4 「遺産分割」・「寄与分」・「特別受益」

(当事務所の取扱業務)

① 遺産分割協議書等文案書類の作成代理・文案書類作成の相談

② 官公署への届出書の作成・提出手続代理・届出書作成の相談

③ 家庭裁判所の調停申立書・審判申立書の作成
訴状等の裁判書類作成
裁判書類作成事務の相談

④ 簡易裁判所(民事訴訟・民事調停)の代理、法律相談

⑤ 地方裁判所・高等裁判所の訴状等裁判書類の作成
裁判書類作成事務の相談

⑥ 相続登記申請代理
登記申請手続事務の相談

⑦ 遺産整理手続の業務執行

⑧ 登記に関する審査請求手続(不服申立手続)についての代理

(目次)

1 遺産分割

(1) 遺産分割の意義

(2) 遺産分割協議の種類

(3) 遺産分割の方法

(4) 遺産分割協議とその効用

(5) 遺産分割協議が調わない場合

(6) 預貯金戻制度の創設(令和元年7月1日施行)

(7) 配偶者居住権の創設(令和2年4月1日施行)

2 寄与分

(1) 寄与分の意義

(2) 寄与分の決定方法

(3) 特別寄与分制度の創設(令和元年7月1日施行)

3 特別受益

(1) 特別受益の意義

(2) 特別受益の対象となる財産

1 遺産分割

(1) 遺産分割の意義
共同相続の場合に、相続人の共有状態となっている遺産を、共同相続人の協議で分割し、各相続人が個別的に取得することをいいます。

* 相続人が数人いる場合のことを共同相続といいます。共同相続のときは、その相続財産(遺産)は共有に属します(民法第898条)。
この共有関係は、あくまでも遺産分割協議が成立するまでの暫定的・過渡的な形態であり、共同相続人は遺産の共同所有関係を終了させるため、相続人は、いつでも自由に遺産の分割を求めることができます(民法第907条第1項)。


(2) 遺産分割協議の種類

① 遺言による分割
被相続人が、遺言で分割の方法を定めているときは、その指定に従って分割します。

② 相続人全員の協議による分割
「遺言がない場合」や、「遺言があっても相続分の指定のみをしている場合」、あるいは「遺言から漏れている遺産があった場合」には、共同相続人全員の協議で相続内容を決めます。

③ 「調停・審判・訴訟」による分割
「(ⅰ)協議がまとまらないとき」又は「(ⅱ)協議をすることができないとき」は、家庭裁判所に対し遺産分割請求の申立をすることができます。


(3) 遺産分割の方法

 遺産分割方法には、下記の4種類があります。

① 現物分割
現物にて分割する方法です

② 換価分割
遺産を売却し、その売却金を各相続人が取得する相続割合に応じて相続人間で分ける方法です。

③ 代償分割
一人の相続人が現物を取得し、他の相続人にその現物に相当する代金を支払うことによる方法です。

④ 共有分割
遺産の一部又は全部を具体的相続分による物権法上の共有取得する方法です。

イ 遺産分割方法の詳細

① 現物分割

(ⅰ) 意義
現物分割とは、個々の財産の形状や性質を変更することなく、現物で分割することです。

 遺産分割は、その性質上できる限り現物を相続人に引き継がせることが望ましいことから、遺産分割の原則的方法といえます。

(ⅱ) 借地権の現物分割

 遺産である借地権を一人の相続人が単独取得する場合は、土地所有者の承諾は不要です(判例)。

 借地権を区分して、複数の相続人に、それぞれ各別に借地権を取得させる分割をするには、地主の承諾が必要です。

* 調停の実務
調停により借地権を区分する場合、地主の承諾の事実を確認しています。

(ⅲ) 上場株式の現物分割
いわゆる単位株制度の適用のある株式を分割する場合、新たに単位未満株式を発生させる現物分割をすることはできません。

(ⅳ) 非上場株式の現物分割
同族会社の非上場株式を分割する場合、分割取得した者が当該会社の経営権を承継することになり、会社経営権が分割方法に絡んで調停の対象となります。

