5 事業譲渡(M&A)

(当事務所の取扱業務)

① 事業譲渡に関する契約書・株主総会議事録等の文案書類の作成代理

② 上記①の文案書類作成の相談

③ 事業譲渡に関連する登記申請の代理(不動産・会社登記等)

④ 事業譲渡に関連する登記申請手続事務の相談

⑤ 事業譲渡に関連する「許認可書類」・「公正取引委員会への届出書」の作成代理、提出手続代理

⑥ 事業譲渡に関連する「許認可手続書類」・「公正取引委員会への届出書」作成の相談

 当事務所は、「会社合併・会社分割、株式交換・株式移転、事業譲渡」 等の手続に関し、「契約書の作成、取締役会・株主総会議事録の作成、許認可手続、登記申請代理」などにより、「会社・事業再編の業務」を取り扱っております。


(目次)

(1) 事業譲渡の意義

(2) 事業譲渡の手続の概略(「手続」、「効果」)

(3) 事業譲渡の手続(詳細)

(4) 事業譲渡におけるチェックポイント(詳細)

(5) 「会社合併・会社分割」と「事業譲渡」の共通点、相違点

(1) 事業譲渡の意義

ア 事業譲渡の定義
事業譲渡とは、「会社が、事業を取引行為(特定承継)として他に譲渡する行為」ことです。

* ① 会社法及び商法は、事業譲渡の手続(会社法467条から470条まで)や事業譲渡によって生じる競業避止義務等(会社法21条から24条まで、商法16条以下)についての規定を設けています。

・しかし、「事業譲渡」や、譲渡の対象となる「事業」の定義については明確に定めていないので、これらの定義は、今なお解釈に委ねられています。

② 事業譲渡は、他の組織再編(会社合併、会社分割、株式交換、株式移転)と異なり、全ての会社形態(株式会社、合名会社、合資会社、合同会社)を含め、およそ商人であれば行いうるものであり、会社法21条から24条までは共通の規制で括って規制しています。

・一方、会社法467条から470条までは、株式会社が事業譲渡を行う場合の手続を規制しています。

イ 会社法上の「事業譲渡」と商法上の「営業譲渡」
会社法は、会社法制定前の商法が使用していた「営業譲渡」という用語を、「事業譲渡」に変更しました。

・これは、複数の商号を用いて複数の営業を行うことができる個人商人に対して、会社は、複数の営業を行う際にも1つの商号しか用いることができないことから(会社法6条1項)、会社が行う営業の総体を、「営業」と区別するために「事業」と呼ぶことにしたからです。


(2) 事業譲渡の手続の概略(「手続」、「効果」)

ア 事業譲渡の手続一般

(ア) 事業譲渡においては、下記のような手続が必要となります。

① 事業譲渡契約の締結

 なお、事業譲渡契約の締結を前提として、基本合意(予約契約の締結)をする場合もあります。

② 下記の場合は、株主総会の特別決議による承認が必要です。

(ⅰ) 事業の全部の譲渡

(ⅱ) 事業の重要な一部の譲

(ⅲ) 他の会社(外国法人他の法人を含む)の事業の全部の譲受け

(ⅳ) 事業の全部の賃貸、事業の全部の経営の委任、他人と事業上の損益の全部を共通にする契約その他これに準ずる契約の締結、変更又は解約

(ⅴ) 事後設立

* 事後設立とは
事後設立とは、会社の設立後2年以内に、会社の設立前から存在する営業用の財産を一定割合以上の価額で取得することをいいます。

③ 下記の手続が必要な場合もあります。

(ⅰ) 公正取引委員会への届出(独禁法の問題)

* 詳細は、下記イのとおり。

(ⅱ) 主務官庁への届出

(ⅲ) 許認可手続
原則として、譲受会社が、許可等を取得し直す必要があります。

④ 事業譲渡の実行手続

⑤ 対抗要件の具備

(イ) 公正取引委員会への届出手続
公正取引委員会への届出は、①及び②のいずれの要件も満たす場合に必要となります。

① 譲受会社の企業結合集団の国内売上高合計額が200億円を下回らない範囲内において、政令で定める金額を超えること

② 「事業の全部の譲受けの場合」又は「事業の重要部分又は事業上の固定資産の譲受けの場合」

(ⅰ) 事業の全部の譲受けの場合
譲渡会社の国内売上高が、30億円を下回らない範囲において、政令で定める金額を超えること。

(ⅱ) 事業の重要部分又は事業上の固定資産の譲受けの場合
当該譲受けの対象部分に係る国内売上高が、30億円を下回らない範囲内において、政令で定める金額を超えること。

