1 成年後見

(当事務所の取扱業務)

① 「成年後見・保佐・補助」の開始申立書作成
申立書作成事務の相談

② 「成年後見人・保佐人・補助人」としての業務の執行

(目次)

(1) 成年後見制度の意義

(2) 申立権者

(3) 後見・保佐・補助の開始審判の申立手続、取消手続

(4) 成年後見人の活動事例

(5) 成年後見制度と類似の制度(介護保険制度)

(6) 成年後見における死後の事務

(1) 成年後見制度の意義
高齢者や障害者の福祉のための制度であり、判断能力が不十分な人の権利を擁護する者を裁判所が選任し、その権利擁護者の権限の範囲も裁判所の審判によって決定する制度です。

* 具体的内容

① 成年後見制度の目的
判断能力の不十分な人達(痴呆性高齢者・知的障害者・精神障害者等)は、例えば、自己に不利益な契約であっても、その判断ができずに契約を締結してしまうおそれがあります。そこで、判断能力が不十分なため、契約の締結等の法律行為における意思決定が困難な人達につき、その不十分な判断能力を補い、本人が損害を受けないようにして、本人の権利を守ってあげるようにするのが成年後見制度の目的です。

② 精神上の障害により事理弁識能力を欠く状況にある者に対する後見制度の種類等
認知症や知的障害、精神障害などで、「(ⅰ)事理を弁識する能力を欠く状況にある者(成年被後見人)、(ⅱ)事理を弁識する能力が著しく不十分な者(被保佐人)、(ⅲ)事理を弁識する能力が不十分な者(被補助人)」が、社会生活において不利益を被らないように、支援者である「(ⅰ)成年後見人、(ⅱ)保佐人、(ⅲ)補助人」を家庭裁判所から選任してもらい、普通の生活を送ることができるようにします。


(2) 申立権者
「後見・保佐・補助」開始の審判の申立ては、次の者が行うことができます。

① 本人

② 配偶者

③ 四親等内の親族

④ 未成年後見人・未成年後見監督人

⑤ 検察官

⑥ 補助人・補助監督人

⑦ 保佐人・保佐監督人

⑧ 市町村長

* 市町村長は、65歳以上の痴呆性高齢者又は知的障害者・精神障害者について、その福祉を図るため特に必要があると認めるとき。


(3) 「後見・保佐・補助」開始審判の申立手続、取消手続

第1 後見開始等の審判の申立手続等

ア 申立先
本人(審判を受ける人)の住所地を管轄する家庭裁判所へ審判の申立てをします。

・その添付書類は、次のとおりです。

① 本人(成年被後見人等)

(ⅰ) 戸籍謄本(1通)

(ⅱ) 戸籍の付票(1通)

(ⅲ) 診断書(1通)

② 成年後見人候補者

(ⅰ) 戸籍謄本(1通)

(ⅱ) 住民票の写し(1通)

(ⅲ) 身分証明書(1通)

(ⅳ) 成年被後見人として登記されていないことの証明書(1通)

* 上記の他に、次のような書類の添付を求められる場合もあります。

(ⅰ) 介護保険の認定等の状況の分かる資料

(ⅱ) 知的障害者は、療育手帳

(ⅲ) 老齢年金・障害年金等の受給者は、年金手帳

(ⅳ) 精神障害者で、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている者は、精神障害者保健福祉手帳の写し

イ 後見開始等審判の審理
申立てを受けた家庭裁判所は、本人の意思能力について審理を行います。

① 調査・審問
家庭裁判所調査官が事実を調査(事情を尋ねたり、問合わせをすること)しますが、更に必要に応じて、裁判官が直接、本人や成年後見人候補者に会って事情を尋ねます。

② 鑑定
家庭裁判所では、更に必要に応じて、本人の判断能力について鑑定を行います。

ウ 審判前の保全処分
審判前の保全処分(家庭裁判所の管轄)は、成年後見人等が選任されるまでの間に、緊急事態が発生し、本人の財産管理等の必要が生じた場合に利用されます。

