2 任意後見

(当事務所の取扱業務)

① 任意後見契約の文案書類作成代理
任意後見契約締結代理(非紛争的事案についてのみ)、
文案書類作成の相談

② 任意後見契約に関連した「継続的見守り契約・財産管理等委任契約・死後事務委任契約」の文案書類作成代理
契約締結代理
文案書類作成の相談

③ 任意後見契約及びこれに関連した契約書の公正証書作成手続代理
契約書等文案書類作成の相談

④ 任意後見人に就任しての後見事務の執行

(目次)

(1) 任意後見制度の意義

(2) 任意後見人の実務

(3) 任意後見契約の要件

(4) 任意後見契約の発効

(5) 任意後見人の委任事務の特徴(成年後見との相違点)

(6) 任意後見契約の利用形式

(7) 継続的見守り契約・財産管理等委任契約

(8) 死後事務の委任契約

(9) 任意後見人・任意後見受任者の死後事務

(1) 任意後見制度の意義
契約による後見の制度であり、自己決定の尊重の理念を最大限生かすための後見の制度です。

・任意後見においては、「①判断能力が不十分な人(本人)の権利擁護者」も、「②その権利擁護者に付与される権限(代理権)の範囲(権利擁護者が本人を代理して行うことができる後見事務の範囲)」も、判断能力が不十分になる前に、本人の意思によって定めることになります。
(具体的内容)
本人が、十分な判断能力があるうちに、将来、判断能力が不十分な状態になった場合に備えて、あらかじめ自らが選んだ代理人(任意後見人)に、「① 自分の生活(生活費の使い方、住宅の維持・管理・補修等)② 療養看護 ③ 財産管理」等に関する事務について代理権を与える任意後見契約を、公正証書で作成しておくというものです。


(2) 任意後見人の実務
任意後見契約を締結しておくことで、本人の判断能力が低下した場合に、任意後見人が任意後見契約で定めた事項について、家庭裁判所が選任する「任意後見監督人」の監督のもとで、本人を代理して契約などをすることによって、本人の意思に従った行為を支援し、保護することが可能となります。


(3) 任後見契約の要件
任意後見契約は、公正証書で作成される必要があります。

・「任意後見契約に関する法律」では、契約の成立、効力の発生、終了等について厳格な規定を設けて、任意後見業務が適正に運用されるようにしています。

・任意後見契約の締結には、公証人が必ず立会い、「本人の意思」や「代理権の範囲」などを十分に確認します。


(4) 任意後見契約の発効
任意後見契約は、契約を締結した段階では契約の効力が発生しません。

ア 契約の効力発行時期
本人の判断能力が衰えた段階で、家庭裁判所において、任意後見人を監督する人(任意後見監督人)が選任されることによって任意後見契約の効力が発生します。

* ① 任意後見監督人選任の審判の請求権者は、下記の者です。

(ⅰ) 本人(任意後見契約の本人)

(ⅱ) 配偶者

(ⅲ) 四親等内の親族

(ⅳ) 任意後見受任者

② 審判
任意後見監督人を選任する審判の請求があったときに、家庭裁判所は、任意後見監督人を選任する審判を行います。

③ 審判が告知される者

(ⅰ) 任意後見監督人

(ⅱ) 任意後見受任者

(ⅲ) 本人

④ 任意後見契約の効力発生
家庭裁判所から前記の者へ告知がなされることによって効力が発生します。

イ 任意後見監督人の意義とその業務
任意後見監督人とは、後見人が契約どおりに後見事務を行っているかを監視する人で、自ら任意後見人を監督できない本人に代わって、契約内容が履行されているかを監督することになります。

* 任意後見監督人の資格・人数等

① 任意後見監督人の資格
自然人(個人)でも法人でも、任意後見監督人になることができます。

② 任意後見監督人の人数
複数の任意後見監督人を選任することができます。

ウ 任意後見契約の登記
任意後見契約が締結された場合、公証人役場から東京法務局へ「任意後見契約の登記申請(嘱託登記)」がなされます。
(登記事項のあらまし)