* a ただし、同一の企業結合集団内の事業譲受けの場合は、届出が免除されます。

b 企業結合集団とは
企業結合集団とは、「会社及び当該会社の子会社並びに当該会社の親会社であって、他の会社の子会社でないもの及び当該親会社の子会社(当該会社及び当該会社の子会社)を除く。)から成る集団」のことです(独占禁止法第10条2項)。

(a) 子会社とは
子会社には、組合等も含みます。

(b) 親会社とは
親会社とは、会社のみです。

(c) 孫会社以下の意味
孫会社以下も子会社です。

イ 事業譲渡の効果
事業譲渡の効果は、下記のとおりです。

(ア) 事業財産の移転(事業譲渡の実行手続)

① 「資産・負債、権利・義務」の承継

(ⅰ) 「事実関係」・「個々の契約上の地位」等が移転
事業譲渡においては、「得意先・仕入先・暖簾・ノウハウ」といった事実関係に加え、「資産、負債、契約上の地位等」の移転がなされます。

(ⅱ) 「個々の契約」については、相手方の承諾が必要
事業譲渡は、合併や会社分割と異なり権利義務の包括承継がなされず、「個々の契約上の地位」が、譲渡会社から譲受会社に移転する場合には、当該契約の相手方の同意が必要になります。

* 個々の契約とは

a 取引上の契約・b リース契約・c 「従業員との間の雇用契約」等のことです。

② 具体的な財産の移転、対抗要件等
財産の移転は、財産ごとに個別の移転手続きが必要であり、かつ、第三者に対抗するには対抗要件を具備することが必要です。

(ⅰ) 不動産(土地・建物)の移転
事業譲渡の効力が生じれば、当然に、譲渡会社から譲受会社へ所有権が移転されます。
(対抗要件)
所有権移転登記をとることです。

(ⅱ) 動産の移転
事業譲渡の効力が生じれば、当然に譲渡会社から譲受会社へ所有権が移転されます。
(対抗要件)
引渡しを受けることです。

(ⅲ) 借地権、借家権の移転
借地権、借家権を移転するには、賃貸人の同意が必要です。
(対抗要件)

a 「土地」・「建物」については
借地権、借家権の登記名義の変更をすることです。

b 「建物」については
入居を継続することです。

(ⅳ) 売掛金(債権)の譲受け
事業譲渡の効力が生じれば、当然に、譲渡会社から譲受会社へ債権が譲渡されます。
(対抗要件)
下記の2つの方法があります。

a 内容証明郵便にて債権譲渡の通知をすること。

b 確定日付を付した債務者の承諾書を作成すること。

(ⅴ) 買掛金(債務)の譲受け
買掛金(債務)を承継するには、「併存的債務引受」と「免責的債務引受」の方法があります(下記のとおり)。

* 用語の意義等

a 併存的債務引受
(意義)
譲受会社が、譲渡会社と共に債務者になることです。
(要件)
譲渡人と譲受人との合意によってなすことができます。

・債務者の意思に反しても可能です(つまり、債権者の承諾は不要です)。

b 免責的債務引受
(意義)
債務が同一性を保ちながら、譲渡人から譲受人へ移転し、譲渡人が債権関係から離脱することです。
(要件)
債権者の承諾が必要です。

* 債務者の意思に反してはなし得ません。

(ⅵ) 継続的取引の継承
取引の相手方の承諾の下に、譲受会社と相手方の間で「契約上の地位移転契約」を締結することになります。

(ⅶ) 知的財産権(工業所有権と著作権)
事業譲渡実施後に、特許庁長官に届け出ると同時に、その登録が必要です。
(対抗要件)
移転(名義変更)の登録をすることです。

