5 高齢者虐待防止問題

(当事務所の取扱業務)

① 高齢者虐待防止の監督官庁たる市町村・県(あるいは市町村長・知事)等へ提出する「高齢者虐待防止に係る申立書」等の書類作成代理、提出手続の代理 、その書類作成事務の相談

② 「刑事告訴状・告発状」等を警察あるいは検察庁へ提出する書類の作成 、提出手続の代理、それらの書類作成事務の相談

(目次)

(1) 高齢者虐待防止に関する法律

(2) 高齢者虐待の概要

(3) 高齢者・養護者の定義

(4) 高齢者虐待の種類

(5) 高齢者虐待を発見した場合の通報・養護者への支援

(6) 養介護施設従事者等による高齢者虐待の防止等

(1) 高齢者虐待防止に関する法律
平成18年4月1日に、「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援に関する法律」(以下、「高齢者虐待防止法」という。)が施行されました。
(目的)
この法律は、「高齢者が尊厳を保って生きていけるように、虐待の防止と保護のための措置」、また、「高齢者を支える養護者の負担の軽減を図るため」に策定されました。
(平成24年10月1日より、高齢者虐待防止法の一部が改正)
養介護施設・事業所を利用する65歳未満の障害者については、高齢者とみなし、養介護施設従事者等による高齢者虐待に関する法律が適用されることになりました。


(2) 高齢者虐待防止法の概要
高齢者虐待とは、下記のことをいいます。

① 家庭内における家族などの養護者による虐待。

② 施設内における養介護施設従事者(特別養護老人ホームやショートステイなど高齢者福祉施設、事業所に勤めている人)による虐待。


(3) 高齢者・養護者の定義

① 高齢者の定義
65歳以上の者のことです。

 介護を必要としない自立者も含まれます。

② 養護者の定義
高齢者を現に養護する者のことです。

(ⅰ) 在宅高齢者の世話・介護をする親族。

(ⅱ) 養介護施設において、高齢者の世話、介護をする施設従事者。


(4) 高齢者虐待の種類
高齢者虐待には、下記の種類があります。

① 身体的虐待
高齢者の身体に外傷が生じ、 又は生じるおそれがある暴行を加えることをいいます。

(具体例)

・平手打ちをする。つねる。殴る。蹴る。無理やり食事を口に入れる。やけど・打撲をさせる。

・ベッドに縛り付けたり、意図的に薬を過剰に服用させたりして、身体的拘束や抑制をする。

② 介護・身の回りの世話の放棄・放任(ネグレクト)
高齢者を衰弱させるような著しい減食、長時間の放置、養護者以外の同居人による虐待行為の放置など、養護を著しく怠ることをいいます。

(具体例)

・入浴させないため異臭がする。髪が伸び放題である。皮膚が汚れている。

・水分や食事を十分与えられていないことで、空腹状態が長時間にわたって続いたり、脱水症状や栄養失調の状態にある。

・室内にごみを放置するなど劣悪な住環境の中で生活させる。

・高齢者本人が必要とする介護・医療サービスを、相応の理由なく制限したり、利用させない。

③ 心理的虐待
高齢者に対する著しい暴言、若しくは著しく拒絶的な対応又は高齢者に著しい心理的外傷を与えるような行動をとる。

(具体例)

・排泄の失敗などを嘲笑したり、それを人前で話すなどして、高齢者に恥をかかせる。

・怒鳴る。ののしる。悪口を言う。

・侮辱を込めて、子どものように扱う。

・高齢者が話しかけているのを意図的に無視する。

④ 性的虐待
高齢者にわいせつな行為をすること、又は高齢者にわいせつな行為をさせることです。

(具体例)

・排泄の失敗などに対して、懲罰的に下半身を裸にして放置する。

・キスをする。性器へ接触をする。セックスを強要する。

⑤ 経済的虐待
養護者又は高齢者の親族が高齢者の財産を不当に処分すること、その他高齢者から不当に財産上の利益を得ることをいいます。

(具体例)

・日常生活に必要な金銭を渡さない、又は使わせない。

・本人の自宅などを無断で売却する。

・年金や預貯金を本人の意思、利益に反して使用する。


(5) 高齢者虐待を発見した場合の通報・養護者への支援

① 通報
養護者による高齢者の虐待を発見した者には、下記のような義務が課せられています。

(ⅰ) 努力義務
養護者による高齢者の虐待を発見した者は、速やかに市町村に通報するよう努めなければなりません。

(ⅱ) 義務(ただし、罰則はない)
養護者による高齢者の虐待により、高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じている場合は、速やかに市町村に通報しなければなりません。

② 通報後の措置

(ⅰ) 原則
市町村は、当該高齢者の安全確認、その他の事実の確認を行います。

(ⅱ) 市町村が講じる措置

A 市町村は、必要に応じ一時保護のため、高齢者を老人短期入所施設へ入所させます。

* この措置は、老人福祉法の規定による措置です。

B 市長村長は、適切に成年後見開始等の審判の請求をします。

③ 立入調査
市長村長は、高齢者虐待により高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じているおそれがあるときは、「地域包括支援センターの職員」に当該高齢者の住居又は居所に立ち入り、必要な調査又は質問をさせることができます。

*(ⅰ) 警察署長への援助請求
上記の場合、市町村長は、警察署長に対し、援助を求めることができます。

(ⅱ) 協力しない者への罰則の適用
正当な理由なく、立入調査を妨害した者に対しては、金30万円以下の罰金が科されます。

④ 養護者の支援
市町村は、下記事項につき、養護者に対する相談、助言、指導その他必要な措置を講じます。

(ⅰ) 高齢者虐待の防止

(ⅱ) 虐待を受けた高齢者の保護

(ⅲ) 養護者の負担の軽減

(6) 養介護施設従事者等による高齢者虐待の防止等

① 養介護施設従事者等が、高齢者虐待を発見した場合
高齢者虐待を発見した場合は、高齢者に生命・身体に関する重大な危険が生じていない場合でも、通報義務が課されます。

* ただし、通報が虚偽であるか、過失による場合は、法律による守秘義務は免除されません。

② 市長村長・知事の役割
市長村長・知事は、老人福祉法・介護保険法により、養介護施設の業務及び養介護事業について監督権を有するので、適切にその権限を行使するものとされています。