(当事務所の取扱業務)
① 行政庁への行政不服申立手続の代理(特定行政書士)
* 特定行政書士は、「行政書士が作成した許認可申請に係る不許可処分等」に対し、行政庁への不服申立手続の代理業務が行えます。
* 当事務所の「田口昭一・佐々木大輔」は、特定行政書士です。
(許認可の不許可処分の例)
(ⅰ) 農地転用の不許可
(ⅱ) 建設業の不許可
(ⅲ) 産業廃棄物処理施設設置の不許可
② 行政庁への行政不服申立書作成代理(特定行政書士)
・行政庁への行政不服申立書提出手続代理
③ 行政事件訴訟(地方裁判所の管轄)に関する「訴状・準備書面等裁判所へ提出する書類」の作成
・行政事件訴訟書類作成事務の相談
④ 公安委員会へ提出する「警察に対する苦情申出書」の作成代理
・公安委員会へ提出する「警察に対する苦情申出書」の提出手続代理
・公安委員会へ提出する「警察に対する苦情申出書作成事務」の相談
(目次)
(1) 行政行為に対する不服(平成28年4月1日以降)
(2) 行政不服申立制度
① 行政不服申立制度の意義
② 行政不服申立の対象
③ 行政不服申立人・不服申立の利益
④ 行政不服申立の基本構造
⑤ 審査員制度の導入・審理請求の審理と審理員
⑥ 審査請求の手続
⑦ 審理手続
⑧ 行政不服審査会等への諮問
⑨ 裁決
⑩ 教示制度・情報提供及び公表
(3) 行政事件訴訟提起による行政に対する不服申立
① 行政事件訴訟の定義
② 行政事件訴訟の類型
③ 訴訟要件
④ 取消訴訟の審理
⑤ 訴訟の終了
(4) 「行政不服申立」と「行政事件訴訟」の関係
① 「行政不服申立」と「行政事件訴訟」の関係
② 行政不服申立の長所
③ 行政事件訴訟の長所
(1) 行政行為に対する不服(平成28年4月1日以降)
ア 行政行為に対する不服申立の方法
行政行為に対し不服を申し立てるには、下記の2つの方法があります。
① 行政不服審査法に基づく不服申立(以下、「行政不服申立」という。)
(ⅰ)根拠法 ― 行政不服審査法
(ⅱ)裁断期間 ― 行政機関
(ⅲ)手数料 ― 不要
(ⅳ)審理方式 ― 書面主義
(ⅴ)審理の対象 ― 「処分の違法性及び不当性」・「不作為」
② 行政事件訴訟提起による不服申立(以下、「行政事件訴訟」という。)
(ⅰ)根拠法 ― 行政事件訴訟法
(ⅱ)裁断期間 ― 裁判所
(ⅲ)手数料 ― 必要
(ⅳ)審理方式 ― 口頭主義(ただし、訴訟書類の提出が必要)
(ⅴ)審理の対象 ― 処分の違法性
イ 「行政不服申立」と「行政事件訴訟」との関係(自由選択主義)
行政不服申立を経なくても、行政訴訟を提起することができます。
・つまり、不服申立について、個別の法律に不服申立前置主義が規定されている場合以外は、自由選択主義が採られています。
(2) 行政不服申立制度
ア 行政不服申立制度の意義等
(ア) 行政不服申立制度の意義
行政不服申立制度とは、「行政庁の処分行為に納得がいかないとき」や「私人の申入れに拘わらず行政庁がそれを受け入れてくれないとき(行政庁の不作為)」に、不服のある者が、裁判所ではなく行政庁に不服を申し立て、その「違法」や「不当」を審査させ、「違法な行為」や「不当な行為」の是正や排除を請求するために設けられた制度のことで、行政不服審査法に規定されています。
(イ) 行政不服審査法の意義
行政不服審査法は、行政上の不服申立に関する一般法です。
(ウ) 行政不服審査法1条2項(目的等)の規定
行政庁の処分その他公権力の行使に当る行為に関する不服申立については、他の法律に特別の定めがある場合を除くほか、この法律の定めるところにより処理されます。
* 他の法律に特別の定めがある場合
他の法律に定めがある場合は、特別法として、一般法である行政不服審査法に優先して適用されます。
(エ) 行政不服申立制度の概要
① 適用される行政処分
「国・公共団体」に、共通に適用されます。
② 不服申立の対象
「税・社会保険・生活保護」を含め、すべての行政分野が対象となります。
③ 手続
その手続は、「簡易迅速」で「手数料は無料」です。
イ 不服申立の対象
① 法に特別の規定がなくても、不服申立可能
一括概括主義を採用しており、行政庁の処分によって権利利益を侵害された国民は、法に特別の規定がなくても、不服申立をすることができます。
* 用語の説明
一括概括主義・列挙主義
行政庁の行為について不服申立ができる否かに関し、下記の考え方があります。
(ⅰ) 一括概括主義
一般的・概括的に認める考え方。
(ⅱ) 列挙主義
法律で個別に列挙した行為に限定する考え方。
② 不服申立の対象
原則として、「行政庁の処分」・「その他公権力の行使に当る行為」に限られます。
③ 行政庁の処分の意味
行政庁の処分とは、「公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為」のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているもののことです。
④ 不服申立の対象とならない行為
行政不服審査法「第7条1項1号~12号」に定める除外規定に該当するものは、不服申立の対象となりません。
* 適用除外の例示
裁判所若しくは裁判官の裁判により、又は裁判の執行としてされる処分(行政不服審査法7条1項2号の抜粋)。
ウ 行政不服申立人・不服申立の利益
(ア) 不服申立人適格
① 不服申立は、外国人や法人でもすることができます。
② 不服申立をするには、不服申立人適格が必要です。
不服申立人適格は、「行政庁の処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれがある場合」に認められます。
