(当事務所の取扱業務)
① 会社分割登記申請の代理
会社分割登記申請手続事務の相談
② 会社分割契約書等各種文案書類の作成代理
各種文案書類作成の相談
③ 許認可手続書類の作成代理・提出手続代理
許認可手続書類作成の相談
④ 登記に関する審査請求手続(不服申立手続)についての代理
(目次)
(1) 会社分割の意義等
① 会社分割の種類
② 会社分割のメリット
③ 会社分割の可否(疑問点)
(2) 吸収分割について
① 吸収分割契約の承認
② 吸収分割手続のフローチャート
③ 吸収分割の効力
④ 債務の承継と債権者保護
⑤ 権利の承継と対抗要件
⑥ 継続中の訴訟の承継
(3) 新設分割について
① 新設分割計画の承認
② 新設分割の手続
(1) 会社分割
ア 会社分割の意義
会社分割とは、会社が有する事業を分離することにより、「経営の効率化や企業の再編」を図るための制度です。
・会社法(平成18年5月1日施行)では、「分社型分割」のみが認められています。
* 分社型分割の意味
分割承継会社の受ける対価に対し、分割承継会社の発行する株式等を分割法人に割り当てる会社分割のことです。
・つまり、分割により分割法人が交付を受ける分割対価資産が、その分割の日において、分割法人の株主等には交付されません。
イ 会社分割の種類
会社分割には、「吸収分割」と「新設分割」があります。
(ア) 吸収分割とは
既に存在する会社に、分割会社の業務の一部又は全部を承継させる方式の会社分割。
(イ) 新設分割
業務を承継させる会社を分割と同時に設立して、分割会社の業務の一部又は全部を承継させる方式の会社分割。
ウ 会社分割のメリット
「① 業務を細分化して競争力を高められる」、「② 財務内容を改善できる」、 「③ 借入金が過大若しくは債務超過の状態にあり、借入金の返済負担及び金利負担が大きい企業においては、会社分割若しくは事業譲渡の手法を利用して債務を整理し、事業の再生を図ることができる」。
エ 会社分割の可否(疑問点)
「債務超過」・「資本の欠損」と会社分割の可否
下記のいずれの場合も、会社分割が可能です。
記
① 分割会社において、資本の欠損が生じている場合
② 分割会社が、分割の結果、資本の欠損が生じるような会社分割
③ 分割会社が、債務超過となる会社分割
④ 承継される事業が、債務超過である会社分割
* (ア) 債務超過の意義
債務者の負債総額が、資産の総額を超える状態にあること。
・つまり、資産の全てを売却しても、負債を返済しきれない状態にあること。
(イ) 資本の欠損の意義
「会社の純資産額(資産の額-負債の額)」が、「資本金と法定備金(資本準備金・利益準備金)の合計額」より少ないときで、債務超過の状態になっていないとき。
(ウ) 「分割会社・新設会社・吸収会社」が債務超過でも、会社分割が可能です。
(2) 吸収分割について
ア 吸収分割契約の承認
(ア) 株主総会の承認
吸収分割をするには、吸収分割会社及び吸収分割承継会社において、原則として、吸収分割契約を株主総会の特別決議により承認することが必要です。
* 株主総会の「普通決議」と「特別決議」の意義
① 普通決議の意義
総株主の過半数が出席し、出席株主の過半数の賛成で成立する決議のことです。
* なお、定款で、出席した株主のみで総会が成立する旨の定めをすることもできます。
② 特別決議の意義
総株主の過半数が出席し、出席株主の3分の2以上の賛成で成立する決議のことです。
* なお、定款で、出席した株主のみで総会が成立する旨の定めをすることもできます。
(イ) 種類株主総会の承認
吸収分割会社又は吸収分割承継会社が吸収分割に関する拒否権付種類株式を発行している場合には、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議を必要とします。
(ウ) 簡易分割
「吸収分割会社の場合は、会社法784条3項」、「吸収分割承継会社の場合は、会社法796条3項」に定める要件を満たす場合には、株主総会の承認決議を要しません。
* ① 会社法784条3項の趣旨
吸収分割により、吸収分割承継会社に承継させる資産の帳簿価格の合計額が吸収分割株式会社の総資産額の5分の1を超えない場合は、株主総会の承認決議は不要です。
② 会社法796条3項の趣旨
吸収分割において、吸収分割会社に対して交付する資産の帳簿価格の合計額が存続会社の総資産額の5分の1を超えない場合は、株主総会の承認決議は不要です。
(エ) 債権者保護手続
あ 新設分割の場合
新設分割をする場合、新設分割会社の債権者は、新設分割後に新設分割会社に対して債務の履行を請求することができないときは、新設分割会社に対し、新設分割について異議を述べることができます。
・したがって、新設分割会社においては、原則として、債権者保護手続を行うことが必要です。
い 吸収分割の場合
