3 信託全般

(当事務所の取扱業務)

① 信託契約書作成・信託登記申請等の信託手続

② 家族信託手続

③ 金銭信託手続

④ 不動産管理信託手続

⑤ 土地信託手続

⑥ その他の信託手続

(目次)

1 信託の3つの特徴と機能

(1) 3つの特徴

(2) 機能

2 信託の意義等

(1) 信託の意義

(2) 民事信託と商事信託

(3) 信託の種類(自益信託と他益信託)

(4) 信託の当事者と任務

(5) 信託の要件

(6) 信託設定の方法

(7) 信託財産

3 民事信託制度について

(1) 民事信託制度

(2) 自己信託

(3) 限定責任信託

(4) 目的信託

(5) 受益者連続信託

(6) 家族信託

(7) 遺言代用信託
※ 遺言信託との相違について

(8) 事業信託

(9) 知的財産権の信託

(10) 公益信託

(11) 受益証券発行信託

(12) 担保権の信託(せキュリティー・トラスト)

(13) 具体的契約書例

4 まちづくり信託

1 信託の3つの特徴と機能

(1) 3つの特徴
信託は、下記の3つの特徴を有しています。

① 信託は、財産分離方式による財産管理制度です。

② 信託の受託者は、他人の財産を預かっているので、委託者に対して非常に厳しい権利・義務が課されます。

③ 受益者(その信託財産から利益を得る人)を、手厚く保護しなければなりません。


(2) 機能
民法では、「代理」・「委任」・「寄託」といった財産権を移転しない財産管理制度があるにもかかわらず、信託の必要性は、他の財産管理制度ではできない機能を、信託を使って生じさせようとすることにあります。
(具体例)

① 高齢者が、自己の財産を、代理制度を使って誰かに預けたとした場合、その高齢者が、認知症になってしまうと意思能力がなくなるので代理制度を活用することができなくなります。

② そして、本人が亡くなってしまうと代理権は消滅し、相続となってしまいます。

③ また、認知症となった者の土地・建物を売却し、老人ホームに入居させようとしても、自身では契約の締結ができず、成年後見人を選任し、成年後見人を代理人として入居契約を締結しなければなりません。

④ しかし、信託を使えば、財産権は当初の信託段階で委託者から受託者へ移転するので、成年後見制度を使う必要がなく、かつ、相続の問題も発生しません。


2 信託の意義等

(1) 信託の意義
信託とは、財産を有する者(委託者)が、自己又は他人(受益者)のために、当該財産(信託財産)の管理、運用、処分等を管理者(受託者)に委ねる仕組みのことです。


(2) 民事信託と商事信託

ア 民事信託
信託の当事者が、限定された特定の者を相手方として、営利を目的とせず、継続反復ではなく、1回だけ引き受ける信託です。個人財産の管理を目的として信託を設定された場合に用いられます。
(例)
家族信託(個人財産の管理、処分を目的とする信託です。)

イ 商事信託
信託の受託者が、業として、不特定多数の者を対象に引き受ける信託です。

・業者となるには免許等が必要であり、金融庁による監督を受けます。
(例)

① 投資信託

② 退職給付信託

ウ 民事信託の活用
従来、信託は商事信託が中心でした。しかし、信託法の抜本改正により、信託制度が身近なものとなり、民事信託の積極的な活用が期待されています。

エ 民事信託のメリット
民事信託には、下記のメリットが考えられます。

① 財産の保護

② 税負担の軽減(譲渡所得税、登録免許税)


(3) 信託の種類(自益信託と他益信託)

