1 家族信託

(当事務所の取扱業務)

① 信託契約書作成・信託登記申請等の信託手続

② 家族信託手続

③ 金銭信託手続

④ 不動産管理信託手続

⑤ 土地信託手続

⑥ その他の信託手続

(目次)

1 信託の用語説明等

(1) 信託の用語説明

(2) 信託契約について

(3) 信託の種類について

(4) 信託の目的による分類

2 家族信託

(1) 家族信託の定義

(2) 家族信託組成のプロセス

(3) 家族信託契約書(案)の作成と内容説明

(4) 契約書の内容

(5) 家族信託活用事例

(6) 家族信託のパターン

(7) 家族信託の信託財産管理方法

(8) 家族信託契約と同時になすことを奨める2つの契約

3 信託と他の財産管理との比較等

(1) 任意代理・委任・寄託

(2) 委任

(3) 寄託

(4) 成年後見制度

(5) 後見制度と信託の利用

(6) 法定後見制度

(7) 法定後見制度・任意後見制度

(8) 遺言執行

4 相続税対策

5 様々な信託スキーム

(1) 受益者連続型信託

(2) 遺言代用信託

6 家族信託の代表的メリット・デメリット

(1) メリット

(2) デメリット

7 家族信託を検討する場合の例

(1) 自分自身(あるいは家族)の意思能力(判断能力)の低下に備えた対策

(2) 遺言に代わる資産の承継方法の検討(遺言制度との兼ね合い)

(3) 二次相続以降の資産承継対策

(4) 円満な事業承継対策

8 受益者代理人・受益者指定権者・信託監督人(受託者の監督)について

1 信託用語の説明等

(1) 信託の用語説明

① 信託
財産を持っている人(委託者)が、自分が信頼する人(受託者)に財産を託して、定められた目的に従って財産を管理、処分してもらい、財産から得られる利益を、定められた人(受益者)へ渡す仕組みのことです。

② 信託行為
財産を託すときの取決めで、その取決めをする方法としては、下記の3つの方法があります。

(ⅰ) 信託契約
「委託者」と「受託者」との契約によって、信託が設定されるもの。

(ⅱ) 遺言信託
「委託者(遺言者)」の遺言を通じて、信託を設定する形態の信託。

(ⅲ) 自己信託
「委託者」が、自分自身を受託者として、公正証書などの文書により、自己の財産を他人のために(場合によっては、「自己」のために)管理、処分する旨の意思表示をすることによって設定するもの。

* 「信託宣言」ともいう。

③ 信託契約
信託契約とは、「委託者」と「受託者」との契約によって、信託が設定されるものです。

(ⅰ) 遺言信託
「委託者(遺言者)」の遺言を通じて、信託を設定する形態の信託です。

(ⅱ) 遺言代用信託
「委託者」の死亡時に、「受益者となるべき者と指定された者」が受益権を取得する旨の定めのある信託です。

(ⅲ) 後継ぎ遺贈型の受益者連続信託
「受益者」の死亡により、順次、他の者が受益権を取得する旨の定めがある信託です。

* その信託がなされた時から30年を経過した時以後に、現に存する受益者が、その定めにより受益権を取得した場合は、その受益者が死亡するまで又はその受益権が消滅するまでの間、その効力を有します。

(ⅳ) 倒産隔離機能
信託財産は、「委託者」、「受託者」、「受益者」の信託当事者のいずれからも独立した財産となり、これら当事者に対する債権による差押え等は、原則として禁止される機能のことです。