(イ) 不服申立の利益
不服申立は、行政庁の処分を取り消す実際上の必要性が認められない場合は、不服申立の利益を欠くものとして、却下されます。
エ 行政不服申立の基本構造
不服申立の方法は、下記のとおりです。
① 審査請求 (不服申立の原則)
② 再調査の請求(法律に特別の定めがある場合にできます)
③ 再審査請求 (法律に特別の定めがある場合にできます)
(ア) 審査請求
審査請求とは、行政庁の処分又は不作為に対する原則的な不服申立手段のことです。
・審査請求は、法律の改正により、公平性の高い制度となりました。
* その理由は、行政不服審査法の改正で「審理員制度」や「行政不服審査会等への諮問制度」が導入されたからです。
あ 審査請求への一元化
不服申立は、原則として、審査請求の手続によって行います(行政不服審査法2条)。
* 平成26年改正の行政不服審査法は、異議申立制度を廃止し、審査請求に一元化しました。
い 審査請求の申立先(行政不服審査法4条1項1号~4号)
(あ) 審査請求の申立先(原則)
① 処分庁・不作為庁に上級行政庁がないとき(行政庁が国の場合)当該処分庁等に対して審査請求をします。
* 都道府県知事に対する不服申立は、当該都道府県の知事に審査請求をします。
(理由)
都道府県知事には、上級行政庁がないので。
② 処分庁・不作為庁に上級行政庁があるとき(行政庁が国の場合)
当該処分庁等の最上級行政庁に対して、審査請求をします。
(特例)
(ⅰ) 処分庁等が、主任の大臣、宮内庁長官又は内閣府や各省に置かれた外局の長であるとき当該処分庁等に対して、審査請求をします。
* 例示
処分庁等が財務省の外局である国税庁長官であれば、その上級行政庁は財務大臣ですが、この場合には、審査請求は国税庁長官にすることになります。
(ⅱ) 主任の大臣、宮内庁長官又は内閣府や各省に置かれた外局の長が処分庁等の上級行政庁であるとき
・主任の大臣、宮内庁長官又は当該処分庁の長に審査請求をします。
(例)
処分庁の上級行政庁が国土交通大臣であれば、その最上級行政庁として内閣が存在しますが、この場合は内閣ではなく国土交通大臣にすることになります。
(い) 処分庁等を経由する場合の審査請求の申立先等
① 処分庁等を経由して審査請求の申立をする場合において、行政庁が処分庁等(処分庁及び不作為庁)と異なる場合
処分庁等を経由して審査請求をすることができます。
* 審査請求が処分庁等を経由してできるという意味であり、請求の申立先は、処分庁等ではなく審査庁なので、審査請求書の宛先は審査庁となります。
② 審査請求書が提出された場合の処分庁等の対応
処分庁等は、直ちに、当該審査請求書を審査庁となる行政庁に送付しなければなりません。
③ 処分庁等を経由した場合の期間計算
処分庁等に審査請求書を提出した時に、処分についての審査請求があったものとみなします。
(う) 裁決の種類
裁決の種類は、下記のとおりとなります。
① 却下裁決
審査請求の適法要件を欠く場合に、実質的な審理に入ることなく審査請求を門前払いする裁決です。
(適法要件を欠く例)
(ⅰ) 審査請求を徒過した場合
(ⅱ) 審査請求ができない事項について審査請求をした場合
(ⅲ) 審査請求人に審査請求適格が欠けていた場合
(ⅳ) 審査請求書の補正命令に従わなかった場合
② 棄却裁決
審査請求の審理の結果、審査請求人の請求に理由がないと判断された場合になされる裁決です。
* 棄却裁決の特殊な類型として、「事情裁決」があります。
(事情裁決の意義)
処分が違法又は不当である場合でも、これを取り消し又は撤廃することによって公の利益に著しい障害を生じる場合においては、審査庁は、諸般の事情を考慮した上、例外的に当該審査請求を棄却することが認められています。
③ 認容裁決
審査請求の内容を実質的に審理した結果、審査請求人の請求に理由があるときになされる裁決です。
(イ) 再調査の請求
あ 再調査の請求とは
再調査の請求とは、行政庁の処分につき、「処分庁以外の行政庁に対して審査請求ができる場合」において、「個別の法律に再調査の請求ができる」旨の定めがある場合に限ってすることができます。
* 再調査の請求は、処分庁に対して、簡易・迅速な手続でその見直しを求める制度です。
い 再調査請求ができる場合(審査請求との関係)
「再調査の請求」と「審査請求」を選択することができます。
(あ) 先ず、審査請求をした場合
再調査の請求をすることはできません。
(い) 先ず、再調査の請求をした場合
処分庁による当該再調査請求の決定を経た後でなければ、原則として、審査請求をすることができません。
(ウ) 再審査請求
あ 再審査請求の意義
審査請求の裁決内容に不服のある審査請求人が、行政機関において、再度、「処分の内容」と「裁決の内容」を審査することを求めることをいいます。
* ・行政庁の処分につき、法律に「再審査請求ができる旨の定めがある」場合に限り認められています(行政不服審査法法6条)。
・行政不服制度は、原則として一審制であり、個別法に特別の定めがある場合に限り、例外的に二審制が採用されています。
い 「再審査請求」と「行政事件訴訟の提起」の関係
再審査請求ができる場合、再審査請求を経ずに、直接、裁判所に行政事件訴訟を提起することもできます。
(エ) 不作為についての審査請求
あ 不作為についての審査請求の意味
不作為についての審査請求とは、「法令に基づき、行政庁に対して、一定の処分を求めて申請したが、行政庁側から何の回答もない場合」に、当該申請をした者は、そのことを不服として、審査請求ができることをいいます。
