7 パワハラ・セクハラ等防止問題

(当事務所の取扱業務)

① パワハラ・セクハラ等による損害賠償請求の民事訴訟の代理・相談(訴額が金140万円以内)

② パワハラ・セクハラ等による損害賠償請求の民事訴訟(本人支援訴訟)の訴訟書類(訴状・準備書面等)の作成及びそれら書類作成事務の相談

③ パワハラ・セクハラ等のハラスメント行為が刑事問題となる場合の 「刑事告訴状・刑事告発状」の作成、書類作成事務の相談及びそれらの書類を警察あるいは検察庁へ提出する手続の代理

(目次)

(1) パワーハラスメント(パワハラ)防止に関する法律

(2) パワハラ防止法の概要

(3) 「セクハラ・マタハラ」などの防止対策の強化

(4) パワハラ防止の実務対応の進め方

(5) 女性活躍の推進と企業の取組み

(6) パワハラが労使紛争になった場合の解決方法

(7) パワハラにより行為者・会社に問われる責任

(1) パワーハラスメント(パワハラ)の防止に関する法律
令和2年6月1日から、「パワーハラスメント」(以下、「パワハラ」という。)を防ぐための法律」が施行されました。

ア ハラスメントの意義
優越した地位や立場を利用した嫌がらせのことです。

イ パワーハラスメントの意義
職場で、上司がその地位や権威を利用して部下に対して行ういじめや嫌がらせのことです。

ウ 「パワハラ防止法」の正確な法律名
「パワハラ防止法」の正確な法律名は、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(略称:労働施策総合推進法)という長い名称です。

* この法律は、働き方改革に関連して、2018年に制定された法律ですが、今回の法改正で、「パワハラ防止法」としての役割も持つことになりました。

エ 「パワハラ防止法」の対象企業
この法律は、当面は大企業が対象ですが、中小企業は、努力義務期間を経て、令和4年4月1日から対象企業となります。

 * 中小企業の定義

資本金額又は出資総額 常時使用の労働者数
A 卸売業 1億円 100人
B 小売業 5千万円 50人
C サービス業 5千万円 100人
D その他 3億円 300人