(2) 信託契約について

① 「信託契約」とは
信託契約とは、「委託者」と「受託者」との信託契約の締結によって、信託が設定される契約のことです。

② 「委託者」とは
財産を託す者のことです。

③ 「受託者」とは
財産を託される者のことです。

④ 「受益者」とは
信託財産から生じた成果の給付を受ける者のことです。

⑤ 「信託財産」とは
託される財産のことです。

⑥ 「受益権」とは
信託財産からから生じた成果の給付を受ける「権利」と「監督権」のことです。

⑦ 「倒産隔離機能」のある「信託口座(民事信託口座)」とは
金融機関が「信託口座(家族民事信託のための倒産隔離機能を持つ口座)」を開設すると、金融機関に下記の義務が課せられます。そのため、多くの金融機関では、民事信託のための管理口座を取り扱っていません。

(ⅰ) 信託金融資産である預貯金につき、倒産隔離機能を確実にし、受託者の固有財産(相続財産)でないことを明らかにする保証与える。

(ⅱ) 信託口座開設後、信託関係者による悪用が無いかチェックする。

* 悪用行為を防ぐため、信託口座を開設する金融機関には、受託者にキャッシュカード発行しないところが多い。


(3) 信託の種類について

① 商事信託
営利を目的とし、信託報酬を得て、不特定多数から反復継続的に信託の営業行為を行う「信託業法」の適用を受ける信託のことです。

② 民事信託
営利を目的とせず、反復性がなく、信託業法の適用を受けない信託のことです。
(民事信託の例)

(ⅰ) 家族信託(いわゆる家族信託:法律上にこの文言はない)
認知症や介護施設への入所などに備え、財産を管理、運用、処分する権利を、信頼できる家族や親しい人等に託す信託のことです。

(ⅱ) 福祉型信託
高齢者や障害者のための生活支援・財産管理に民事信託を活用する信託のことです。


(4) 信託の目的による分類

① 自己信託
委託者が、自分自身を受託者として、公正証書などの文書により、自己の財産を他人のために(場合によっては、「自己のために」)管理、処分する旨の意思表示をすることによって設定するもの。

* 「信託宣言」ともいう。

② 自益信託
委託者=受益者となる信託。

* (ⅰ) 委託者自らが受益者となる信託です。

(ⅱ) 「贈与税」や「不動産取得税」などの課税関係は、生じません。

③ 他益信託
委託者≠受益者である信託。

* 利益が、第三者に移転したことになるので、贈与税が課されます。

④ 目的信託
受益者が存在しないため、受託者は受益者の利益のためではなく、信託の目的に従って、管理、運用、処分する信託です。

* ペット(動産)のように権利能力がないため受益者となることができないものでも、信託を設定することが可能です。


2 家族信託

(1) 家族信託の定義
家族信託とは、資産を持つ方が、特定の目的に従って、その保有する不動産・預貯金等の資産を信頼できる家族に託し、その管理、処分を任せる仕組みの信託です。