い 不作為についての審査請求の要件
不作為について審査請求をすることができる要件は、下記のとおりです。
① 「法令に基づく申請」をしたこと
② 当該申請につき、「相当の期間」が経過していること
* (ⅰ) 相当の期間とは
行政庁が申請内容を検討、判断するのに必要な期間のことです。
(ⅱ) 行政庁が、標準処理期間を定めている場合
行政庁が定めた当該標準処理期間(行政手続法6条)が、基準となります。
③ 行政庁が「何らの処分」もしていないこと
④ 審査請求人は、当該申請をした者であること
う 審査請求期間
不作為についての審査請求には、請求期間の制限はありません。
* 審査請求・再調査の請求期間
a 不作為以外の「処分についての審査請求の請求期間」・「再調査の請求期間」
処分があったことを知った日の翌日から3か月以内に請求することが必要です。
b 当該処分について、既に再調査の請求をしていた場合の審査請求の期間
当該再調査の請求の決定があったことを知った日から1か月以内に請求しなければなりません。
え 不作為についての審査請求手続
「不作為についての審査請求手続」は、「処分についての審査請求手続」と基本的に同じです。
* ① 「処分についての審査請求書」と相違する記載内容
当該不作為に係る処分についての申請内容及び年月日
② 「処分についての審査請求」と相違する不作為庁の弁明書の記載内容
(ⅰ) 処分をしていない理由
(ⅱ) 予定される処分の時期・内容及び理由
お 不作為についての審査請求の裁決
裁決内容は、「処分についての審査請求」の場合と同様で、下記のとおりとなります。
① 却下裁決
審査請求の適法要件を欠く場合に、実質的な審理に入ることなく審査請求を門前払いする裁決です。
* 却下裁決は、下記のような場合になされます。
(ⅰ) 不作為についての審査請求が、当該不作為に係る処分についての申請から相当期間が経過しないでなされたものである場合
(ⅱ) ある理由により、不適法である場合
② 棄却裁決
不作為についての審査請求に理由がない場合になされる裁決のことです。
③ 認容裁決
不作為についての審査請求に理由がある場合になされる裁決のことです。
オ 審理員制度の導入・審理請求の審理と審理員
(ア) 審理員制度の導入
平成26年の行政不服審査法の全面改正により、審理員制度が導入されました。
* これにより、「審理の客観性・公正性の向上」と「手続保障」の充実が図られることになりました。
(イ) 審査請求の審理・審理員
審査請求の審理は、審査庁に所属する職員の中から指名された審理員が行います。
(ウ) 審査請求の当事者等
審査請求をする当事者は、下記のような方法をとることができます。
① 総代
多数人が共同して審査請求をする場合、各請求人は、その代表となる総代を互選して、総代を通じて審理手続を行うことができます。
② 代理人
審査請求は、本人から委任を受けた代理人によってもなすことができます。
③ 参加人
利害関係人は、参加人として、審理員の許可を得て審査請求に参加することができます。
(エ) 行政庁が裁決をする権限を有しなくなった場合の措置
審査請求がなされた後、行政庁が法令の改廃により裁決をする権限がなくなったときは、従前の審査庁は、審査請求書等を新たな審査庁に引き継がなければなりません。
(オ) 審理手続の承継
審査請求人が、死亡又は合併等をしたときは、審査請求人の地位は、原則としてその相続人又は合併後存続する法人等に承継されます。
カ 審査請求の手続
(ア) 審査請求期間
あ 「主観的な審査請求期間」と「客観的な審査請求期間」
① 主観的な審査請求期間
処分についての審査請求は、原則として、「処分があったことを知った日」の翌日から起算して3か月を経過したときはすることができません。
* 当該処分の再調査の請求をした後に審査請求を行う場合再調査の請求についての決定があったことを知った日の翌日から起算して、1か月を経過したときはすることができません。
② 客観的な審査請求期間
処分についての審査請求は、原則として、「処分(当該処分についての再調査の請求をしたときは、当該再調査の請求についての決定)があった日」の翌日から起算して1年を経過したときはすることができません。
い 「処分があったことを知った日」の意味
処分があったことを知った日とは、処分があったことを現実に知った日のことです。
う 審査請求期間の例外
① 主観的な審査請求期間の例外
正当な理由があるときは、期間外でも申し立てることができます。
② 客観的な審査請求期間の例外
請求者に正当な理由がある場合には、期間外でも審査請求をすることができます。
(イ) 審査請求書の提出
あ 審査請求(書面・口頭による請求)
原則として、審査請求は、書面で行わなければなりません。
* 口頭による審査請求
個別法に特別の規定がある場合に限り、口頭によって審査請求をすることができます。
い 審査請求書の記載事項
① 処分についての審査請求書の記載事項
(ⅰ) 審査請求人の氏名又は名称及び住所又は居所
(ⅱ) 審査請求に係る処分の内容
(ⅲ) 審査請求に係る処分があったことを知った年月日
* 当該処分について、再調査の請求についての決定を経たときは、当該決定を知った年月日
(ⅳ) 審査請求の趣旨及び理由
(ⅴ) 処分庁の教示の有無及び内容
(ⅵ) 審査請求の年月日
(ⅶ) 行政不服審査法5条2項1号の規定により、再調査の請求についての決定を経ないで審査請求をする場合には、再調査の請求をした年月日
(ⅷ) 行政不服審査法5条2項2号の規定により、再調査の請求についての決定を経ないで審査請求をする場合には、その決定を経ないことについての正当な理由