ア 自益信託
受託者の行う管理、運用、処分等が、委託者本人(委託者兼受益者)のためになされる信託のことです。

イ 他益信託
受託者の行う管理、運用、処分等が、委託者本人のためではなく、第三者たる受益者のためになされる信託のことです。


(4) 信託の当事者と任務

ア 当事者
「① 委託者」・「② 受託者」・「③ 受益者」の三者が存在します。

イ 受託者の任務
受託者は、受託した財産を受益者のために管理、運用する義務と責任を負います。


(5) 信託の要件

① 委託者から受託者に、信託の目的となる財産が完全に移転すること。

* なお、財産の移転のみならず、担保権の移転も含まれます。

② 移転された信託の目的となる財産(信託財産)を、受益者のために管理、処分する制約を受託者に課すること。


(6) 信託設定の方法

ア 信託契約による方法(信託法3条1号)
信託は、委託者と受託者の間で締結される信託契約において、下記事項を定めることによって設定されます。

① 委託者が、受託者に対し、財産の譲渡、担保権の設定、その他の財産を処分する旨。

② 一定の目的に従う旨。

③ 財産の管理、処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をなすべき旨。

イ 遺言による方法(信託法3条2号)
下記事項を、「遺言する方法により設定」する信託のことであり、遺言の効力発生によって信託の効力が生じます。

① 委託者が、受託者に対し、財産の譲渡、担保権の設定、その他の財産を処分をする旨。

② 一定の目的に従う旨。

③ 財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をなすべき旨。

ウ 公正証書等によって意思表示をする方法(自己信託、信託法3条3号)
下記の方法により設定されます。

① 一定の目的に従い、自己の有する一定の財産の管理、処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為を、自らすべき旨の意思表示を、公正証書その他の書面又は電磁的記録によってなす。

② 当該目的、当該財産の特定に必要な事項その他の法務省令で定める事項を記載し又は記録したものによってなす。


(7) 信託財産

ア 信託の対象となる「財産」
金銭的価値に見積もり得るものすべてで、換金可能性が必要とされています。

* 委託者の生命・身体・名誉等の人格権は含まれません。

(理由)
人格権は一身専属的権利であり、譲渡することができないからです。

イ 「財産」に、消極財産は含まれるか
消極財産は、含まれません。

* ただし、積極財産の信託の設定と同時に、委託者が有していた債務を受託者に移転させ、かつ、信託財産をその債務の引き当てとする債務引受はできます(信託法21条1項3号)。


3 民事信託制度について

(1) 民事信託制度には、下記の信託があります。

① 自己信託

② 限定責任信託

③ 目的信託

④ 受益者連続信託

⑤ 家族信託

⑥ 遺言代用信託

⑦ 事業信託

⑧ 知的財産の信託

⑨ 公益信託

⑩ 受益証券発行信託

⑪ 担保権の信託


(2) 自己信託

ア 意義
委託者と受託者が同じである信託です。

イ 問題点
自己信託であっても、受託者は受益者に対し義務を負い、受益者が受託者に対し受益権を有します。他の信託と異なり、委託者から受託者への財産の移転がなく、いつ信託の効力が発生したのか分かりにくく、そのため、委託者の債権者を害するおそれがあります。

ウ 要件

① 信託の設定は、公正証書による必要があります。

・公正証書以外の書面によるときは、受益者となるべきものとして指定された第三者に対する確定日付のある証書による通知を要します。

② 委託者の債権者は、信託財産として別に管理されている財産に対しても強制執行できます。

③ 信託設定が真正になされたことを、弁護士、公認会計士、税理士等にチェックさせるなどの義務が求められます。

エ 信託業法の適用可能性
自己信託を繰り返し行う場合であっても、「業として信託を引き受ける」とはいえず、信託業に該当しません。そのため、民事信託で活用する場合、自己信託に信託業法は適用されません。

オ 自己信託の活用方法

(ア) 企業組織再編の効果
例えば、事業承継の対象会社において、後継者に経営能力がないため能力のある第三者に事業運営を託させるだけでなく、自社に優秀な人材がいる場合であっても自己信託は有用です。

(イ) 事業承継と信託受益権

あ 問題点
相続人である後継者が、事業承継の対象会社の自社株式を相続した場合、納税資金を工面する必要があります。また、当該会社が自己株式として買い取るにしても、剰余金の分配可能額の範囲内という規制があります。

い 上記問題点の解決の一つの方法が自己信託です。
後継者は、ある事業部門を自己信託し、その信託受益権につき現預金を比較的多く相続した相続人に買い取ってもらうことで、納税資金とすることができます。

・また、オーナー経営者が生前に、ある事業部門を自己信託し、それを後継者に相続させることで、前記の方法を採れば事業承継ができます。

カ 課税

(ア) 会社の特定の事業部門について、自己信託を設定した段階では、信託財産は同じ法人内での移動に過ぎないため、法人税は課されません。

(イ) 信託財産から生じる毎年の所得については、受益者課税ではなく、法人課税となります。ただし、自己勘定部分と信託勘定部分はそれぞれ別の単体法人とみなして、別個に法人税の申告を行います。