* ① 家族信託とは、一言でいうと、「財産管理の一手法」です。いわば、家族による家族のための信託(財産管理)といえます。

② 特定の目的の例
自分の老後の生活・介護等に必要な資金の管理及び給付等。

③ 家族・親族に管理を託すので、高額な報酬は発生しません。
したがって、資産家のためのものではなく、誰でも気軽に利用できます。

④ 家族信託は、節税のためのものではなく、家族の財産を、思う存分に、家族の希望に沿って管理、承継するための枠組みを作るためのものです。


(2) 家族信託組成のプロセス

① 「初期相談」と「事案内容」の把握

② 「問題点」の抽出

③ 「適用できるツール」の提示

④ 「報酬」や「実費」の見積

⑤ 「登場人物」の決定と面談

⑥ 「家族信託組成」の意思決定

⑦ 「設計図」の提示

⑧ 「契約書案」の作成

⑨ 「関係各所」との交渉

⑩ 「家族信託契約」の締結

⑪ 「登記等」の諸手続

⑫ 「家族信託」の運営管理


(3) 「家族信託契約書」(案)の作成と内容説明

ア 契約書の作成方法
契約書の作成方法には、下記の2つの方法があります。

① 公正証書による方法

* 信託口座を設けてくれる銀行がほとんどないので、税務署への申告の明確化のためにも公正証書による方法をとったほうがよい。

② 私署証書による方法

* その証書に法務局で確定日付をとって、証拠力を強めておいた方がよい。

イ 「家族信託契約書」(案)で決定しておく項目

(ア) 家族信託の目的と登場人物について

① 家族信託の目的

② 受託者兼受益者の氏名

③ 受託者の氏名

④ 二次以降の受益者の氏名

⑤ 受益者代理人等がある場合は、その氏名

⑥ 登場人物が欠けた場合の措置

(イ) 信託財産と登場人物の権限について

① 信託する財産の種類と内容

② 追加財産の取扱方法等

③ 受託者に対する権限と制約

④ 受益者が持つ権限と制約

⑤ 受益者代理人等が持つ権限と制約

(ウ) 状況変化への対応と契約の終了

① 契約の変更方法

② 契約の終了事由

③ 契約締結後の状況変化への対応


(4) 契約書の内容

① 信託の目的

② 信託の目的財産

③ 信託不動産の管理、運用及び処分の方法

④ 信託金銭の管理、運用及び使用の方法

⑤ 追加信託

⑥ 委託者兼当初受益者の身上監護への配慮

⑦ 受託者死亡後の委託者の権利

⑧ 受益者

⑨ 受益権

⑩ 受益権の内容

⑪ 受益権の処分の制限

⑫ 契約の変更

⑬ 受益権証書の不発行

⑭ 受託者に対する報告請求権

⑮ 信託の終了

⑯ 信託終了後の残余財産の帰属

⑰ 残余財産の引渡方法

⑱ 清算受託者の最終の計算の免除

⑲ 契約に定めのない事項

⑳ 信託財産目録

㉑ まとめ


(5) 家族信託活用事例(個人による活用事例)

① 認知症対策信託

② 配偶者認知症対策信託

③ 承継者指定型信託

④ 実家売却信託

⑤ 金銭贈与信託

⑥ 処分権委託型信託

⑦ 財産管理権分離信託

⑧ 障害者等支援信託

⑨ 生活再建支援信託

⑩ 承継者選択型信託

⑪ 遺留分給付型信託

⑫ 遺留分対抗型信託

⑬ 家督承継信託

⑭ 遺言機能包含型信託

⑮ 共有状態解消信託

⑯ 疑似隠居信託

⑰ 海外投資対応用信託

⑱ 受益権流通型信託

⑲ 永代供養信託

⑳ ペット信託

㉑ 夫婦財産契約型信託

㉒ ハッピー・マリッジ信託(入籍型)

㉓ ハッピー・マリッジ信託(非入籍型)

㉔ 遺言信託

㉕ 自己信託


(6) 家族信託のパターン

 家族信託を始めるときには、下記の3つのパターンがあります。

① 契約信託
委託者が判断能力のあるときに、受託者との間で信託の契約をしておくものです。

* 相続対策として家族信託を活用するには、契約信託が一般的です。

② 遺言信託
委託者の遺言を通じて、信託を設定する形態の信託です。

③ 自己信託
委託者が、自分自身を受託者として、公正証書などの文書により、自己の財産を他人のために(場合によっては、「自己のために」)管理処分する旨の意思表示をすることによって設定する信託のことです。

* 信託宣言ともいいます。

イ 契約信託のメリットと注意点

(ア) メリット
家族信託のスキームをどのように組み立てるかなど、信託内容の自由度は比較的高く、家族の状況に合わせて柔軟な対応ができます。

(イ) デメリット(注意点)
想定外の事態が起きたときの対応を含めて慎重に検討しなければなりません。


(7) 家族信託の信託財産管理方法

① 預貯金
全国のほんの一部の銀行を除いては、倒産隔離機能を有する「委託者甲・受託者乙・信託口」なる信託口座を取り扱っていません。

・そこで、信託口座を取り扱っていない銀行に口座を設ける場合は、受託者の既存の銀行口座とは別に、信託専用の「受託者名義の銀行口座」を設け、その口座に委託者から金員を振り込んでもらい、その口座で管理します。