吸収分割承継会社の債権者は、吸収分割承継会社に対し、吸収分割について異議を述べることができます。したがって、吸収分割承継会社においては、必ず債権者保護手続を行うことが必要です。
イ 吸収分割手続のフローチャート
① 会社分割計画書の作成
↓
② 取締役会の承認決議
↓
③ 会社分割契約の締結
↓
④ 会社分割契約についての株主総会承認決議
↓
⑤ 債権者異議申述公告
↓
⑥ 株主総会において、会社分割決議に反対した株主に対する株式買取請求手続
↓
⑦ 会社分割の効力発生期日
(ⅰ) 吸収分割
会社分割契約で定めた期日に、分割の効力が発生する。
(ⅱ) 新設分割
新設会社の設立登記の日に、分割の効力が発生する。
↓
⑧ 会社分割登記の申請
ウ 吸収分割の効力(権利義務の包括承継)
吸収分割契約において定められた吸収分割の効力発生日をもって、吸収分割の効力が生じると、承継会社は分割契約書の記載に従い、分割会社の権利義務を承継します。
エ 債務の承継と債権者保護
分割会社の債務についても、分割契約書に記載することにより、債権者の個別の承諾を要せずに、当然に承継会社に承継されることから、分割承継会社の債権者の保護を図るため、債権者保護手続が定められています。
・債権者保護手続において、各別の催告を受けなかった債権者に対する法定の弁済責任が定められています。
オ 権利の承継と対抗要件
(ア) 不動産・船舶・株式について
あ 不動産について
吸収分割による不動産所有権の承継は、「不動産に関する物権の得喪及び変更」として移転登記等が必要です。
い 船舶について
吸収分割による船舶所有権の承継は、「船舶所有権の移転」として、移転登記等が必要です。
* ① 船舶登記の対象は20トン以上の船舶であり、船舶登記簿に登記されます。「所有権・抵当権・賃借権」の登記が可能です。
② 20トン未満の漁船は農業用動産として農業用動産登記簿に登記することができます。「所有権・抵当権」の登記が可能です。
う 株式について
株式については「株式の譲渡」として、株主名簿の名義書換えが必要です。
(イ) 動産・債権について
動産・債権については、明文上「譲渡」の場合に限って対抗要件を具備することが要求されています。
あ 合併の場合
合併は包括承継であり、譲渡ではないので、合併による動産・債権の承継については対抗要件を具備する必要はありません。
い 会社分割の場合
会社分割の場合は、分割後も分割会社は存続し、承継させた権利の二重譲渡の危険性があるので、対抗要件を具備する必要性が高くなります。
・したがって、会社分割による動産・債権の承継については、民法178条、467条を類推適用し、占有の移転や譲渡通知等の対抗要件を具備することが必要となります。
カ 継続中の訴訟の承継
(ア) 当該金銭債務が会社分割による承継の対象とならなかった場合
分割会社のみが当事者となり、原告は、分割会社を被告として、引き続き訴訟を追行することになります。
(イ) 当該金銭債務が会社分割による承継の対象となった場合
承継会社が、自ら訴訟参加の申立をし、又は相手方の訴訟引受の申立により、当事者となります。
・分割会社は、相手方(原告)の承諾を得て、訴訟から脱退することができます。なお、相手方が訴訟脱退を承諾しないときは、分割会社は分割に基づく免責的債務引受の効果を主張するなどして、請求棄却を求めることになります。
(3) 新設分割について
ア 新設分割計画の承認
(ア) 株主総会の承認
新設分割をするには、新設分割会社において、原則として、新設分割計画を株主総会の特別決議により承認することが必要です。
(イ) 種類株主総会の承認
新設分割会社が、新設分割に関する拒否権付種類株式を発行している場合には、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議を必要とします。
(ウ) 簡易分割
新設分割をする場合に、会社法805条に定める要件を満たすときは、株主総会の承認決議は不要です。
* 会社法805条の趣旨
新設分割により、新設分割設立会社に承継させる資産の帳簿価額の合計額が、新設分割株式会社の総資産額の5分の1を超えない場合は、株主総会の承認決義は不要です。
(エ) 債権者保護手続
新設分割をする場合、新設分割会社の債権者は、新設分割後に新設分割会社に対して債務の履行を請求することができないときは、新設分割会社に対し、新設分割について異議を述べることができます。
・したがって、新設分割会社においては、原則として、債権者保護手続を行うことが必要です。
イ 新設分割の手続
① 分割契約書の作成
新設分割の会社分割を行うためには、新設分割計画を作成する必要があります。
② 基準日
新設分割計画の承認を得る株主総会において、議決権を行使し得る株主を確定するため、議決議行使のための基準日を設定する必要があります。
③ 株主総会招集通知の発送
(ⅰ) 招集通知
株主総会の招集通知は、会日より2週間前(譲渡制限会社においては、原則として1週間前)に各株主に対して発送することを要します。