(ⅸ) 審査請求期間の経過後において審査請求をする場合には、行政不服審査法18条1項ただし書又は同条2項ただし書に規定する正当な理由
② 不作為についての審査請求書の記載事項
(ⅰ) 審査請求人の氏名又は名称及び住所又は居所
(ⅱ) 当該不作為に係る処分についての申請の内容及び年月日
(ⅲ) 審査請求の年月日
う 記載事項についての説明
① 処分についての審査請求書
「処分についての審査請求書」には、上記「(イ)い ①」の事項を記載しなければなりませんが、それをどのように、どのような順序で記載するかについては、特に定めはありません。
② 不作為についての審査請求書
「不作為についての審査請求書」の記載事項は、処分についての審査請求書の記載事項に比べて簡単です。
* 簡単な理由
行政庁の事務処理の促進を求め、不作為状態を解消させることを目的とするものなので、審査請求書に記載すべき事項は、審査請求の対象とする不作為を特定することができる事項で足りるからです。
(ウ) 口頭による審査請求
あ 口頭による審査請求が可能な場合
口頭による審査請求は、個別法に特別の規定がある場合に限りすることができます。
* 審査請求は、原則として、書面によることが必要です。
い 口頭による審査請求の方法
(あ) 請求人が陳述しなければならない事項は、下記のとおりです。
① 処分についての審査請求の場合
(ⅰ) 審査請求人の氏名又は名称及び住所又は居所
(ⅱ) 審査請求に係る処分の内容
(ⅲ) 審査請求に係る処分があったことを知った年月日
* 当該処分について、再調査の請求についての決定を経たときは、当該決定があったことを知った年月日
(ⅳ) 審査請求の趣旨及び理由
(ⅴ) 処分庁の教示の有無及び内容
(ⅵ) 行政不服審査法5条2項1号の規定により、再調査の請求についての決定を経ないで審査請求をする場合
=決定を経ないことについての正当な理由
(ⅶ) 審査請求期間の経過後において審査請求をする場合
=行政不服審査法18条1項ただし書又は同条2項ただし書に規定する正当な理由
② 不作為についての審査請求の場合
(ⅰ) 審査請求人の氏名又は名称及び住所又は居所
(ⅱ) 当該不作為に係る処分についての申請の内容及び年月日
(ⅲ) 審査請求の年月日
(ⅳ) 審査請求人が、法人その他の社団若しくは財団である場合、総代を互選した場合又は代理人によって審査請求をする場合は、その旨
(い) 行政庁の対応
陳述を受けた行政庁は、その陳述の内容を収録し、これを陳述人に読み聞かせて誤りのないことを確認し、陳述人に押印させなければなりません。
う 口頭による審査請求が認められている例
口頭による審査請求を認める個別法の規定の例は、下記のとおりです。
① 地方公務員等共済組合法117条
② 国家公務員共済組合法103条
③ 国民健康保険法99条
④ その他
(エ) 審査請求書の補正について
あ 審査請求書の補正命令
審査請求書に不備がある場合は、審査庁は、相当の期間を定め、その期間内に、不備を補正すべきことを命じなければなりません。
い 補正の効果
審査請求人が、審査庁の補正命令に従って、指定期間までに補正を行った場合は、当初から適法に申立があったものとして取り扱われます。
(オ) 執行停止
あ 執行不停止の原則
審査請求がされても、当該処分の効力は停止されません。
い 執行停止手続の開始
執行停止をする場合は、その手続をする必要があります。
* 審査庁が、処分庁の上級行政庁又は処分庁であるときの執行停止
当該審査庁は、必要があると認めるときは、審査請求人の申立又は職権で執行停止の措置を採ることができます。
う 執行停止の要件
執行停止の申立を受けた審査庁は、下記の要件があると認めるときは、当該処分の執行を停止しなければなりません。
① 申立人に、処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる回復困難な損害を避けるために緊急の必要があるとき。
② 下記の要件がないとき
(ⅰ) 公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれ
(ⅱ) 本案について、理由がないとみえること
え 執行停止の内容
① 処分の効力の停止
処分の効力の停止とは、形成的な効力を有する処分の効力を停止し、その後は処分がなかったと同じ状態を確保することです。
* 処分の効力を停止できない場合
処分の効力の停止以外の措置によって目的を達することができるときは、執行停止ができません。
② 処分の執行の停止
処分の執行の停止とは、処分の内容を実現させる行政作用を停止させることです。
③ 手続の続行の停止
手続の続行の停止とは、当該処分を前提として、これに続く処分をさせないようにすることです。
④ その他の措置
その他の措置とは、原処分に代わる仮処分をすることによって、原処分の効力や執行の停止をするのと同じ効果を得るために行われる措置のことです。
* 上記「その他の措置」が行える場合
審査庁が、「上級行政庁」又は「処分庁」である場合に限り行えます。
お 執行停止の決定
下記の場合、審査庁は、速やかに執行停止をするか否かを決定しなければなりません。
① 執行停止の申立があったとき
② 審理員から執行を停止すべき旨の意見書が提出されたとき
(カ) 審査請求の取下げ
あ 不服申立の取下げ
不服申立人は、いつでも自由に不服申立を取り下げることができます。
* なお、「再調査の請求」や「再審査請求」についても、いつでも自由に取下げをすることができます。