* しかし、実務においては、同族会社の経営権をめぐる問題は、遺産分割とは別個の問題として扱っています。

(ⅴ) 動産の分割

A いわゆる動産について
動産を取得する者が現実の占有者と異なるときは、相続することとその引渡しを、合せて取り決めます。

B 自動車等、法律により登録が義務付けられている動産
不動産と同様、所有権の移転登録手続についても明確にすることが大切です。

(ⅶ) 現金の分割
現金を取得する者が、現実の占有者と異なる場合、現物である現金を特定することは困難であるから、引渡しに代えて同額を支払うという債務を負担させる方法によることが多いです。

② 代償分割(債務を負担させる方法による遺産の分割)

(ⅰ) 意義
代償分割とは、「特別の事情」があると認められるときに、一部の相続人に対し法定相続分を超える額の財産を取得させた上で、他の相続人に対し債務を負担させる方法のことです。

(ⅱ) 代償分割が認められる「特別の事情」

a 現物分割が不可能な場合

b 現物分割をすると、分割後の財産の経済的価値を著しく損なうため不適当である場合

c 特定の遺産に対する特定の相続人の占有、利用状態を特に保護する必要がある場合

d 共同相続人間に代償金支払の方法によることについて、おおむね争いがない場合

(ⅲ) 要件
債務を負担することなる相続人に、その資力があることが要件となります。

* 支払能力について審理されていない審判
その審判は、差し戻されます。

(ⅳ) 資力の有無

A 代金が非常に高額な場合
「銀行支店長名義の融資証明書」・「預金の残高証明書」・「預金通帳の写し」を提出させる例もあります。

B 不動産を売却して資金を調達する場合
買主の買付証明書を要求することもあります。

(ⅴ) 代償金の支払方法
代償金の支払は、公平の観点から即時になされることが原則ですが、事情によっては、「分割払」あるいは「「期限の猶予」も可能です。

A 分割期間の例

a おおむね1年間ないし5年くらいの支払猶予期間を設ける。

b 3年から10年の年賦払いとする。

B 支払猶予を認める場合
支払猶予あるいは分割払を認める場合、現実の支払までの猶予部分についての不利益を解消するため、審判確定日から完済に至るまでの利息を付加して支払わせる場合があります。

* これまでは、民法所定の年5分の割合による利息を付加することが多かったのですが、昨今の経済状況に照らし、年5分以下が常識となっています。

(ⅵ) 負担する債務の内容

A 審判の場合
金銭のほかに、自己の固有財産を提供することはできません。

B 調停の場合
代償金の支払に代えて、相続人の固有の財産(不動産、株式)の所有権を移転させることをもって、遺産取得の代償とする方法もあります。

(ⅶ) 代償分割条項
「申立人は、第○項の遺産を取得した代償として、相手方に対し、金500万円を支払うこととし、これを平成30年11月30日限り、相手方の指定する銀行口座に振り込んで支払う。なお、振込手数料は申立人の負担とする。

③ 換価分割

(ⅰ) 意義
換価分割とは、資産を売却等で換金(換価処分)した後に、その代金を、相続人に対し具体的相続割合に応じて分配する方法です。

* 具体的説明

A 具体例
換価の都合上、共同相続人の内の一人の名義に相続登記をした上で売却し、その後に、相続人に対し具体的相続割合に応じて換価代金を分配する。

B 贈与税課税の問題
共同相続人の内の一人の名義で相続登記をしたことが、単に換価の便宜のためであり、その代金が、各自の相続割合に応じて分配される場合は、贈与税は課税されません。

(ⅱ) 協議分割による換価(当事者の合意に基づく任意売却)
現物分割が困難で、代償金支払能力の不足や取得希望者がいない等の理由で代償分割もできない場合に、当事者の合意に基づき、換価代金を分割対象財産とするとすることを前提として、現物を第三者に売却し、その代金を分配する方法です。

(ⅲ) 審判における換価

A 終局審判としての換価分割
遺産の競売を命じ、民事執行の手続に従って競売手続が進められます。
遺産の全部を競売に付す場合は、その換価代金を当事者全員の具体的相続割合に応じて分配する旨を定めることになります。

