3 「遺贈」・「死因贈与」・「生前贈与」

(当事務所の取扱業務)

① 「遺贈」・「死因贈与」・「生前贈与」の登記申請の代理
登記申請手続の相談

② 贈与書等各種文案書類の作成代理
契約書等各種文案書類作成の相談

③ 公正証書作成の手続代理
公正証書作成手続の相談

④ 贈与等の登記に関する審査請求手続(不服申立手続)についての代理

(目次)

1 遺贈

(1) 遺言の意義

(2) 遺贈における物上代位

(3) 遺贈による登記

(4) 税金

2 死因贈与

(1) 死因贈与の意義

(2) 負担付死因贈与

(3) 死因贈与・負担付死因贈与と遺贈の関係

(4) 死因贈与・負担付死因贈与による財産の取得時期

(5) 死因贈与・負担付死因贈与の登記

3 生前贈与

(1) 相続時精算課税制度を利用した生前贈与

(2) 生前贈与による財産の取得時期

(3) 生前贈与の登記

(4) 相続時精算課税制度の意義

4 婚姻期間が20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与等に関する優遇措置(民法903条:令和元年7月1日施行)

1 遺贈

(1) 遺贈の意義
遺贈とは、遺言者(遺贈者)のする遺言による財産の無償譲与であり、第三者に対してはもちろんのこと、相続人に対してもなすことができます。

ア 「遺贈と「生前贈与・死因贈与」との相違等

① 遺贈と生前贈与との相違

・生前贈与は、生前に契約(贈与者と受贈者の意思の合致があること)を締結することが必要です。

・遺贈は、単独行為(贈与者の一方的意思表示で効力が発生)です。

② 遺贈と死因贈与との相違

・死因贈与は、契約(贈与者と受贈者の意思の合致があること)です。

・遺贈は単独行為(贈与者の一方的意思表示で効力が発生)です。

イ 遺贈の種類

① 包括遺贈 =遺産の全部又は分数的一部を遺贈することです。

② 特定遺贈 =遺産中の指定された特定の財産を目的とする遺贈です。

③ 負担付遺贈=受遺者に一定の負担を負わせる遺贈のことです。

ウ 遺贈の効力発生時期
遺贈の効力は、遺言が効力を生じたとき、すなわち遺贈者の死亡の時に生じます。

エ 第三者対抗要件
第三者に対抗するには(第三者からのクレームを回避すること)特定遺贈はもちろんのこと、包括遺贈の場合も登記を必要とします。
(理由)
遺贈は、遺言者の意思による処分であり、包括遺贈においては、相続の場合と相違し、「条件・期限を付し得る等の差異がある」上、実質的にも、遺贈の有無等を確認するのは、相続人全員を確認するよりも一層困難だからです。


(2) 遺贈における物上代位
遺贈の目的物が滅失若しくは変造又は奪われたために、現に相続財産中にない場合にも、それが第三者に対する償金請求権として存在する限り、その請求権を遺贈の目的としたものと推定されます(民法999条1項)。


(3) 遺贈による登記

ア 特定遺贈の登記申請人
受遺者と遺言執行者(遺言執行者が選任されていない場合は、遺言者の相続人全員)の共同申請によりします。

イ 包括遺贈の登記申請人
受遺者と遺言執行者(遺言執行者が選任されていない場合は、遺言者の相続人全員)との共同申請によりします。

ウ 登記申請書の記載
登記原因は「遺贈」、その日付は、遺贈の効力の生じた日(遺贈者の死亡した日)を記載します。

エ 登録免許税
登録免許税は、「① 第三者への移転登記の場合は1000分の20」で、「② 相続人への移転登記の場合は、1000分の4」です。

オ 税金
相続税法においては、1親等の血族(子供又は親)及び配偶者以外の者が遺産を取得することに対して、相続税の20%増の税金が課されます。


2 死因贈与・負担付死因贈与

(1) 死因贈与の意義
死因贈与契約は、贈与者と受贈者の契約によって成立し、贈与者の死亡によって効力が生じます。

・つまり、死因贈与とは「不確定期限付贈与契約」のことをいいます。

* ① 「遺贈」と「死因贈与」は似ていますが、「遺贈」は、遺言者の単独行為(一方的意思表示)であるのに対し、「死因贈与」は契約なので、贈与者と受贈者の意思表示の合致によって成立します。