* 用語の意味

a 工業所有権とは
特許権、実用新案権、商標権、意匠権のことです。

b 著作権とは
著作者が、その著作物を排他的、独占的に利用できる権利のことです。

(ⅷ) のれん等の事実関係の移転

a ノウハウの伝授をする。

b 得意先や仕入先へ譲渡の通知をする。

(ⅸ) 従業員の引継ぎ
譲渡会社の従業員の個別の同意をとって、譲受会社が引き継ぐことになります。

(イ) 競業避止義務
事業を譲渡した会社(譲渡人)は、当事者の別段の意思表示がない限り、同一の市町村の区域内及びこれに隣接する市町村の区域内においては、その事業を譲渡した日から20年間は、同一事業を行うことはできません。

(ウ) 商号の続用と譲受人の責任
譲受会社が、譲渡会社の商号を続用する場合には、その譲受会社も、譲渡会社の事業(個人の場合は営業という。)によって生じた債務を弁済する責任を負います。

(エ) 反対株主の株式買取請求権
事業譲渡に反対する株主には、会社に対して、自己の株式を買い取ることを請求する権利があります。


(3) 事業譲渡の手続(詳細)

ア 事業譲渡契約の締結
事業譲渡は、特定承継の法律効果を発生させるために行われる取引行為であるので、譲渡会社(譲渡人)と譲受会社(譲受人)との間の事業譲渡契約の締結によって行われます。

* 「事業譲渡契約書」作成のポイントは、下記のとおりです。

① 事業譲渡対象部門の特定(譲渡する事業の特定)

② 譲渡期日

③ 譲渡財産の目録

④ 譲渡価額及び支払方法

⑤ 財産移転手続(各財産の引渡方法、対抗要件の具備)

⑥ 競業避止義務(免除の有無等)

⑦ 従業員の引継ぎ等に関する事項

* 「引継の有無、その方法、条件、再雇用、出向」等、「勤続年数や退職金の引継」等

⑧ 取締役会・株主総会の承認(株主総会決議の期日)

⑨ 商号続用の有無

⑩ 譲渡契約締結後、引渡までの「譲渡財産」に関する譲渡会社の善管注意義務

⑪ 事情変更による譲渡条件の変更、契約解除の可能性

⑫ 契約に定めのない事項又は契約内容に疑義が生じた場合の協議義務

⑬ 契約の効力発生条件(株主総会の承認、諸官庁の許認可を条件とする等)

⑭ 瑕疵担保責任

⑮ 事業譲渡に関して要した費用の負担

⑯ 公租公課の負担

イ 譲渡会社における手続

(ア) 取締役会の決議
事業譲渡は取引行為であるが、譲渡対象となる事業は、通常は「重要な財産」に当ると考えられるので、取締役会の決議を要します。

(イ) 取締役会の決議に加え、株主総会の特別決議を要する場合(会社法467条)
譲渡の対象が、「事業の全部」又は「重要な一部」であり、譲渡対象資産の帳簿価額が譲渡会社の総資産額として法務省令で定める方法により算定される額の5分の1を超える場合は、譲渡会社は譲渡日までに株主総会の特別決議による承認を受けなければなりません。

* 「重要な財産」の判断基準

① 譲り渡す資産の帳簿価額による判断基準(譲り渡す資産に限っての規定:会社法467条1項2号)
当該譲渡により、譲り渡す資産の帳簿価額が、当該譲渡株式会社の総資産額の5分の1を超えない場合は、「事業の重要な一部の譲渡」に該当しません。

② 「重要性」の判断基準
法律上の判断基準はなく、依然として解釈に委ねられています。

(ウ) 反対株主の株式買取請求権(会社法469条)
事業譲渡に反対する株主には、株式買取請求権を行使することが認められています。

* 「反対株主」とは、譲渡会社・譲受会社共、以下の株主のことをいいます。

① 事業譲渡等をするために、株主総会(種類株主総会を含む)の決議を要する場合において、反対株主とは、次の株主のことをいいます。

(ⅰ) 当該株主総会に先立って、当該事業譲渡に反対する旨を、当該株式会社に対し通知し、かつ、当該株主総会において当該事業譲渡等に反対した株主(当該株主総会において、議決権を行使することができるものに限る)

(ⅱ) 当該株主総会において、議決権を行使することができない株主

② 株主総会決議不要の場合は、全ての株主です。

ウ 譲受会社における手続

(ア) 取締役会の決議
事業譲渡は、事業を譲り受ける側の会社にとっては、「重要な財産の譲受け」に当るため、取締役会の決議を要します。

(イ) 取締役会の決議に加え、株主総会の特別決議を要する場合
譲り受ける事業が、「他の会社の事業の全部」である場合には、取締役会の決議に加えて、株主総会の特別決議を要します。