い 取下げの時期
不服申立は、裁決又は決定があるまでは、いつでも取り下げることができます。
う 取下げの手続
① 取下げの形式
不服申立の取下げは、書面でしなければなりません。
* 書面の形式は、法定化されていないので、どのような形式でもかまいません。
② 代理人による取下げ
取下げについての特別の委任を受けた代理人は、不服申立の取下げをすることができます。
え 取下げの効力
① 不服申立の手続の終了
不服申立が取下げられると、その時点で、不服申立の手続は終了します。
② 「取下げの撤回」、「再度の不服申立の可否」
(ⅰ) 取下げの撤回
適法に取下げがなされた以上、取下げの撤回は認められません。
(ⅱ) 再度の不服申立の可否
不服申立を取り下げた後に、同様の不服申立をすることは許されません。
キ 審理手続
(ア) 審理手続の流れ
① 弁明書の提出
審理員が審査庁から指名されたときは、
(ⅰ) 審理員は、直ちに審査請求書又は審査請求録取書の写しを処分庁等に送付し、
(ⅱ) 相当の期間を定めて、処分庁等に対し、弁明書の提出を求めます。
② 反論書等の提出
審査請求人は、送付された弁明書に記載された事項に対する反論を記載した反論書を提出することができます。
③ 審理手続の終結
(ⅰ) 審理手続の終結の時期
審理員は、必要な審理を終えたと認めるときは、審理手続を終結するものとします。
(ⅱ) 審理関係人に対する通知
審理員が、審理手続を終結したときは、速やかに、審理関係人に対し、下記事項を審査庁に提出する時期を通知しなければなりません。
記
a 審理手続が終結した旨
b 審理員意見書
c 事件記録
* なお、予定時期を変更したときも、通知しなければなりません。
(ⅲ) 審理員意見書の作成と通知
a 審理員は、審理手続を終結したときは、遅滞なく審査庁がすべき「裁決に関する意見書」を作成しなければなりません。
b 審理員は、審理員意見書を作成したときは、速やかに、審理員意見記録とともに、審査庁に提出しなければなりません。
(イ) 口頭意見陳述
審査請求人又は参加人から、「口頭意見陳述の申立」があった場合は、審理員は、当該申立人に口頭で審査請求に係る事件に関する意見を述べる機会を与えなければなりません。
(ウ) 証拠書類又は証拠物の提出
行政不服申立においては、職権探知主義が採用されており、審理員は、審理関係人の主張や証拠の提出がなくとも、職権でこれらを探知して審理の資料とすることができます。
* 「弁論主義」と「職権探知主義」の意義
(ⅰ) 弁論主義
判決又は裁断の基礎をなす「事実の確定に必要な資料(訴訟資料また裁断資料)」の収集、提出(事実の主張・証拠の申出)を当事者の権限と責任とする建前のことです。
* 行政訴訟においては、原則として、弁論主義が採用されています。
(ⅱ) 職権探知主義
裁判所又は裁断機関が、訴訟資料又は裁断資料の収集、提出につき、当事者の主張及び証拠の申出に拘束されずに、職権でこれらを探知して審理の資料とすることができるとする建前のことです。
(エ) 審理手続の計画的進行及び遂行
あ 審理手続の計画的進行
審理関係人(審査請求人、参加人及び処分庁等のことです。)及び審理員は、簡易迅速かつ公正な審理を実現するため、審理において、相互に協力するとともに、審理手続の計画的な進行を図らなければなりません。
い 審理手続の計画的遂行
審理員は、迅速かつ適正な審理を行うため、審理手続を計画的に遂行する必要があると認める場合には、期日及び場所を指定して、審理関係人を招集し、予め、これらの審理手続の申立に関する意見の聴取を行うことができます。
(オ) 審査請求人等による提出書類等の閲覧等
審査請求人又は参加人は、審理手続が終結するまでの間、審理員に対し、提出書類等の閲覧又は交付を求めることができます。
(カ) 審理手続の併合・分離
あ 審理手続の併合
審理手続の併合とは、数個の審査請求を同一の手続で審理することをいいます。
い 審理手続の分離
審理手続の分離とは、数個の審査請求につき併合審理を解き、ある審査請求を別個の審理手続において審理することをいいます。
う 併合・分離手続の実施
併合・分離手続は、審理員の職権に基づいて行われます。
ク 行政不服審査会等への諮問
審査庁は、審理員意見書の提出を受けたときは、一定の場合を除き、下記の機関に諮問しなければなりません。
記
① 行政不服審査会(行政行為を行った行政機関が国の場合)
又は
② 地方公共団体の機関(行政行為を行った行政機関が都道府県の場合)
ケ 裁決
(ア) 裁決の意義
裁決とは、審査請求又は再審査請求に対する審査庁の応答のことをいいます。
* つまり、当該審査請求又は再審査請求に対する審査庁の最終的判断のことです。
(イ) 裁決の時期
審査庁は、下記のいずれかに該当する場合は、遅滞なく裁決を行わなければなりません。
① 行政不服審査会等から諮問に対する答申を受けたとき。
② 行政不服審査法43条1項2号及び3号以外の理由で、行政不服審査会等への諮問が不要とされている場合は、審理員意見書が提出されたとき。
③ 行政不服審査法43条1項2号及び3号に該当する場合は、同項に該当する議を経たとき。
(ウ) 裁決の種類
裁決の種類には、下記の4種類があります。
① 却下裁決
審査請求又は再審査請求が不適法である場合の裁決のことです。
② 棄却裁決
審査請求又は再審査請求が適法であるが、理由がない場合の裁決のことです。
③ 認容裁決
審査請求又は再審査請求に理由がある場合、処分の取消し等が認容される場合の裁決のことです。
④ 事情裁決