(2) パワハラ防止法の概要
今回の法律改正により、「パワハラの定義」が明確化され、3つの要素と6つの類型が示されました。

ア 「パワハラ」の3つの要素
職場における「パワーハラスメント」とは、職場において行われる下記(①~③)の要素を全て満たす行為のことです。

ただし、客観的に見て、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、該当しません。

① 優越的な関係を背景とした言動
言動を受ける者が、行為者に対して抵抗・拒絶できない蓋然性が高い背景に行われるものを指します。

* したがって、上司から部下への言動だけでなく、同僚や部下による言動でもパワハラになります。

② 業務上必要かつ相当な範囲を越えたもの
業務上明らかに必要のない行為や目的を大きく逸脱した行為、あるいは業務遂行の手段として不適切な行為のことです。

③ 労働者の就業環境が害されるもの
労働者の能力を発揮するのに重大な妨げとなるような看過できない程度の支障を指します。

* 例えば
就業意欲が低下する。あるいは業務に専念できないなどの影響が生じている場合などです。

イ 6つの類型
パワハラの典型的な例として、下記の6つの類型が示されました。

① 身体的な攻撃
暴行・障害など

② 精神的な攻撃
脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言など

③ 人間関係からの切り離し
隔離・仲間外し・無視など

④ 過大な要求
業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害など

⑤ 過小な要求
業務上の合理性がなく、能力や経験とかけ離れた「程度の低い仕事」を命じること若しくは仕事を与えないことなど

⑥ 個の侵害
私的なことに過度に立ち入ることなど

* ただし、上記の事項であっても、全てがパワハラと認定されるわけではありません。下記の場合がその例です。

(ⅰ) 客観的に見て業務上必要、かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導。

(ⅱ) 個別の事案の状況等によって、判断が異なる場合もあり得る。

ウ 事業主には、相談体制の整備などが求められます。
パワハラ相談窓口を設置し、担当者が適切に対応できるようにしておくことが肝要です。

* 事業主に対し、下記のことも求められています。

① パワハラの相談者や行為者のプライバシーを保護すること。

② パワハラの相談者に、降格・解雇などの不利益な取扱いをしないこと。

エ パワハラ対策をしない企業に対し罰則はないが、「企業名の公表」という制裁ができます。

① 罰則を設けていない理由
企業がパワハラ対策をしていないときは、労働局の助言、指導、勧告に従い、事業主が主体的に措置を講ずることになります。

* ただし、労働局の指導や勧告があっても是正がなされないときは、企業名を公表できます。これが、制裁となります

② パワハラに悩む労働者の対策
企業が設けた労働者の相談窓口に相談できます。

* 相談窓口がなかったり、企業が対応してくれないとき
都道府県労働局に相談すれば、直ちに労働局が動いてくれます。


(3) 「セクハラ・マタハラ」などの防止対策の強化
職場におけるハラスメントには、パワハラ以以外にも様々なハラスメントがあります。その代表的なものは下記の3つです。

ア セクシャルハラスメント(セクハラ)
セクハラとは、「職場における性的な言動に起因するハラスメント」のことです。大きくは次の2つに分類されます。

① 対価型セクハラ
性的な言動に対する労働者の対応により、労働者が不利益を受けるものです。

* 例えば
上司がデートに誘ったところ、断った部下が解雇、降格、減給などの不利益を受けること。

② 環境型セクハラ
性的な言動により労働者の就業環境が害されるものです。

* 例えば
ヌードポスターを職場に貼る者がいて、他の女性労働者が不快に思うこと。

イ マタニティハラスメント(マタハラ)
マタハラとは、「職場における妊娠、出産等に関する言動に起因するハラスメント」のことです。

① 制度等利用の嫌がらせ型
女性労働者が、産前・産後休業その他の妊娠や出産に関する制度を利用することの言動により、就業環境が害されることです。

* 例えば
女性労働者が、産前産後休業などの制度の利用を請求したいと上司に相談したところ、上司が女性労働者に対し、降格・解雇などの不利益な取扱いを示唆すること。

② 状態への嫌がらせ型
女性労働者が妊娠したこと、出産したことその他妊娠や出産に関する言動により就業環境が害されることです。

* 例えば
妊娠した女性労働者に、「頻繁に休まれて迷惑だ」などと、上司や同僚などから言われること。

ウ 育児介護休業ハラスメント(育児介護ハラ)
育児介護ハラとは、育児休業、介護休業、その他「育児介護休業法」に定める制度を利用する、又は利用しようとする言動に対し就業環境が害されることをいいます。

* 例えば
育児休業を取得しようとする女性管理職について、管理職の地位を外すなど。


(4) パワハラ防止の実務対応の進め方
基本的なパワハラ対策として取り組むべき項目は、下記のとおりです。

ア 予防するために

① トップのメッセージ
組織のトップが、職場のパワハラを職場からなくすべきであることを明確に示す。

② ルールを決める。

(ⅰ) 就業規則にパワハラの関係規定を設ける。

(ⅱ) 労使協定を締結する。

(ⅲ) 予防解決についての方針やガイドラインを作成する。

③ 実体を把握する。
従業員アンケートを実施する。

④ 教育する
研修をする。

⑤ 周知する。
組織の方針や取組みについて周知、啓発する。

イ 解決するために

① 相談や解決の場を設置する。

(ⅰ) 企業内・企業外に相談窓口を設置する。

(ⅱ) 職場の対応責任者を決めておく。

(ⅲ) 外部の専門家と連携する。

② 再発防止のための取組み
パワハラの行為者に対し、再発防止研修を行う。


(5) 女性活躍の推進と企業の取組み
現在は、常時雇用する労働者の数が「100人超」の企業に「一般事業主行動計画の策定と届出」の義務が課されています。

ア 一定規模の企業に女性活躍推進のため、「一般事業主行動計画の策定と届出」を義務化しました。

① 一般事業主行動計画とは
一般事業主(国や地方公共団体以外の事業主のことです。)が実施する女性の職業生活における活躍の推進について、どのように取り組むかを計画するものです。