① 任意後見契約の委任者について
氏名・住所・本籍・生年月日

② 任意後見受任者又は任意後見人について
氏名・住所・代理権の範囲

③ 任意後見監督人が選任されたとき
任意後見監督人の「氏名・住所・選任の審判の確定の年月日」

④ 任意後見契約が終了したとき
終了事由・年月日

⑤ 保全処分に関する事項

* 上記に関する事項のうち政令で定めるもの。


(5) 任意後見人の委任事務の特徴(成年後見との相違点)

ア 任意後見人の権限
代理権のみ有しています。

* 法定後見(「保佐」、「補助」)の場合と相違し、「取消権、同意権」はありません

イ 任意後見契約で「居住用不動産処分の代理権が与えられている場合」
「家庭裁判所の許可審判」や「後見監督人の同意」を得ることなく、居住用不動産を処分することができます。

ウ 本人の希望に従った財産管理が可能
任意後見人の財産管理は、本人の望みに従って、財産を活用するような管理も可能です。

* 法定後見における「後見人の財産管理」は、保全を基本としています。


(6) 任意後見契約の利用形式
任意後見契約する場合、「① 将来のため型」、「② 移行のため型」、「③ 即効のため型」の3つの形式が考えられます。

① 将来のため型
将来、任意後見契約を締結した本人の判断能力が低下した時点で、任意後見契約の効力を発生させるというものです。

② 移行のため型
「財産管理等に関する委任契約(以下、「任意代理契約」という。)」と「任意後見契約」を同時に締結し、本人の判断能力が低下した時点で、「任意代理契約」から「任意後見契約」に移行するものです。

③ 即効のため型
任意後見契約の直後に効力を発生させるものです。

* 認知症気味であっても、契約締結時に意思能力を有していれば任意後見契約の締結は可能です。


(7) 継続的見守り契約・財産管理等委任契約

ア 継続的見守り契約
任意後見契約が、「将来のため型」あるいは「移行のため型」の場合に、任意後見契約の効力が適切な時期に発生するように、任意後見契約の効力が生じるまでの間、「本人の安否・生活状況・心身の状態」等を把握することを内容とする契約のことです。

・任意後見契約では、任意後見の受任者に「本人の把握義務・任意後見監督人選任申立義務」がありません。

・そこで、任意後見契約の中に、下記のような内容を盛り込むことが大切です。

① 「将来のため型」任意後見契約
任意後見契約の中に、「本人の把握条項」を盛り込んでおく。

② 「移行のため型」任意後見契約
任意代理契約の中に、「本人の把握条項」を盛り込んでおく。

イ 財産管理等委任契約
判断能力の衰えはないにもかかわらず、高齢・傷病等により心身の状態に不安がある者が、任意後見契約が発効するまでの間、本人(委任者)の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を受任者に委任する契約です。


(8) 死後事務の委任契約

ア 死後事務の意味
本人が死亡した場合、「葬儀の手続・入院費用の支払・老健施設への支払・家財道具の処分」等の事務が発生します。これらの事務は、任意後見の範囲外の事務です。

・相続人等がそのような事務をしてくれればよいのですが、それが見込め ないような場合、あらかじめ、「任意後見契約、任意代理契約」を締結する際に、このような死後事務をすることを盛り込んだ契約することも可能です。

イ 死後事務委任契約について
死後事務委任契約というのは、委任者が生存しているときに代理権を付与し、自分が死亡した場合の葬儀等に関する事務について委託する契約です(準委任契約です)。

① 死後事務委任契約の必要性
任意後見契約では死後の事務(債務の弁済、葬儀の執行等)を補えないものが多々あります。そこで、死後事務委任契約が必要となります。
(理由)
死後に必要な事務は、「入院費用の弁済、葬儀の執行、遺品の引継ぎ」などの準委任行為や事実行為が多いため、例え遺言書にそのような記載があったとしても、希望として述べられているに過ぎず、それらの事務は法律行為の内容とならないので、実効性がありません。

・任意後見や法定後見では、本人が死亡した場合、「応急処分義務(民法874条による654条の準用)」とか「事務管理(民法697条、700条)」による事務の履行しかできません。