(ウ) 反対株主の株式買取請求権(会社法469条)
事業譲渡等に反対する株主には、株式買取請求権を行使することが認められています。


(4) 事業譲渡におけるチェックポイント(詳細)

ア 事業譲渡につき株主総会の承認を要しない場合(会社法468条)

① 略式事業譲渡等
事業の譲渡、譲受けなどに係る契約の相手方が、当該事業譲渡等をする株式会社の特別支配会社である場合には、支配されている会社側においては、株主総会の特別決議は不要です。

* 特別支配会社とは
株式会社の総株主の議決権の10分の9以上を、他の会社が有している場合の支配会社をいいます。

② 簡易事業譲受け
他の会社の事業の全部の譲受けにおいて、その対価として交付する財産の帳簿価格の合計額が、譲受会社の純資産額の5分の1を超えない場合には、譲受会社においては株主総会の特別決議は不要です。

イ 譲渡会社の競業の禁止(会社法21条)

(ア) 譲渡会社は、同一市町村の区域内及びこれに隣接する市町村の区域内においては、その事業を譲渡した日から20年間は、同一の事業を行ってはなりません。

(イ) 譲渡当事者間において、競業避止義務を負わない旨を合意することは可能です。

(ウ) 譲渡会社が、同一事業を行わない旨の特約をした場合は、その特約は、その事業を譲渡した日から30年間に限りその効力を有します。

ウ 譲渡会社の商号を引き続き使用した譲受会社の責任等(会社法22条)

(ア) 商号を続用した場合の原則
事業を譲り受けた会社(譲受会社)が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合には、その譲受会社も、譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負います。

(イ) 商号続用の譲受会社が、譲渡会社の負担債務の弁済責任を負わない方法等

① 「譲渡会社の負担債務の弁済責任を負わない旨」の登記
譲受会社が事業を譲り受けた後、遅滞なく、その本店所在地において、「譲渡会社の債務を弁済する責任を負わない旨」の登記をした場合は、譲受会社は債務の弁済責任を負いません。

② 知れたる債権者に対する「弁済責任を負わない旨」の通知
事業を譲り受けた後、遅滞なく、譲受会社及び譲渡会社から第三者に対し、その旨の通知をした場合において、その通知を受けた第三者に対しては、責任を負いません。

③ 譲受会社が商号の続用により、譲渡会社の債務を弁済する責任を負う場合
譲受会社の責任は、事業を譲渡した日後2年以内に請求又は請求の予告をしない債権者に対しては、その期間を経過した時に消滅します。

④ 譲渡会社の商号を続用した譲受会社にした弁済
譲渡会社の事業によって生じた債権について、譲受会社にした弁済は、弁済者が善意でかつ重大な過失がないときはその効力を有します。

* 商号を続用しない場合、続用する場合の原則

a 商号を続用せず、事業譲渡契約に「債務を引き受けない旨」の定めがある場合
譲受会社は、譲渡会社の債権者に対して責任を負いません。

b 譲受会社が、譲渡会社の商号を続用する場合
譲受会社も、譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負います。

(ウ) 譲受会社による債務の引受
下記の場合は、譲渡会社の債権者は、その譲受会社に対して、譲渡会社の債務の弁済を請求することができます。

① 譲受会社が商号を続用しなくても、債務引受の公告をした場合

② 個別の債権者に対し、債務を引き受ける旨の通知をした場合

(エ) 商人との間での事業の譲渡又は譲受け
個人(自然人)の場合は、事業の譲渡のことを「営業譲渡」といいます。商法においても、「営業譲渡」に関する定めがあります(商法15条~18条)。営業譲渡においては、当事者を「譲渡人、譲受人」と定義しています。

① 商法・会社法の適用関係

(ⅰ) 個人(自然人)としての商人相互間の営業譲渡については、商法が適用されます。

(ⅱ) 会社相互間の事業譲渡については、会社法が適用されます。

② 譲渡人・譲渡会社の商号を続用した譲受人・譲受会社の責任(商法17条、会社法22条)