審査請求に係る処分が違法又は不当であるが、当該処分の取消し等を行うと、公の利益に著しい損害を生ずる場合、当該審査請求を棄却し、裁決の主文において「当該処分が違法又は不当である旨」を宣言する裁決のことです。
(エ) 裁決の方式
裁決書に記載が必要な事項は、下記のとおりです。
① 審査庁の記名押印
② 主文
③ 審理関係人(審査請求人、参加人、処分庁等)
④ 理由
⑤ 再審査請求ができる裁決については、「再審査請求ができる旨・再審査請求をすべき行政庁・再審査請求期間」
⑥ 取消訴訟を提起することができる裁決をする場合、「当該裁決に係る取消訴訟の被告となるべき者・出訴期間」
(オ) 教示
① 審査庁は、再審査請求をすることができる裁決をする場合は、裁決書に下記事項を記載し、教示しなければなりません。
(ⅰ) 再審査請求をすることができる旨
(ⅱ) 再審査請求をすべき行政庁
(ⅲ) 再審査請求期間
② 取消訴訟を提起することができる裁決をする場合は、裁決書に下記事項を記載し、教示しなければなりません。
(ⅰ) 当該裁決に係る取消訴訟の被告とすべき者
(ⅱ) 当該裁決に係る取消訴訟の出訴期間
(カ) 行政行為の効力と裁決の効力
あ 行政行為の効力と裁決の効力は、以下のとおりです。
① 一般の行政行為(行政処分)の効力
(ⅰ) 公定力
公定力とは、「行政行為は、例えその行為に瑕疵があり、違法であったとしても、それが重大かつ明白な瑕疵で無効と認められる場合でない限り、裁判によって取り消されるまでは、一応有効であるものとして、審査請求人はもとより、他の行政機関も第三者もその効力を承認しなければならない」ことをいいます。
(ⅱ) 執行力
執行力とは、「行政行為によって命ぜられた義務を相手方が任意に履行しない場合、行政庁が自らその義務の内容を実現することができる」ことをいいます。
(ⅲ) 不可争力
不可争力とは、「不服申立、取消訴訟の時間的制限により、争訟による取消しの手段を失わせる効力」のことをいいます。
(ⅳ) 不可変更力
不可変更力とは、「いったん、権限ある行政庁が行った決定、裁決は、自ら取り消すことができない」ということです。
② 裁決の性質からくる効力
(ⅰ) 拘束力
拘束力とは、関係行政庁に、裁決に従った行動をするように義務付ける効力のことをいいます。
(ⅱ) 不可変更力
不可変更力とは、裁決をした審査庁が、当該裁決を取り消したり、変更できなくなることをいいます。
い 裁決の効力についての「行政不服審査法の規定」
行政不服審査法は、拘束力についてのみ規定し、その他の効力については直接規定せず解釈に委ねています。
う 裁決の効力発生時期
裁決は、裁決書が審査請求人に送達された時にその効力が生じます。
コ 教示制度・情報提供及び公表
(ア) 教示制度
あ 教示制度の意義
国民が容易に不服申立をすることができるようにするため、行政不服審査法は、教示制度を設けました。
* 行政庁が、審査請求等の「不服申立をすることができる処分」を書面でする場合
処分の相手方に対し、下記のことを教示しなければなりません。
記
(ⅰ) 当該処分につき不服申立をすることができる旨
(ⅱ) 不服申立をすべき行政庁
(ⅲ) 不服申立をすることができる期間
い 教示をしなかった場合
行政庁が処分を行う際に、本来するべき教示をしなかった場合、当該処分に不服がある者は、当該処分庁に不服申立書を提出することができます。
う 教示の内容が誤っていた場合
① 誤った行政庁を審査庁として教示した場合
教示された行政庁に審査請求書が提出されてしまった場合は、当該行政庁は、速やかに、処分庁又は審査庁となるべき行政庁に審査請求書を送付し、かつ、その旨を審査請求人に通知しなければなりません。
② 再調査の請求に関して誤った教示をした場合
(ⅰ) 再調査の請求ができない処分について、再調査の請求ができる旨の教示をした場合
当該処分庁に、再調査の請求がなされた場合は、処分庁は、速やかに、「再調査の請求書」又は「再調査の請求録取書」を、審査庁となるべき行政庁に送付し、かつ、その旨を再調査の請求人に通知しなければなりません。
(ⅱ) 審査請求と再調査の請求の両方をすることができる処分について、審査請求をすることができる旨の教示をしなかった場合
処分庁に再調査の請求がなされた場合には、再調査の請求人からの申立があれば、処分庁は、速やかに、「再調査の請求書等」及び「関係書類」、「その他の物件」を審査庁となるべき行政庁に送付しなければなりません。
・再調査の請求書等が審査庁となるべき行政庁に送付されたときは、再調査の請求を処分庁にした時点で、審査庁となるべき行政庁に審査請求がなされたものとみなされます。
(ⅲ) 審査請求と再調査の請求の両方をすることができる処分について、再調査の請求をすることができる旨の教示をしなかった場合
審査請求人が、当該教示に従い、審査請求をした後であっても、審査請求人からの申立があれば、審査庁は、審査請求人に弁明書が送付されていない限り、速やかに、「審査請求書」又は「審査請求録取書」を処分庁に送付しなければなりません。
・審査請求書等が処分庁に送付されたときは、審査請求書等が審査庁に提出された時点で、処分庁に再調査の請求がなされたものとみなされます。
③ 審査請求をすることができない行政庁の行為について、これができる旨を教示した場合
このことによって、審査請求ができるようにはなりません。
(イ) 情報提供及び公表
あ 審査庁の情報提供義務
不服申立をしようとする者や不服申立をした者の求めに応じて、「不服申立書の記載に関する事項」、「その他の不服申立に必要な情報」を提供する努力義務が、審査庁に課せられています。