B 中間処分としての換価を命ずる裁判(審判以外の裁判)
将来の遺産の分割の審判に備えてする中間的処分です。

④ 共有分割

(ⅰ) 意義
共有分割とは、遺産の一部又は全部を具体的相続分による物権法上の共有取得とする方法です。

* 共有関係を解消する場合の手続
共有物分割訴訟(民法258条)によることになります。

(ⅱ) 類型
共有分割は、「現物分割」、「代償分割」、「換価分割」が困難な状況にある場合、当事者が共有による分割を希望しており、それが不当でない場合などに限定されるべきであり、不動産・動産の共有、債権の準共有状態の解消が比較的容易であるときは、遺産分割においてその解消を行うべきです。

(ⅲ) 共有取得の場合の条項例
「申立人及び相手方は、別紙遺産目録記載の不動産を、申立人が○分の○、相手方が○分の○の各持分割合で共有取得する。」

(ⅳ) 共有取得後の売却
当該不動産を遺産分割によって取得し、共同相続人名義とする必要があります。

(ⅴ) 共有物分割請求における現物分割の方法
裁判所は、現物分割及び競売による分割のほか、支払能力が存在するときに限り、価格賠償の方法による分割を命ずることができます。


(4) 遺産分割協議とその効用
遺産分割協議は、共同相続人全員(家庭裁判所に対し相続放棄をした者を除く)の合意が必要です。その協議内容を記載した書面を、遺産分割協議書といいます。

・遺産分割協議書を利用することにより、被相続人名義の「① 不動産の所有権移転登記、② 銀行預金の払戻し、③ 株式等有価証券の相続人への名義書替」等ができます。

* 遺産分割協議と遺産分割協議書作成業務(行政書士の業務)

① 行政書士の代理行為が可能な場合
共同相続人間の遺産分割協議に当り、相続人から委任を受け、代理人として、助言・説得を含めて相続人間の合意形成をリードし、遺産分割協議をまとめる行為は合法とされています。

・この場合、行政書士の業務として、両当事者や複数当事者の代理を務めて契約書・協議書を作成することも、民法第108条の双方代理禁止規定に触れません。

・代理介入とは関係なく、相続人の一人又は複数から依頼を受け、遺産分割協議書の作成代理をすることも行政書士の業務範囲です。

② 行政書士の代理行為が不可能な場合
共同相続人間において、「調停・訴訟」の原因となる紛争状態にあるのであれば、行政書士は、遺産分割協議の代理介入ができません。
(理由)
この場合は、「司法書士(簡裁代理訴訟認定司法書士)法・弁護士法」に違反することになるからです。


(5) 遺産分割協議が調わない場合(調停・審判・訴訟)
共同相続人間で遺産分割についての協議が調わないとき又は協議をすることができないときは、各相続人はその分割を家庭裁判所に請求することができます(民法907条2項)。

・その請求方法とは、「① 遺産分割の調停申立」、「② 遺産分割の審判申立」、「③ 遺産分割の訴訟提起」のことです。申立・訴訟の要件は下記のとおりです。

* 遺産分割問題は「調停前置主義」をとっていない。
遺産分割事件には調停前置主義の適用はないので、各相続人は「調停・審判」のいずれの申立もできますが、事件の性質上、家庭裁判所はいつでも職権で「審判・訴訟事件」を調停に付すことができます(家事事件手続法274条)。

・なお、実務は、審判申立をしても調停に回すケースが多いようです。

ア 家庭裁判所の手続(調停・審判・訴訟)により判断される内容

① 当事者の確定

(ⅰ) 相続人の確定(遺産分割の前提問題)

a 欠格事由(民法891条)

b 推定相続人の廃除(民法892条、893条)

c 相続放棄(民法938条、939条、家事事件手続法201条)

d 相続人の地位の重複

(ⅱ) 相続分の放棄と譲渡

(ⅲ) 遺産分割手続からの排除(脱退)