* 「一般事業主行動計画」の具体的内容
「女性管理職を○○%まで増加させる。」などの目標を掲げ、それを実現させるための行動計画を策定することなどです。

② 一般事業主行動計画の種類
一般事業主行動計画には、下記の2種類があります。

(ⅰ)「女性活躍推進法」に基づき策定するもの。

(ⅱ)「次世代育成支援対策推進法」に基づき従業員の仕事と子育ての両立に関して策定するもの。

イ 対象事業主の拡大
女性活躍推進法により「一般事業主行動計画の策定と届出」が義務とされる事業主又は努力義務とされる事業主は下記のとおりです。

① 常時雇用する労働者の数が「100人を超える企業」
事業主に、「一般事業主行動計画の策定と届出」の義務が課されています(女性活躍推進法8条1項)。

② 常時雇用する労働者の数が「100人以下の企業」
事業主に、「一般事業主行動計画の策定と届出」の努力義務が課されています(女性活躍推進法8条7項)。

* ただし、「100人以下の企業」も、令和4年4月1日から、「一般事業主行動計画の策定と届出」が義務となります。

ウ 行動計画策定のポイント
一般事業主行動計画は現状を把握し、そこから課題を分析し、数値目標とその達成のための取組みを決定し実施するものです。


(6) 「パワハラ」が労使紛争になった場合の解決方法

ア 都道府県労働局長による援助
都道府県労働局長は、パワハラについて労使で紛争になった場合、紛争当事者に対し必要な助言、指導又は勧告をすることができます(労働施策総合推進法30条の5第1項)。

* ① 援助
援助は、紛争の当事者から、解決についての援助を求められたときにのみなされます。

・労使のどちらか一方からの求めがあれば、援助がなされます。

② 不利益な取扱いの禁止
労働者が、この援助を求めたとしても不利益な取扱いはされません(労働施策総合推進法30条の5第2項)。

イ 調停の利用
都道府県労働局長は、パワハラ紛争について、紛争解決のために必要があると認めるときは、「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律」により、紛争調整委員会に調停を行わせます(労働施策総合推進法30条の6第1項)。

* ① 調停で、合意に至った場合
民法上の和解と同じ効力が発生します。

② 調停
紛争当事者の一方からの申立で、調停が開始されます。

ウ 悪質な場合の国による罰則等
事業主が、法律に定める責任を果たしていない可能性がある場合は、厚生労働大臣は、下記の措置をとることができます。

① 事業主から、必要な資料の提出を求める。

② パワハラ防止に必要な雇用管理上の措置をとる。

③ 事業主に対し、パワハラの相談者や相談対応への協力者に不利益な取扱いをしていないかの報告を求める。

* (ⅰ) 厚生労働大臣が、必要と判断した場合は、下記のことができます。

A 助言、指導、勧告など。

B 勧告に従わなかった場合は、企業名を公表する。

(ⅱ) 事業主が報告をしなかったり、虚偽の報告をした場合
罰則(20万円以下の過料)が科されます。


(7) パワハラにより行為者・会社に問われる責任等

ア パワハラ行為のレベル
パワハラは、その程度によって、下記のとおり大きく3つの段階があります。

① 第1段階(犯罪レベル)
殴る、蹴るなどによって怪我を負わせる。

② 第2段階(民事上・労働法上レベル)

(ⅰ) 民事上は、損害賠償の対象となります。

(ⅱ) 労働法上は、違法性が問われます。

③ 第3段階(職場環境悪化レベル)

(ⅰ) 労働者が不満を持つ。

(ⅱ) 労働意欲が低下する。

イ 行為者に問われる責任
パワハラを行うものは、多くの場合、職場の上司です。その責任は、民事上の責任と刑事上の責任があります。

① 民事上の責任
民事上は、不法行為による損害賠償責任が問われます(民法415条)。

② 刑事上の責任
刑事上は、下記の罪を問われます。

(ⅰ) 傷害罪(刑法204条)

(ⅱ) 暴行罪(刑法208条)

(ⅲ) 脅迫罪(刑法222条)

(ⅳ) 強要罪(刑法223条)

ウ 会社(使用者)に問われる責任
ほとんどの裁判例では、行為者だけでなく、会社を相手方として損害賠償責任が追及されています。その内容は下記のとおりです。

① 会社が、安全配慮義務を怠ったことによる債務不履行責任(民法415条)。

② 会社の使用者責任(民法715条)。