い 審査庁の公表義務
「裁決の内容」や「不服申立の処理状況」を公表する努力義務が、審査庁に課せられています。
サ 特定行政書士制度の創設
平成26年6月27日に公布された「行政書士法の一部を改正する法律」により、特定行政書士制度が創設され、不服申立の手続について代理することができるようになりました。
* ① 行政書士法第1条の3 第1項2号関係
行政書士は、「行政書士が作成した官公署に提出する書類に係る許認可等に関する審査請求、再調査の請求、再審査請求」等の行政庁に対する不服申立の手続について代理し、及びその手続について官公署に提出する書類を作成することを業とすることができます。
② 前記の業務は、当該業務について日本行政書士会連合会がその会則で定めるところにより実施する研修の過程を終了し、かつ、考査に合格した行政書士(「特定行政書士」という。)に限り行うことができます。
(3) 行政事件訴訟提起による行政に対する不服申立
ア 行政事件訴訟の定義
行政事件訴訟とは、「行政庁の行った行政行為により、国民に不利益が生じたり又は生じるおそれがある場合に、裁判によって違法状態を排除して、権利利益の回復を求めるための訴訟手続(行政事件訴訟法に規定されている手続)」のことをいいます。
* 行政不服申立は、行政機関に申し立てるのに対し、行政事件訴訟は裁判所に申し立てるものです。
イ 行政事件訴訟の類型
行政事件訴訟法が規定する訴訟類型は、大きく分類すると下記の4つになります。
① 抗告訴訟
行政庁の処分や不作為によって権利侵害の状況が生じた場合に、判決によって違法の判断をしてもらい、権利侵害の除去等の救済をしてもらうための訴訟です。
(抗告訴訟の例)
(ⅰ) 処分の取消しの訴え
行政庁の処分その他の公権力の行使に当る行為の取消しを求める訴えです。
(ⅱ) 裁決の取り消しの訴え
審査請求、再調査の請求、再審査請求その他の不服申立に対する行政庁の裁決・決定その他の行為の取消し求める訴えです。
(ⅲ) 無効等確認の訴え
処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無の確認を求める訴えです。
(ⅳ) 不作為違法確認の訴え
行政庁が、法令に基づく申請に対し、相当の期間内に何らかの処分又は裁決をすべきであるにもかかわらず、これをしないことについての違法の確認を求める訴えです。
(ⅴ) 義務付けの訴え
一定の場合に、行政庁に対してその処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める訴えです。
(ⅵ) 差止の訴え
行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにもかかわらず、これがされようとしている場合において、行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求める訴えです。
* この訴えは、行政庁による違法な不利益処分がされる前の事前的な救済手段といえます。
(ⅶ) 無名抗告訴訟
明文で認められたもの以外の他の類型の抗告訴訟のことをいいます。
(例示)
民事の妨害排除請求に対応する抗告訴訟を、人格権に基づき基礎づけようとする権力的妨害排除請求訴訟
② 当事者訴訟(形式的当事者訴訟・実質的当事者訴訟)
(ⅰ) 形式的当事者訴訟
形式的当事者訴訟とは、当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とする訴訟のことです。
(典型例)
土地収用による補償額に関する争い
* 個別の法律にその旨の定めがある場合に認められる訴訟類型であり、「土地収用法」や「自然公園法」にその例があります。
(ⅱ) 実質的当事者訴訟
実質的当事者訴訟とは、公法上の法律関係に関する「確認の訴え」、その他の公法上の法律関係に関する訴訟のことです。
(公法上の法律関係の具体例)
a 免職処分の無効を前提とする「公務員の地位確認の訴え」
b 免職後の「給料支払い請求訴訟」
③ 民衆訴訟
民衆訴訟とは、国又は公共団体の行政機関が法規に適合しない行為をした場合に、その是正を求める訴訟のことです。
(具体例)
(ⅰ) 公職選挙法の定める選挙の効力に関する訴訟
(ⅱ) 地方自治法の住民訴訟
* 民衆訴訟の提起
民衆訴訟は、法律で定める場合において、法律で定める者に限り提起することができます。
④ 機関訴訟
機関訴訟とは、国又は地方公共団体の行政機関相互において、権限の存否又はその行使に関し争いがある場合の訴訟のことです。
(具体例)
地方公共団体の長と議会の間での議決又は選挙に関する訴訟
* 機関訴訟の提起
機関訴訟は、法律で定める場合において、法律で定める者に限り提起することができます。
ウ 訴訟要件
(ア) 訴訟要件の定義
訴訟要件とは、本案について審理判断をするための要件で、その主要なものは下記のとおりです。
① 処分性
取消訴訟の対象となるのは、「行政庁の処分その他の公権力の行使に当る行為」です。
・行政庁の行う行為のうち、「処分性」の認められる行為が訴訟の対象となります。
* 行政庁の処分とは(最判昭和39・10・29)
最高裁の判例は、行政庁の処分とは、「公権力の主体たる国又は公共団体の行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上定められているもの」であるとしています。
② 原告適格
原告適格とは、「個別具体的な事件について、訴えを提起し得る資格ないし地位」のことをいいます。
③ (狭義の)訴えの利益
「行政庁による処分を取り消すことの実際の必要性」のことです。