② 遺産の範囲の確定

③ 具体的相続分の確定(特別受益・寄与分の判断)

(ⅰ) 法定相続分の確認

(ⅱ) 遺言、相続分の譲渡・放棄等による相続分の変動の確認

(ⅲ) 特別受益・寄与分による相続分の修正

(ⅳ) 具体的相続分の算定

④ 分割方法の確定
(注)

a ①、②は、調停・審判の前提問題であり、審判手続においても判断されますが、 その判断には既判力がないので民事訴訟により覆される可能性があります。

・そうなった場合、先行した審判は無効となってしまいます。

b ③は、遺産分割手続と切り離して、別個に確定する利益はないので、訴えの利益を欠くため訴訟手続によりその確定を求めることはできません。

イ 遺産分割の調停

(ア) 調停の意義
遺産分割の権利を有する当事者間の合意により、遺産の分割方法を決める手続です。

・家庭裁判所において、裁判官と2名以上の調停委員が、当事者の間に入って遺産分割についての調整の便宜を図ってくれます。

(イ) 調停の成立・調停調書の効力
当事者間の合意が成立し、合意内容を記載した調停調書が作成された時に、その調書は、確定判決と同じ効力が生じます。

・これに基づき遺産分割が実行されます。

(ウ) 調停に代わる審判

あ 意義
家庭裁判所は、調停が成立しない場合において相当と認めるときは、「当事者の衡平に考慮」し、かつ、「一切の事情を考慮」して職権で、事件の解決のため必要な審判(家庭裁判所が強制的に判断を下す手続)をすることができます。

・当事者に申立権はありません。

い 審判の要件
調停に代わる審判がなされるのは、調停が成立しない場合において相当と認めるときです。

う 審判の機関
手続法上の調停裁判所です。

え 審判の活用場面

(ⅰ) わずかな相違があるため合意に至らない場合

(ⅱ) 積極的には協力しないが、反対まではしない当事者がいる場合

(ⅲ) 当事者の何人かが、調停において合意する意欲を失くし、調停期日に出頭しない場合

(ⅳ) 調停は拒否するが、審判を望む当事者がいる場合

お 審判の方式
家事調停手続で行われる審判です。

か 審判の効力
調停に代わる審判がなされ、当事者から異議の申立がないとき、又は異議申立が却下されたときは審判は確定し、確定判決と同一の効力を有します。

き 異議の申立

・異議申立権者  ―

当事者のみ

・異議申立期間  ―

審判の告知を受けた日から2週間以内

・異議申立の効力 ―

審判の効力を失います。

・審判手続への移行―

調停不成立となり、調停が終了した場合と同様に、調停申立の時に審判の申立があったものとみなされ、審判手続に移行します。

(エ) 調停のなかで合意が成立しなかった場合
調停で話し合いがまとまらない場合には、調停は不成立となり、改めて審判の申立をしなくても、その時点で審判手続に移行します(家事事件手続法272条4項)。

ウ 遺産分割の審判

(ア) 審判の意義
調停が不成立で終了した場合、調停申立の時に遺産分割の審判の申立があったものとみなされ、遺産分割事件は、審判手続に移行し審判手続が開始します。そして、審理の上、家庭裁判所が強制的に分割方法を定めてくれます。

・審判は、家庭裁判所において訴訟手続に近い方法で手続を進行させ、審尋(事実関係を尋ねる)も行われます。また、裁判官が当事者の主張を受けて職権で証拠を調べたり、相続財産の内容や各相続人の生活状態を勘案した上で、相続分に応じた妥当性のある分割方法を定めます。