* その場合、受託者の他の銀行口座と区別するため、その通帳に受託者の手書きで「委託者甲・受託者乙・信託口」と記載しておくべきです。なお、この口座は、残念ながら倒産隔離機能を有していません。

② 不動産

(ⅰ) 非農地(宅地・原野・山林等)の場合
不動産の引渡しを受けるとともに、受託者名義に「所有権移転及び信託」という登記申請をします。

(ⅱ) 農地の場合
農地の受託者は農家に限られます。農家が受託予定者になった場合、農業委員会の許可を得て正式に受託者となります。

・その後、受託者名義に「所有権移転及び信託」という登記申請をします。

(ⅲ) 建物
建物の引渡しを受けるとともに、受託者名義に「所有権移転及び信託」という登記申請をします。

③ 有価証券
野村証券等の証券会社では、「家族信託口座(倒産隔離機能を有する信託口座)」を取り扱っていますので、そこに「受託者名義の信託口座」を開設し、有価証券を管理します。

* 証券会社の信託口で預かれる商品(有価証券)の種類

A 国内株式・B 外国株式・C 円建て債券・ D 外貨建て債券
E 国内転換社債・F 外貨建て転換社債・J 個人向け国債

④ 動産
動産の引渡しを受け、「委託者甲・受託者乙・信託」の張り紙等をし、信託財産であることを明らかにして管理します。


(8) 家族信託契約と同時になすことを奨める2つの契約

 家族信託契約を締結する際は、同時に「下記の2つの契約」を締結することをお奨めします。
(理由)
委託者が提供した信託財産は受託者が管理しますが、本人の固有財産までは管理が及ばないし、その固有財産は委託者本人の財産として、信託財産とは別個独立しており、相続の対象となります。

・そこで、本人が判断能力を失った場合に備えて、「本人の身上監護を担う任意後見契約」を締結して、将来の後見人を選任しておくことや、「本人の相続につき「争族」を防止するために遺言書」を作成しておくことが肝要です。