(ⅰ) 譲受人が、譲渡人の商号を続用する場合(商法17条)譲受人も、譲渡人の営業によって生じた債務を弁済する責任を負います。

(ⅱ) 譲受会社が、譲渡会社の商号を続用する場合(会社法22条)
譲受会社も、譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負います。

③ 債務を引き受ける旨の公告をした場合における譲受人・譲受会社の責任等(商法18条、会社法23条)

ⅰ) 譲受人が、譲渡人の商号を続用しないが、「譲渡人の営業によって生じた債務を引き受ける旨の公告」をした場合(商法18条
譲渡人の債権者は、その譲受人に対して、弁済の請求をすることができます。 ただし、譲受人の責任は、公告があった日後2年以内に請求又は請求の予告をしない債権者に対しては、その期間を経過した時に消滅します。

ⅱ) 譲受会社が、譲渡会社の商号を続用しないが、「譲渡会社の事業によって生じた債務を引き受ける旨の公告」をした場合(会社法23条
譲渡会社の債権者は、その譲受会社に対して、弁済の請求をすることができます。

* ただし、譲受会社の責任は、公告があった日後2年以内に請求又は請求の予告をしない債権者に対しては、その期間を経過した時に消滅します。

④ 営業譲渡・事業譲渡をした当事者の一方が会社で、他方が会社以外の商人である場合には上記の規定(商法17条~18条、会社法22条~23条)は、そのまま適用されません。

・そのため、下記のように、「上記の規定が適用される場合の定め」を設けています。

ⅰ) 会社が、会社以外の商人に対してその事業を譲渡した場合
会社法24条1項
当該会社を、商法16条1項に規定する譲渡人とみなして、商法17条(譲渡人の商号を使用した譲受人の責任等)及び商法18条(譲受人による債務の引受)の規定が適用される旨を定めています。

ⅱ) 会社が、会社以外の商人から、その営業を譲り受けた場合
(会社法24条2項
当該商人を譲渡会社とみなして、会社法22条(譲渡会社の商号を使用した譲受会社の責任等)及び会社法23条(譲受会社による債務の引受)の規定が適用される旨を定めています。

エ 事業譲渡において、譲渡会社の「事業譲渡に反対する株主の株式買取請求権」についての詳細(会社法469条)

(ア) 反対株主の定義
「反対株主」とは、譲渡会社・譲受会社とも、以下の株主のことをいいます。

① 事業譲渡等をするために株主総会(種類株主総会を含む)の決議を要する場合は、次の株主です。

(ⅰ) 当該株主総会に先立って当該事業譲渡に反対する旨を当該株式会社に対し通知し、かつ、当該株主総会において当該事業譲渡等に反対した株主(当該株主総会において、議決権を行使することができるものに限る)

(ⅱ) 当該株主総会において、議決権を行使することができない株主

② 株主総会決議不要の場合は、全ての株主です。

(イ) 株式買取請求権行使の可否
事業譲渡をする譲渡会社の株主が、事業譲渡に反対した場合、株式買取請求権を行使できる場合と、できない場合があります。以下に説明します。

あ 株式買取請求権の行使が可能な場合
譲渡会社が、事業譲渡等を行っても会社を存続する場合

* 反対株主の権利は、以下のとおりです。

(ⅰ) 株主総会において、事業譲渡に反対する旨の議決権の行使

(ⅱ) 株式買取請求権の行使

い 株式買取請求権の行使ができない場合

① 事業の全部の譲渡をする場合において、「(ⅰ)事業の全部の譲渡にかかる株主総会の承認決議」と同時に「(ⅱ)解散の株主総会の承認決議」がなされた場合の株主(会社法469条1項ただし書)
(理由)
株式買取請求権は、株主にとって投下資本の回収を図る機会となるが、解散に続く清算手続においては、株主は残余財産分配請求権を有するに過ぎないため、債権者に先立って投下資本を回収することは認められない。

② 特別清算開始命令があった場合に、清算株式会社が行う事業の全部又は事業の重要な一部の譲渡がなされた場合の株主

(ウ) 株式買取請求権を行使した場合の買取価格(会社法469条1項)
公正な価格とされています。

(エ) 手続(会社法469条)