・処分を取り消すことによって、原告に何らかの利益の回復が得られることが必要です。
(イ) その他の訴訟要件は、下記のようなものです。
① 被告適格(被告となる者:行政事件訴訟法11条)
(ⅰ) 処分の取消しの訴えの場合の被告適格
「当該処分をした行政庁の所属する国又は公共団体」となります。
(ⅱ) 裁決の取消しの訴えの場合の被告適格
「当該裁決をした行政庁の所属する国又は公共団体」となります。
② 裁判管轄(行政事件訴訟法12条)
(取消訴訟の場合)
「被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所」又は「処分若しくは裁決をした行政庁の所在地を管轄する裁判所」の管轄に属します。
③ 出訴期間(行政事件訴訟法14条)
取消訴訟は、処分又は裁決があったことを知った日から6か月以内に提起しなければなりません。
④ 「処分の取消しの訴え」と「審査請求」との関係(行政事件訴訟法8条)
処分の取消しの訴えは、審査請求をなし得る場合でも直ちに訴訟を提起しても構いません。
・ただし、法律に「当該処分についての審査請求をした後でなければ処分の取消しの訴えを提起できない」と規定されているときはこの限りではありません。
エ 取消訴訟の審理
行政事件訴訟の審理は、行政事件訴訟法に固有の規定がない限り、民事訴訟法の規定が適用されて審理されます。
・その審理についての概要は、下記のとおりです。
① 手続の進行・資料の収集
(ⅰ) 手続の進行
職権進行主義を採っています。
・行政訴訟の審理の充実及び促進という観点から、裁判所が、行政庁と訴えを提起した国民との力の差を埋めるため、裁判所による釈明処分の特則が認められています。
* a 釈明処分とは
裁判所が、口頭弁論又は弁論準備手続などで釈明権を行使するほか、その準備又は補充として、事案の解明を図るため適当な処分をすることができることをいいます。
b 釈明権とは
訴訟事件の内容をなす事実関係や法律関係を明確にさせるため、当事者に対し事実上・法律上の事項について問いを発し又は立証を促す裁判所の機能のことです。
(ⅱ) 審判内容、事実主張、資料の収集・提出
民事訴訟と同様に、訴訟の当事者に任されています。
・判決の基礎をなす事実の主張と証拠の申出は、当事者の権能と責任でやるべきとされています。
(ⅲ) 訴訟の開始、訴訟内容、訴訟の終了
「訴訟の開始、訴訟内容、訴訟の終了」について、当事者に処分権能を認められているので、当事者は、それらについて自由に決定できます。
・また裁判所は、当事者の主張した事実に従って判断します。
(ⅳ) 証拠の収集の特則
行政事件訴訟では、その性質上、職権証拠調べ(裁判所が証拠を集めること)が認められています。
* このことは、民事訴訟では認められていません
② 執行不停止の原則
(ⅰ) 抗告訴訟を提起しても、行政機関がなした処分の効力は停止しません。
(ⅱ) 行政庁の公権力の行使については、民事保全法に規定されている仮処分は適用されません。
(ⅲ) 仮処分に代わる制度が、「執行停止制度」です。
* その内容は、「当事者の申立により、裁判所の決定をもって、行政機関の行った処分の執行を停止し、仮の救済を図る」というものです。
③ 教示制度
行政庁は、「取消訴訟を提起できる処分又は裁決をする場合」には当該処分又は裁決の相手方に対して、下記の事項を書面で教示しなければなりません。
・ただし、当該処分を口頭でする場合は、教示義務はありません。
(教示すべき事項)
(ⅰ) 当該処分又は裁決に係る取消訴訟の被告とすべき者
(ⅱ) 当該処分又は裁決に係る取消訴訟の出訴期間
(ⅲ) 法律に、「当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを提起することができない旨の定があるとき」は、その旨
オ 訴訟の終了
取消判決が確定しますと、下記の効力が発生します。
① 形成力
請求を認容する判決が確定した場合、原処分の全部または一部が取り消されたときは、原処分の当該部分の効力は直ちに失われ、当初より存在しなかったことになります。
② 既判力
確定判決には,後訴での通用力が認められ、当事者を拘束します。
③ 対世効
判決の効力が、訴訟の当事者以外にも及びます。
④ 拘束力
(ⅰ) 行政庁は、同一事情の下で、同一理由、同一内容の処分をなすことができません。
(ⅱ) 行政庁は、取消判決の趣旨に従って、あらためて措置を執るべき義務を負います。
(4) 「行政不服申立」と「行政事件訴訟」の関係
ア 行政不服申立と行政事件訴訟の関係
① 自由選択主義
原則として、自由選択主義を採用しています。
(ⅰ) 行政不服申立と行政事件訴訟のどちらを先に行ってもよいです。
(ⅱ) 不服申立をしている最中に行政事件訴訟を提起することもできます。
② 不服申立前置主義
例外的に、法律の規定により、先に行政不服申立をし、その後でなければ訴訟を提起できない場合があります。
イ 行政不服申立の長所
① 書面による審理なので簡易迅速な救済手段となります。
② 裁判と違い、「行政処分が適法か違法か」だけでなく、「行政裁量の行使が不当か正当か」についても審理できます。
* 行政事件訴訟の場合は、行政庁の行為が「適法か違法か」の審理をするのみです。
③ 行政機関で取り扱うので、行政機関の専門的知識を活用することができます。
ウ 行政事件訴訟の長所
① 裁判所が審理するので、中立的立場で公平な判断をしてもらえます。
② 裁判所は主張・立証をもとに口頭弁論を経て判決するので、慎重な判断を経て判決してもらえます。