・家事審判における審判前の保全処分は、独立した手続ではなく、後見開始申立等の本案審判の申立があった場合にのみ申し立てることができます(家事事件手続法105条第1項)。

* 保全処分とは、下記のことです。

① 仮差押

② 仮処分

③ 財産管理者の選任

④ その他の必要な保全処分

(ア) 審判前の保全処分が必要なケースは、下記の場合です。

① 財産管理のため必要な場合

(ⅰ) 財産が散逸するおそれがあるとき
(例)
本人が、現金・預金通帳を管理する能力がなく、そのまま放置した場合、紛失・盗難・詐取などのおそれがあるとき。

(ⅱ) 財産を事実上管理している者の管理能力に問題があり、早急に財産の全容を把握・保存しなければならないとき

(ⅲ) 本人が、財産の処分の意味を理解しないまま処分してしまったり、処分しそうな状況にあるとき

(ⅳ) 日常生活に必要な銀行預金の払戻しや日常費用の支払ができないなど、日常生活に支障を来たすとき

② 監護のため必要な場合

(ⅰ) 病院への入院、老健施設への入所など、緊急な手続が必要なとき

(ⅱ) 扶養・介護する人がいなくて、本人の治療や介護を早急にしなければ日常生活に支障を来たすとき

(ⅲ) 老健施設からの退所、病院からの退院手続等を審判前にする必要があり、その事務処理をしたり、その後の生活に支障を来たさないような対応策が必要なとき

③ 財産保全のため必要な場合
(例)
本人が、意味も分からぬまま、「自宅の処分、遺産分割協議、その他の自己に不利益な行為等」をしたり、悪徳商法の被害に遭うおそれがあるとき

* なお、これらの行為をしてしまった場合は、本人が管理者の同意を得ないでした行為なので、取消しの対象となります。

(イ) 保全処分の種類の内容

① 財産管理者の選任申立
(審判の例)
後見開始の審判の申立について、審判の効力が生ずるまでの間、本人の財産管理者として下記の者を選任する。

秋田市山王六丁目A番B号  秋田太郎

② 本人の監護に関する指示
(審判の例)
下記記載の者を、治療のため○○病院(精神科)へ入院させる。

秋田市山王六丁目A番C号  秋田一郎

③ 後見命令
(審判の例)

(ⅰ) 後見開始の審判の申立について、効力が生ずるまでの間、本人の財産管理者として「秋田市山王六丁目A番B号 秋田太郎」を選任する。

(ⅱ) 本人は、後見開始の審判が効力を生ずるまでの間、財産上の行為(民法第9条ただし書記載の行為を除く)につき財産管理者である秋田太郎の後見を受けよ。

(ウ) 保全処分をなし得る要件

① 後見開始等の申立があり、本案が継続していること

② 本案の申立が認容される蓋然性があること

③ 必要性があること

(エ) 審判

① 審判の告知・通知
後見等開始の審判は、成年被後見人等となるべき者に通知し、かつ、申立人及び成年後見人等に選任される者に告知します。

② 審判の確定
後見等開始の審判は、即時抗告期間の経過によって確定し、効力を生じます。

* 確定の日は、審判の告知日の翌日から数えて2週間の期間満了日の翌日です。

③ 家庭裁判所による登記の嘱託
後見等開始の審判が確定した場合には、裁判所書記官は、遅滞なく東京法務局に対し、「後見等の登記」を嘱託(頼むこと)しなければなりません。

* なお、後見等の登記は、「東京法務局の専属管轄」です。

第2 後見開始等の審判の取消手続

ア 後見開始の審判の取消し(民法第10条)
精神上の障害により事理弁識能力を欠く状況が消滅したときは、家庭裁判所は、本人、配偶者、4親等内の親族、後見人、後見監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判を取り消さなければならない。

イ 保佐開始の審判等の取消し(民法第14条)
精神上の障害により事理弁識能力が著しく不十分である者につき、その原因が消滅したときは、家庭裁判所は、本人、配偶者、4親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人又は検察官の請求により保佐開始の審判を取り消さなければならない。