(イ) 審判への移行・申立

① 審判への移行
調停申立をし、調停が成立しなかった場合は、自動的に審判に移行します。

・つまり、家事調停の申立の時に、当該事項についての家事審判の申立があったものとみなされます。このことを、「家事審判申立の擬制」といいます。

② 審判の申立
調停申立をせずに、最初から審判の申立をすることも可能です。

・審判の申立後、職権で調停に付された調停が終了した場合は、中止されていた審判手続が再開されます(家事審判手続法275条2項)。

・したがって、申立後の審判手続の開始は、当然に行われるものなので、当事者の申立は不要です。

* ただし、

(ⅰ) 遺産分割協議の性質上、まず調停を申し立て、話し合いで解決を図る方策とることがベターであり、一般的にもそのように行われています。

(ⅱ) また、最初から審判の申立をしても、家庭裁判所が職権で調停に回すことがあるので、まず調停申立をしたほうがベターな対策であるといえます。

(ウ) 審判の確定
審判がなされてから2週間以内に、即時抗告(不服申立)がなされなければ、審判は確定します。

(エ) 確定した審判の効力

あ 法的拘束力
審判が確定した場合、審判には法的拘束力があるので、相続人はその内容に従って、遺産を取得することになります。

い 執行力
審判の確定により、「金銭の支払、物の引渡、登記義務の履行」等を求めることができます。このことを執行力といいます。

(オ) 審判の内容に不服がある場合(即時抗告の申立)
即時抗告の申立を行うことができます。

* 即時抗告の意義

・即時抗告とは、審判に対する不服申立のことです。

・即時抗告の提起は、抗告状を原裁判所(家庭裁判所)に提出してします。

・抗告がなされた場合は、抗告裁判所(遺産分割をした家庭裁判所を管轄する高等裁判所)が即時抗告の内容を検討して判断します。

(カ) 即時抗告の効果
審判の確定は、即時抗告の提起により遮断されます。

エ 遺産分割の訴訟

(ア) 訴訟による解決方法
調停や審判の手続によって、遺産分割に関する争いを解決できない紛争類型もあります。その場合、訴訟を提起して解決を図らなければなりません。

・その紛争類型は、遺産分割を行う際の前提となる事実関係について争いがある場合です。

(イ) 相続に関する前提事実の争いの例

① 相続人の範囲に問題がある場合

② 遺産となる財産の範囲に問題がある場合

* この訴訟の例

(ⅰ) 所有権確認訴訟

(ⅱ) 共有持分権確認訴訟

③ 遺言書の有効性

(6) 預貯金戻制度の創設(令和元年7月1日施行)

① 被相続人が金融機関等へ預けていた預貯金が、遺産分割の対象となる場合に、各相続人は、遺産分割が終わる前でも、一定の範囲で預貯金の払戻しを受けることができる制度が、令和元年7月1日に創設されました。これには、下記「(ⅰ)・(ⅱ)」の2つの方策があります。

(ⅰ) 家庭裁判所の判断を経ずに預貯金の払戻しをする方策
預貯金の一定割合(金額に上限あり)については、家庭裁判所の判断を経なくても、単独で、金融機関の窓口において支払を受けられます。

* 金額の上限
一つの金融機関から払戻しが受けられる金額の限度は、金150万円です

A 計算式
(相続開始時の預貯金の額(口座基準))×1/3×(当該払戻しを行う共同相続人の法定相続分)=単独で払戻しをすることができる額

B 参考例
被相続人の相続人が2人(例えば、長男と長女の2人)で、被相続人の死亡時(相続開始時)の預貯金が金600万円、銀行が一行の場合

(計算式)

金600万円×1/3×1/2=100万円

・したがって、長男の払戻可能額は、金100万円となります。

(ⅱ) 家庭裁判所の判断を経て預貯金の仮払いを得る方策
この方策は、限度額を超える比較的大口の資金需要がある場合に適しています。

② 保全処分の要件緩和
仮払いの必要性があると認められる場合には、他の共同相続人の利益を害しない限り、家庭裁判所の判断で仮払いが認められます。


(7) 配偶者居住権の創設(令和2年4月1日施行)
令和2年4月1日から、下記内容にて、配偶者居住権(配偶者短期居住権を含む)が認められることになりました。

① 遺産分割による配偶者居住権の取得
配偶者が、相続開始時に被相続人の所有の建物に居住していた場合に、配偶者は、遺産分割において配偶者居住権を取得することにより、終身又は一定期間、その建物に無償で居住することができます。