あ 通知又は催告

① 非公開会社の場合
事業譲渡等を行う会社は、事業譲渡の効力発生日の20日前までに、その株主に対して、事業譲渡等をする旨を通知しなければなりません。

* 譲渡資産に「譲受会社の株式」が含まれている場合の通知の記載方法
他の会社の事業の全部を譲り受ける場合において、譲り受ける資産に譲受会社の株式が含まれている場合は、「(ⅰ)他の会社の事業の全部を譲り受ける旨」及び「(ⅱ)当該株式に関する事項」の記載が必要です。

② 下記の場合は、公告をもって通知に代えられます。

(ⅰ) 事業譲渡会社が公開会会社である場合

(ⅱ) 非公開会社で事業譲渡等に係る契約について株主総会の承認決議を受けた場合

い 株式買取請求権の行使(会社法469条5項)
株式買取請求権を行使する株主は、事業譲渡の効力発生日(以下、「効力発生日」という。)の20日前の日から、効力発生日の前日までの間に株式買取請求権を行使しなければなりません。

う 価格の決定

① 株式の価格

(ⅰ) 株式買取請求権が行使されると、株式買取請求権を行使した株主と会社との間で株式の価格について協議が行われます(ただし、義務ではありません)。価格の協議が調った場合、会社は、効力発生日から60日以内に当該代金を支払わなければなりません。

(ⅱ) 効力発生日から30日以内に協議が調わないときは、株主又は事業譲渡をした会社は、その期間満了日後30日以内に、裁判所に対して価格決定の申立をすることができます。

* この場合、下記のようになります。

a 会社法上、株式買取請求の撤回が可能です。

b 会社法の規定はないが、裁判所への価格決定申立可能期間経過後、株主や会社において、時効中断等に該当する行為がなかったときは、株式買取請求に係る株式の代金債権は、商法522条に基づく5年の消滅時効によって消滅します。

② 利息
少なくとも、効力発生日から60日経過時点までは、遅延利息は発生しません。
(理由)
協議が調った場合、事業譲渡をした会社は、効力発生日から60日以内に代金を支払わなければならないとされているので。

え 株式の買取りの効力発生(会社法470条5項)
株式買取請求に係る株式の買取りの効力は、当該株式の代金支払時において生じます。

お 株式買取請求の撤回(会社法470条3項)
株式買取請求権を行使した株主は、会社の承諾を得ない限り、株式買取請求を撤回することができません。


(5) 「会社合併・会社分割」と「事業譲渡」の共通点、相違点

ア 共通点
「会社合併・会社分割」・「事業譲渡」とも株主に重大な影響を与えるので、下記の手続が必要であり、また権利が認められています。

① 株主総会の特別決議(原則として必要です。

* ただし、略式手続、簡易手続の場合は不要です。

② 反対株主の株式買取請求権

イ 相違点

① 債権者保護手続の必要性

ⅰ)「会社合併・会社分割」の場合
債権者保護手続が必要です。
(理由)
「会社合併・会社分割」の場合は、会社の権利・義務が包括的に承継されるので、個々の債務の移転については、債権者の承諾は不要です。そこで、法定の債権者保護手続をとることにより、債権者の保護を図っています。

ⅱ)「事業譲渡」の場合
「事業譲渡」の場合は、会社の事業部門を譲渡する個別契約なので、債権者保護手続は不要です。

* ただし、免責的債務引受の場合は、債権者の債権回収に重大な影響をおよぼすので、その債務の債権者の承諾が必要となります。

② 「会社合併契約書・会社分割契約書等」の事前・事後の開示

ⅰ) 「会社合併・会社分割」の場合
「会社合併・会社分割」の効力発生日の事前及び事後に、合併契約書や分割契約書等の書類を本店に備え置くことが必要です。

ⅱ) 「事業譲渡」の場合
「事業譲渡」は個別契約なので、本店に事業譲渡契約書等を備え置く必要はありません。

③ 無効主張の方法

ⅰ)「会社合併・会社分割」の場合

a 「会社合併・会社分割」の無効の主張は、訴えをもってのみ主張することができます。提訴期間は、効力発生日から6か月以内です(会社法828条)。

* なお、株主総会決議の取消事由がある場合は、決議の日から3か月以内に「決議取消しの訴」を提起しなければなりません(会社法831条)。

ⅱ)「事業譲渡」の場合
「事業譲渡」の場合は、何時でも無効の主張ができます。なお、契約は当初から無効となります。