(ウ) 自己信託において、法人が委託者となる場合、毎年の所得について、受託者に対し法人税が課されます。


(3) 限定責任信託
信託法は、受託者の責任が信託財産に限定される限定責任信託を認めている一方、債権者保護のための規定を整備しています。

ア 意義
受託者が、当該信託の全ての信託財産責任負担債務について、信託財産に属する財産のみをもってその履行の責任を負う信託のことをいいます。

* そのため、受託者が信託を引き受けやすくなります。

イ 債権者保護の要件

(ア) 信託債権者に対する責任財産を、信託財産に限定する旨の登記が要求されます。

(イ) 法務省令で定める方法により算定される給付額を超えて、受益者に信託利益の給付を行うことはできません。

(ウ) 受益証券発行限定責任信託は、一定以上の資産額の信託について、会計監査人の監査が義務付けられています。

ウ 設定要件
設定要件は、下記のとおりです。

① 信託財産責任負担債務について、「受託者が信託財産に属する財産のみをもってその履行の責任を負う旨」の定めをなす。

② その旨の登記をする。


(4) 目的信託
受益者の定めがなく、一定の目的のために設定する信託です。設定方法としては下記の方法があります。

* ただし、どちらも、信託存続期間は20年を超えることができません。

ア 設定方法(2つの方法)

① 信託契約による方法

② 遺言による方法

イ 活用方法

(ア) 特定目的の信託利用
次のような目的のため、個人財産を受託者に信託するものです。

① 事業貢献者に奨励金を支給する私的ノーベル賞

② 創業者記念館の建設、運営

③ 慈善又はボランティア基金

④ 委託者の死後における財産管理及びペットの飼育

⑤ 子育て支援

(イ) 相続のバイパスとしての利用
例えば、甲の推定相続人Aが浪費家であるため、甲が孫B(Aの子ども)に遺贈をしても、財産を管理する親(推定相続人A)が使い込んでしまう場合があります。

・そこで、甲が孫Bに遺贈した財産につき、死後の財産管理を受託者Yに委託します。将来、孫Bが受益者になります。

* その場合、贈与税が課税されますが、推定相続人Aに浪費されるよりもいいでしょう。

ウ 目的信託の課税

(ア) 目的信託の課税には、下記の2つがあります。

① 信託契約による目的信託の課税(委託者は、個人・法人ともに可)

② 遺言により設定された目的信託の課税(委託者は個人のみ)

(イ) 詳細

① 生前に信託契約によって、信託財産が委託者から受託者に移転します。委託者に対して譲渡所得税がかかります。

② 遺言により設定する目的信託の場合、相続開始によって効果が発生します。課税関係は前記1と同様です。委託者が死亡した場合、相続人は委託者の地位を引き継ぐことができません。


(5) 受益者連続信託
財産分割の新たな手法で、相続問題に多様な活用が期待されています。

ア 例
受益者Aの死後は、Bを受益者とする旨の定めをする信託です。信託から30年を経過した後、指定された受益者が死亡(又は受益権が消滅する)するまでの間、効力を有します。

イ 具体的活用場面

① 息子の嫁に遺産をやりたくないとき

② 元妻の再婚相手に相続させたくないとき

③ 後継者が幼少のための対策

ウ 課税(例えば、委託者Aが受託者と信託契約を締結した場合)
Aの死亡により、B(相続人)が受益権を取得します。しかし、Cを第2次受益者としておけば、Cが遺贈により取得したものとみなして、Cに対して相続税を課すことになります。


(6) 家族信託
自己の死亡後における財産分配を、信託によって達成します。

ア 特徴

① 委託者が、死亡後受益者を変更する権利を有する。

② 死亡後受益者は、委託者が死亡するまでは、受益者としての権利を有しない。

* 死亡後受益者とは、「委託者の死亡を始期として、受益権又は信託利益の給付を受ける権利を取得する者」です。

イ 家族信託の信託法上の規定

① 遺言代用信託

② 後継ぎ遺贈型の受益者連続信託
(具体例)
夫が生前には、自らを受益者として、夫の死後は妻を、妻の死後はさらに長男を連続して受益者とする旨を定める信託です。


(7) 遺言代用信託

ア 定義
遺言代用信託とは、下記のような信託のことです。

① 委託者が死亡すれば、受託者になると指定された者が受益権を取得する旨の定めのある信託。

② 委託者の死亡を始期として、受益者が信託財産に係る給付を受ける権利を取得する旨の定めのある信託。

イ 事例
自身が委託者となり、受託者に財産を信託して(例えば、委託者が生存中は、委託者自身を受託者とします。)、委託者の配偶者又は子どもなどを死亡後受益者とします。