・また、「配偶者短期居住権」という権利も創設されました。

(ⅰ) 配偶者短期居住権の意義
配偶者が、相続開始の時に遺産に属する建物に住んでいた場合には、一定期間(例えば、その建物が遺産分割の対象となる場合には、遺産分割が終了するまでの間)は、無償でその建物を使用することができます。

(ⅱ) 配偶者居住権が設定された居住建物の固定資産税負担者
固定資産税の納税義務者は、原則として、固定資産の所有者とされているので、居住建物の所有者が納税義務者となります。

* ただし、改正法においては、居住建物の通常の必要費は、配偶者が負担することとされており、固定資産税は通常の必要費に当たると考えられので、居住建物の所有者が固定資産税を納付した場合には、配偶者に対して求償することができると考えられます。

② 遺贈による配偶者居住権の取得
被相続人が遺贈等によって、配偶者に、配偶者居住権を取得させることもできます。

* 新設によるメリット
配偶者は、自宅で居住しながら、その他の財産も相続で取得することができます。


2 寄与分

(1) 寄与分の意義
被相続人の財産を維持したり、増加したりして特別の寄与(貢献)をした相続人がいた場合、他の相続人との公平を図るために、その維持・増加に貢献した相続人に対し、法定相続分以上の財産を取得させる制度のことです。

(2) 寄与分の決定方法

① 相続人全員の協議

② 相続人間の協議で成立しなかった場合

(ⅰ) 家庭裁判所に「調停の申立」をし、調停が調わなかった場合は、自動的に審判に移行し、家庭裁判所が決定を下します。

(ⅱ) 調停の申立をせずに、最初から審判の申立をし、家庭裁判所から決定をしてもらうこともできます。

* 用語の説明

① 調停の意義
家庭裁判所が当事者間の間に立って、当事者の互譲により紛争を円満に解決させることです。

② 審判の意義
家庭裁判所が、事件を審理して強制的に決定をすることです。

③ 裁判の意義
家庭裁判所・裁判官が具体的事件につき、公権に基づいて判断することです。 訴訟法上は、「判決・決定・命令」3種に細分されています。

(3) 特別寄与分制度の創設(民法1050条:令和元年7月1日施行)
相続人以外の被相続人の親族が、無償で被相続人の療養看護を行った場合には、相続人に対して金銭の請求ができるようになりました。

* 参考例
長男の妻が、無償で長男の父親(相続人は、長男と次男のみ)の療養看護を行った場合には、長男の妻は相続開始後、父親の相続人(長男・次男)に対して、療養看護に尽くした分の金銭の請求ができます。

・これにより、介護等の貢献に報いることができ、実質的な公平が図られることになりました。


3 特別受益

ア 特別受益の意義
相続人のなかに、被相続人から生前に贈与を受けたり、遺言で特定の財産を譲り受けたりした者がいる場合、これらを考慮せずに相続させると相続人間に不公平が生じます。そこで、民法は、被相続人の意思に反しない限りこれらの贈与などを含めて相続財産とし、遺産分割を行うこととしています。

イ 特別受益の対象となる財産

① 遺贈された財産

② 生計の資本としてなされた贈与財産
(例)・特別高額な学費 ・住宅建築資金 ・事業を起こす際の資金

③ 結婚の際に贈与された財産
(例)・結納金 ・結婚生活の準備資金 ・賃貸マンション入居費用

ウ 受取人指定(相続人の一人)の生命保険金も、特別受益となる場合があります。
(最高裁平成16年10月29日決定の趣旨)
被相続人に掛けられた生命保険金は、受取人(相続人の一人)が指定され、受取人の固有財産となります。

・問題になるのは、相続人の誰か一人だけが多額の生命保険金を受け取っている場合です。

・生命保険金を受領した相続人と、その他の相続人との間に生ずる不公平が、民法903条の趣旨(特別受益の規定)から考えて、到底認められないほどに著しいものと評価すべき特段の事情が存する場合には、当該保険金を、特別受益に準じてもち戻しの対象とする(つまり、遺産として扱う)のが相当という判断を下しています。