(ⅱ) 株主総会参考書類
招集に際して、書面決議によることができると定めた場合は、株主総会参考書類及び議決権行使書類を併せて交付しなければなりません。
④ 事前開示
分割する会社の取締役は、原則として、株主総会の会日の2週 間前より分割の日の後6か月を経過するまで、新設分割計画等の書類を会社の本店に備え置かなければなりません。
⑤ 労働者との協議
労働者に対する関係では、会社の分割に伴う労働契約の承継に関しては、分割会社は、労働契約承継法(会社の分割に伴う労働契約の承継等に関する法律)2条1項に基づく通知をすべき日(具体的には、総会の会日の2週間前)までに、労働者と協議することが義務付けられています。
⑥ 株主総会
新設分割計画承認のためには、株主総会の特別決議が必要です。
⑦ 債権者保護手続
(ⅰ) 意義
会社分割に際して、会社債権者に対し、異議を述べる機会を提供し、異議を述べた債権者については、その債権者が分割により害されるおそれがないときを除いて、弁済や担保提供をしなければならない旨を定めた手続をいいます。
(ⅱ) 趣旨
会社分割により、承継する債務、会社財産が債権者の承諾なく、分割を行う会社によって決定され、これに伴い、債権者にとって引当てとなる財産が減縮してしまう可能性があります。そこで、会社分割により重大な影響を受ける会社債権者の保護を図るための手続が設けられています。
(ⅲ) 具体的手続
a 対象債権者
(a) 分割会社の債権者のうち、会社分割後に分割会社に対し債務の履行を請求できなくなる者
(b) 分割会社が、分割対価である株式等を株主に分配する場合の分割会社の債権者
b 会社債権者に対する公告及び個別催告
c 異議を述べた債権者への対応
債権者が異議を述べた場合、分割してもその債権者を害するおそれがないときを除いて、弁済期の到来している債権者に対しては弁済し、弁済期が到来していない債権者に対しては、相当の担保の提供又はその債権者に弁済を受けさせることを目的として、信託会社に相当の財産の信託をしなければなりません。
(ⅳ) 合併の場合との相違
a 合併の場合
官報及び定款で定めた日刊新聞紙による公告を行ったときは、知れたる債権者に対する個別の催告は不要とされています。
b 会社分割の場合
分割会社に対する不法行為債権者に対しては、各別の催告は省略することができません。
(ⅴ) 社債権者が異議を述べる場合
社債権者も会社に対する債権者ですが、異議を述べるためには、社債権者集会における決議によることを要します。
(ⅵ) 各別の催告を受けなかった債権者の取扱い
新設分割計画において、債務を負担しないこととされた会社も弁済責任を負わされています。
* 弁済責任の限度額
「分割会社は、会社分割の効力が生ずる日に有した財産の価額」、「承継会社は、承継した財産の価額」を限度とします。
⑧ 反対株主の株式買取請求権
(ⅰ) 意義
会社分割に反対する株主に対し、自己の有する株式を分割の承認決議がなければ有したであろう公正な価格で買い取るべきことを、会社に対し請求することができる制度です。
(ⅱ) 趣旨
会社分割が行われた場合、分割会社の財産状態は大きく変動し株主の地位に重大な影響を及ぼすことが考えられるので、株主を保護することが必要とされます。
・このため、合併、資本減少の場合と同じく、投下資本の回収を認め、株主に対し経済的保護を与えることとしました。
(ⅲ) 具体的手続
a 新設分割計画承認の株主総会に先立って、会社に対し、書面にて会社分割に反対の意思を通知した上で総会に出席し、決議の際、反対の意思表示を行い、会社に対して、自己の有する株式を買い取るよう請求することになります。
b 分割会社は、新設分割計画承認の総会決議の日から2週間以内に、その株主に対して新設分割をする旨と新設会社の商号及び住所を通知しなければなりません。
c 買取請求は、上記通知又は公告の日から20日以内に、「株式の種類及び数」を記載した書面を会社に提出して行動なければなりません。
d 株式の価格は、株主と会社との間で協議が調った場合、分割会社は、新設会社が成立した日から60日以内にこれを支払う必要があります。
⑨ 会社分割がなされたときは、分割会社については変更登記を、新設会社においては、設立登記をしなければなりません。
⑩ 事後開示
分割当事会社の取締役は、分割の効力が生じた日以後、法務省令で定めた事項を記載(記録)した書面を作成し、6か月間備え置いて、株主・債権者・その他利害関係人の閲覧又は謄本・抄本の交付請求に応じなければなりません。
⑪ 対抗要件
第三者に対し、新設会社に権利が承継されたことを対抗するためには、登記などの対抗要件を備えなければなりません。
⑫ 分割無効の訴えの期間の満了
新設会社成立の日から6か月の経過により、分割無効の訴え期間が満了し、事前開示、事後開示の書類の備置きを要する期間も満了します。