① 家族信託契約

② 移行型任意後見契約

(ⅰ) 任意後見契約の意義
本人が判断能力を失う前に、本人の気の合う人を将来の後見人と定めておく契約のことです。

(ⅱ) 成年後見人の意義
本人が判断能力を失った場合は、利害関係人から家庭裁判所に申立てをすることにより成年後見人を選任することができます。

・ただし、成年後見人の選任は家庭裁判所の専権事項なので、申立人が推薦する成年後見人候補者が成年後見人に選任されるとは限りません。

・そこで、前記の任意後見契約を締結しておけば、気心の知れた人を成年後見人とすることができます。

③ 遺言書の作成

イ 「家族信託契約・移行型任意後見契約・遺言書の作成」では対処できない問題に対処するための契約等
この契約等には、下記の3つがあります。

① 終末医療に関する宣言書
本人が判断能力を失った場合に備えて、「入院時に、延命処置や胃ろうは不要」とするなどの意思表示をしておく書面のことです。

② 継続的見守り契約
本人に相続人や身の回りの世話をしてくれる人がいない場合に、自分の見守りを第三者に委託する契約のことです。

③ 死後事務委任契約
本人に相続人等の自分の死後の後始末をしてくれる人がいない場合に、死後の後始末を、金銭信託を含めて第三者に委託する契約のことです。


3 信託と他の財産管理との比較等

(1) 「任意代理」・「委任」・「寄託」

ア 任意代理
任意代理は、財産管理を任せる本人が、財産管理を任される代理人に対して、代理権を付与することで成立します(民法99条以下)。

* ① 任意代理
賃貸マンションの名義は、本人のままであり代理人に名義移転することは、通例ではないことです

代理権限には排他性はなく、代理権者と本人の間で権限が競合しています。

② 信託の受託者
賃貸マンションの名義が、受託者に移転され受託者は所有権という排他的権限を持って契約行為を行うのであって、委託者の出る幕はありません

イ 委任
委任は、財産管理を任せる委任者と、財産管理を任される受任者との間で委任契約が結ばれて、委任関係が成立します(民法643条以下)。

* ① 委任
委任の場合も、委任事務の対象となる財産は、委任者の下に留まります

② 信託の受託者
信託財産の名義は委託者から受託者に代わって受託者が、その財産管理の排他的権限を持つことになります

ウ 寄託
寄託は、財産管理を任せる寄託者と財産管理を任される受寄者との間で、寄託契約を結び、寄託する対象物を受寄者に引き渡すことにより効力を生じます。

① 寄託
寄託物の所有権は、寄託者から受寄者に移転しません

② 消費寄託
消費寄託とは、寄託の対象物を消費し、同種、同等、同量の物を返還するということです。

* 消費寄託の場合は寄託された物の所有権は寄託者から受寄者に移転されます

・仮に利息を付するとすれば、目的物を預かる時点で約束されるので、約束どおりの利息を支払わなければなりません。

③ 信託
信託は、受託者の裁量で信託財産の運用を行っていくので、信託配当は実績主義です

つまり運用に失敗すれば信託財産が減ってしまいます。この場合これを受託者が補填する必要はありません


(2) 成年後見制度

ア 成年後見制度の意義
成年後見制度とは、知的障害(認知症などを含みます。)などで法律行為をするために必要となる判断能力が不十分な者の財産や権利を保護し、支援する制度のことです。

イ 判断能力と「成年後見制度」・「信託」の利用

(ア) 成年後見制度
成年後見制度は、本人の意思能力、判断能力が著しく衰えた状態になって初めて利用が可能となります。

(イ) 信託
信託は、意思能力のあるうちに信託契約を締結しておけば、意思能力、判断能力が衰えた状態でも利用ができます


(3) 後見制度と信託の利用

財産管理が負担になるほど、身体的な衰えが大きい場合

身体的衰えが大きくない場合

ア 意思能力、判断能力が著しく衰え、自ら法律行為が行えない状態

成年後見制度―○
信託―○
(後見人が信託する)

成年後見制度―○
信託―○
(後見人が信託する)

イ 意思能力、判断能力は、著しく衰えていないので、自ら法律行為が行える状態

成年後見制度―×
信託―○

成年後見制度―×
信託―○


(4) 法定後見制度
法定後見制度には、判断能力の程度に応じて、下記の3段階があります。

① 後見

② 保佐

③ 補助

・法定後見制度では、家庭裁判所によって選ばれた成年後見人等(成年後見人・保佐人・補助人)が、本人の利益を考えて、本人の財産や権利を保護し、行動を支援します。


(5) 法定後見制度・任意後見制度

ア 法定後見制度とは
本人の判断能力が不足する状態になった後、その本人の「財産」や「権利」を保護しようとする制度です。

イ 任意後見制度
本人の判断能力の不足が生じる前に、自分の「財産管理」や「身上監護」の在り方について、本人が意思表明し、将来自分を保護することになる後見人を指名し、その行動を指図する制度です。

* ① 契約は、公正証書によることを要します

② 公正証書の内容は、契約当事者の意思に基づいて作成されたとの強い「推定力」を持ちます。


(6) 遺言執行

ア 遺言の意義
遺言は、遺言者の生前に、遺言者が死亡した後、遺言者の所有していた財産の保有、管理について書き残すものです。

イ 信託
信託は、下記の3つの方法でできるので、遺言と信託を組み合わせて行うことも可能です。

① 契約

② 遺言

③ 信託宣言(自己信託)

