻しができる制度

(3) 仮払制度利用の際の必要書類

(4) 仮払制度を利用するときの注意点
ア 相続放棄ができなくなる可能性がある
イ 仮払分は遺産分割で調整される
ウ 遺言がある場合は仮払いができないことがある

(5) 要約

(1)仮払制度で遺産分割前に預貯金が引き出せる(民法第909条の2)
死亡した人の預貯金の仮払制度とは、相続人間で遺産分割協議が成立する前でも、相続人が単独で亡くなった人の預貯金口座から一定の金額まで引き出せる制度です。

* この制度は、2019年年7月1日(平成30年7月1日)に施行されました。この制度の導入によって、遺産分割が終了する前でも、各相続人が「当面の生活費」「葬儀費用」の支払いに充てるためお金が必要となった場合に、相続預貯金の払戻しが受けられるようになりました。

(2)2つの払戻し制度

ア 家庭裁判所の判断を経ずに払い戻しができる制度
各相続人は、亡くなった人の相続預貯金の内、金融機関の口座ごと(定期預金の場合は、明細ごと)に、下記の計算式で求められれる金額については、家庭裁判所の判断を経ずに、金融機関から単独で払戻しを受けることができます。

* ただし、同一の金融機関(同一の金融機関の複数の支店に相続預貯金がある場合は、その全支店)からの払戻しは金150万円が上限になります。

(単独で払戻しができる金額)

相続開始時の預貯金額×1/3×払戻しを行う相続人の法定相続分

(口座・明細基準)

(例)
相続人が、子供A、子供Bの2人で、相続開始時の預貯金額が一口座の普通預金900万円であった場合、Aが単独で払い戻しできる金額
金900万円×1/3×1/2=金150万円

イ 家庭裁判所の判断により払戻しができる制度
家庭裁判所に、遺産分割の審判や調停が申し立てられている場合に、各相続人は、家庭裁判所へ申し立ててその審判を得ることにより、相 続預貯金の全部又は一部を仮に取得し、金融機関から単独で払戻しを受けることができます。

* ただし、生活費の支弁等の事情により相続預貯金の仮払いの必要性が認められ、かつ、他の共同相続人の利益を害しない場合に限られます

(単独で払戻しができる金額)

家庭裁判所が、仮取得を認めた金額

(3) 制度利用の際の必要書類
本人確認書類の他に、以下の書類が必要となります。

ア 家庭裁判所の判断を経ずに払戻しができる制度の場合

① 被相続人(亡くなった人)の除斥謄本、戸籍謄本又は全部事項証明書
* 被相続人の出生から死亡まで連続したものが必要です。

② 相続人全員の戸籍謄本又は全部事項証明書

③ 預貯金の払戻しを希望する人の印鑑証明書

イ 家庭裁判所の判断により払戻しができる制度の場合

① 家庭裁判所の審判書謄本
* 審判書に確定表示がない場合は、更に審判確定証明書も必要です。

② 預貯金の払戻しを希望する人の印鑑証明書

(4) 仮払制度を利用するときの注意点

ア 相続放棄ができなくなる可能性がある
亡くなった人の預貯金を使ってしまった場合は、相続することを承認(単純承認)したとものとみなされます。よって、後に多額の借金や債務保証の事実が分かっても、相続放棄ができなくなります。

* ただし、葬儀費用のうち債務控除として認められている範囲内の使用であれば、単純承認に該当しません。

イ 仮払分は遺産分割で調整される
仮払制度を利用して払い戻した預貯金は、遺産分割協議において払い戻しを受けた相続人が取得するものとして調整されます。

ウ 遺言がある場合は仮払いができないことがある
遺言書により、特定の相続人あるいは法定相続人でない人に預貯金を遺贈する場合は、他の相続人は仮払制度が利用できない場合があります。

(5) 要約

ア 仮払制度の意義
相続における預貯金の仮払制度は、亡くなった人の預貯金を、遺産分割協議が調う前に、一定の金額まで払い戻すことができる制度です。

* 仮払いした預貯金の使途は問われず、相続人自らの意思で利用することができます。

イ 預貯金の払戻制度の方法は2つあります。

① 金融機関の窓口での払戻し(金融機関ごとに上限金150万円)
金融機関の窓口での払戻しは、金融機関ごとに相続人一人当たり金150万円です。必要書類を揃えれば、手続は比較的簡単です。

② 家庭裁判所の審判による仮払い(金額の上限なし)
家庭裁判所の審判による仮払いは、上限金額はありませんが、遺産分割協議の審判又は調停申立と一緒に行わなければなりませんので、手間が掛かります。