② 死因贈与には、遺贈に関する規定を準用しています。


(2) 負担付死因贈与の意義
負担付死因贈与とは、死因贈与契約の中で受贈者に一定の負担を負わせる贈与契約です。

・この負担は、契約当事者において主観的対価関係にたつものではないから、負担付贈与も無償の贈与となります。

・負担付贈与の受益者は、贈与者ではなく、第三者であることも可能です。

・負担とは、例えば「家屋を贈与し、その家屋の賃貸借において、受贈者に家賃の一部を給付させる債務」のことです。


(3) 「死因贈与・負担付死因贈与」と遺贈の関係

ア 死因贈与に遺贈の規定を準用するとの意味
死因贈与に遺言の規定が準用されるのは、遺言の方式に関する規定を除いて、主として効力に関する規定です。

(ア) 遺贈の効力に関する規定の中で、死因贈与に準用される規定の例
遺言の執行に関する規定

(イ) 遺贈の効力に関する規定の中でも、死因贈与に準用されない規定

① 遺贈の承認・放棄に関する規定等

② 遺言の能力に関する規定

③ 遺言書の検認・開封に関する規定

イ 死因贈与に遺言の撤回の規定が準用されるか?
書面による死因贈与の取消し(撤回)を認めています(最判昭47・5・25)。
(理由)
遺贈と同様に、贈与者の最終意思を尊重すべきだからです。

・ただし、遺言の取消し(撤回)に関する方式は準用されません。

ウ 負担付死因贈与を撤回することは可能か?
負担付死因贈与も、撤回可能です。

・ただし、負担付贈与契約締結後にその負担の全部又は大半が既に履行されているのであれば、撤回できません。
(撤回可能な理由)
死因贈与は、死者の最終の意思を尊重するとの立場から、贈与者の側から自由に撤回できるとすれば、負担付死因贈与も同様に解することができるので。

エ 「遺言」と「負担付死因贈与」について

(ア)「① 負担付死因贈与」→「② 遺言」の順序でなされた場合
遺言により負担付死因贈与は取消し(撤回)されたことになり、負担付死因贈与は効力が生じません(民法1022条、1023条を準用)。ただし、既に負担を履行した場合は、撤回できません。

(イ)「① 遺言」→「②負担付死因贈与」の順序でなされた場合
負担付死因贈与と抵触する部分につき、遺言は取り消されたものとみなされ、負担死因贈与が効力を生じます(民法1023条)。

・ただし、負担の履行がない場合は、負担付死因贈与は効力を生じません。


(4) 死因贈与・負担付死因贈与による財産の取得時期
遺言者の死亡の時にその効力が生じます。


(5) 死因贈与・負担付死因贈与の登記
第三者に対抗するためには、所有権移転登記が必要です。

① 登記申請人
登記権利者は「受贈者」、登記義務者は「贈与者の相続人全員」です。

② 登記申請書の記載
登記原因は、「死因贈与」でも「贈与」でも差支えありません。登記原因の日付は、贈与の効力が生じた日である「贈与者の死亡日」です。


(6) 死因贈与・負担付死因贈与の税金
取得した財産(計算は下記のとおり)の価額を課税標準として相続税が課税されます。相続税法上、死因贈与は遺贈と同様に扱われます。

① 土地については、「路線価」又は「固定資産税評価額×国で決めた評価倍率(例えば、宅地の場合:1.1倍)」

② 建物については、「固定資産税の評価額」


3 生前贈与(相続時精算課税制度を利用した贈与)

(1) 相続時精算課税制度(内容は下記のとおり)を利用した生前贈与

・住宅の建物は長男(50歳)が建てたが、底地は父親(80歳)の所有であった場合、その土地を長男が相続するには、相続人全員(母や長男の兄弟など)から遺産分割協議書に署名・押印(実印)と印鑑証明書を添付してもらう必要があります。