ウ 方式
民法の遺言のような厳格な様式によることなく、生前に死亡後の財産の処分方法について信託行為をもって定めます。死因贈与と類似の機能を営みます。

エ 受託者に対する監督

(ア) 遺言代用信託では、委託者の生存中に受益者が存在しない場合等が想定され、受益者による受託者に対する監督が期待できません。そこで、委託者が、受益者の定めのない信託における委託者の権利と同様の権利を有します。つまり、委託者は、受託者に対する監督が可能なのです。

(イ) 「① 委託者が死亡した後、受益者となるべき者が未だ存在しない場合」又は「② 受益者として、受託者に対する監督的機能を現実に行使できない場合」のため、「信託管理人又は信託監督人に関する規定」を信託契約の際に設けておく必要があります。

オ 遺言代用信託と遺言信託との相違

(ア) 契約と単独行為
遺言代用信託は、「契約による生前処分」ですが、遺言信託は遺言という「単独行為による死後処分」です。

(イ) 方式

あ 遺言代用信託
契約なので、遺言信託における後記手続は不要であり、受益者は委託者の死亡後速やかに給付を受けることが可能です。

* 遺言代用信託の意味
「遺言書の代わりとなるサービス」のことであり、「契約された遺言内容を確実に実現する仕組み」のことです。

い 遺言信託

① 遺言の方式及び効力に関する民法上の規定が適用され、厳格な遺言の方式を履践する必要があります。

② 財産の引渡しには、遺言執行者による執行を経なければなりません。

③ 公正証書遺言の場合を除き(例:自筆証書遺言)、家庭裁判所の検認を経る必要があります。

* A 遺言信託の意味
「遺言書の作成から執行までのサービス」のことであり、「遺言書を作成、保管し、信託銀行が遺言執行者となって遺言内容を実現させる仕組み」のことです。

B 遺言信託の事例
信託銀行が、「遺言書(公正証書遺言のみ)作成をサポートし」、「信託銀行が遺言書を保管し、遺言執行者となって遺言内容を実現させる仕組み」のものです。

(8) 事業信託

ア 意義
株式等の承継により、会社の事業を個人後継者(現代表の子ども等)に引き継がせるのではなく、財産及び債務の集合体としての事業そのものを信託により移転させる取引です。
(具体例)
一定期間、事業の運営を受託者に委ね、信託期間満了後に受益者に事業を継続させるのです。対象会社の事業を、負債も含めて信託の対象とします。

* 従来のオーナー経営者は受益者となります。

イ 事業信託の活用場面

① 会社の後継者対策

・後継者がいない場合又は後継者が育つまで、経営能力のある第三者に事業を信託するのです。中継ぎ的に信託を活用し、将来後継者が経営者として育った場合に信託を終了して、後継者が自身で当該会社の経営を行います。

・信託を継続して、受益者のままでいることも当然に可能です。

・現オーナー経営者が委託者として、生前に信託会社と信託契約を結び、現オーナー自身が受益者となり、相続によって受益権を承継者(後継者)に相続させることも可能です。

② 会社の分割的な活用

・会社が所有する多数の不動産の賃貸など、高度かつ専門的な経営能力をあまり要しない事業は、経営能力が未だ備わっていない後継者でも経営ができます。

・他の事業は、受託者(信託会社)に事業の信託をして受益者となり、信託終了後に、後継者は自身で当該会社を経営します。

* つまり、後継者が経営能力を身につけるまで、時間的猶予を得ることができます。

③ 遺産分割に関する活用
現オーナー経営者の長男Xに経営能力がない場合、事業部門Aを信託受益権で相続させます。他方、経営能力のある長女Yに事業部門Bを相続させます。