ウ 補助開始の審判等の取消し(民法第18条)
精神上の障害により事理弁識能力が不十分である者につき、その原因が 消滅したときは、家庭裁判所は、本人、配偶者、4親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により補助開始の審判を取り消さなければならない。


(4) 成年後見人の活動事例

① 一人暮らしの人が、物忘れが激しくアルツハイマー病との診断が下されたような場合
住宅の管理や生活費等のお金の管理ができないなどの問題が生じます。その場合、代理人として財産管理が可能である成年後見人を付すことにより、その不安を解消することができます。

② 訪問販売で、「高価・悪質な商品を購入させられてしまった」というような場合
成年後見制度によって支援する人(成年後見人・保佐人・補助人)が定められていると、購入契約を取り消して、お金を取り戻すことが可能となります。


(5) 成年後見制度と類似の制度(介護保険制度)

ア 介護保険制度
老人を支える制度として介護保険制度がありますが、介護保険は身体能力の不十分な人を介護面から支援する制度です。

イ 成年後見制度
成年後見制度は、認知症患者や知的障害者又は精神障害者などの判断能力の不十分な人のために、「① 代理人として第三者と契約」したり、「② 判断能力の不十分な人の財産管理」をするなどにより、法律面から支援する制度です。


(6) 成年後見における死後の事務

ア 成年後見業務と死後事務
成年被後見人が死亡すると後見が終了します。それに伴い、後見人は、管理の計算をし、財産を相続人に引き継ぐ義務を負います。

① 死後事務が容易な場合
財産を引き継ぐ相続人がおり、かつ、親族関係が良好であったり、遺言書が作成」されたりしていれば、死後事務は容易です。

② 死後事務に困難が伴う場合
遺言書が存在せず、相続人間に争いがある場合や戸籍上の推定相続人が存在しない場合は、死後事務に困難が伴います。

イ 成年後見人が後見業務執行中にしておくべき死後事務の準備

① 親族との意思疎通
成年後見人は、死後事務を容易にするため、日頃から成年被後見人の親族との間に意思疎通をとっておくことが大切です。

② 遺言の検討
成年後見人が死後事務を容易にするため、後見業務をしている間に、成年被後見人が遺言をしてもらえれば幸いです。

* ただし、成年被後見人が事理を弁識し得る状態にあるときを見計らってやる必要があります。

ウ 被成年後見人死亡後の事務

① 死後事務とは
成年後見人は、成年被後見人が死亡した後に、「相続人・遺言執行者(遺言執行者がいる場合)・相続財産管理人(相続人がいない場合)」等に相続財産を引き継がなければなりません。

・下記の場合、財産を引き継ぐ者が選任されるまでの間、死後事務を行わなければなりません。

(ⅰ) 遺言された者がなく、相続人間で財産を引き継ぐ代表者が選ばれるまでの間。

(ⅱ) 相続放棄その他により「相続人が存在しない場合」で、相続財産管理人が選任されるまでの間。

② 死後事務の具体的内容

(ⅰ) 死亡者の遺体の引取り

(ⅱ) 成年被後見人が入院していた場合は、入院費用の支払

(ⅲ) 葬儀の執行

(ⅳ) 老健施設に入所していた場合は、入所施設の居室の明渡しや入所費用の清算。

(ⅴ) 相続人間で、相続財産を引き継ぐ者を決定できない場合は、相続人に対し「遺産分割調停の申立」を働きかけること。

(ⅵ) 相続人が存在しない場合は、相続財産管理人選任の申立。

③ 成年後見人が死後事務を行いうる根拠
成年後見人が、死後事務を行いうる根拠は下記のとおりです。

(ⅰ) 急迫の事情ある場合の応急処分義務(民法654条)
法定後見終了の際、民法874条は民法654条を準用し、「急迫の事情があるときは、引継者が委任事務を処理することができるまで、必要な処分をなし得る(応急処分義務)」と規定されている。

(ⅱ) 事務管理における管理者の管理継続義務(民法697条、700条)
事務管理をなす者は、引継者が管理をなすことできるようになるまで管理を継続することを要する。