* 遺言執行においては、信託における受益権の概念は生じる余地がありません。


4 相続税対策
相続税が発生する見込みのある場合は、次の2つの対策を考える必要があります。

① 相続税を減らすこと
下記の非課税贈与制度を利用する。

(ⅰ) 年間金110万円の非課税特例

(ⅱ) 一生に1回、金2,000万円の夫婦間贈与の非課税特例

* 婚姻期間20年以上で、かつ居住用資産であること。

② 納税資金の確保

(ⅰ) 生前に不動産を売却し、現金化しておく。

(ⅱ) 相続税発生後に不動産を売却し、納税資金とする。

(ⅲ) 物納する。

(ⅳ) 融資を受ける。


5 様々な信託スキーム

(1) 受益者連続型信託
受益者連続型信託は、委託者が受託者に信託財産を信託するときの信託契約に、特約として、信託財産の将来の行く先々まで決めておくことができます。

・つまり、委託者が死亡した後も、委託者の意思によって受益者の後継ぎを指名できます。

* ア この特約のない一般的な信託契約の場合
受益者が亡くなれば、その保有する受益権は相続され、受益者の相続人が受益者になります。

イ 事例(子どものいない夫婦の場合)
夫が、委託者兼受益者となって、夫が亡くなった場合の受益者を妻としておくことができます。

ウ 連続型遺言の可否
遺言では、受遺者の次の受遺者を遺言で指定することはできません。


(2) 遺言代用信託

ア 遺言代用信託の意義
遺言代用信託とは、遺言と同様に本人の死亡によってスタートする信託です。

イ 信託法の条文
(委託者の死亡の時に、受益権を取得する旨の定めのある信託等の特例)

第90条 次の各号に掲げる信託においては、当該各号の委託者は、受益者を変更する権利を有する。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

(1) 委託者の死亡の時に、受益者となるべきものとして指定された者が受益権を取得する旨の定めのある信託

(2) 委託者の死亡の時以後に、受益者が信託財産に係る給付を受ける旨の定めのある信託

2 前項第2号の受益者は、同号の委託者が死亡するまでは、受益者としての権利は有しない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。


6 家族信託の代表的メリット・デメリット

(1) メリット

① 後見制度に代わる柔軟な財産管理を実現できる。
元気なうちから、資産の管理、処分を託すことで、本人が判断能力を喪失した後は、本人の意向に従った財産管理をスムーズに実行できる。加えて、積極的な資産運用、組替え(不動産の売却、置換え、アパート建設等)も、受託者たる家族の責任と判断で可能となります。

* 成年後見制度(法定後見・任意後見)は、負担と制約が多い。

(ⅰ) 毎年、家庭裁判所へ報告しなければなりません。

(ⅱ) 資産の積極的活用や生前贈与、相続税対策ができません。

② 法定相続の概念にとらわれない「想い」に即した資産承継を実現できます。
二次相続以降の資産承継者を指定することが可能です。
(例)
「長子承継」が難しい地主・経営者のケース。

* 通常の遺言では、二次相続以降の資産承継先を指定することができません。

③ 不動産の「共有問題・将来の共有相続」への紛争予防に活用できます。
共有者(又は共同相続人)としての権利・財産的価値は、平等を実現しつつ、管理処分権を共有者の一人に集中させることで、不動産の「塩漬け」を防ぐことができます。

* 共有不動産は、共有者全員が協力しないと処分できません。
将来、兄弟が、不動産を相続してしまうと、同様の問題が生じます。


(2) デメリット
特に有りません。

* 特に挙げるとすれば、「税務的メリット」が生じません


7 家族信託を検討する場合の例

(1) 自分自身(あるいは家族)の意思能力(判断能力)の低下に備えた対策

ア 資産の管理処分

(ア) 自分自身(あるいは家族)の意思能力(判断能力)が低下してしまった後でも、自分自身(あるいは家族)の名義の資産の管理、処分、運用を家族が明確な権限をもって、継続して行えるようにしておきたい。