* つまり、このような方法により、同族間の紛争を予防することができます。


(9) 知的財産権の信託
知的財産権の信託には、次のことが考えられます。

① 管理信託
「第三者による権利侵害からの保護」や「効率的な管理」を目的として設定される信託。

② 流動化型信託
資金調達の手段として用いられる信託。

③ 特許権の管理信託
企業が保有する特許権の一括管理を目的とした特許権の管理信託。

④ 資金調達を行う信託
映画の著作権を信託財産として資金調達を行う信託。

* 信託業法の改正により、商事信託における受託財産の制限が撤廃されたので、信託銀行及び信託会社であっても、知的財産権(特許権、著作権など)の信託を受託することが可能となりました。


(10) 公益信託

ア 意義
委託者(個人、法人等)が拠出した財産を、受託者が公益目的(学術・技芸・慈善・祭祀・宗教等)に従い、管理、処分して、不特定多数のために役立てることです。

* 受益者の定めのない信託です。

イ 機能・規律
公益信託は、従来の公益法人と類似の機能及び規律を有しています。

ウ 現在の利用状況

① 奨学金の支給

② 学術研究への助成

③ 海外への経済及び技術協力

④ まちづくりや自然環境保護活動への助成

エ 主務官庁の許可・監督
受託者において、主務官庁の許可を受けることを要し、主務官庁の監督を受けます。


(11) 受益証券発行信託

ア 意義
受益権を表示する証券(受益証券)を発行する旨の定めのある信託です。

・受益権の有価証券化が可能になったことにより、信託を用いた金融商品の利便性が高まりました。

イ 受益証券の発行
株券又は社債券と同様、受益証券は発行しないことを原則としつつ、信託行為で定めた場合には、受益証券を発行することができます。

(ア) 受益権に優先劣後を設けた場合

① 優先受益権については、投資家の間を流通させることを目的として、受益証券を発行します。

② 劣後受益権については、受益者が継続保有するために、受益証券を発行しないことができます。

(イ) 受益証券発行信託
信託の変更によって、「受益証券発行の定め」又は「特定の内容の受益権については受益証券を発行しない」旨の定めを変更することはきません。

ウ 受益権原簿制度
受益者と受託者との間の法律関係を明確にするため、株主名簿又は社債原簿と同様に、受益権原簿制度があります。この記載事項は法定されています。

エ 関係当事者の権利義務
この信託は、有価証券化された受益権が投資家の間で転々流通することを前提としているため、受益者による受託者の監督が必ずしも十分に確保されない可能性があります。

・そのため、受託者の善管注意義務を信託行為の定めにより軽減することが禁止されています。

・また、受託者が信託行為の定めに等に基づいて信託事務の処理を第三者に委託した場合、受託者の義務を軽減する特約は認められません。

オ 金融商品取引法の適用
この受益証券は、金融商品取引法上の有価証券とされているので、信託受益権の販売又はその代理もしくは媒介は、金融商品取引法の適用を受けます。


(12) 担保権の信託(セキュリティー・トラスト)

ア 意義
担保権の信託とは、下記内容にて設定する信託です。

① 担保権設定者を委託者とする。

② 担保権者を受託者とする。

③ 債権者を受益者とする。

* (ア) 通常の担保権設定との相違点
債権者と担保権者が分離することです。

(イ) 担保権の信託
担保権の管理を、信託の手法を用いて行うのが担保権の信託です。
(設定方法)
債務者を委託者、担保権者を受託者(例えば、信託銀行・信託会社)、債権者(例えば、金融機関)を受益者として信託を設定します。