② 死後事務委任契約の「当事者・時期・方式」

(ⅰ) 契約の当事者

・委任者―利用者本人

・受任者―「司法書士・弁護士・社会福祉士等」の法律及び福祉に関する専門家

(ⅱ) 契約の時期
任意後見契約と同時に結ばれることが多いです。
(理由)
本人生存中は、任意後見人による支援」を受けられますが、本人の死亡により、後見人の地位を失うので、相続人がいる場合は相続人代表者の確定、相続人がいない場合は相続財産管理人の選任までに相当の期間を要するため、その空白を埋める必要があるからです。

(ⅲ) 方式
どのような方式でもかまいません。

・ただし、後日の紛争防止のため、公正証書以外の方式で作成する場合は、確定日付を付与しておくことが大事です。

・実務上1通の公正証書にて、「任意後見契約と同時に付随契約として締結」されることが多いようです。

「① 判断力のある時期・② 判断力のなくなった時期・③ 死後事務」に対応できるように、下記のような3つの契約を1つ又は複数の契約書で締結しておくことが大事です。

a 継続的見守り契約及び財産管理等委任契約

(a) 継続的見守り契約の意味
任意後見契約の受任者が、任意後見契約の効力が生ずるまでの間、定期的な面談等により、本人の望んでいる生活や心身の状態を認識することに努め、委任者との信頼関係を深めて、委任者の意思を尊重した委任事務・任意後見事務をスムーズに執行できるようにするためにする契約です。

(b) 財産管理等委任契約の意味
委任者が、判断能力の衰えはないにもかかわらず、高齢・傷病等により心身の状態に不安がある場合、任意後見契約が発効するまでの間、委任者の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を委任する契約です。

b 任意後見契約
判断力が低下した時点以降、財産を保全するため。

c 死後事務委任契約
死後事務の遂行のため。

③ 受任者の履行義務
死後事務委任契約において、受任者は、下記の者に対して履行義務を負います。

(ⅰ) 相続人がいる場合
相続人に対して履行義務を負います(民法644条:善管注意義務)。

(ⅱ) 相続人がいない場合

a 相続放棄により相続人が不存在であったり、相続人が行方不明であったりした場合
相続財産を引き継ぐ財産管理人が選任されるまでの間は、受任者が事務処理を行います。

b 財産管理人が選任された後の場合
受任者と財産管理人の職務が重複する部分について受任者の職が停止します。

④ 任意後見契約締結時における「委任者死亡の際の支払費用負担明確化」の大切さ
本人が存命中に有効だった「財産管理契約・任意後見契約」は、委任者の死亡により終了するので、委任者の現金を使用することも、金融機関の預金通帳から金員を引き出すこともできません。

・そこで、委任者が死亡した際の葬儀費用や遺品整理費用を予め確保しておくために、委任者から生前に現金を預かっておくとか、金融機関から引き出せるようにしておくことが大切です。

・遺言書に、「葬儀執行者Aに、葬儀費用を預託してあります」と記載してもらい、委任者が生前に葬儀費用相当分の金員を預けておくことも方法の1つです。


(9) 任意後見人・任意後見受任者の死後事務

ア 死後事務の終了原因
任意後見契約は、本人が死亡することにより終了します。
(根拠)
任意後見契約は、委任契約なので(民法653条)。

イ 本人死亡した場合の手続

① 任意後見受任者・任意後見人・任意後見監督人の任意後見終了登記の申請をします(後見登記等に関する法律8条2項)。

② 任意後見受任者・任意後見人は契約内容に従って、「管理財産の計算、その他の引渡事務」を執行します。

③ 死後事務対策がとられていた場合任意後見契約の他に、「(ⅰ)遺言書があった場合・(ⅱ)死後事務委任契約が締結されていた場合・(ⅲ)任意代理の場合」には、契約の中に、「契約終了後に財産を引き渡す相続人代表者を指定」しておくなどの内容が盛り込まれていることが多く、その場合は死後事務の対処が容易であるといえます。

④ 死後事務対策がとられていなかった場合
法定後見の場合の死後事務と同様になります。

・つまり、「(ⅰ)委任契約終了後において急迫の事情があるときに発生ずる 応急処分義務(民法654条準用)」又は「(ⅱ)事務管理(民法697条、700条)」を理由に事務を執行せざるを得ません。