・昨今、日本人の権利意識が高まり、例え長男だったとしても、他の相続人が、すんなりと「長男が相続すること」を承諾してくれるとは限りません。

・そんなとき、父親が死亡する前に、住宅の底地を長男名義に所有権移転登記をしておけるなら、こんな安心なことはありません。

・現在の税法では、金110万円までは贈与税が掛かりませんが、それを超えると課税されます(累進方式の課税です)。

・もし、贈与される土地の相続税算定価格(路線価)が金1110万円だとすると、その税額は、金275万円(計算方法:「金1110万円-金110万円」×40%-金125万円=金275万円」。平成26年2月7日現在の計算方法です)となってしまいます。

・ところで、現在(平成26年2月7日現在)、相続時精算課税制度がありますので、65歳以上の親から20歳以上の子供へ贈与する場合、金2500万円までは、贈与税が課されません。

※ 平成29年現在は、「60歳以上の親から」となっています。

そこで、上記事例の場合、資産が金2500万円以内であれば、相続時 精算課税制度を利用することにより、贈与税を課されることなく、住宅の底地を親から長男へ所有権移転することができます。


(2) 生前贈与による財産の取得時期
親の贈与の意思表示に対し、子供が受贈の意思を表示したときに、所有権移転の効力が生じます。


(3) 生前贈与の登記
第三者に対抗するためには、所有権移転登記が必要です。

ア 登記申請人
登記権利者は「受贈者:子供」、登記義務者は「贈与者:親」です。

イ 登記申請書の記載

① 登記原因は、「贈与」です。

② 登記原因の日付は、「贈与者(親)の贈与の意思表示に対し、受贈者(子供)が受贈の意思を表示した日」です。


(4) 相続時精算課税制度の意義
財産の贈与を受けた人は、「① 暦年課税(基本的な贈与税の支払)」をするのが原則ですが、「② 相続時精算課税」を選択することができます。

※ いったん相続時精算課税制度を利用した場合は、その後に暦年課税を利用することはできません。

ア 暦年課税の意義

① 基礎控除額
増与税の算定に当り、贈与財産から控除される金額(基礎控除額)は毎年、金110万円です。

② 税額
課税価格に応じ、速算表で計算します(累進課税方式です)。

イ 相続時精算課税(平成26年2月7日現在)
相続時精算課税を選択した場合、その制度が適用となる要件等は次のとおりです。

(ア) 年齢要件(贈与した年の1月1日現在)

① 贈与者
65歳以上の親

* ただし、住宅取得資金の贈与の場合には、特例があります。

・平成29年度現在は、「60歳以上の親」となっています。

② 受贈者
20歳以上の子である推定相続人(親が死亡した場合、相続人となる地位にある子)

* 子が親より先に亡くなったときは、20歳以上の孫が、受贈者として、本課税制度を利用できます。


(5) 贈与税について

① 贈与財産の価額から控除される金額
特別控除額金2500万円

* ただし、前年までに特別控除額を使用した場合は、金2500万円から既に使用した額を控除した額が特別控除額となります。

② 税額
特別控除額を超過した部分に対して、一律20%の贈与税が課されます。


(6) 相続時の精算

① 贈与者が亡くなったときの相続税の計算
「相続財産の価額+相続時精算課税を適用した贈与財産の価額(贈与時の価額)」を相続財産として、相続税を計算します。

② 既に支払った贈与税相当額
既に支払った贈与税相当額は、相続税額から控除されます。

* ただし、控除しきれない金額については還付を受けることができません。


(7) 贈与税算定の不動産価格の算定

① 土地については、「路線価」又は「固定資産税評価額×国で決めた評価倍率(例えば、宅地の場合:1.1倍)」

② 建物については、「固定資産税の評価額」


4 婚姻期間が20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与等に関する優遇措置(民法903条:令和元年7月1日施行)
婚姻期間が、20年以上である夫婦間で居住用不動産(居住用建物又はその敷地)の遺贈又は贈与がなされた場合については、原則として、その不動産は相続の対象とならないので、遺産分割における配偶者の取り分が増えることになります。

* 優遇措置設置によるメリット
このような規定(被相続人の意思の推定規定)を設けることにより、原則として、遺産の先渡しを受けたものとして取り扱う必要がなくなり、配偶者は、相続により、より多くの財産を取得することができるようになりました。