イ 設定要件
信託法は、信託契約又は遺言の内容として、財産の譲渡と共に「担保権の設定」を規定し、担保権の信託に関する許容性を明確にしています。

・担保権の信託は、被担保債権を有する債権者を受益者とする他益信託であり、受託者は、受益者たる債権者のために当該担保権の管理、処分を行います。

ウ 設定方法
担保権の信託の設定方法には、次があります。

① 直接設定方式
担保権設定者(債務者又は物上保証人)が、債権者を受益者として、受託者に対して担保権を直接設定する方法。

② 段階設定方式
債権者が、担保権設定者から担保権の設定を受けた上で、当該担保権を被担保債権と分離して受託者に移転する方法。


(13) 具体的契約書例
具体的事案に沿った契約書の例は、下記のとおりです。

①「金銭信託契約書」

②「収益満期受取型貸付信託契約書」

③「金銭信託型財産形成信託契約書」

④「基金運用信託契約書」

⑤「特定金銭信託契約書」

⑥「適格退職年金信託契約書」

⑦「不動産管理信託契約書」

⑧「土地信託契約書」

⑨「賃貸方式の動産設備信託契約書」

⑩「車両信託契約書」

⑪「有価証券投資信託契約書」

⑫「有価証券管理及び処分信託契約書」

⑬「有価証券運用信託契約書」

⑭「金銭債権信託契約書」

⑮「従業員持株信託契約書」

⑯「著作権信託契約書」

⑰「不動産信託受益権売買契約書」

⑱「リース債権信託受益権売買契約書」


4 まちづくり信託

ア まちづくり信託の意義
空き店舗や空き地となって空洞化した地方都市の商店街を活性化させるために、様々な方法がとられています。

・その場合、「①できるだけお金を掛けないで資金を捻出」し、「②無駄な税金は支払わないようにする」ことが肝要です。

・公的資金の融資や補助金の受け皿として、市街地再生のための事業を行うことを目的とした「まちづくり会社」が各地でつくられています。その「まちづくり会社」の株主は、各地の中小事業者です。

・そのほとんどは、土地を借りて建物を建て、テナントに貸して収入を得ています。その場合、まちづくり会社は、経費を除いた約28.05%を法人税、その残りを株式配当に回すことになります。

・ところで、「まちづくり会社」の中には、店舗等を持ち過ぎたため、融資金が多額となり危機に瀕してしまったところがあります。そこで、まちづくり会社は、なるだけ物件を所有しないことが肝要と考えます。

* なぜなら、「①税金をできるだけ低く抑え、②配当をできるだけ多くする」ためです。

・その方法として、民事信託が有利だと思います。

イ まちづくり会社への信託(民事信託)の方法

① 土地所有者又は事業に参加する人達が、定期借地権を共有で持つ。

② その定期借地権を、今後建築する建物と共に、まちづくり会社に信託する。

* 商事信託と民事信託の相違
信託銀行その他信託のライセンスを持つ会社に信託することを「商事信託」といい、それ以外の会社や個人へ信託することを「民事信託」といいます。

ウ 賃料収入に対する「まちづくり会社」への課税
まちづくり会社へは、課税されません。

* 受益権者に不動産所得として直接課税されます(受益者等課税信託)。

エ 高度化融資と戦略補助金を受ける要件

① 受益者は、中小事業者である必要があります。

② まちづくり会社の株主受益者は同一になります。

③ まちづくり会社が、直接戦略補助金を受ける場合は、まちづくり会社が圧縮記帳をすることになりますが、民事信託の場合は、各受益者が圧縮記帳することになります。

* 言葉の説明

(ア) 高度化融資とは
高度化事業とは、中小企業が共同で工場団地・卸団地・ショッピングセンターなどを設置する事業に対して、貸付けやアドバイスの支援を受けられる制度です。都道府県と中小企業基盤整備機構の診断・助言を受けた上で、長期・低利で融資が受けられます。

(イ) 戦略補助金とは
本補助金制度は、中心市街地の活性化に関する法律に規定する認定基本計画に基づき、「都市機能の市街地集約」と「中心市街地の賑わい回復」の双方を一体的に取り組む中心市街地であって、商店街・商業者・民間事業者等が地権者などの幅広い関係者の参画を得て実施する取組みについて、「選択と集中」の視点から重点的に支援するものです。

(ウ) 圧縮記帳
固定資産の帳簿価額を、実際の取得価額より低く記帳することを認める税法上の規定。国庫補助金を受けた際などに適用され、課税延期の効果をもつ。

(エ) 融資に対する担保
担保対象は、信託された定期借地権と建物です。
(方法)

① 定期借地権と建物(まだ完成していません。)を信託することによって発生した受益権に、金融機関を質権者とする質権を設定します(債務者:まちづくり会社)。

② 建物完成後、追加信託登記をした建物に、まちづくり会社を債務者とする抵当権を設定します。

③ 抵当権設定後、受益権に設定した質権を抹消します。

(オ) 注意点
建物は、必ず定期借地権の敷地権の区分建物であることを要します。
(理由)
敷地権がないと建物を競売したとき、当然には定期借地権が競落人のものとならないからです。

以上