(イ) 中長期にわたっての資産の承継対策が必要で、その途中で意思能力(判断能力)が低下しても、当初の設計に従った資産の承継対策を継続できるようにしておきたい。

* 不動産の購入、建設、売却、買換え等の資産の組換えなど。

イ 介護対策

(ア) 自分自身(あるいは家族)の介護に必要な費用を、自分自身(あるいは家族)の名義の資産を処分して捻出したい。

(イ) 自分自身(あるいは家族)が、介護で施設に入居することになった後に、家族が、自宅を管理、処分できるようにしておきたい。

ウ 不動産の共有対策
親族が、共有名義で保有している不動産の処分を検討したいが、将来的に、共有者間でのトラブル発生や、共有者が高齢による意思能力の低下や相続発生により、不動産の処分に支障を来たすおそれがある。

* 不動産については、相続後間もなく売却する以外は、共有にしない方がよい。なぜなら、管理、処分の方法が複雑となるので。

エ 成年後見制度との兼ね合い
自分自身(あるいは家族)の意思能力(判断能力)が失われた後、成年後見の利用を考えているが、「制度利用の手続」や「事務負担」を考えた場合、別の財産管理手法を検討したほうがよいと思う


(2) 遺言に代わる資産の承継方法の検討(遺言制度との兼ね合い)

ア 自分自身(あるいは家族)の相続が発生した際に、資産の凍結の期間をできるだけ短くしたい。

イ 自分自身が(あるいは家族)が正常な意思判断ができる間に、家族(推定相続人)全員の合意を、法律的に有効な形で書面に残しておきたい。

* 現行制度では、被相続人の生前に行った遺産分割の合意(生前分割)は無効である。


(3) 二次相続以降の資産承継対策

ア 自分自身に子供がいないため、妻(配偶者)の死後、代々引き継がれてきた資産は、兄弟の子(甥・姪)など、指定する者に引き継がせたい。

イ 子どもが障害者であるため、両親がなくなった後に、子どもが死亡した際の資産の分配先を、世話になった施設等とすることを決めておきたい。


(4) 円満な事業承継対策

ア 複数の兄弟がある中で、特定の1名に事業を承継したいが、他の兄弟の遺留分相当の金融資産は不足している。その上で、持株が分散しない策を講じたい。

イ 事業は、息子に承継することを考えており、タイミングを見て、株式の譲渡を考えているが、経営権を譲るにはまだ早いと考えている。


8 受益者代理人・受益者指定権者・信託監督人(受託者の監督)について

ア 受益者代理人
信託法139条に記載されています。
(受益者代理人の権限等)

第139条 受益者代理人は、その代理する受益者のために、当該受益者の権利(第42条の規定による責任の免除に係るものを除く)に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。
ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。
(以下、省略)

* ① 受益者代理人の権限も、信託契約で自由に定められます。

② 家族信託で最も怖いのは、「信託がストップすること」、「強制終了してしまうこと」ですから、受益者代理人(必要に応じて、予備受益者代理人も)を置いておくと、その受益者代理人が存在する限り、信託はストップしません。

イ 受益者指定権者
信託法139条に記載されている。
(受益者指定権等)

第89条 受益者を指定し、又はこれを変更する権利(以下、この条において「受益者指定権等」という。)を有する者の定めある信託においては、受益者指定権等は、受託者に対する意思表示によって行使します。

ウ 信託監督人(受託者の監督)
信託法132条に記載されています。
(信託監督人の権限)

第132条 信託監督人は、受益者のために自己の名をもって第92条各号(第17号、第18号、第21号及び第23号を除く)に掲げる権利に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

(信託監督人の義務)

第133条 信託監督人は、善良な管理者の注意もって、前条第1項の権限を行使しなければならない。

2 信託監督人は、受益者のために、誠実かつ公平に前条第1項の権限を行使しなければならない。

* 信託監督人の権限についても、契約で自由に定めることができます。